第四十夜
「…今宵は満月…か。」
キャッスルドランの中の一室で奏夜はカレンダーを眺めながらそう呟く。出来る事ならば来て欲しくなかったその時が来てしまった。
「ったく、良いのか悪いのか分からねぇけど、向こうからの連絡は無し…か。」
奏夜の肩に留まりながらそう告げるキバット。奏夜への復帰を願う連絡は来なかった。付け加えるなら、風花からの連絡ではギリギリだったが現在登る事の出来るギリギリの所までタルタロスを登りきれたそうだ。奏夜抜きと言う不利な状況に有ってもだ。
「っとなると、次の大型シャドウはどうするんだ?」
「そうだね。山岸さんからの連絡を待って…最初からキバの姿で助けに入るべきかな。ファンガイアタイプとの戦いは兎も角、大型シャドウまでは勝てるとは思うけどね。」
だが、奏夜達は知らない。今日のこの時、出会う事となる者達の事を…。
磐戸台分寮四階作戦室…
そこの四角いテーブルを囲む様に奏夜を除いたS.E.E.Sのメンバーは腰を下ろしていた。
その部屋に集まっている者達の表情には緊張の色は見えない。何処か待ち構えていた様子さえ感じられる。
奏夜の存在が無いとは言え、準備は完璧、今の彼等に出来る限りの事はした。これも、敵の出現の周期に気付いたが故だろう。
「さてと、紅君抜きとは言え、また今月も満月の晩が巡ってきた訳だが……。」
「どうだ、山岸?」
中央に座る幾月が集まった面々を見ながら緊張感を持って話し始める。それを受けて、美鶴は風花に問い掛ける。
「はい。確認できてます。今回もやっぱりシャドウの反応が有ります。」
「フッ、そうこなくちゃな!」
風花の言葉に逸早く反応したのは明彦だ。掌に拳を当てて乾いた音を出し、強気な表情を浮かべる。
「場所は巌戸台の北の外れにある、廃屋が並んでいる一帯です。ただ、反応は10m以上の地下から確認されてて、それがちょっと……。」
「単に建物に地下が有るって事じゃないの?」
自分が感じ取ったシャドウの反応に困惑している様子の風花に、ゆかりは単純で有りながら最もな意見を言う。
ゆかりのその言葉に対して風花に変わって答えたのは、アイギスだった。
「巌戸台北側には、建築時に地下10mを申請している建物は有りません。ですが、ずっと以前には陸軍が地下施設を置いていたという記録があります。」
「え? 陸軍?」
アイギスから返って来た返答にゆかりが思わず聞き返してしまう。今の時代の人間にとっては、戦争は身近なことではない。こんな近くに昔とは言え陸軍の施設が有った事にはその場に居た全員…否、幾月とアイギスを除いた全員が驚きを隠せなかった。
「アイギスには、この辺りの地形や建築に関する情報が一通り記録されているんだよ。まあ、十年前から更新して無いんだけど……。」
「“十年前”であります。」
「いや、更新しようよ……。」
幾月の説明にアイギスは何故か誇らしげに『十年前』を強調する。そんなアイギスと幾月に順平は呆れ気味に突っ込みを入れた。
「で、結局どう解釈すれば良いんだ?」
妙な沈黙が作戦室を包む中、明彦のその発言が現実に引き戻す。
「詳しい事は実際に言ってみないと何とも……。」
落ち込んだ様子でそう言う風花。実際、自分の力不足が悔しいのだろう。
「戦争の遺物か……今回は紅が居ない事に加えて状況が未だ不透明だ。兎に角、現地に行こう。細かい事はそれからだ。」
風花の返答を聞いた美鶴はここで考えていても時間の無駄だと判断し、現場に向かう事を告げ、十分に注意する様にと全員に注意を促す。
これが五回目となる大型シャドウ戦。前回は敵の能力に翻弄され苦戦した事も記憶に新しい。ファンガイアタイプと化した後は余計にだ。
「明彦、今回もこれはお前に任せる。」
「ああ。」
そう言って明彦が美鶴から受け取ったのは、簡易型イクサへと変身する為のイクサナックル。前回の戦いではカメレオンファンガイアタイプとなったラヴァーズ相手には能力に翻弄され手出しできず、シースターファンガイアタイプとの戦いでは不意打ちで受けた強力な電撃魔法のダメージで変身を強制解除されてしまった。
