ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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第四十六夜

「そうか…。」

風花へのお礼も兼ねたデート(奏夜に自覚無し)の後、風花を寮に送った後一度奏夜はキャッスルドランに来ていた。名護夫妻には『先輩』を通じて『叔父』のルートで連絡して貰う様に頼んだ。次の満月の後にでも会う事が出来るだろう。

とうでも良い事なのだが、本人にデートと言う自覚が無いのはある意味に於いては良い事なのかも知れない。だって、紅家って初恋の相手とは必ずと言って良いほど別れているのだし。

特に奏夜の父である紅渡氏の場合は…初恋の相手が兄の婚約者だった上に最後は死に別れたと言う悲劇の恋だったりする。

閑話休題(それはさておき)

奏夜はキャッスルドランにシルフィーに治療を頼んでいたタツロットの様子を見に来た訳だ。

「はい。順調にタツロット様は回復に向かっています。近日中は無理ですが、間も無く意識が回復されると思います。」

「ありがとう。」

「身に余る光栄です、奏夜様。」

奏夜の労いの言葉にシルフィーはそう言って一礼する事で答える。

「あまり無理はさせたくないけど…次の大型シャドウ戦には無理でも、次の月の大型シャドウ戦までには回復して貰えればいいんだけどね…。」

「奏夜様、タツロット様の事は、私は最善を尽くします。」

「うん、ありがとう…。ぼくがその力を使う資格や、扱えるだけかどうかは判らないけど…これからの戦いには必ず本当のキバの力を使う必要が有る時が来る。だから、頼んだよ、シルフィー。」

「はい。」

奏夜の決意の篭った言葉にシルフィーは一礼して答える。

奏夜には今後の戦いで、絶対に黄金のキバの力を使うべき時が来ると言う確証こそ無いが確信があった。直感ではあるが。

『黄金のキバ』、キバの鎧の持つ本来の力…それは自分よりも兄の方が相応しいだろうとも思うが、それでも今シャドウと戦える者の中でキバの力を扱えるのは自分だけだ。迷っている余裕など無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あん…の、バカ!!!」

ゆかりがそう叫ぶ。時は9月5日土曜日の満月の日、ポロニアンモールの噴水の前にS.E.E.Sの面々が順平を除いて集まっていた。

奏夜達が装備や治療薬の購入に利用しているショッピングモール、そこが奏夜達の九月の大型シャドウ戦の舞台となる場所だった。

なのだが…。

「どこほっつき歩いてんのよ!!! 今日が満月だって分かってるの!?」

「…少なくとも、空を見上げれば分かりそうなんだけどね…。」

奏夜もゆかりと並んで頭を抱えて溜息を吐いてしまう。何時もなら無駄に張り切っている順平が何故か今夜に限って集合場所に現れなかった。特に最近の様子を見る限りではやる気に溢れているので安心していたのだが…。

「…順平、本当にどうしたんだろう…?」

『順平くん…紅くん、順平くんをルキアで探してみましょうか?』

「いや…今はシャドウを確認するのが先決だ。どうだ、山岸?」

奏夜が返事をする前に美鶴がそう告げる。風花は美鶴の言葉を聞き奏夜の方を見ると、

「そうだね、今は順平を探すよりもシャドウの方を優先しよう。」

『…はい……けど。こんなに近くに来てるのに…ここにいるって分かっているのに…。』

(…山岸さんのペルソナ能力でも完全に探れないか…。やっぱり、シャドウの力が上がっているって事かな?)

風花の言葉を聞きながら奏夜は自分の中のペルソナを四魔騎士(アームズモンスター)のペルソナの一つ・シルフィーに変えるが、それでも探れたのは薄っすらとしたシャドウの気配を“地下”からだ…。

『見つけられない…………どうして?』

「仕方ない…手分けして探すぞ! モールは広い、影時間が開ける前に何としても目標を発見して叩く!」

ルキアが消えて崩れ落ちる風花を一瞥して美鶴が全員に指示を飛ばす。その姿は、流石はS.E.E.Sの首脳陣の一人であり、生徒会長と言った所だろう。

「紅、お前は此処に残って風花の護衛と全体の指揮を! そして、連絡が入り次第シャドウが見つかった場所に向かえ!」

「はい!」

最強戦力であり、指揮官でも有る奏夜を何処でシャドウを発見しても確実に駆けつけられる位置に配置すると同時に、風花の護衛を任せる事でモールの中央の噴水をポロニアンモールでのシャドウの探索の拠点とする訳だ。

