「はぁ!!!」
キバはシルクモスファンガイアタイプの振るう三叉の矛『ミラージュトライデント』を避けながら、シルクモスファンガイアタイプへと向けて拳を振るう。
キバの打撃がシルクモスファンガイアタイプを捉え、キバのパンチがその体を吹き飛ばす。
「くっ。」
思わずキバはその状況に舌打ちしてしまう。本来なら先ほどの一撃はラッシュへと繋ぐ為の連続攻撃の為の一撃だったのだが、相手が容易く吹き飛ばされた為に結果的に与えたダメージは最小限に抑えられてしまっていた。
「おいおい、まだ元気じゃねぇかよ、あいつ。」
「こっちは結構拙いって言うのに…。」
しかも、キバを挑発する様にシルクモスファンガイアタイプがミラージュトライデントを振っている姿を見ていると、最小限にされたダメージもそれ程効いていない様子だと言う事が理解できる。
それに対してキバは…と言うよりも奏夜の体調は悪いとしか言い様が無い。風花の特性カレーを、全面的に調理を彼女に任せてしまった事への責任から、他のメンバーよりも少し多く食べた事が原因だとは……絶対に思いたくは無い。
流石に勝負を焦ってウェイクアップの一撃で倒そう等と無謀な事を考えない程度には冷静だが、長期戦になると不利なのは奏夜…キバの方だ。
研究所から脱出せずに影時間が空けてしまえば自分達が此処に侵入している事がばれてしまう。まだそれだけは避けたい。
制限時間のある焦りとコンディションの悪さが余計にキバの動きを悪くしてしまう。そんなキバを挑発する様に、シルクモスファンガイアタイプはミラージュトライデントを大降りに振るう。
当然ながら、焦っているとは言え、そんな攻撃に簡単に当るほど奏夜の変身しているキバは弱くはない。
だが、その攻撃はシルクモスファンガイアタイプの狙いではなかった。
―
トライデントの先端から奔った雷が広範囲に渡ってキバへと降り注ぐ。
「くっ!」
大きくバックステップで降り注ぐ雷撃を避けるキバだが、
―
今度は追撃として竜巻と共に打ち出された真空の刃(カマイタチ)がキバを襲う。
「くっ!」
両腕を交差させてそれに耐えるキバだが、追撃とばかりにシルクモスファンガイアタイプはトライデントを天井、否、天へと向けて振り上げると勢い良くキバへと向けて振り下ろす。
―
トライデントから放たれた炎がキバを包み込む。そして、シルクモスファンガイアタイプはゆっくりとトライデントの切っ先を、炎によって動きを封じたキバへと向ける。
―
「がっ!」
向けられたトライデントが輝いた瞬間、キバの全身を光が包む。次の瞬間、キバの…いや…奏夜の全身を言い様の無い脱力感が襲った。それと同時に力の抜けたキバの体が地面に倒れる。例えるならば魂を抜かれている感覚とでも言うべきだろうか?
「おい、奏夜! しっかりしろ!!!」
慌ててキバットが声をかけるが、キバは…奏夜は声を出す力も無い様子だった。
(い、今のは…。)
キバは呼吸を整えながら炎が消えていくのを確認しながら立ち上がる。
「お、おい、今のは…。」
「分からない…。でも、そう何度も受けたら拙いのは間違いない。」
キバの鎧にも、それを纏っている奏夜自身にも傷は無い。寧ろ先ほどの光は、肉体に一切のダメージを与えずに奏夜の生命その物へとダメージを与えられた気分だった。
そんな物が危険でないはずが無い。そんな核心を持ってシルクモスファンガイアタイプへと向き直る。
―
キバにトドメを刺そうと放たれた先ほどの光に全身が包まれる前に回避して、シルクモスファンガイアタイプへと向かう。
「そう何度も!!!」
多彩な魔法攻撃に翻弄された結果まともに受けてしまったが、それでも、他の魔法に比べてその光の魔法は回避し易い。油断していなければ簡単に回避する事が出来る。
