ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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第四十五夜

奏夜がS.E.E.Sに復帰した次の日まで一度遡る。

奏夜は部屋に戻ってから直ぐに眠っていた。まだ寝床を戻していない為にキバットはキャッスルドランに居て貰っているので部屋の中には奏夜一人だけだ。

学校も無い休日の朝…そろそろ起きようと思っても、心地よい眠気についつい負けてしまい再び眠りの中に落ちようとしていた。

「……じ…ふん、…きしょう……であ……」

眠りに落ちようとしている奏夜の耳に誰かの声が聞こえてくる。だが、部屋の中にはキバットは居らず、此処はキャッスルドランの中で無いのでシルフィーが起こしに来る訳でもない。

「奏夜さん、起きてほしいのであります。」

先ほどは距離があったが、今度は間近で聞こえてくる。誰かは分からないが、少なくとも起こそうとしている以上は敵ではないのだろう。そんな妙な考えが浮かぶ中で、自分の部屋の中に自分以外の人間が居るのは可笑しいと気付くと、一瞬で眠気が吹き飛んだ。

「ッ!?」

「意識の覚醒を確認。任務完了でありますね。」

「…えーと…君は確か、『アイギス』だっけ? 何で此処に?」

慌てて飛び起きると部屋の中に居る自分以外の相手であるアイギスの存在を確認できた。…普段から気を張っている訳ではなく、まして睡眠中は流石に隙が出来るのも事実だが、此処まで近づかれるまで気付かれなかったと言うのは流石に色々と拙い気がする奏夜だった。

(…ぼくもまだまだ…なのかな?)

流石に渡も音也も気付かなかった可能性が高いが、『父さんやお爺ちゃんなら気付いただろうな』と言う考えが頭に浮かんでしまう。

何時もの事だが、部屋の鍵はかけた覚えは無かったが、それはアイギスが此処に居る理由にはならない。そもそも聞いた話ではアイギスにもちゃんと部屋が用意されていたはずなのだし…。

その疑問に答えを出してくれたのは、新たに奏夜の部屋を訪れた人間だった。

「あ、あのー、岳羽ですけど、紅くん起きてる? 実はアイギスが居なくなっちゃって……。」

ノックの音が聞こえて扉の向こうからゆかりの声が響く。

「あ、岳羽さん。アイギスなら…。」

「アイギスならここにおります。」

奏夜が返事をする前にアイギスが答えて、ドアを開ける。

「アイギス!? なんでここに!?」

「奏夜さんの起床を定刻通りに促す為であります。」

「え、鍵は……?」

「開いていたのであります。必要があれば開錠する予定でしたが……。」

本気で寝る前には毎日に施錠を心がけようと思っていた奏夜だったが、アイギスはたとえ鍵を閉めていても入ってくるつもりだったらしい。そんなアイギスに対してゆかりは呆れた顔を見せる。

「モロ不法侵入じゃん……。」

「ところで、私の待機場所は、今日から此処にしようと思うのですが。」

「「はい?」」

突然話題を振ってくるアイギスに今まで傍観を決め込んでいた奏夜もゆかりと声をそろえて聞き返してしまう。

「そうすればいざと言う時に、適切な対処ができるのであります。問題点があれば、対処しますが?」

「……問題点有りまくりだっつの!」

「有り過ぎるよ、問題点!!!」

思わず声を揃えて突っ込みを入れる。

(対処って何!? 寝首でも掻く気!? いやいやいや、ぼくがキバだって知らないはずだし!?)

表面的には比較的冷静さを保っているが、内心では大いに慌てている。

「奏夜さん、心拍数が上がっていますがどうされたのでありますか?」

「ちょっと、紅くん、何考えてるよ?」

流石に表面的は平静を保てていても内側では混乱していたようだ。心拍数の上昇をアイギスに気付かれ、同時にゆかりには変な誤解を生んでしまった。

「いや、別に、何も…。それより、アイギスが此処で生活するには問題があるよね!」

「そうだった!」

慌てて話題を変える。多少強引だったが、話題を変えるのには成功したようだ。

「どの辺りに問題があるのでしょうか?」

「えっと、多分寮則に違反してるはず……。」

「全文を既にスキャンしましたが、機械の設置を禁止した条項は発見できなかったのであります。」

((そ、それはそうだけど…。))

