ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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第四十三夜

そのままブロンブースターを走らせてS.E.E.Sのメンバーとの関わるのを避ける様にキバフォームに戻ったキバは防空壕から離脱し、キバへの変身を解除する。

「はぁ…。」

「お疲れさん。ったく、流石に必殺技の二連発はきつかったな。」

「そうだね。それより…今月は二体の大型シャドウを倒したから、これで今まで倒した大型シャドウは八体、のこりは四体か…それに…。」

「ああ、屋久島であったマイシスターと、『奏』って奴が言ってた事が本当なら。」

「ぼく達の中に誰か犠牲者が出る可能性がある十月まで…あと二ヶ月しかない。」

屋久島で出会った並行世界の奏夜である『奏』は、十月に命を落とすのが誰なのか名前を言っていかなかった。それは伝えてはいけないのか、それとも、単純に時間が無かっただけなのかは分からないが…。

「…キバット…今回の敗因は何だと思う?」

「二体のシャドウが一体化して一体に見せてたってのも有るだろうけどな。」

「油断していたって言うのも有るだろうけど…ぼくも力さんの力だけじゃなくて、結局みんなの力を全部借りる事になったから、一番の理由は…。」

「相手も確実に強くなってるって事か?」

キバットの返事に奏夜は『そうだね』と返す。

「それにもう一つ、ストレガと名乗っていた奴らは…ぼくの正体まで知っていたし…。」

そこまで言った後、奏夜は言葉を一度だけ切ると、

「あいつ等は…まだ何か手を隠している様に思える。」

シャドウが強くなるのなら、その対策は自分達も強くなればいいと言う簡単な答えが導き出された。それに対してストレガと名乗っていた二人の少年達…。彼らがキバの事まで知っていると言う情報網とまだ隠している手札の存在を考えると、寧ろ強大な敵よりも其方の方に恐ろしさを感じてしまう。