どう考えても一対一や複数の敵を相手にした多対一には向いていない魔法だろう。
「へっ、分かってりゃ、そう簡単に当るかよ!」
「この距離ならぼくの方が有利だ!!!」
先ほどは受け流されたが、今度こそはと言う意思を込めたパンチをシルクモスファンガイアタイプへと叩き込む。
連続攻撃を完全に放棄して先ほどよりも一撃に込めた力を高めたのだが、それを受けたシルクモスファンガイアタイプの体は容易く吹き飛ばされる。
だが、流石に二度目となればキバもそれは完全に読めていた。床を蹴って、吹き飛んだシルクモスファンガイアタイプとの距離を詰めてパンチを放つ。
ラッシュでは最初の一撃以外空振りになる可能性が高いので、ここは連続攻撃へのコンビネーションは完全に捨てて一撃一撃の破壊力を優先した。それは、キバの…奏夜の戦い方としては得意な方法ではないが、それでも、攻撃を受け流す様な戦い方をする連続攻撃が出来ない相手との戦いでは仕方ない事だろう。
「くっ、効いてる感覚が無い。」
「ったく、風船でも殴っている気分だな。」
キバの姿ではペルソナによる身体能力の強化や魔法への耐性を得る事は可能だが、魔法は使えなくなる。そして、
(今は風花さんが寝ているから、次狼さん達は召喚できないからフォームチェンジは出来ないし…召喚器も置いてきたし…。)
フォームチェンジも変身を解いての魔法攻撃も出来ない状況で、打撃の効かない相手と戦う…最悪と言って良い状況だろう。だが、
「だけど!!!」
そう叫び、キバはシルクモスファンガイアタイプへと飛び蹴りを放つ。
「っ!?」
壁とキバの足に挟まれる様な形で壁に叩き付けられたシルクモスファンガイアタイプは初めてダメージを受けたという様子を見せる。
「お前は前に戦った奴の様に攻撃を無効にしている訳じゃない。受け流しているだけだ…。」
立ち上がるシルクモスファンガイタイプを一瞥しながらキバはそう宣言する。
「しかも、その様子だと、打撃は普通に…じゃなくて、普通以上に効くって感じだな。」
「そう言う事。」
先ほどの戦い方から考えて目の前のシルクモスファンガイアタイプは、攻撃を受け流す事で弱点である物理攻撃の直撃を避けていた。弱点を戦い方で補い、弱点を隠していた。寧ろ、其処から推測すると耐性が有るのは魔法の方だろう。
受け流されない様に壁際に追い詰めてキバはラッシュから始まる連続攻撃を叩き込む。
最後に体に蹴りを打ち込み、その反動を利用して距離を取るとウェイクアップフエッスルを取り出す。
「これでトドメだ!」
「オッシャー! キバって、行っくぜぇー!」
―
最後の力を振り絞ったという様子でトライデントをキバへと向け、トドメを刺すべくウェイクアップフエッスルを使おうとしたキバを光が包む。
「がはっ!」
全身を光が包んだ瞬間、キバを襲うのは先ほど以上に脱力感。
キバは膝から崩れ落ちてそのまま床へと倒れこむ。
「っ!? しまった! おい、奏夜、しっかりしろ! 起きろ、目を覚ませ!」
肉体的なダメージは受けていない為に変身こそ解除されていないが、床に横たわるキバはキバットの声に対しても反応しない。
(………なん…だ……これは…?)
何時意識が消えるか分からないほどの脱力感、キバットの声は聞こえているのに答える事が出来ない。立ち上がろうとしても全身には力が入らない。動かそうとしても体が動かない。シルクモスファンガイアタイプの
そんなキバへと完全にトドメを刺そうとシンクモスファンガイアタイプがトライデントを構えながら近づいて来る。
(…ぼくは……ここで…死ぬ……のか……?)
―仕方ないね―
(…声…?)