アイギスの言葉に思わずそう思ってしまう。その辺は自分の事を『機械』と認識している彼女と、彼女の事を『女の子』と見ている二人の認識の違いなのだろう。

何より常識的に問題が有る。

「え、あ……っと、とにかくダメだったら! 貴女見た目は女の子なんだから! ちゃんと部屋用意してあるから、そっち行って……。」

「命令であれば従うのであります。」

そう言ってアイギスは外に出て行く。

「はぁ…なんか疲れた。」

「…同感…。それと、ご苦労様。」

ゆかりの呟きに同意して、同情をこめてそう労わる。心底、部屋にキバットが居なくて良かったと思わずにはいられなかった。

さて、朝はそんなゴタゴタが起こってしまったが、その日奏夜は風花を誘って出かけていた。

「紅くんも桐条先輩もこんな状況でも学年一位なんてホント凄いよね。」

「んー…桐条先輩は兎も角、ぼくは運が良かっただけだよ。点数自体は前よりかなり落ちちゃってるし。他の人達も点数が下がってたからね…。」

前回の結果が普通に断トツ過ぎた…まさに『走り出したペンは止まらない』状態だった為、今回は点数が落ちても運良くトップをキープできたのだが…順平は今回はより成績は落ちた結果、怒った美鶴に連行されたらしいが…その後の順平に何が起こったか等は想像したくも無い。

「まあ、あの時の事を除けば何事も無かった事には安心したけどね…。」

「うん。あの時は紅くんが居なかったら、本当に危なかった…。私のせいだよね…反応が二つ有った事に気付いていたのに…これだけしか、私にできる事無いのに。」

「あ゛;」

風花の表情が曇って明らかに落ち込んでいる姿を見て、言ってはいけない事を言ってしまった事に気が付いた奏夜の顔が思いっきり青くなる。心の音楽もどう聴いても悲しげなそれを奏でている。

どう考えても『戦車』の姿をしたシャドウが、砲塔と車体が別々のシャドウであるとは風花でも認識できなかったのだろう。

確かに、今以上の解析力が有れば見破れた可能性もあるが、それは可能性の問題でしかない。

「え、えーと、山岸さん!」

「え?」

「『これだけしかできる事無い』なんて言わないでよ。少なくとも、ぼくは君の存在に助けられているんだからさ。」

「は、はい!」

奏夜の言葉に思いっきり顔を赤くしてしまうが。それでも元気にはなってくれたのだろう。声には明るさが戻っている。

「でも、桐条先輩は…優秀である事が自分の義務って考えている気がする。」

「義務?」

慌てて話題を変える。

自分が経験したことだからこそ、その感情は理解できる。奏夜も今でこそ音楽は好きだが、ヴァイオリンを弾く事を義務の様に捉えていた時期がある。兄やキバット達のお蔭でそんな考えからは抜け出した。そう話し始めていると、その事を聞いた風花が浮かべている表情にはどこか物悲しい物を感じてしまう。

(ま、また変な事を言っちゃったかな?)

「でも、自分の意思で勉強をできる様になりたいって思っているなら、それは素晴らしい事だと思うの。私は……そうじゃないから。」

「そうじゃない?」

「私は自分の意思じゃなくて、両親の意思だから。……私が医者になりたい訳じゃないから。」

部活の時に聞いたことがある。風花は両親から医者になる様に期待されていたらしく、それが両親とうまくいっていない原因らしい。寮に引っ越してくるのに何の抵抗も無かったのも、それに関係している。

「山岸さん…。」

「…だから、桐条先輩は影時間が解決できるなら、本当に何でもすると思うの。例え人に恨まれる事でも。それで自分が罪悪感に苛まれても、周りの人からどれだけ恨まれても、当然の罰として。」

「…それに巻き込まれるのは勘弁して欲しいんだけどね…。」

思わず言ってしまう。結果的に『奏』の時にはその結果、魔騎士達の中に犠牲が出てしまったのだ。

…それはどんな理由があっても、奏夜には許せる事ではない…。きっと同じ事が起これば…奏夜は…美鶴を…。

―殺してしまうかもしれない―

だが、彼女の使命感がそうさせる。彼女の意思がそれを強いる。

「所で、新しく入った…天田くんの事だけど…。」

「うん。」

天田乾が入寮した時の事を聞くと、一つの考えが浮かんでくる。

「…幾月さんが強引にやっているのか…?」

「く、紅くん?」

思考の中に沈んで表情を鋭くしていた奏夜の名を、怯えた響きを含んだ声で風花が呼ぶ。彼女の声を聴いた瞬間、奏夜は表情の険しさを消して微笑を浮かべる。

「山岸さん…桐条先輩から貰ったって言うパスワード…まだ持っているよね?」

以前から考えていた事、危険な事に巻き込みたくは無いが、それでも…その為の能力が無い以上は、それが出来る彼女の能力に今は頼るしかない。

「う、うん、まだ持っているけど…。」

「…断ってくれても良い…。君に一つだけ頼みがある。」

「頼み?」

「桐条グループの研究所…そこの記録にある情報…アイギスについてと、十年前の爆発事故について調べて欲しい。ただし、二つだけ守って欲しい。一つは調べるのは寮ではなくて、休日か放課後に…ぼくが指定した場所だけで。そして、その事は岳羽さんには黙っていて欲しいんだ。」

