「敵反応の消滅…ううん、違う」
中央の噴水で仲間達にハーミットが撃破された事を伝えていた風花は、まだ完全にシャドウの反応が消滅していない事を気が付く。
そんな彼女の足元に黒い影がゆっくりと近づいていく。
「気を付けて! 敵の反応、弱ってるけど、まだ残ってます! そこから移動して…反応は…此処、キャア!」
風花が全員にそれを伝えた瞬間、隠者を示す仮面に引き上げられながら黒い泥の様な影、ハーミットの跡が姿を変えながら彼女を拘束する。
不運にも、奏夜達に乾が向かったハーミットの居場所を伝え、美鶴とゆかりの二人に寮に居る順平の元に向かって貰った後、残ったアイギスと明彦にも奏夜達の応援に向かって貰った事で、S.E.E.Sのメンバーの中で一番戦闘力が劣る風花が孤立してしまった結果を生んでしまった。
キバに変身した奏夜が向かってくれたのだから、安心は出来た。
だが、それでもハーミットの元に居るメンバーは、回復(ディア系)魔法が使えない荒垣とキバに変身している時はペルソナのスキルが一切使えない奏夜の二人だけ。
万が一無茶をした乾が致命傷を受けてしまっていたらと考えた結果、残った二人にも向かって貰ってしまった。
確かに彼女の不安は的中し、乾はハーミットの持つ最強の電撃攻撃を直撃させられてしまった。それを考えると風花の判断は間違っていないだろう。だが、結果として奏夜の考えている最悪の事態が現実の物となってしまったのだ。
風花を取り込む形でハーミットの黒い泥がファンガイアタイプの形を形作ろうとしている。
子供が作ったディフォルメされた人型は刃の様な鋭さを持ったパーツを持った鮫をイメージさせる体に変わる。
シャークファンガイアの姿に変わった黒い泥の人型にゆっくりと隠者の仮面が近づいていく。
「風花さん!」
「紅くん!」
風花の体の半分がファンガイアタイプに取り込まれた形で、ファンガイアタイプが誕生しようとした瞬間、キバがそこに辿り着く。急いで風花を助けようと手を伸ばすが、
「っ!?」
その瞬間伸ばした手を引いて横に跳ぶと、先ほどまでキバが立っていた場所を三日月状の傷跡が出来ていた。
風花の捕らえた腕とは逆の腕を振ったシャドウの仮面を得、色彩を得たファンガイアタイプ、『シャークファンガイアタイプ』がキバへと腕を向けていた。
「くっ! 間に合わなかったか」
「チッ! 人質とはやってくれるぜ!」
シャークファンガイアタイプへとそんな言葉をかけるが、当のシャークファンガイアタイプは片腕をキバへと向け、
―ハイアナライズ―
「っ!?」
背後の風花のペルソナを出現させ、彼女のスキルをキバへと使っていた。
「嘘、どうして!?」
「何を…?」
「分からねぇけど、先ずはアイツの動きを止めないと、フーカちゃんを助けられそうも無いぜ!」
「そうだね」
独特のファイティングポーズを取り、キバはシャークファンガイアタイプへと向かっていく。相手が何のつもりで風花を襲ったのかは分からない。だが少なくとも、これで風花を盾にしている半身への攻撃が完全に不可能になってしまった。
キバはシャークファンガイアの横…丁度風花を捕らえている方へと跳ぶと、素早く風花へと手を伸ばす。だが、
「ぐっ!」
シャークファンガイアタイプは風花を捕らえていた手を離し、そのままキバを一瞥もせずに片腕からキバへと向かって、シャークファンガイアの持っていた攻撃能力のブーメラン状の切断光を放っていた。
切断光の直撃を受けてキバの動きが止まるとシャークファンガイアタイプはキバへと向き直り、片腕を翳すと、
―最高位電撃魔法(マハジオダイン)―
キバへと特殊な物を除けば存在している最強の電撃魔法を放つ。
「っ!? うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」
幸運にも…と言うよりも当然ながらハーミット対策の為に電撃が弱点となるペルソナは着けていなかった。それどころか、着けているのは電撃(ジオ系)を完全に防ぐ事の出来るドッガのペルソナのはず。キバに変身していても身体能力の強化と魔法への耐性だけは残るはずだというのに…。
「そんな、電撃のダメージが…」
「効いただって!?」
キバには最高位電撃魔法(マハジオダイン)のダメージが、倍増されてこそ居ないものの、一切軽減されていないダメージが確実に有った。
「そんな、私のルキアにはそんな事出来ないはずなのに…」
「だとしたら…さっきの攻撃か?」
風花の言葉にそんな考えを浮かべる。風花を助けようとした時に受けた切断光が、キバ(奏夜)から電撃耐性を奪った原因と考えるのは当然だろう。
「ちょっと待った! あの攻撃はあの姿の元になったファンガイアの元々の能力のはずだぜ。って事は…ペルソナの耐性を奪うスキルをファンガイアの元々の能力に乗せたって訳か!?」
「…最悪だね…」
ファンガイアの能力とスキルの同時使用。シャドウも進化していると言う事になるが、それに対して自分はペルソナとキバの力は同時には使えない。
今までは十分過ぎるほどに圧倒できていた完全に追い抜かれた。…そこまで行かないとしても、それに近い状況といえるだろう。しかも、相手には風花を人質に取られているのだ。
(それに、さっきの攻撃…ぼくの動きが分かっていた様に…。まさか、さっきのアナライズは!?)
