キバット「『正義(ジャスティス)』はタロットカードの大アルカナに属するカードの一枚。
裁判の女神とも呼ばれている。カード番号は現在、広く用いられているデッキでは『11』であるが、伝統的なデッキでは『8』となっている。」
カードを持ってフェードアウトすると、再び現れる。
キバット「正位置の意味は『公平・公平』、『善行』、『均衡』、『誠意』、『両立』等があり、
逆位置の意味は『不正』、『偏向』、『不均衡』、『一方通行』、『被告の立場におかれる』等がある。結構意味が分かり易いカードだな。」
―二年前、母さんが殺された。表向きは“事故”と言う事になっているけれど、本当は違う。―
乾はクラブ“エスカペイド”の階段を下りながら忘れられぬ過去を思う。
―“適正”が少し有った僕と母さんはその夜“影時間”に迷い込んだ。―
それは、彼が力を欲した過去。
―街を徘徊する暴走した“シャドウ”は家を破壊、崩れ落ちた瓦礫で母さんは生き埋めとなり、僕は居場所を失った。―
それは、少年が大切なものを失ってしまった瞬間、
―僕は自分の持ってる“ペルソナ能力”を唯一の手がかりに、今まで生きてきた。―
乾は階段を下りた先に有るクラブのドアに手を触れる。
―“事故”と言うのは桐条さんが真実を隠したのだろう。傍から見たら、それは変わらないのかもしれない。今なら“真実”が分かるけれど、そんな話を警察に話しても、子供の言う事だと言う事もあり、一切信じて貰えなかった。―
ゆっくりとクラブのドアを開いていくと、
―けど、そんな真実なんて、もうどうでもいいんだ。―
証明機器の停止した暗い地下の部屋の中央で、人工島中の電力でも集めているのか、自ら光を放って光源となっている両腕と両足が大量のコードと融合している異形の影、『隠者』のアルカナの大型シャドウを見る。
―僕は、母さんと居場所を奪った影時間とシャドウが許せない! 憎い!!!―
その姿を目撃した時、乾は自身の頭に召喚器を着き付け、
―こいつ等を消す事が出来るなら、僕は、どんな事でもする。それが僕の真実。僕のペルソナ『ネメシス』は、―
憎悪をこめて彼が引き金を引くと同時に現れるこの丸鋸の様な輪を体の中心に来る様に着けられているペルソナ、
―僕の復讐の形そのものだ!!!―
『復讐の神(ネメシス)』を召喚する。
『くれな…奏夜君。天田君が大型シャドウと遭遇、戦闘に入ったみたいです。』
「っ!? 仕方ない…ちょっと早いけど、変身して向かう! 風花さん、ぼくの事は皆には誤魔化しておいて!」
『はい!』
「キバット!」
「オッシャー! 今日はちょっと早いけど、キバって行っくぜぇー!」
風花からの通信が消えて、奏夜がキバットの名前を叫ぶと、ポケットの中からキバットが飛び出してくる。
「ガブッ!」
「変身!」
そして、そのままキバへと変身した奏夜はクラブへと向かって走り出す。
「おおおおおっ!!! 『ネメシス』っ!!!」
―バスタアタック!―
円輪状のパーツが鋭く回転し、大型シャドウ『隠者(ハーミット)』へと切り掛かる。
「許せないんだろ! 憎いんだろ!! どうした、お前の“力”は、そんなものなのか!?」
憎悪の篭った乾の叫び声に答える様にネメシスの輪は回転の速度を増し、
「こんな奴位、切り裂いて見せろよォ!!!」
ハーミットを切り裂かんばかりに回転を増す。だが、ハーミットは自身を切り裂こうとしているネメシスではなく、ネメシスの召喚者である乾を狙って四肢と一体化しているケーブルの一部を向かわせる。
「っ!!」
自身へと伸びて来たケーブルをかわすが、その瞬間ハーミットの体に光が走る。
その危険性に風花のアナライズが有れば直ぐに気付いたが、拙い事にそれが可能な風花はこの時、他の仲間達への連絡の方に意識を向けていた為に乾に警告できる状況ではなかった。
電力を蓄える様にハーミットの体が輝いた後、光が収まると、
―ギガスパーク―
ハーミットを中心に周囲へと膨大な電撃を撒き散らす。
「くあっ!!! あああああああああああ!!!」
ハーミットより放たれた電流に焼かれて苦悶の声を上げる乾。それと同時に召喚者がダメージを受けた事で、彼のペルソナであるネメシスの姿も薄れて行き、そのまま消え去ってしまう。