「ふえっ、アイギスの事を調べるのは構わないけど、十年前の事故は…。それに、紅くんの指定した場所でだけって…。」

「…屋久島から帰った後にコンタクトを取っていた人が居るんだ。…その人も十年前の…父さんの死や爆発事故の事を調べている。それに…岳羽さんに知らせないで欲しいって言うのは…。」

「うん、そうだね。…ゆかりちゃんには辛い内容かもしれないもんね。」

ゆかりには信じろとは言ったが、奏夜としては調べる必要がある。なにより、

「あの時に見たビデオ…あれには何処か違和感を感じたんだ。」

「違和感?」

そう、あのビデオからは正体不明の違和感を感じた。…特に一瞬だけだったが最後に現れた『キバ』が登場するタイミングと位置関係…。

父やゆかりの事を心配する事から生まれた願望と言う可能性も捨てきれないが、それでもその違和感を調べる価値は十二分に存在しているだろう。

「あの…紅くんの指定した場所ってあのお城の…。」

「いや、残念だけどキャッスルドランじゃない。それはこれから向こうに連絡する。…悪い事に協力者も含めて戦士と『元』戦士だけだしね…ぼくもだけど、山岸さんの様な事は出来ないんだよね。」

苦笑を浮かべながら奏夜は携帯電話を取り出して一人の人物の電話番号を呼び出す。彼は、

「えっと、その人ってどんな人なの…かな?」

「…二人とも父さんの戦友で…父さんの時代の『イクサ』だった人と、その開発者の孫である女性…。『名護 啓介』さんとその奥さんの旧姓『麻生 恵』さんだよ。」

そう、母方の叔父の情報網で調べて貰ったのだ。…父の事を調べる上で協力者となってくれそうな人物…かつての父の仲間達の事を。彼等の使っている劣化コピーとは違う“本物”のイクサと最も関わりの深い二人だ。

「頼める?」

奏夜の言葉に頷いてくれる風花に奏夜は改めて礼を言った。

「それにしても、天田くん…だっけ? 彼は…。」

「うん、随分大人びた子だよね。」

可愛げがないと言えるかも知れないが、荒垣への態度を除けばあんな風にしっかりした小学生も珍しい。

だが、明彦を見つめる目だけは年相応に輝いていた。

「真田先輩のボクシングの無敗伝説、小等部にも届いてるんだって。やっぱり男の子ってそう言うのに憧れるのかな?」

「あはは…なんだか分かる気はするけどね。でも、真田先輩って子供の相手は苦手そうだしね。」

苦笑を浮かべてそう言った時、風花から視線を外しつつ、

(…確かに真田先輩の時だけは『憧れ』の音色が聞こえた。…けど…普段の彼の心の奏で居た音楽は…。)

そう、奏夜が聴いた彼の心の奏で居る音楽の音色は、彼の心の叫びは、

『復讐』の音色だった。

「そうかもね」

ただ、そんな本心は風花に感じさせず奏夜は苦笑を浮かべてそう答える。

「…山岸さんも気をつけた方が良いかも知れないよ」

「え?」

「…幾月さんが彼女に協力しているだけかもしれない…。でも」

そう言った後、奏夜は一度だけ呼吸を整えて、

「幾月さんと桐条先輩…其処にどんな訳かは分からないけど…『人を利用している』。他人を利用している人間は、結局人を道具として見ている…自覚が有るか無いかは分からないけどね」

「う、うん」

「だからこそ、理由が有れば…人を利用している人間は、人を切り捨てる事にも躊躇は無い」

『切り捨てられない為に信用しすぎるな』と一言だけ言い切る。

「ごめん、折角の休みなのに重い話ばっかりしちゃって…」

「ふえっ、う、ううん、気にしなくても…」

「それじゃあ、重い話はこの辺にして何処か遊びにでも行こうか、協力してくれたお礼も有るしね」

「うん」

こうして、奏夜と風花の休日は幕を開けるのでした。

…次回は場面は変わるかもしれませんが…。

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