風花のスキルを利用して相手の動きと能力を完全に理解する。それが、シャークファンガイアタイプの狙いだったのだろう。
それが偶然かどうかは分からないが、能力と動きを知るレーダーと敵に対する最高の盾。その為にシャークファンガイアタイプは風花を狙ったと言う事だ。
電撃のダメージとそれが通った事への驚愕で動きを止めてしまっていたキバへと、シャークファンガイアタイプは追撃となる切断光を放つ。
「くっ!」
―高位電撃魔法(ジオダイン)―
切断光を避けた瞬間、シャークファンガイアタイプから放たれた高位電撃魔法(ジオダイン)がキバの避けた先へと放たれる。
「ぐっ!」
それを直撃する寸前で身を捻って避ける。だが、微かに避け損なったキバの右腕を電撃が焼く。
キバはそのまま地面を蹴ってシャークファンガイアタイプへと向かって走る。先ずは最初の予定通りシャークファンガイアタイプへと攻撃を仕掛けて動きを止め、風花を助ける。下手なフォームチェンジするよりも、その目的の為には基本フォームのキバフォームが一番有効だろう。
シャークファンガイアタイプの正面からフェイントを混ぜた動きで横に跳び、そのまま後ろからストレートを放つ。
「キャア!」
そんなキバの動きを知っているかの様にシャークファンガイアタイプは風花を捕らえている側をキバへと向ける。寸前に拳を止める事は出来たが、
「紅くん、逃げて!」
「っ!?」
敵の目の前で動きを止めていると言う隙を敵が見逃してくれる訳も無く、その隙を逃さずにシャークファンガイアタイプはキバへと切断光を放つ。
「ガァ…!」
切断こそされていないが至近距離からの切断光の直撃は、キバの鎧の上からでも奏夜の体へとダメージを与える。
そんなキバへと蹴りを放ち、シャークファンガイアタイプはそのままキバから距離を取る様に離れる。
切断光や電撃魔法では確実にキバを倒す事は出来ないと判断し、キバを倒す大技を放つ距離を取る為だろう。
「っ!? 待て!」
慌ててシャークファンガイアタイプを追いかけるが、出遅れてしまった分距離を詰めるのは難しい。だが、幸いにも風花を抱えている分シャークファンガイアタイプのスピードはキバに比べて落ちている様子だ。
牽制の為に放ってくる電撃魔法(ジオ)を避けながら、少しずつだがシャークファンガイアタイプとの距離を詰めていく。
そんな追いかけっこを続けてモールを出て近くの駅の広場まで辿り着くと、キバと風花を捕らえたシャークファンガイアタイプは再び対峙する。
「厄介だな、こっちの動きは全部読まれちまう!」
「そうだね、風花さんを盾にされたら攻撃できないし、助けようとしてもそれより早くあの攻撃で…」
自分達の狙いを知られている以上、攻撃を仕掛ければ相手が風花を盾にする為に動いたり、風花を助けようとすれば助けようとするキバを攻撃する方が早い。
しかも、悪い事に切断光の破壊力も無視して風花を助ける為に動けるほど低く無い。連続で受けたらドッガフォームでも危険かもしれないのだ。
せめて電撃耐性が生きていてくれればある程度相手の攻撃は無視して戦えるのだが…。
(…流石に耐性の消滅が永続的に…って考えるのは無理が有るけど、それでも何時回復するのかは分からない…)
流石に永続的にペルソナの耐性を奪う物ではないと推測するが、それが戦闘中に回復するとは考え辛い。
そう判断して、己の中の玉座に座す者を耐性を失ったドッガからガルルのペルソナへと入れ替える。それによってガルルフォームへのフォームチェンジほどではないが、キバの俊敏性が上昇する。
ペルソナチェンジによる能力の変化、それによって反撃の糸口を掴めないかと考え、シャークファンガイアタイプを見据える。
―ハイアナライズ―
再びシャークファンガイアタイプは風花のスキルでキバの能力をスキャンする。
(力が足りない…)
彼女を助ける為には今のキバの力では足りない、そう直感する。
