「『三人で縄文杉を見てきます』だって……。」
「これは山岸の字だな……。」
「あー、もうっ! 夏に南の島に来てなんで海に来ねーんだ!? いいのかソレ、“人”として!?」
「いや、楽しみ方は人それぞれだと思うよ。」
「大体、お前が原因だろ?」
屋久島滞在の二日目、雲一つ無い快晴の空の下、順平の叫びを一言で切り捨てる奏夜と明彦。先日の夜…『仮面ライダーキバーラ』に変身した平行世界の自分と言うべき相手『登 奏』と戦い、未来で起こる事を断片的に伝えられた翌日、パラソルの傍らに置かれていたメモを読んだ三人。
まだ騒いでいる順平に呆れながら空を見上げ、………昨日の事を思い出す。奏から聞かされた事は確かに重要だが、それを確かめる為には、まだ時間が掛かる。
ならば優先順位は下がるが、まだ考えるべき事が一つだけ有る。
(…キバットが居るって事は他の皆も居るって事だよね…。…良いのかな…キャッスルドランを留守にしちゃって。)
思わず空を見上げながらそう思ってしまう。あの後、どうして屋久島(ここ)に来たのかと追求する前に当のキバットには逃げられてしまったのだが、キバットが居るという事は一人で来る可能性は低い為、四魔騎士達と一緒に来たと推測できる。
追記しておくと、あの後は別荘に戻った後、影時間が開けるまで何をしていたのか聞かれても、『パラレルワールドの未来の自分が現れて、未来の出来事を伝えられました』等と答えられる訳は無く、誤魔化すのには苦労してしまった。
(…仕方ない、最悪、帰ってから聞くか…。)
そう考えて追求を切り止める。
ジリジリと辺りを焦がす太陽の日差し、時折吹く海独特の潮風が心地良く、昨日に比べて砂浜には人影も見えて、夏を過ごしている景色が広がっていた。
男性陣三人は砂浜へと来た訳なのだが、先に来ている筈の女性陣の姿が無かった為にメモを発見した訳である。…どうやら、彼女達は海ではなく山に行った様子だ。
(…十月か…。…でも、彼女が言っていた事が正しければ…今のぼくは彼女の言っていた“最悪”の状況になっているんじゃないのかな?)
そんな順平と明彦の遣り取りを眺めながら、思わず先日の奏の言葉を思い出してしまう。まだ奏夜の仲間は傷付けられてもいないし、S.E.E.Sのメンバーの中で命を落とした者もいない。今は七夕の大型シャドウ戦…法王と恋人のシャドウを倒した後の一件が原因で奏夜が離脱しているに過ぎないと言うのは、奏の告げた最悪の状況に至っていないという点では幸いなのだろうかと疑問に思ってしまう。
「はぁ…。」
『溜息を吐くと幸せが逃げる』と言うがそんな事を考えてしまうと思わず溜息が出てしまう。考える事が多すぎて疲れを覚えてしまう。ゆっくりと海にでも入って頭を冷やしたい気分だ。
順平の相手は明彦に任せる事にしてゆっくりと泳ごうと海へと足を向けて海に入ろうとしたら、
「ってか、コラ、そこ! 何処行くんだよ! 真田先輩もいいスか、大事なのはヤロウ三人でどうすんのって言う事実っスよ!」
「「はぁ?」」
この場に女性陣が居ない事に納得できないと言う様子の順平がビシっと言う様な動作で奏夜達を指差す。『どうするんだろな~、こいつ』と言う様な視線を向けてしまう奏夜と明彦の二人。黙って話を聞いている時点で付き合いが良いと思う。
「いいか、よく聞け紅。持ち合わせが無ければ現地で調達。これ、兵法の初歩ナリってね! ズバリ、名付けて……“ヤクシマ磯釣り大作戦”!」
大げさに両手で身振り手振りをしながら順平は奏夜と明彦に高らかと宣言する。
「…第五使徒か第四使徒でも退治する気…? ヤシマ作戦って?」
「『ヤクシマ磯釣り大作戦』だつーの!!!」
本格的にどうでも良いとばかりに呆れた様に呟く奏夜にツッコミを入れる順平。
「い、磯釣り……ナンパの事か?」
「そうっスよ。ねえねえ、どうですか真田先輩? 真田先輩と紅が居れば絶対いけますって!」