「…これだけが。」

仲間達が、ゆかりが崩れ落ちた風花を気遣う様に視線を向けて、モール全体に散って行く中、

「山岸さん…。」

奏夜は崩れ落ちた風花を気遣う様に声をかけるが、その瞬間、彼女の心の奏でている音色を聞く。

何時もの心地良い優しい音楽とは違う音色…。それは、

(私の出来る事なのに…。)

「山岸さん…。」

不安、焦り、絶望、奏夜の声が届かないほどの負の感情が渦巻いている、

(私の役目なのに…。)

そんな負のメロディー。

「山岸さん…風花さん!」

「え!?」

意を決して今までと違い強く名前を呼ぶと風花は初めて奏夜の言葉に反応した。

「焦っちゃダメだ、落ち着くんだ。きっと…君のペルソナは君の意思に答えてくれるから。一人で悩んで居ちゃダメだ、ぼくも君の力になる。」

「う、うん。」

奏夜の言葉に戸惑いがちに頷くと、風花は再びルキアを召喚する。

「(紅くんの、みんなの力になりたい。だから…。)うん! ルキア…お願い!!!」

「頼む、シルフィー!」

奏夜の中から現れたシルフィーと、風花の出現させたルキアと共にシャドウの位置を探知する。

―合体魔法(ミックスレイド)!―

奏夜のペルソナの一つとしてのシルフィーはジャミングだけでなくシャドウの探知能力も持っている。

それは風花や美鶴ほどの精度は無く、範囲自体は広いが、それはシャドウが何処に居るか分かる程度だが…。範囲だけなら、シルフィーのペルソナのそれは、彼女達のそれを上回る。

シルフィーの緑の風に照らされながら、ルキアが輝きを放つ。シルフィーのペルソナが感じ取った範囲にルキアのそれが高い精度を与える。

「位置は…地下…。」

「足の下…網目…? 地下にある四角い箱の形……みたいな。」

「何処かの地下室だね…。地下に何かが有りそうな店は…。それに網目って…。」

素早くモールの中の店舗の内容を思い出し、地下に何かが有りそうな場所を思い浮かべるが、風花に負担をかけない様にシルフィーとルキアのミックスレイドの制御を行っているので、上手く思考が纏まらない。

『網目…もしかすると、地下ケーブルと関係有るかもしれません。』

モールの中の探索に散っていたアイギスからの通信が届く。周囲の情報ならやはり彼女の方が強いだろう。

『ここは島が開発中の頃は工事用電源の基地が有った場所ですので、相当量の電気ケーブルが地下に放置されたままになっている様です。』

「っ!? じゃあ…モノレールの時よりも大規模に…。」

『そうか…以前戦った戦車や電車のシャドウ同様に!』

『ケーブル全体を乗っ取ってる訳か!』

次に連絡があったのはアイギスからの通信を聞いた美鶴と明彦だ。ケーブル全体となるとその姿は巨大…そうで無かったとしても、相当のエネルギーを持っているだろう。

『そんなの、どうやって?』

考えてみれば最低でもモール全体が敵のシャドウとなっている可能性もある。その状況を創造してゆかりは絶望的な声を上げる。

「本体…何処かに本体が居るはずだ。地下室…其処に敵の本体は居るはずだ。」

ミックスレイドの制御を行いながら、自分の推測を告げる。

(四角…地下室?)

(地下室…駐車場、ゲーセン…。何処だったか、電源の調子がどうとか少し前に聞いたな。)

周囲を探索しながら乾と荒垣が与えられた情報からシャドウの本体の位置を推理している。荒垣の考えは正しいだろう、シャドウが乗っ取っている以上は影時間の外でも間違いなく、電源に影響が出る。