「確かにあいつらの事は、大型シャドウ以上に注意しといた方が良いだろうな。」

「そうだね。…誰かが命を落とす未来…それの原因になるのは、彼らかもしれないしね。」

屋久島旅行の時に出会った並行世界の奏夜である少女『奏』から告げられた言葉を思い出し、ストレガと名乗る少年達へと警戒を露にする。

「しっかし、少しは強くなった様だけどな~。あれじゃ、まだまだ危なっかしいぜ。やっぱり、お前が抜けた穴は大きいって事だな。」

「そうだね。ぼくの役回りは……自慢じゃないけど、前線、支援、サポートから回復まで何でもこなせる万能型だからね。それが抜けたのは大きいか。」

攻撃魔法による支援は奏夜が知る限りでは全員(奏夜離脱後に仲間になったアイギスは除外)に可能だが、敵の弱点と一致しなければ無意味なだけではなく危険だろう。

その点では、どんな相手にも対応可能な奏夜の役回りは大きく、S.E.E.Sの他のメンバー達もそんな万能性を持った奏夜を中心として戦う事が前提となってしまっている。

「…考えても仕方ないか…。それにしても…。」

奏夜はゆっくりと空に浮かぶ禍々しい影時間の満月を見上げる。

「“ストレガ”…ぼく達以外の…ペルソナ使いか…。……キバット。」

「おう。」

「今後に対する対策を立てる為にも…今週中にS.E.E.Sに復帰した方が良さそうだね。」

「そうだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャッスルドランの奏夜の寝室…

明日から寮に戻る事を告げた奏夜は、屋久島の研究所に居たタツロットについての報告をシルフィーから受けた後、影時間に入る前に眠ったのだが…

「やあ。」

「や、そろそろ来ると思ってたよ。」

「ったく、またお前かよ。」

寝室の中に姿を現した少年・ファルロスの言葉に対して、奏夜とキバットはそれぞれそんな言葉を返す。

「また少し思い出したんだ。」

そんな言葉からファルロスの言葉は始まる。彼の存在に対して警戒していたキバットも口を噤んで奏夜の肩にとまって黙り込む。

「“終わり”は最初から決まっていた事みたいにやって来るんだ。大勢の人達に望まれてね。“終わり”を望むなんて、変な話だよね。」

「さあ、それはどうかな?」

ファルロスの言葉に奏夜はそんな形で口を挟む。

「少なくても、望んでも望まなくても、“終わり”は必ずやってくる物だと思うよ。」

「へぇ?」

「ワンセットだからね…この本みたいに、始まりと終わりは。」

奏夜はそう言って取り出した一冊の本を見せる。そして、表紙を表紙と裏表紙を一つに合わせる。

「終わりが無くちゃ…こんな風に無限に同じ事を繰り返すだけだからね。」

「ふふふ…確かにそうだね。」

「だけど…ぼくは気に入らない“終わり”なんて、無理矢理にでも先延ばしにさせたいと思うけどね…。」

そう言った後、奏夜は取り出した本を元の場所に戻すと、

「ぼくには…『表紙(始まり)』と『|裏表紙《終わり)』は当価値だ。どちらも自分では選べない…。ぼくにとって一番価値があるのは…本の様に『ページ(過程)』だよ。」

「ふふ…そう言うのも面白い考えだよね。でも…ま、大勢の人は全てを終わりにして楽になりたかったりするのかもね。でも、君はそんな事は認めないんでしょう?」

「当然だよ。そんな終わりはごめんだし、例え百人が賛成しても…ぼく一人だけでも反対意見を押し通すだけだ。そんな多数決に付き合う気は無いよ。」

「君らしい…って言うより、変わってきたと言うべきかな。……でも、気をつけてね。試練もあと少しだよ。」

そう言って姿を消していくファルロスを見送りながら、奏夜はゆっくりと手を広げる。

…改めて聞いて、屋久島で『黒いキバ(キバ・デスフォーム)』になった時に微かに聞こえた声と、ファルロスの声が似ている。そう思ってしまう。

いや、似ているのは声だけなのではない…魔術師の大型シャドウの時、屋久島のデスフォームへの変身の時、あの時に感じとった『黒衣の死神』の気配…それに近いものがファルロスからは感じられるのだ。

奏夜がS.E.E.Sへの復帰を決めた翌日の8月9日、その日の昼『はがくれ』と言うラーメン屋の前で二人の少年…荒垣と明彦が会話をしていた。

「…ったく! しつけぇなテメェも。また連れ戻そうってんなら、話すことはねぇ。」

「今回はそんなんじゃない。昔話でもしようか…とな。」

「あ?」

明彦は荒垣へとそう会話を始める。

「お前とも長いな。孤児院で顔を合わせてから、もう14年か…。あの頃は美紀と三人で、“時間”なんて気にせず走り回ってたな。」

「思い出話とは…らしくねぇな、普段のテメェは馬鹿みてぇに前しか見てねえ。」

そこで一度言葉を切ると、

「……何が言いたい?」

そう問う。

「…。…俺だってそれくらいするさ。お前にはな。」

そう、確かに『真田明彦』と言う人物の事を知っていれば、昔の話をするのは『らしくない』と思うだろう。だが、明彦の言葉からは、彼と荒垣の二人の間に有る絆が『特別』で有ると感じさせる。

そう、昔話をするのに理由が有ったとしても。

「…天田が俺達の仲間に入った。」

そして、明彦は…その理由…本題を荒垣へと告げる。

その瞬間、荒垣の顔色が変わる。その表情には明らかに同様の色が浮かんでいた。

「幾月さんが“適正”を認めた。今のあいつは“ペルソナ使い”だ。」

「………。…そうか。」

僅かな沈黙の後、荒垣は明彦の言葉にそう答える。

「一つだけ聞かせてくれ。仲間になったてのは、アイツの意思か?」

「ああ…自ら志願してきた。」

そう告げた明彦は話の中に出てきた人物…『天田(あまだ) (けん)』と言う少年が始めて寮に現れた時の事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、まだ奏夜がS.E.E.Sから離脱していた時の7月28日、