明らかに引いている明彦と奏夜の二人だった。どちらかと言えば、明彦はただ黙々と泳いでいるだけで夏の海を満喫できるタイプだ、奏夜も祖父とは違ってナンパには興味がないタイプであり…二人とも揃って、順平の目的(ナンパ)には最適な人材なのだろうが、それ以上に“人選ミス”としか言えないメンバーなのだ。
…ここに奏夜の祖父が居れば『なんと、素晴らしい作戦だ!』と言って喜んで参加していたに違いない。…兄に関しては材料が少なく判断が出来ないが。
「紅、お前の意見も聞いておこうか。」
「ぼくもパスでお願いします。」
「…そうか。」
一人では妙なテンションの順平を止められないと思ったのだろう、横目で奏夜を見ながら話を振ってくる。即答する奏夜に順平が心底呆れたと言う様子で話し始める。
「二人とも、ここままでイーワケ? 青春の夏の日々が乾燥したまま過ぎてもイーワケ? この流れはもう必然ですよ、必☆然!」
「なるほど、作戦と言うわけか。」
「そうスよ!」
「なら何時ものように現場指揮はコイツに任せる。」
「「ええぇ!?」」
明彦の予想もしてなかった返事に奏夜だけではなく流石にテンションが妙な方向に飛んでいっている順平も驚いている。
「ナンパの指揮ってなんですか!? 『優しい言葉と褒め言葉を中心に、順平は左、真田先輩は相槌を打ちながら順平の援護を、ぼくは正面からリードする!』って感じですか!?」
「いや、ナイだろ、それ。大体、何スか、それ!?」
奏夜のボケ突っ込みに突っ込みを入れながら、明彦に『意義あり』と言う様子で叫ぶ。
「『作戦』だと言ったろ、自分で。」
「うわ、ヘリクツだ、超ヘリクツだ、それ。」
この流れをどうするかと悩んでいると奏夜の頭の中に一つの閃きが浮かぶ。現在の自分の立場と『作戦』と言う言葉と、明彦のヘリクツ。
(この流れなら、行ける!)
「なるほど、作戦か…それなら仕方ないね。」
「って、おい、お前まで!」
「だったら、ぼくは参加する訳には行かないね。」
「「なにぃ!?」」
顔に笑みを貼り付けながら、高らかと宣言する奏夜にそんな叫びを返してくれる二人。奏夜はそんな二人の様子も構わずに言葉を続けていく。
「ぼくは今、S.E.E.Sから抜けている。つまり、ぼくには作戦に参加する義務も権利も無い。」
どうも忘れられている気がするが、今現在、奏夜はS.E.E.Sから抜けている。そこまで言い切った後、残念そうに首を振りながら…
「だから、ぼくはこの『作戦』に参加する訳には行かない。じゃあ、そう言うわけで。」
そう言って返事を聞く事も無く、奏夜は歩き出す。取り残された順平と明彦は思わず互いに目を合わせて、
「えーと、ちゃんとマジメにやって下さいよ? “作戦”……なんスから。」
「あ、ああ。」
順平は明彦を見ながら念を押す。その目は…………本気(マジ)だった。
「はぁ…。」
さて、海に浮かびながら空を見上げる事で頭も冷えたのか、色々有り過ぎた昨晩の事で混乱していた頭がスッキリする感覚を覚えていた。
ふと、浜辺の方に視線を向けてみると、妙に見慣れた二人組みの姿がある仮設のマッサージ店が有るのが見えたので無言のままそこに近づいていく。
「あっ、いらっしゃい。」
「いらっ、しゃい。」
「…ラモンさん、力さん…何してるんですか?」
「「あ;」」
思いっきり昨日のキバットに続いて、第二、第三の知り合いに有ってしまった奏夜だった。丁度お客も居なかったので、何故此処に居るのかと言う事に付いて聞く事にした奏夜だが…
「…なるほど…キバットとシルフィー姉さんですか…。」
「うん。」
「う、ん。」
二人から事情を聞く限りでは、奏夜が屋久島に旅行する事になった時、キバットとシルフィーの二人が自分達も屋久島に行きたいと言い出し、その結果、奏夜に黙って付いてきたそうである。なお、この場に居ない次狼だけは『誰かがキャッスルドランに残ってないと拙い』と言う事で留守番を買って出てくれたそうだ。