「「居た!」」

意図した訳でも無いが、奏夜と風花の声が重なる。それと同時にシルフィーの姿を消して奏夜は倒れそうになるのを何とか踏みとどまる。

「ケーブルを逆流して辿った電源の元! 見つけました!!! 大型シャドウ本体!!!」

そして、風花は全員へと自分が見つけた大型シャドウの位置を伝える。

―『クラブ“エスカペイド”』、近くに居るのは天田君!―

そう、悪い事に一番今回の作戦の参加者の中で不安があるであろう乾が、大型シャドウの存在する場所の近くに居る。当然、次に取らせるべき行動は…。

『天田君! みんなが来るのを、せめて紅くんが来るまで待って! 天田君!!!』

天田に待機する様に呼びかけるが、

「急いでるんでしょ、僕一人でもやれますよ…。」

風花の言葉を無視して天田はエスカペイドの店内に入っていく。

「…チッ、バカが!!!」

次いで近い位置に居た荒垣が急いで其処へと向かうが、恐らくは天田がシャドウと接触する方が先だろう。

「どうしよう! あっ、紅くん、大丈夫…。」

「大丈夫、少しだけ疲れただけだから…。」

心配をかけさせない様に笑顔を浮かべながら風花の言葉に答えて立ち上がると、奏夜は片手剣を持ってクラブ“エスカペイド”へと向かおうとする。

他人のペルソナとのミックスレイドは初めてだが、予想以上に制御に負担が掛かってしまった。しかも、今回はそれを奏夜は彼女に負担が行かない様に全てを一手に引き受けたのだが、その結果としては最悪と言えるだろう。

「で、でも…。」

「これがぼくのやるべき事、やりたい事だから…。」

「せめて、ゆかりちゃん達か先輩達に回復して貰ってからでも…。」

「大丈夫…肉体的ダメージじゃなくて精神的な疲労…ペルソナの使い過ぎって所だから。」

「そんな…それって全然大丈夫なんかじゃないじゃないですか!?」

「ったく、相変わらずだな!」

奏夜のポケットの中から飛び出したキバットがそんな奏夜に対してそう声をかける。

「あっ、キバットちゃん。」

「って、おいおい、風花ちゃん、『ちゃん』は止めてくれよな。」

そんな会話を交わしてキバットは奏夜の肩へと止まる。

「こいつの面倒はオレ様に任せとけ、絶対に無茶も無理もさせねぇよ。…奏夜まで渡の様になんてな…。」

「う、うん…。」

それでも心配そうな顔を浮かべながら奏夜へと手を伸ばすが、

「じゃあ、山岸さん…一人で不安だとは思うけど…先輩達か岳羽さんと合流して…。」

「あ、あの…苗字じゃなくて…さっきみたいに…。」

「うん、風花さん。」

彼女の名前を呼んで奏夜は敵の在る場所へと向かっていく。

一方、

寮の入り口…そこに順平のトレードマークと言える帽子が落ちて居た。

その視界を屋上まで上げると、

「これは、どう言う事だよ…?」

女性的な印象を与えるシャドウとは違う異形の影…ペルソナに押さえつけられながら、ナイフを突きつけられている順平の姿があった。

否、その奥で月の光に照らされる影が一つ在る。

「チドリ…………!」

それは順平と知り合った少女『チドリ』だった。恐らくは順平を捕らえているペルソナも彼女のものだろう。

「頼みたい事があるの。あなたの仲間に命令してもらうわ。言うとおりにするなら、あなたには何もしない。」

彼女の口から出たのは一つの脅迫、

「作戦の中止命令を出して……簡単でしょ? 今やっているものだけじゃない、今後の作戦も全部止めるように言って。」

彼女からの要求は『リーダー』への作戦の永久的な中止、だが、

「………やっぱりキミ、“あの連中”の。そうだよな、じゃなきゃ、こんな…。」

「早くして。」

震える声で否定してくれる事を祈りながら、微かな希望を抱いての問いだったが、それを簡潔に要求する事で肯定する。

「…けど、命令なんてできねーわ…。」

「どうして? 自分より仲間や作戦の方が大事って事? あなた、これから死ぬかもしれないのよ。」

当然ながら、順平はそんな事は出来ない。

「“死”って普通の人間には一番の恐怖なんでしょ…。違うの…?」

例え死を突きつけられて、順平にそんな命令は出来ない。なぜなら…

「わりぃ、オレ…。リーダーなんかじゃねぇんだ。」

それが、順平が彼女に吐いていた嘘がばれた瞬間だったのだから。

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