「あいつ…また、バカの一つ覚えみたいに…。」
ホテルの一室の中でキバはそう呟く。
『いえ、そうじゃないみたいです。』
「おいおい、ふーかちゃん、それってどういう事だよ?」
風花からの通信が響き、ベルトから離れたキバットがそう問い掛ける。
「…続けて…。」
『はい、それが…ホテルの中からシャドウの反応がしないんです。』
「…反応がしない? …シャドウが逃げたって事なのか…?」
風花の言葉にそう考えるが、その考えは続けられる風花の言葉によって否定される。
『いえ、それが…その…時々、ホテルの中からシャドウの反応が出てくるんです…。それに、皆さんの位置も…その…解らないんです。…すみません…。紅君の位置は…直に解って通信出来たんですけど…。』
「っ!? まさか…。」
「おいおい、それって…。」
敵の狙いは敵を分散し、反応を消しての各個撃破である事は予想できる。
「……………状況は最悪。…分散された上に、味方の位置も解らない以上、変身したのが仇になったかな?」
「だな。」
キバが敵と思われている以上、下手に変身した今の状態で鉢合わせてしまったら、味方からも攻撃を受ける事になる。だが、逆に変身を解除していたら、それでは今度はファンガイアタイプへの対抗手段がなくなってしまう。
突きつけられているのは、味方に攻撃される危険性と、ファンガイアタイプへ対抗できないと言う、どちらがマシかと言う選択。当然選ぶべきは後者の選択なのだが…。
「仕方ない…山岸さん…敵の反応が有ったら、直に連絡を…。」
『はい!』
「ヨッシャー、キバッて行っくぜー!」
風花の返事とキバットの掛け声を聞き、キバは部屋を出て行く。
キバは油断なくホテルの通路を一歩ずつ進んでいく。暫く歩いていくとキバが通り過ぎた場所の天井が動き始め、カメレオンファンガイアタイプが姿を現し、背後からキバに襲い掛かる。
完全な不意打ち。だが、
『っ!? 紅君、後ろです!』
響く風花の通信に反応し振り向き様に放たれたパンチがカメレオンファンガイアタイプの体に叩きつけられる。
「っ!?」
反撃を受けたカメレオンファンガイアタイプは慌てて天井へと飛び付き、その姿を消していく。
『っ!? 敵ファンガイアタイプ、反応が消えました! もしかして、攻撃する時だけ反応が…。』
「反応だけじゃなくて、姿も見えなくなっている。だけど…。」
素早く床を蹴り跳ぶと、キバは蝙蝠の様に上下逆様に天井へと着地すると前方へとパンチを放つ。
「っ!?!?!?」
何もない場所にキバのパンチがぶつかる衝撃音が響くと、カメレオンファンガイアタイプの姿が現れ、床へと落下する。
「はぁぁぁぁぁぁぁあ!」
そのまま天井を蹴り、仰向けになって倒れたカメレオンファンガイアタイプへと落下の勢いを利用して追撃となる飛び蹴りを放つ。
「!?」
響く衝撃音と共にカメレオンファンガイアタイプの体に皹が入って行き、そして、鏡が割れるような音と共にカメレオンファンガイアタイプが砕け散る。
「オッシャー!」
『いえ、違います!』
キバットの勝利の叫びと共に返されるのは風花からの警告。そして、次の瞬間、キバの視界が再び光に包まれ、
「くっ!」
何時の間にかカメレオンファンガイアタイプにトドメの一撃を放った体勢でホテルの一室へと転送されていた。
「お、おい、こいつは!?」
「シャドウの部屋の封印の時と同じ仕掛け…しかも、今度は敵が…か。」
『そうみたいです。』
思わず今までの仕掛けで踊らされていた時の事を思い出してしまう。しかも、今回は破壊してしまうと転送されるのは一定の戦闘力を持っているシャドウの偽者であり、戦わない訳には行かない。
『…あっ、また別の反応が…三つも同時に…。あっ、反応消えました。』