ペルソナ能力を持たない通常の人間では鍛えられた大人で有っても最も弱い電撃系魔法(ジオ)でさえ即死レベルなのだが、ペルソナの恩恵の存在のお蔭で小学生の子供である乾でも無事とは言い難いが、何とか耐え切る事が出来た。
だが、電撃を利用した攻撃の真の恐ろしさは、筋肉の電気パルスが狂って動けなくなる点にある。通常人体をコントロールしているのは脳だが、脳からの指示は神経を伝う電気信号によって送られる。
感電して痺れて動けないというのは、脳からの電気信号よりも強い電気刺激を筋肉が受けてしまう為、幾ら脳が動けと指示を送っても動かす筋肉が従わないのだ。
ハーミットの先ほどの攻撃は殺傷能力も然る事ながら、それに耐え切った乾の体を麻痺させていたのだ。
―高位電撃魔法(ジオダイン)―
ハーミットの放った高位電撃魔法(ジオダイン)が麻痺して動けずに居る乾へと迫っていく。だが、
「ったく。」
ハーミットと乾の間に現れた新たな人物…荒垣の振るった斧の一凪によって霧散する。
「世話のかかるヤローだぜ!」
乾へと視線を向けながら自分の額に突きつけた召喚器の引き金を引く。
―本当だ! ちゃんと見たんだ!! 嘘なんて言ってない、交通事故なんて、そんなの作り話だ!!!―
荒垣の中から撃ちだされたもう一人の自分、仮面の力…
―ウソつき! 信じるって、言ったじゃないか!!!―
それと同時に乾の中に浮かんでくるのは、母と居場所を失った当時の記憶の続き。
―信じてよ!―
騎馬を駆る胸を串刺しにされた英雄の様な姿のペルソナ…それは荒垣の中の意思が原因なのだろうか?
―確かにこの目で、ちゃんと見たんだよ!!!―
それはかつての乾が涙ながらに警察に訴えて、信じてさえもらえなかった記憶と、その中にある母の仇の『シャドウ』と思っていたモノの正体…。
―光る馬みたいな格好の怪物が、母さんをっ!!!―
タルタロスを上っていた時に馬に乗った騎士の様な強力なシャドウは目撃した。だが、それでも、目の前に存在するペルソナの姿は、まるでパズルのピースが定位置に収まる様に、荒垣のペルソナの姿は乾の記憶と一致する。
「『カストール』ッ!!!」
―デッドエンド!!!―
カストールの一撃がハーミットの体を揺らす。だが、ケーブルと融合する事で一体化した四肢は大きなダメージを受けながらも吹き飛ばされる事無く完全に大地にその異形の体を固定していた。
「チッ!」
ダメージは与えたものの、大して利いている様に見えないハーミット姿に思わず舌打ちしながら、荒垣が追撃の体制に移ろうとした瞬間、クラブの入り口の扉が吹き飛ぶ。
「ハァ!!!」
新たにクラブの中へと飛び込んできた赤い影…仮面ライダーキバはそのまま跳躍し、真上から荒垣の一撃で怯んでいるハーミットの顔面―仮面と言うべきか?―に向かって体制を整えながらパンチを撃ち込む。
「あいつは!?」
「あれがキバか。」
初めてキバの姿を目撃する乾と荒垣はその姿に思わず呆然とした声を上げる。だが、キバの一撃を受けたハーミットはキバへと向かって、
―高位電撃魔法(ジオダイン)!―
高位電撃魔法(ジオダイン)を放つ。
キバはそれを大きく横に跳ぶ事で回避し、床を砕かんばかりの踏み込みで相手の真下へと回り込み、ハーミットの顎と思われる部分を蹴り上げ、直ぐに其処から離れ、一瞬だけ荒垣へと視線を向ける。
そんなキバへとハーミットは高位電撃魔法(ジオダイン)を放つが、キバはその全てを回避する。
「チッ、そう言う事か?」
キバの行動と先ほどの一瞬の視線の交差でキバの狙いに気付いた荒垣は、召喚器を自分の額へと突きつける。
現れるは奇しくも明彦のペルソナ『ポリデュークス』の兄であるギリシア神話の英雄の名を持つ騎馬を駆るペルソナ『カストール』。
明彦と荒垣…二人の関係を考えれば、双子座となったとされる兄弟関係にある英雄の名を持つペルソナを互いに手にした事は決して単なる偶然ではないだろう。
…序に間違いなく今考える事ではないだろうが、死と眠りの双子の神の仮面(ペルソナ)を宿した敵同士である赤の他人である筈の二人の間にある関係は何なのか? そんな疑問も沸くがそれは置いておこう。
荒垣は、キバの、奏夜の狙い通り、キバの作った隙を逃さずに最大の一撃をハーミットへと放つ。