「復讐依頼サイト?」

ゆかり、順平、風花の三人が揃っている寮の二階の休憩所で、ゆかりの口からそんな言葉が出る。

…僅か数人だけの寮で二階と三階には自動販売機が設置された休憩所まで用意されている。学生寮と言うよりもどう考えても、ちょっとしたホテルと呼ぶべきであろう建物だ。

「なんか最近、ネットで噂になっててね。そこのサイトに個人情報とか書き込むと、復讐してくれるんだと。なんと、『成功率100%』。しかも依頼したこと絶対バレ無いんだってよ。」

「ふーん。怪談話の時もあんた、そんなこと言ってたよね。ネットとかばっかしてないで、少しは宿題でもしたら。夏休みなんてすぐ終わっちゃうんだから。」

さて、ここでゆかりは大事な事を忘れている。一人だけ、順平以上にその言葉に当てはまってしまう人物が居る事を…。

「どーせ、あたしなんて…。」

「あ、風花はいいの。紅君と一緒で勉強できるから。」

暗い顔をして落ち込んでいる風花に対して、ゆかりが必死にフォローを入れる。風花は実際順平以上にネットを利用しているのだから、それは無理も無い反応だろう。

「なんだよ、つまんねーの。また怖がるかと思ったのに。」

「………あんたの名前でも書き込もうかしら。」

「うわ、ヒデ!!!」

『盛り上がってるところ、悪いけど……。』

三人の会話がそんな盛り上がりを見せていた時、下の階から昇ってきた幾月が声をかける。

「話があるんで、ちょっと集まってもらえるかな?」

幾月に集められたS.E.E.Sの面々の前には一人の少年…小学生位の年齢の少年が居た。

「えー、この夏休みの間、預かる事になった、天田少年だ。」

「どうも、『天田(あまだ) (けん)』です。」

幾月に紹介された彼、天田乾はそう自己紹介をする。

「彼はちょっと事情があって、休みの間も帰省しなくてね。初等科の寮に一人で居たんじゃ寂しいだろ?」

そう言って幾月は乾へと向き直り、

「この寮に居るのは此処に居る彼らと……今はちょっと帰省している紅奏夜くんだ。帰ってきたら、紅君には改めて自己紹介してくれるかな?」

幾月の言葉に『はい』と答えると乾は自分の事情を語り始める。

「元々母さんと二人だけだったんですけど、事故に有ってしまって…。一昨年の事です。まぁ…そう言う訳で、これからお世話になります。よろしくお願いします。」

『…………。』

乾の深刻すぎる言葉に沈黙が流れてしまう。…当然だろう…何人かは…両親が居ないのは此処に居ない奏夜や孤児院に居た明彦もそうだが、それでも十分過ぎるほどに彼の事情は重過ぎる。

乾はそれに気付き、

「暗い顔しないでくださいよ。もう過ぎた事です。あ、さっき話してた復讐依頼サイトの話、僕も知ってますよ。」

もしこの場に奏夜が居たら、どんな心の音楽を彼の心から聞いていたのだろうか…?

そう言って話題を変えた彼の表情は…

「復讐だなんて、怖いですよね。」

仮面の様に…いや、キバやイクサを知っている者にとっては………

仮面の方が表情豊かに感じられるほどに無表情だった。

その夜、四階の司令室…S.E.E.Sの首脳陣…上級生二人と幾月の三人が集まっていた。

「俺は反対だ!!!」

その中で明彦はそう叫ぶ。

「この寮に入れるって事は!!!」

そう、この寮に入寮する者の条件はただ一つ…シャドウと戦える、影時間の中で自由に動ける、ペルソナを持った者。戦う力を持つ者と言う事だ。

「ああ。彼にも“適正”がある。ペルソナ使いだよ。それは彼自身も理解してくれた上での話しだ。真田くん、紅くんを欠いた今の我々は、少しでも多くの戦力が欲しいのだよ。」

「分かっている…。しかし、まだ小学生だ! それに、あいつは…。」

「すまない、明彦。」

それ以上明彦が言葉を続ける前に美鶴がそう言って頭を下げる。それに対して納得の行かないと言う表情を浮かべながら、

「クソッ!!!」

そう言い捨てて部屋を出て行った。

彼自身理解しているのだろう。奏夜が欠けた事での戦力不足の大きさを。だが、もう一つ特別な理由があるにしろ、小学生と言う幼い子供を戦わせると言うのは、彼自身納得行かないものがある。