「…あー…。えーと、他のみんなも同じ状態って事に…。」
『そうみたいです。えーと、紅君の現在地は一階…シャドウの反応が有った場所は二階ですけど…。』
続けられる風花の言葉は理解できる。…ホテルは三階まで有り、何処かに居るにしても、二階とは限らない。
「仕方ない…端から虱潰しに倒していくしかないか…。」
溜息交じりでそう呟いてしまう。敵は姿を消して己の反応さえも消している上に、偽者が複数存在し、偽者は先ほどまでの鏡と同じ様に破壊…倒してしまうと、転送される。その上に何処かには本物が隠れている。
なお、他のS.E.E.Sの面々はと言うと…
美鶴の場合
「ふっ、不意打ちとは姑息な前をしてくれるじゃないか。ペンテシレア!!!」
炸裂音と共に現れる美鶴のペルソナ・ペンテシレアから放たれる氷の刃がカメレオンファンガイアタイプへと突き刺さる。そして、
「ふっ…ふっふっふっふっ…またこれか…。いいだろう、本体を見つけ次第処刑してくれる!!!#」
バスルームへと転送された美鶴でした。
明彦の場合
「行くぞ!」
気合の叫び声と共にイクサへと変身した明彦がイクサナックルを装備した拳でストレートを放つ。
「トドメだ!」
《イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ》
続けて放たれるジャブと左ストレート…そして、トドメとして顎を狙って放たれるアッパー。それによって発生した皹がカメレオンファンガイアタイプの全身に広がり、
「はぁ!」
フエッスルリーダーに金色のフエッスルを読み込ませ、輝きの増したイクサナックルを叩きつけようとする。勢い良くダメ押しで放たれた必殺技『ブロウクンファング』が直撃する前に、カメレオンファンガイアタイプの体は砕け散り、光に包まれ、
ドガァァァァァァァァァン!!!
衝撃音と共にイクサは破壊していた。…ベッドを…。
「な!? これは!? またか!?」
そう叫び急いで部屋から出て行く
…(影時間を認識できない者達の感覚では)突然壊れたベット…影時間が解けた後のリアクションが非常に気になる所だ。
ゆかりの場合
「もう、みんな何処行っちゃったのよ。風花から通信も聞こえないし…。」
一人単独で行動しているゆかりだが、幸いにもホテル中に出没しているカメレオンファンガイアタイプとは出会っていない様である。
そんなゆかりの前をキバに変身した奏夜が通り過ぎていく。
「あれは…キバ!」
周囲を見回すが周りには仲間の姿はない。本来直接的な戦闘力は比較的低い部類に入る彼女だが、彼女のペルソナ・武器も仲間の前衛を必要とするタイプ。それが、彼女に次の行動を躊躇させる。
「良し!」
暫しの従順の後、意を決して弓を構えてキバの通り過ぎていった方向へと走っていく。
「キバだけじゃなくて、シャドウも! えーい!」
キバと格闘戦を繰り広げているシャドウへと向かって矢を放つゆかり。
矢が当たると同時に皹が入り砕け散り、光に包まれるとキバとカメレオンファンガイアタイプの姿は消えていた。
「あれ、何処行っちゃたの?」
場面は戻って奏夜…
『えーと、さっきの矢はゆかりちゃんだったみたいですね…。』
「そうだね。」
二度目の転送の際に思いっきり、対象を失ったパンチが壁を砕いていた。思わず後の事が気になる所だ…。
思えばシャドウではなく、キバとイクサのダブルライダーによってホテルを破壊しているとしか言えない状況に陥っている奏夜達で有った。
「…今回のシャドウって、このホテルにでも恨みが有るのかな…?」
「なんか、そう思えてくるな。」
『そうですね。』
溜息混じりに溜息を付くキバ、キバット、風花の三人だった。
『でも、紅君、本体を倒さないと永遠とこれが続いちゃいますよね。』
