キバット「それは、一つの出会い…。
それが何を齎すのかは疑問だが、
それは確かに一人の少年の“成長”へと繋がる出会い。」
そう言ってキバットは一礼して帰っていく。
…今回の話のメインは一応順平です…。
ってな訳で順平編の第四十四夜、スタート。
タルタロス内…
ミノタウロスの様な姿と巨体を持ったシャドウを荒垣の振るう斧が一閃する。
「…凄い…。」
その光景を見て奏夜は思わずそう呟いてしまう。
「体は鈍ってないみたいだな。」
「フン…まだ本調子じゃねぇ。」
美鶴からの推薦で交代した明彦の言葉に荒垣はそう答える。
「コイツは昔から、こと戦いに関しては天才的でな。オレがボクシングを始めたのも、コイツに勝ちたかったのも理由の一つだからな。」
「言ってろよ。」
奏夜へと告げた明彦の言葉に荒垣はそんな言葉で返すと、後ろにいる動けずに居た身の丈よりも長い槍を持った乾の姿に気付く。
「どうした? もう、バテたのか?」
「う…うるさいな。」
「……そうかい。」
「まあ、今日はこの階層のシャドウの能力の確認だけだから、無理はしないようにね。」
無言のまま視線を交わす二人に対して奏夜はそんな言葉を告げる。実際、今日の予定はこの回想に存在するシャドウの能力と弱点の確認の為に上っている様な物だ。
今日は上に進むのは二の次、敵の戦力の確認が最優先なのだから別に無理はする必要はない。
だが、その日は想像以上に順調に上に進む事が出来、丁度上の階層への道を塞いでいる三体の番人級の居る所で一時撤退する事になった。
8月16日…S.E.E.Sの面々は神社でやっている夏祭りに遊びに来ていた。
ベンチに腰掛けながら順平は一人その景色を眺めていた。
(なんつーか…夏休みももう終わっちまうんだな。…ま、特にこれと言ってやることもねーんだけど。結局毎日同じ事の繰り返し…。)
浴衣姿でたこ焼きを食べながら歩いているゆかりと風花、同じく浴衣姿でお面を珍しげに見ているアイギスに呆れている美鶴と、金魚すくいに連敗中の明彦。
そして…
「えーと…次狼さんに力さんにラモンさんにシルフィー姉さん…みんなで何してるの…?」
屋台でたこ焼きを売っているラモン、同じく屋台でワタアメを売っている力に、射的の屋台に居るシルフィーに、お面屋の店長な次狼と…四魔騎士(アームズモンスター)全員が、四人揃って縁日の屋台を開いている状況に思わず呆れた声を出してしまっていた。
…どう考えても無理もない事だが…。
「何って見て分からないのか?」
「バイ、ト。」
「そうそう。あっ、ぼくはそっちの金魚すくいもやってるんだ。ちょっと待って。」
そう言って明彦が絶賛連敗中の金魚すくいを指差すと、ギャラリーを含めたお客達への見本とばかりに見事な腕前で金魚を掬い上げて見せて、明彦に敗北感を強く味合わせているラモン。
「奏夜様、射的をやって行きませんか!? 少しだけサービスいたしますよ。」
「う、うん。じゃあ、一回。」
そう言って金を払ってコルクを渡されると、コルク銃に玉を積めて、的に乗っている景品に視線を向ける。
「…シル…春花姉さん…危ないから前に立たないで。」
「そ、そうでしたね、申し訳ありません。」
そう言って離れても何故か奏夜がコルク銃を構えると、その射線に飛び込もうとしている。それも何度も…。
「………次狼さん、大至急シルフィー姉さんを取り押さえてください。」
「任せろ!」
それを見て自然と次狼へと指示を出すと、それだけで全てを理解して次狼はシルフィーを抑える。
「放しなさい、次狼!!! 私は、奏夜様だけの、景品です!!! どうぞ、当てて下さい!!! 奏夜様ぁー!!!」
「奏夜ぁ!!! 今の内に全部撃ち尽くせぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」
「分かったぁ!!! って、キバットォ、何してるの!!!」
「いや、オレ様も目立たない様に縁日を楽しんでるだけだぜ。」
「景品の棚で何を楽しむ気!?」
「奏夜様ぁぁぁあ!!!」
「良いから、早く撃てぇぇぇぇえ!!! おい、見てないで力も手伝え!」
「分かっ、た。」