結局、シースターファンガイアタイプとの一戦は明彦から受け継いだ奏夜が変身した簡易型イクサが倒したが。
「あっ、真田先輩ばっかりずるいっスよ! オレも一度位使ってみたいのに…。」
「伊織、七月の作戦で使った明彦の方が使い慣れていると判断した結果だ。悪いが、今回は我慢してくれ。」
愚痴を零す順平に美鶴はそう答えた。
そう、山岸風花が大型シャドウの存在を感知し、巌戸台の北の外れにある元陸軍の軍事施設に向かうS.E.E.Sの面々(-奏夜)…
真夏の夜の暑苦しくも何処かひんやりとした埃っぽい空気の中、彼等は出会う…
“ストレガ”と呼ばれている、もう一組のペルソナ使い達と。
「そんな! 私のルキアには今まで何の反応も!?」
驚愕の叫びを風花が上げる中、軍事施設の重い扉を開きながら、白い肌の男と緑色の服の男がS.E.E.Sの面々の前に姿を現す。
「初めまして、私の名は『タカヤ』。こちらは『ジン』。」
彼等の驚愕の声を気にも留めずに白い肌の男…タカヤはその言葉で話しを始めた。
「さて…今日までの皆さんの活躍は影ながら見させて頂きました…。聞けば、人々を守る為の“善なる戦い”だとか。」
そう告げた後でタカヤの表情が変わる。彼等を睨み付けながら、
「ですが…やめていただけませんかねぇ…?」
「どういう事だ!?」
タカヤの言葉に美鶴がそう問う。
「簡単なこっちゃ! シャドウや影時間が消えたら“この力”かて消えるかもしれん! そんなん、許されへん!!!」
美鶴の問いに答えたのはもう一人の緑の服の男…ジンの方だった。
静かに告げるタカヤと感情を露にするジンと対応は正反対だが、二人の中にある意思は怒りの感情だろう。
「まさか…ペルソナ使いなのか!?」
「シャドウは我々と常に隣り合わせのもの…。災いなど常にあるもの…シャドウでなくとも人が人を襲う…そう言うものです。」
美鶴の言葉に答えずにタカヤは天井を仰ぎながらそう言葉を続ける。
「それは摂理…自然なこと。しかし、あなた方は“個人”の目的で動いているに過ぎません。その正義とやらは、それを正当化するための…嘘! 偽り! ただの偽善です!!!」
「お前達は気付くべきや、自身が影時間を知る前よりも生きがいを感じている事にな。退屈な日々や日常を取り戻したいんか? 生きる目的、なくしちまうでぇ?」
彼等の言葉は何処か心を抉る。それは、ナイフが皮膚を切り裂く様なものではない、寧ろ、錆びた刃物で時間を掛けて傷付けられている感覚に近い。
「そうですね。」
そして、タカヤの視線が順平とゆかりの二人を捕らえる。
「何か迷っていませんか? 思い当たる節でもあるのでしょうか? 本当にこれで良いのかと?」
その言葉に順平は一瞬だけだが動揺を覚える。
「だ…黙れよ!」
「私は!」
順平が叫ぶ前にゆかりが召還器を構えて前に出、
「そんな事思ってない!!!」
召喚器の引き金を引くが、
「ペルソナが…。」
ペルソナは出る事はなかった。
「出ない!?」
「そんな
ゆっくりとタカヤが前に出る。
「何を恐れているのですか? 私には貴女が…。」
タカヤの中より現われる影…白い体に黒い翼を持った人影…それこそが彼のペルソナ。
「酷く怯えている様にしか思えない。」
皮肉にも奏夜の中に宿る死の具現と一対となりし眠りの神『ヒュプノス』。
「っ!?」
拳を握り軽快なフットワークで二人の懐へと飛び込もうとする明彦。
「真田明彦か! 月光館学園三回生、ボクシング部所属、大会では16戦無敗!!! 先の大型シャドウとの戦闘で左のアバラを負傷、完治するも無意識に庇って本調子ではなく。それゆえ!!!」
ジンはナイフを投げる様に火炎魔法を
「動きが予想し易い!」
明彦へと放つ。
明彦は眼前に迫るそれに反応することが出来ず直撃するかと思われた瞬間、