風花の呟きと共に何処かから衝撃音が響き渡る。…誰かがまたホテルの中を破壊したのだろう…。
「…そーだな~…。時間掛けてたらオレ達がホテルを全壊させちまうよな~。」
「…えーと、山岸さん…あいつの位置は解らない?」
『はい、すみません…ホテルのマップくらいは解るんですけど、相手の位置は解りません。』
風花の言葉に思わず肩を落としてしまう。キバットの言葉通りこのままでは自分達によってホテルを破壊してしまう結果は目に見えているだろう。
「はぁ…流石に相手が沢山居るとバッシャーの力を借りても、どれが本体なのかは解らないし…。」
「他の連中でも…なぁ。シルフィーちゃんなら、相手の魔力は感知できるかも知れないけどな…。」
「シルフィー姉さんだと、相手の位置は解っても、地形が見えないと当たらないし。…待てよ…山岸さん…地図は解るんだよね?」
『はい、それだけなら…。』
風花の言葉を聞きベルトからリーフグリーンのフエッスル『シルフィーフエッスル』を取り出す。
「そうか、フーカちゃんとシルフィーちゃんの力が有れば!」
「そう言う事。行くよ!」
「頼んだぜ、シルフィーちゃん! 『SYLPHEE ARROW』!!!」
風に乗り響き渡るのはフエッスルの音色…その音色が招くのは必中の弓矢。
~♪ ~~♪ ~~~♪
「ふっ…うふふふふふふ…。」
キャッスルドランの中に響き渡る音色に聞き惚れながら怪しく笑っている彼女…シルフィーに対して他の三人は完全にドン引きしている。
「うわー、完全に始まっちゃったよ…。」
「なん、だか、不気味。」
「…おい、サッサと行ったらどうなんだ?」
そんな怪しいシルフィーの雰囲気に対して、完全に他の二人が引いている中、流石はウルフェン族最強の戦士の面目躍如(?)と言った所か、意を決してシルフィーに対してそう言う次狼。
「はっ! そうでした! 奏夜さま、貴方様の従者…このシルフィー、只今参ります。」
一礼と共にシルフィーの服装が緑色のドレスの様な鎧へと変わって行き、両腕に鎖のついた腕輪が現れる。そして、シルフィーが祈るような体制を取ると、そのまま彫像の様な大型の弓へと変わり緑色のオーラに包まれ、飛び去っていく。
「行ってらっしゃ~い。」
「行って、らっしゃ、い。」
「はぁ、これで暫くは静かになるな。」
「そうだね。」
「う、ん。」
キャッスルドランの中は今日も平和だった。
キバの前に現れる一枚のカード。シルフィーのペルソナの絵が書かれたペルソナカードが砕け、その中から現れるのは彫像の姿のシルフィー。そして、キバがそれを手に取った瞬間、彫像は形を変え、『魔精弓シルフィーアロー』へとその姿を変えた。
シルフィーアローを回転させながら真上へと振り上げると同時にキバの全身に
「ハァァァァァァア!!!」
キバットの目もリーフグリーンに変色し、最後に一瞬だけシルフィーの幻影が現れ、それがキバに吸い込まれるように消えていくと、キバの目もリーフグリーンへと変色する。
そして、獲物を狙う狩人の如く、『仮面ライダーキバ・シルフィーフォーム』へと姿を変えたキバが己の身長と同等の弓を前方へと突きつける。
「山岸さん、ホテルのマップを…三階まで。」
『は、はい!』
奏夜の言葉に従い、風花は今までの行動でマッピングしたホテルの地図を伝える。
続いて使うのはシルフィーフォームの持つ魔力感知能力を使い、仲間のペルソナと敵の持つ魔力より、風花から伝えたられた地図に敵と味方の位置を正確に表示させる。
「全ての敵の位置…捕らえた…!」
「よっしゃー、行っくぜぇー!」
キバットの叫び声と共にキバはシルフィーアローをキバットへと近づける。
「『SYLPHEE BYTE』!!!」