奏夜の変身したイクサの姿…それを見た時から、明彦の目にはその先に何故か幻視したのだ、もう一人のイクサの姿を。そのイクサの背中に追いつきたい…本人も気付かない内に、何時からかそう思うようになっていた。

まるで今の乾を戦わせては、永遠にその背中に追いつけないのだと、彼の心が警鐘を鳴らしている。

だが、それと同時に理解しているのだろう。…乾が戦う力を求めた理由を…。

明彦の意識が回想の中から戻ってくる。

「…そうか。なら、傍にいねえとな。」

荒垣もまた乾が戦う理由を知っているのだろう。その言葉の意味は…

その日の夜。

「あれ、荒垣さん?」

ヴァイオリンの入ったケースと着替えを持った奏夜が寮の前で偶然にも荒垣と出会う。

「お前、紅…だったか? どうしたんだ、荷物なんて持って?」

「ええ、ちょっと…帰省してたんで…実家まで。」

「良いのかよ、ここは…。」

「…ちょっと、皆とは距離を置いて、気持ちの整理を着けたい事があって…。」

「そうか。」

そう言って荒垣は奏夜に対してそれ以上追及はしなかった。

「ペルソナが使えない!?」

「あ…いや。」

風花の叫び声に対してゆかりは戸惑った様子で言葉を続ける。

「出せなくなった訳じゃないの。…ただ、あの時から、前みたく、うまく力が出せないって言うか…。」

「まだ力に目覚めて間もない。仕方ないさ。」

ゆかりの言葉に答える様に美鶴が言葉を続けていく。

「それにあのストレガ…タカヤと言う奴のペルソナに、この私も畏怖の念の様な物を感じた。もしかしたら、それが奴のペルソナ能力なのかもしれない。」

(……ただ私が迷ってるだけかもね。)

(今…オレもペルソナ召喚できるのか? それに召喚できたとしても。)

美鶴の言葉に対しても不安を払拭できずにいる経験不足のゆかりと順平。

「そんな、暗くならないで下さいよ。」

そんな二人を気遣ってか乾が言葉を発する。

「僕なんてまだタルタロス探索を始めたばかりで、ペルソナもうまく使えませんから。」

「そんな余計な気遣いは…もっと実戦経験を積んでから言うもんだぜ。」

「そう言う事、先輩に気遣いをする前に、もっと強くなってからの方が良いよ。」

乾の言葉を遮る様に奏夜と荒垣の二人の声が響く。

「小学生のガキが。」

「まだ小学生なんだからね。」

そこには、この寮に帰還したS.E.E.Sのメンバーの二人、奏夜と荒垣の姿があった。

「荒垣、紅!!!」

「美鶴、俺の部屋ぁ、まだ空いてんのか?」

「ああ…当時のままだ。」

荒垣の言葉に答える美鶴の言葉はどこか喜色が篭っていた。

「ったく、掃除くらいはしてるんだろうな。」

「それじゃあ、桐条先輩。」

「ああ、今からリーダーの役目は紅、もう一度お前に一任する。」

奏夜は彼女の言葉に『はい』と一言だけ答えた。

「それじゃあ、ぼくが居ない間に増えた人や荒垣さんの実力も確認しておきたいから、次のタルタロス探索のメンバーはぼくと新しく加わった人全員…一応、岳羽さんと真田先輩、順平には山岸さんの護衛に残って貰うとして、桐条先輩、念の為に五人で…。」

「分かった。」

「ああ。」

奏夜の言葉に頷く美鶴と、僅かに不満げな表情を浮かべる明彦。

「…あなたは。依然此処から“逃げた”って聞いてます。そんな人にどうこう言われたくないですね…。」

「口だけは一人前じゃねぇか。」

「そう言う事は実力を示してから言うもんだよ。」

彼を嗜める様に言って奏夜は、乾の頭をポンポンと撫でて手を振りながら階段を上っていく。

「また今日から世話んなるぜ。」

荒垣はそう言って…再び仲間へと戻った以前の仲間達へとそう言葉をつげた。

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