子供の様にも、老人の様にも、響く声が奏夜の心に響く。
―これは特別だよ―
キバットに聞こえている様子は無い。…全てはキバの…奏夜の心に直接響く声。
―本当はまだ早いんだけど、今回は特別にぼくの力を貸してあげるよ―
そんな声が響いた瞬間…シルクモスファンガイアタイプがトライデントを床に倒れたキバへと振り下ろそうとした瞬間、金色の羽根がキバの体に降り注ぐ。
「っ!? なんだよ…これは?」
金色の羽根がキバの全身に降り注ぐと同時に全身に力が戻り、消えそうだった意識が完全に覚醒する。
「分からない…けど!」
意識が覚醒した瞬間、キバの…奏夜の中から何かが弾かれる様に打ち出される。それは何時かの時と同じ黒衣の死神。
再び降誕した事への喜びからか、咆哮を上げると同時にその手に持つ剣をシルクモスファンガイアタイプへと振りぬく。
シルクモスファンガイアタイプを薙ぎ払い、黒衣の死神はキバの前に立つとキバと一体化するようにキバと重なっていく。
―ドックン―
全身の血が沸騰する様な、全身の細胞が歓喜する様な、全身を流れる魔皇力が最大限の力を発揮する様な、そんな感覚を覚える。
「っ!? アァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
キバが叫び声を上げると同時に
背中に裏地が赤い漆黒のマントが現われると、キバの体に幻影の死神が重なり、キバットの目が漆黒に染まる。
それと同時にキバの全身が黒と白に染め上がると、黒衣の死神の持っていた剣に似た形の黒い小剣『ソード・オブ・デス』が現われる。
それこそが、『死』の具現たる力を与えられし魔皇
『仮面ライダーキバ・デスフォーム』
「アァァァァァァァァァアアアア!!!」
「っ!?」
咆哮と共にキバ・デスフォームはシルクモスファンガイアタイプの頭を掴み、研究所の外へと突き飛ばし、大地へと叩きつける。
「あ…アァァァァァァァァァ!!!」
地面に小剣を突き刺すと、小剣が自然に浮かび上がり、それと同時に肩から繋がる棺が開き、右腕に白い光が、左腕に黒い光が集い、二つの光は剣と飲み込まれる。
全てを無に帰す『万魔』の白い光と、全ての命を刈り取る『暗黒』の黒い光、それが死神の剣と一つになる。
それこそが、不完全ながら…死のキバの必殺技、
「!!!!!!!!!」
声にならない叫び声と共に振り下ろした剣から伸びた光がシルクモスファンガイアタイプを飲み込み、その存在を消滅させた。
「はあ…はあ…。」
それと同時にデスフォームへの変身が解除させられ、同時にキバへの変身まで解除させられる。
「な、何だったんだよ…今のは?」
「分からない…。でも。」
そう呟く奏夜の手の中にはペルソナのカードが出現する。その絵柄はシルエットだけだが、間違いなく二度も奏夜の中から現われた黒衣の死神であり、辛うじてその名前を読むことができる。
―それを手にするのはまだ早いんだけどね―
再び奏夜の心に響く声。
―だけど、今の君じゃあ、それを手にしたとしても使えないし、使う資格も得ていない―
それと共に手の中に有る死神のカードが消えていく。
―だから、今の君が知る事ができるのは…その名前だけだ―
自分の中に黒衣の死神の存在を今まで以上に感じながら、奏夜は…。
「…ペルソナ…『タナトス』…それが…黒衣の死神の…名前?」
自分の中に現われた新たなる力、神格を与えられし死の名を呼ぶ。
「兎に角、今は急いでシルフィーちゃん達にあいつとあの剣を届けないとな。」
「うん…そうだね。」
疲労の残る体を引き摺りながら先ほどの部屋へと戻り、ザンバットソードとタツロットを回収する。何とか、影時間が空ける前にタツロットとザンバットソードをシルフィー達の元に届けて部屋に戻る事には成功した。
そして、影時間は空けて…翌日…屋久島より帰る日を迎える。
もう一人の自分、自分の辿る事となる未来の歴史を知る『奏』との出会い。
機械仕掛けの乙女、『アイギス』との出会い。
そして、タツロットやザンバットソードを見つけ…ファンガイアタイプとの戦いの中で、変身した新しいフォームと完全な形では無いにしろ、自分の中に宿った力『タナトス』との出会い。
それらの出会いに彩られた休暇となる旅行は終わったのだった。
そして、
「桐条先輩。」
「ああ。」
「やっぱり、気持ちの整理が付いてから…特別課外活動部に復帰させて下さい。お願いします。」
そう言って奏夜は美鶴に頭を下げる。
「……そうか、ありがとう。だが、そう簡単に気持ちの整理は付いていないか…。」
「…すみません…。」
疑念はまだ晴れずにいる。父に着せられた濡れ衣は晴れた。だが…それと同時に一つの確信を持った。…『父の死と桐条グループの研究所で起こった事故は関係している』と。
「いや、謝らなくても良い。隠し事をしていた私が悪いのだから。」
「…いえ、ぼくは桐条先輩を恨む気はありません。」
はっきりとそれだけは告げる。
そして、これだけははっきりと告げておく。
「でも、どうしてもぼくの力が必要な時は呼んで下さい。リーダーとしてではなく、メンバーの一人としてですけど…協力します。それに、満月の日までには自分の気持ちに整理を付けます。」
「ありがとう。だが、私達もこれまでどれだけ君に頼りきりだったのか、よく分かった。理解させられたよ。タルタロスの攻略の遅れが良い証拠だ。」
「桐条先輩。」
「紅、お前に頼りきりだった私達に渇を入れる為にも、次の大型シャドウとの戦いは私達だけで勝ってみせる。」
「…分かりましたけど…。…これだけは約束してください…。タルタロスで到達可能な階層まで行けなかったら…。」
「分かっている。そんな事で勝てると思うほど私は