キバットがシルフィーアローのリムに噛み付いた瞬間、キバとシルフィーアローに流れる魔皇力が倍増し、緑の光の矢の形に圧縮される。
シルフィーフォームの最大の特徴こそ、『魔力の感知及び操作』に有る。他のフォームでは真似できない完全なる制御。また、シルフィー達エルフ族は13の魔族の中で最も魔力のコントロールに長けていながら、その魔力や戦闘力は最弱に位置していた。
だが、キバの力となった今は…その力は十二分に発揮できるのだ。
『す、凄い…私には全然解らなかったのに…。』
「これがシルフィー姉さんの力だよ。でも、山岸さんの力が無きゃここまで正確には解らなかった。」
『はい。』
「よっしゃー、決めるぜ!」
「うん!」
リムから伸びる光の弦を引き絞り魔皇力の矢を引く。
その瞬間、夜の支配者がキバへと移り、禍々しい満月が消え去り、月の消え去った新月へと変わり、闇夜の中で輝く矢がキバの姿を照らし出す。
その瞬間、キバSFの脳裏にホテルの地図と全ての敵と味方の位置が映し出される。
千の敵を同時に撃ちぬく千の矢にも、巨大なる敵さえも打ち抜く巨大な矢にも変わる変幻自在の無限の矢。それこそが、シルフィーフォームの必殺技。
『
シルフィーアローより放たれた矢は無数に分裂し、ホテルの中に広がっていく。
「な、なんだ、これは!?」
イクサの周囲で姿を消していたカメレオンファンガイアタイプが次々と緑の光の矢に打ち抜かれ、姿を晒していく。
「な、なによ…これ?」
一瞬にして無数のファンガイアタイプが打ち落とされていく姿に呆然と呟く、ゆかり。
「これは、まさか…キバ…なのか?」
直感的にそれがキバの仕業と言う事に考えが至る美鶴。
次々と打ち抜かれていく事で新しい者が生まれるよりも早く偽者が全滅すると、本体…本物の存在が白日の下へと晒される。
「終わりだ。」
そう呟き、第二射を放つと、それは法王の間に潜んでいたカメレオンファンガイアタイプへと正確に向かっていく。
慌てて逃げ出すカメレオンファンガイアタイプだが、それは正確にカメレオンファンガイアタイプを追跡し、突き刺さる。
それと同時に祈る様な女性の影が浮かび上がり、カメレオンファンガイアタイプは爆散する。
『敵反応消失、みんなの反応も戻りました。お疲れ様でした。』
勝利を告げる風花の言葉がキバの勝利を祝福する様に響き渡るのだった。
敵の反応が消えた事、キバによって倒されたらしい事を連絡し、一階ロビーで風花、順平の二人とも合流する。
「大丈夫ですか?」
階段を降りてきた美鶴に風花が話しかける。
「ああ。しかし…今回もまたキバが現れたのか?」
「はい。私は確かに見ましたから。」
美鶴の言葉にそう答えるのは今回、唯一キバの姿を目撃したゆかりがそう答える。
「んだよ、キバの奴、何処から入り込んだんだ? 正面から入ってくれば、オレっちがガツーンと一発、汚名挽回「…だから、汚名は返上だよ…。」汚名返上してやる所だったのによ。」
思わず順平の言葉に突っ込みを入れる奏夜。
「しかし、オレ…今日の作戦、出なくて良かったかもな…。」
「「…確かに…。」」
思わず順平の言葉に同意する奏夜と明彦の二人。順平が参加した場合…美鶴に氷漬けにされるか、明彦と同じ部屋で目を覚ます可能性が有った訳なのだから…色んな意味で参加しなくて良かっただろう。
そんな事を話しながらホテルの前から歩き去っていく一同の中、ゆかりは奏夜の背中にそっと近づき、小声で『さっきはごめん』と謝った。
「うん。もう、気にしなくていいよ。」
同じくその一言で答える奏夜。
「そうだ、ゆかりちゃん。あの…この前頼まれた事なんだけど…。」
歩きながら風花とゆかりの二人はひそひそと話している。無言で頷く風花と、その返答に満足そうなゆかり。
そうして、この日の作戦は終わりを告げたのだった…。