次狼と力のコンビによる拘束も振り切って奏夜のコルク銃の斜線に立とうとしている恐ろしい執念を見せる暴走シルフィーと、そんな彼らの様子をどうコメントして良いのか分からないと言う様子の風花と呆れてみているゆかり。
カオスな射的の一軒に参加して無いラモンはラモンで金魚すくい対決を明彦と行っていて、その結果明彦に連敗記録を与えている。そして、それを見て唖然としているギャラリーに混ざって『オー』と言いながら拍手をしているアイギスと、引きつった表情を浮かべている美鶴。
キバチームを加えたS.E.E.Sの面々のその光景は正にカオスだった。
(みんな楽しそうだよな。こんな風景を守るために戦ってるのか……なんて、思えば。)
『ごめん、順平…お願いだから、春花姉さんの暴走を守らないで!!! by.奏夜』
暴走するシルフィーとそれを抑える次狼と奏夜と言う光景が目に入っていない順平はそんな夏祭りの光景に微笑を浮かべながら、
(オレってすげーカッコイイよな。)
そう思いながら、順平は神社を立ち去っていく。
(けど、オレなんの役に立ててねえじゃんかよ。)
最初は無謀な特攻で仲間を危険に晒し、モノレールの時も分断されてピンチに陥っただけ、
風花の事件の時もシャドウを倒したのは、奏夜と明彦に…キバ。
そして、仲間が増えた後は危険行為の罰で出現禁止まで言い渡された始末だ。
イクサに始めて変身した時も……大型シャドウを倒しきれずに、キバが現れなければ今頃自分達は此処には居ない。
そう、自分は『何の役にも立ってない』、『役立たず』。そんな言葉が、彼の胸へと深々と突き刺さる。
そんな事を考えながら寮への帰り道、夜の『ポートアイランド駅』の駅前を歩いていると、彼はスケッチブックに何かを描いている赤い髪の白いドレスの様な服を着た不思議な雰囲気の少女と出会った。
「よ、何やってんだ。」
―この時…どうして声なんかかけたのか―
「祭り、行かねえの?」
―一人、どこか寂しそうに絵を描く姿が、自分と重なって見えたりしたのだろうか―
「………どいて。描けないでしょ。」
「…あぁ、ワリィ。」
赤い髪の少女の言葉に従って慌てて順平はその場を退く。
「祭りに行かないで絵描いてるなんて、よっぽど好きなんだな。熱中できるモンが有るの、うらやましいぜ。あ、それなら祭りの絵描けば良いんじゃね、楽しそうじゃね?」
彼女の座っている花壇の近くに腰掛けながらそう告げるが、
「別に好きとか、そう言うのじゃない。描きたいから描いているだけよ。」
彼女からはそんな言葉が返ってくる。
「それって、好きだからじゃねえの?」
「あなたは…。」
「あっ、オレ順平ってんだ。そう呼んでくれて良いぜ?」
「順平は…無いの? 夢中になれるもの…“生きてる”って実感できるもの。」
彼女の言葉に順平は一瞬だけ呆けてしまうと、
「…ハハ、まいったな。言われてみれば、ちゃんと考えた事ねーや。」
思わず苦笑気味で彼女の言葉に答える。
「キミはやっぱ、絵、描いてる時か?」
「…どうかな。」
彼女の返事を聞きながら順平は笑みを浮かべる。
「実は一つだけあんだよね。充実してるかなって、思える時がさ。まあ、なんつーのか、“正義のヒーロー”やってる時かな?」
「…ヒーロー?」
彼女の言葉に答える様に勢いよく立ち上がりながら、
「今日と明日の間にある誰も知らない時間!」
そう言って腕を振り上げて、
「そこは選ばれた力を持つモノだけの戦場!」
その言葉に真っ先に順平の脳裏に浮かぶのは、奏夜やキバの姿だが、それを振り消すように、
「影の怪物から人々を守るため、ヒーローは今日も戦い続ける!!!」
自分の姿と、イクサとなってシャドウと戦う自分の姿…役に立てずに敗北したとは言え、たった一度だけの“ヒーロー”となった思い出の中の己の姿を思い浮かべる。
どうでも良いのだが、『奏夜=キバ』と言う公式を知らない順平が奏夜の姿を思い浮かべたのは単なる偶然だろう。
奏夜に対して嫉妬していると言う事は、同時に彼に憧れてもいるのだろう。
何度も自分達の前に現れて圧倒的な強さを見せ付けたキバの姿にも畏怖と同時に憧れを感じていたのだろう。