「っ!!!」
アイギスが間に入りジンの放った魔法を弾く。
「「っ!?」」
「何やら、面白いお仲間が居るようですねぇ……。」
タカヤがアイギスを睨みながらペルソナから魔法を放とうとした瞬間、地震の様な震動が近づいて来た。
「どうやら、お出ましの様だ。」
タカヤがそう呟くとジンと共に施設の外に出る。
「っ!? 大型シャドウの反応です、こっちに向かってきてます!!!」
続いてそれに反応したのは風花だった。
そして、風花の言葉に意識が向いて、タカヤとジンから意識が離れてしまった時、重々しい音を響かせながら扉が閉じていく。
「今回は挨拶をしに来ただけです…。精々足掻きなさい。」
タカヤのその言葉と共に扉が完全に閉じていく。
「しまった! 閉じ込められた!!!」
明彦が扉を叩くがそれではビクともしない。そして、背後から巨大な影が現われる。
その姿は伸びた砲塔にスピードは無いが悪路を走破する為のトルクを持ったキャタピラ。
そして、頭頂部に頭の様に十字の甲冑の様な物が乗っている。
「戦車ぁ!?」
「以前戦ったモノレールを乗っ取ったタイプに近いのかもしれない…。もっとも、今回のは戦車そのものだがな!」
順平がそんな声を上げ、美鶴が冷静にそう分析する。そう、今回のシャドウは戦車と完全に一体化していた。
「相手が何であれ、倒すのみ!!! 出番だ!!!」
「さて…貴方はどう言う意見なのか、是非聞かせて貰いたいんですが、よろしいですか?」
施設の外に出たタカヤが後を振り向きながら後ろにいる人影にそう問い掛ける。
「そうやな、お前はどうする気ぃなんや、なあ…月光館学園二回生、紅奏夜?」
彼等の視線の先にはマシンキバーに乗った奏夜とキバットの姿が有った。
「ぼくの意見ね…何で知ってたかについては…あえて聞かないけどね。」
笑みを浮かべながらマシンキバーから降りると、奏夜は彼等の横を通り過ぎながら扉に触れる。
「彼等にも言いましたが、あなた方は個人の目的の為に動いているに過ぎません。その正義とやらは「ぼくが何時正義の為に戦っている、何て言った?」…どう言う意味ですか?」
「ぼくは結局個人の目的で戦っている。それを偽る気も無いし、正義の為なんて言って戦う気なんて…無い。」
「はっ!? だったら、何の為に戦ってるんや、退屈な日々や日常を取り戻す為に戦っとるんか!?」
「…真実を知る為…それだけだ。それに…。」
「ガブ!」
奏夜の翳した手にキバットが噛み付き、腰にベルトが出現する。
「変身!」
その姿を仮面ライダーキバへと変え、キバはタカヤとジンに向き直る。
「ぼくはこの影時間は大嫌いなんでね…出来ることなら、今すぐにも叩き壊したいって思ってるくらいだよ。」
「気に入りませんね…その瞳…。貴方からは一切の迷いも怯えも感じられない。」
「………。」
タカヤの言葉にキバは無言で返す。
「気に入らん奴やな。」
「まあ良いでしょう。貴方とは決して分かり合えそうも無い。それが解った事だけでも収穫ですね、紅奏夜さん。」
そう言って二人はその場を立ち去っていく。
「今回は挨拶に来ただけです。…精々貴方も足掻くと良い。」
「そうだね、足掻いて…叩き壊せてもらうよ、影時間も…シャドウも…。ぼくの…力で。」
「では、次に貴方と会う時は敵同士ですね。」
死の神と眠りの神…二つの仮面を宿らせた者達の道は交わる。互いを敵として刃を交えるという形で。
立ち去っていく二人に背を向けて扉に触れる。キバの力でも簡単には開けないだろう。それに、こんな事に時間を掛ける気は無い。
「一気に叩き壊してシャドウとファンガイアタイプも纏めて叩き潰す。」
そう言って腰に有るホルダーの中から紫色の拳を象ったフエッスルを抜き取り、キバットへと近づける。
「おっしゃー! キバって行っくぜぇ!!! 『DOGGA HAMMER』!!!」
鳴り響くフェッスルの音色…全てを粉砕する豪腕を持った、キバに