―ゴッドハンド!!!―
カストールの持つスキルの中で最強の破壊力を誇る一撃がキバヘと意識を向けていたハーミットの無防備な脇腹に当たるであろう部分へと突き刺さる。
寮の屋上…
「……どうやら、もう遅いみたい……。シャドウの反応は消えてしまった? …微かだけの残ってるの?」
「解るのかよ? 索敵タイプ…。だから前にオレ達の居場所を。」
「メーディアが教えてくれる…。私の友達…。」
用は済んだとばかりに彼女のペルソナ、メーディアの姿が掻き消える。
「…それよりどうして嘘なんて吐いたの? 理解できないわ…。」
「それは…キミだって…。」
平坦な声で告げられる抗議の言葉に思わず言葉を失ってしまうが、
「オレと仲良くしてたの…オレが“敵”だって分かって油断させるためだったんだよな…。」
そうチドリへと言い返す。
「そうだよな…。そうじゃなかったら、こんなオレなんかと…。」
「…それは。ッ!?」
チドリが順平の言葉に答えようとした瞬間、風の刃がチドリの立っていた場所を襲う。それに気付いた彼女はスカートを翻しながら後ろに跳ぶ事で回避する。そして、彼女の向けた視線の先には…。
「流石、風花! やっぱり心配だからって、ルキアで検索かけたら少し様子が変だって! こんなこったろうと思ったわ!」
「ゆかりっち!」
自身のペルソナ・イオに乗って空中で弓を構えているゆかりの姿があった。
「誰よ、あの女…。ゆかりっち?」
「…いや、誰って言われても…。」
此処までの過程を知らない者が聞けば修羅場と言える会話だろう。
「ん……どう言う関係だ?」
特に今までの状況がよく分からないゆかりが疑問の声を上げるが、それよりも早くチドリは召喚器を構える。
「おいで…メーディア。」
「させん!」
「桐条先輩!?」
引き金を引くよりも早く現れた美鶴が、それを阻止せんと振るった小剣がチドリの手から召喚器を弾く。乾いた音を立てて地面を転がる。
「………あ。メーディア。」
「チドリ…?」
美鶴の剣によって弾かれた事で、己の手の中から召喚器が消えた事に対して彼女は呆然とした声を上げる。
「いやああああああああああああああああ!!!」
チドリはそのまま涙を浮かべながら悲鳴を上げる。
「メーディアアアアアアアアアアア!!!」
己のペルソナの名を叫びながら。
倒されたハーミットから『隠者』のアルカナを象徴する仮面が落ち、それはシャドウの残照とも言うべき黒い泥を引き連れて乾の横を通り過ぎてクラブの外へと逃げていく。
(こいつだ…。)
それに気付く事無く暗い憎悪に染まった瞳を、ハーミットを倒した荒垣の背中へと向けていた。
(こいつが。)
今までとは違ってその日の光景が鮮明に浮かび上がる。それは、鍵で閉ざされていた記憶が封を破られた様に思い出される光景の中、微かな影でしかなかった馬の怪物の様なシャドウが荒垣のペルソナ『カストール』に、カストールの元でS.E.E.Sの制服を着て絶叫するかつての荒垣の後姿が。
(母さんを、殺したんだ…。)
影時間と、シャドウと、抽象的な物でしかなかった母の敵がハッキリとした形となって目の前に存在している。
(…憎い。憎い。憎い! 憎い!! 僕は、こいつが…。)
―許せない!!!―
世界を救う、影時間を無くす。そんな目的など彼の中には既に消えていた。いや、初めからそんな物はどうでも良かったのかもしれない。
こうして、最も出会いたかった“敵”に、最も会いたかった相手に出会えたのだから。
彼の心に浮かんでいるのは、出会えた事への感謝だろうか、それとも…。
『気を付けて! 敵の反応、弱ってるけど、まだ残ってます! そこから移動して…キャア!』
突然風花からの通信が入り、悲鳴と共に途切れる。
(しまった!? 他の皆が間に合わなかったのか!?)
ある意味、今まで恐れていた事態が起こってしまった。その事に対して自分の正体を隠している為、心の中で自分の迂闊さを罵りながらキバもまた乾の隣を通ってクラブから飛び出していく。
少年と少女の物語は新たな幕を向かえ、
少年は母の敵を見つけた。
それがその満月の夜の『メイン』の舞台。だが、今宵の満月の夜の舞台はまだエピローグを残している。
舞台の幕を彩るのは少女を襲う影と魔王の死闘。