だからこそ、順平は奏夜とキバの姿を思い浮かべてしまっていた。
「っと。まあ、そう言う感じでさ、充実の瞬間っスよ!」
そう言って彼女の方を振り向くと、
「って、おわあぁ!!!」
思いっきり『ドクドク』と彼女の手から血が流れていた。
「その手、血ぃ出てんじゃねえかよ!!!」
「…ああ。たまに自然にこうなるのよ。」
慌てている順平とは対照的に、手から出血している当の本人である彼女は何でも無い様にそう言い切る。
「おかしいだろ! 慌てんだろ、フツー! ほら、手ぇ出せって、見てやるからさ!」
「…変な人ね。」
「どっちがだよ。」
ハンカチを取り出して手を流している手を手当てしている順平に対して、彼女はそう告げる。…どう考えても普通の人間の感覚では自然に血が流れても何一つ慌てていない彼女の方が『変』と言えるだろう。
「それよりも、さっきの話…。あなた一人で戦ってるの?」
「おいおい、真に受けんなって。」
手当てを終えた順平は彼女の問いに、さっきの話は全部冗談だとでも言う風にそう答える。当然だろう、影時間の事も、シャドウの事も、キバの事も、全て現実で起こっている事では有るが真実と言われても信じられる訳が無い事実なのだ。
順平もそれを理解している。お調子者では有るがそんな事を理解出来ないほどバカでは無い。
「誰も知らない時間の中なんでしょ?」
だが、彼女はそんな順平の話を信じている様子で、
「なら…誰も知らなくて当然じゃない。誰も知らなくて、誰も誉めてくれないのに、戦ってるんだ。」
そう、それは…
「それってカッコイイね。」
微笑みながら告げられたその言葉は、順平にとって初めて誰かから認められたと、誉められた瞬間だった。
「そう…かな。」
「その話、もっと聞きたいな。私、ここで待ってるから。」
「あ…キミ、名前は!?」
そう言って帰ろうとする彼女に、順平はそう問いかけると、
「…『チドリ』よ。」
彼女の名前が返事として帰ってきた。
それが、順平と不思議な雰囲気の少女『チドリ』との、初めての出会いだった。
それから順平はチドリとよく会っていた。
そう、それは影時間の外で順平が充実していると感じている時間かもしれない。
「最近、順平元気そうだね。勝手な事も無茶もしないで安心したかな。」
「そうだね。良かった、順平君元気そうで。」
「なーにがあったんだか。」
二年生トリオの残りの三人である奏夜、風花、ゆかりの三人が楽しそうにロビーの隣を通り過ぎていく順平の姿を見送りながらそう話していた。
(私も何時までも、悩んでばっかじゃダメだよね。)
そんな順平の姿を見ながらゆかり自身もそう決意する。
「へぇ…。…じゃあ、その怪物退治の部活動順平が入ってから負け無しなんだ。順平はチームのエースみたいなもの?」
「ま…まあな。リーダー的な役割ってとこかな。」
どう考えてもベンチに座りながら話している話の中の順平は『奏夜』です。まあ、全部嘘と言う訳ではないが。
確かに…順平が入ってから負け無しだろう。奏夜もほぼ同時期で入ったし。
「とりあえず、オレが居ないとはじまんない感じ。作戦が始まったら、みんなオレの指示で動くし、特に強い奴が出てきたらオレが秘密兵器を使って、スバっと先頭に立って倒すんだ。」
『こんな感じ』と言ってイクサに変身する時の仕草をしてみせる。
「結構大変なんだよな、リーダーってのも。なんたって、仲間全員の命を背負ってるんだからな。」
実は詳しく聞かれても良い様に奏夜から話を聞いて予習済みだったりする。リーダーの立場に憧れていると言う事は知っているから、奏夜も快く教えてくれたのだが…。
「…そっか。」
「……ああ。」
チドリの返事に顔色が悪くなる。当然だろう…この話は明らかに奏夜の立場を自分と入れ替えた嘘である為、何処でボロが出るか分からないのだし。
風が吹いて木々がざわめくと、ふわりとドレスの様な服を翻しながら立ち上がり順平へと向き直り、
「ありがとう順平、楽しかった……。」
月の光に照らされながら微笑を浮かべて、
「また明日…満月の夜に(・・・・・)会おうね。」
どこか意味深な言葉と共にチドリは順平へと、その日の別れを告げた。