流石はウルフェン族最強の戦士…頼りになる人物である。
「…それで助かったから、あまり文句も言えないんだよね…。」
「そう、か。」
「そうなんだ。」
「「「はぁ…。」」」
思わず三人揃って溜息を吐いてしまうのだった。
そして、ラモンと力とそんな事を話した後、『仮設マッサージ店』を後にした奏夜はダークオーラを纏っている順平と明彦に捕まったのだった。
あれから二十分ほどの間に『ヤクシマ磯釣り大作戦(略して『ヤクシマ作戦』)』は三度に渡って決行された。………だが、その結果は見事に三・連・惨・敗。様子を見れば良く分かるが。
第一次ヤクシマ作戦
最初は順平がOL風の女性三人組に突撃した結果、主に“キモイ”と言われていた。失敗1
第二次ヤクシマ作戦
少し年上の女性の二人組みに明彦がメインでアタック。どうでも良いのだが、学園の方にファンも居る彼のナンパと言うのは聞く者が聞いたら卒倒する事の間違いないシーンだっただろう。だが、その結果はカレシも来ていたらしく適当にあしらわれた。失敗2
そして、最後に行われ“無事”失敗した第三次ヤクシマ作戦
ターゲットは女性一人。妙に話が合い、危なくもう少しで上手く行ってしまう所だった。寸前の所で明彦が『女性の顎に一本、生えていてはいけないモノ』に気付いたから無事失敗したのだった。哀れ、順平。
「うまくいかねっスね……。ってか、納得いかねっスね…なんで、紅だけこんな思いしなくて済んでんだよ。」
「……。」
「いや、納得も何も…ぼくは最初から不参加だからね、順平?」
『仮設マッサージ店』の中で話される作戦の成果に溜息交じりで俯いている順平と、一切反応の無い明彦。
順平は兎も角、この結果に明彦が落ち込んでいるのが妙に疑問に思う。順平もそれは不思議に思ったらしく、視線を向けて聞いてみた。
「ナンパにゃ興味なかったんじゃ?」
「…………“勝負”には拘りたい…………。」
「「ああ、そう言う事。」」
思わず納得してしまう二人。何時の間にか明彦の中では『作戦』から『勝負』になっていた。何処までも勝負に拘り負けず嫌いな人である。
「兎も角だ! 紅、お前も手伝え。」
「ああ! 今度こそ、勝つ!」
「って、ちょっと、ええ!?」
「いってらっしゃーい。」
「いって、らっしゃ、い。」
奏夜を左右から連行していく順平と明彦とそんな三人を見送るラモンと力の二人。
「おお、後姿だけどすごい美人。」
順平が小声で指差しながら叫ぶのは、腰まで届く特徴的な緑色のロングヘアーに麦藁帽子を被り、髪の色と同じ緑色のビキニタイプの水着を着た女性の後姿である。
…………なぜだろう、奏夜には思いっきり見覚えの有る後姿である。
「よし、今度は紅、お前が行って来い。」
「ああ、お前も一度当って砕けて来い!」
「え? ちょっと!?」
二人に背中を押されながら前へと突き出される奏夜。引きつった表情で後を見てみると………二人とも、目が本気(マジ)だ。
「あー…えーと、そこのお嬢さん;」
「はい? ああぁ!? 奏夜様ぁ~!!!」
声を掛けて振り返ったのはやっぱり、最後の一人の知り合いであるシルフィーこと春花さんでした。
「様って、おい!?」
一人、シルフィーと奏夜の会話を聞いていた順平が思わず驚愕の声を上げる。
「あ、え、えーと…シル、じゃなくて、春花、姉さん?」
そんな順平も、明彦も視界に入っていない様子で、『ガシ』っと言う様子で奏夜の手を握り、心底嬉しそうに言葉を続けていく、シルフィー。
「あ、あの…?」
「今のはナンパですか!? ナンパですね!? ナンパですよね!? 喜んで!!! さあ、一緒に夏の海を満喫いたしましょう、奏夜様ぁーーーーーーーー!!!」
「あー…。」
そう言って奏夜の手を取って走り出していくシルフィー。………………駄目だ、暴走した彼女は誰にも止められない。
目の前の光景に真っ白になってそのまま風化していく順平と明彦の二人…。
第四次屋久島作戦…成功?
「……紅の知り合いだったみたいだな。残念ながら、この勝負は無効か? うぉ!?」
「…ちくしょー…。」
ふと、明彦が横に視線を向けてみると『OTZ』な体制で嫉妬の炎を纏いながら血の涙を流している姿が幻視される順平に思わず引いてしまう明彦だった。
「い、伊織?」
「ちくしょー…なんでアイツばっかり良い思いしてんだよぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」
正しくは一番いい思いしているのはシルフィーさんです。
十分後…シルフィーから開放された奏夜が戻ってくると、
「問題点は分かっている。伊織、お前の“欲望”丸出しなのがいけないんだ!」
「あっ! きったねー、責任逃れだ!」
「事実を言ったまでだ。現に紅を見てみろ、知り合いとは言え、成功してただろう!」
「ってか、あんな美人の知り合いが居るのかよ、あいつは!!!?」
順平と明彦の言い争いが始まっていた。
「はぁ…放って置いて、泳ぎに行こうかな…。」
思わずそう思ってしまった奏夜には罪はないだろう。
本気で他人の振りをして海にでも入って泳ぎたい気分である。奏夜が一人、その誘惑に負けそうになってきた時、
「おい紅、現場リーダーとしてどっちが悪いと思う?」
「順平。何もかも。」
突然話を振られてノータイムで答えた奏夜だった。
「うぉぉぉぉぉぉぉい!? オレッチ諸悪の根源!? 裏切りモン!」
「あー、それとぼくって『元現場リーダー』ですよ。」
「すまない、そうだったな。何時でも戻ってきても構わないからリーダーの立場は何時でもあけて置く…。」
「聞けよ! つか、紅! お前、ちゃんと考えて答え………ろ………。」
完全に無視されて話が進んでいる事に始まり色々と抗議しようとした時、話の途中で順平が停止した。別に運命の剣士と時の龍が居る訳ではないが、文字通りと待っていた。
その表情は驚きのあまり言葉を失うと言うのは、こんな感じになるだろうと言う見本の様な表情だった。
「どうした? ……何か有ったか?」
明彦の問い掛けに順平は無言で指差す。それが精一杯の反応なのだろう。それを不思議に思いながら、順平が指す方向へと視線を向ける。
「…彼女は…。」
少し向こうの桟橋の上、水平線の彼方を見ている人影。
その短めの髪は太陽の光を浴びてキラキラと淡い黄金色に輝き、服装は屋久島の潮風に揺れる水色のワンピース。
何処か作り物の様な不思議な存在感を放つ少女が佇んでいた。
「おー……最後の…最後に大逆転! スゲエ波だよ! ニクいぜ、神様! 最高だぜ! つーか、マジ可愛い!!!」
「確かに。」
とても、女性に興味が無さそうな明彦でさえ、可愛いと認めるほどの美貌。奏夜もそれは認める。だが、
(っ!? なんだ…この記憶…?)
微かに浮かび上がる記憶の断片。金色のキバの姿と…もう一つの人影…。
(…何なんだ…これ?)
まるで今まで封印されていた記憶が鍵を得て開放されたかの様にあふれ出そうとしている感覚。
(これって…一体…?)
微かな疑問が奏夜の中に湧き上がるのだった。