(私のせいだ…私が紅くんの足を引っ張っちゃってる…)
現状を鑑みてそう思ってしまう風花。シャークファンガイアタイプを振り払う事も出来ず、敵に自分の力を利用されて奏夜の足を引っ張っていると言う事実が風花の心に重く圧し掛かる。
―最高位電撃魔法(マハジオダイン)―
シャークファンガイアタイプはキバへと向かって最高位電撃魔法(マハジオダイン)を放つが、キバは電撃の雨の中を潜り抜けてシャークファンガイアタイプとの距離を詰めようとする。
『紅くん、聞こえますか?』
「風花さん!?」
今までの通信の様にキバの耳に風花の声が聞こえてくる。
『良かった。他の皆へは無理だけど、紅くんには繋がるみたい』
「逃げられそう?」
『ダメ、私じゃ無理みたい。…紅くん、私毎このファンガイアタイプを倒せる?』
「っ!? 何を!?」
その言葉にシャークファンガイアタイプと戦いながら風花と会話を交わしていたキバの動きが止まる。
『だって、このままじゃ二人とも…』
「…。」
風花の言うとおりだ。このままでは全滅の危険さえ有りえる。それほど、目の前に居るシャークファンガイアタイプは厄介だ。
「…そんな事、出来る訳が…」
『でも…』
素早くガルルからドッガへとペルソナを変えて切断光を正面から防御する。
「ぼくを信じて…。絶対に君も助けて…こいつも倒す…から」
「紅くん…」
―ギガスパーク―
「うわぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
切断光を正面から受けた時の隙を逃さず、シャークファンガイアタイプはハーミットの頃の最強の電撃スキルを放つ。全身を電撃に焼かれ悲鳴を上げるが、何とか倒れる事だけは免れていた。だが、
「ガハァ!!!」
そんなキバへとシャークファンガイアタイプは容赦なく切断光を連続で浴びせる。
(…ダメだ…。このままじゃ…)
自分の不利を悟りながらも、必死にシャークファンガイアタイプを倒して風花を助ける方法を模索する。そんな中で何度目かになる切断光の直撃を受けて倒れそうになる。
(まだだ…まだ、倒れる訳には…。…負けられないんだ…)
そんな時、何かがキバの背中を支えてくれている様な感覚を覚える。
(何だ…?)
『頑張って、負けちゃダメだ』
聞き覚えのある温かい声。
『この力は今が使う時だよ』
それはボロボロになった奏夜が見た幻覚だったのか? 後ろを振り向いた瞬間、一瞬だけ…キバの目には金色の影が映った。その瞬間、金色の光がキバの元に現れる。
「ビューンビューン! 久しぶりですね、奏夜さーん!」
「え?」
金色の小さな子竜…それはキバの力を解放する為の最後の鍵、
「「タツロット!?」」
「はいは~い! 完全復活ですよー! それじゃ、行きますよー!!!」
タツロットによってキバの鎧の封印の鎖が開放される。そして、足のヘルズゲートが胸に移り、キバの腕にタツロットが装着され、背中には真紅のマントが現れ、金色の姿へと変わる。
「…綺麗…」
呆然とした声でキバを見ていた風花の言葉が零れる。
それは、王の風格を与える金色の鎧を身に纏った皇帝。
仮面ライダーキバの持つ最強にして、真の姿、『仮面ライダーキバ・エンペラーフォーム』!!!
キバEF(エンペラーフォーム)の持つ力、威圧感に圧倒されているのか、動きを止めていたシャークファンガイアタイプに近づき、キバEF(エンペラーフォーム)はその拳をシャークファンガイアタイプへと叩き込みながら、
「キャア!」
軽い悲鳴と共に風花の腕を掴み、キバEF(エンペラーフォーム)はシャークファンガイアタイプの体を弾き飛ばすと同時に風花の体を引き寄せ、そのまま回し蹴りをシャークファンガイアタイプへと放つ。
「っ!?」
「これで…終わりだ…」
助けた風花を離し、キバEFは静かに宣言し、タツロットのスロット部分を回転させる。揃った絵柄は、
「ウェイクアップ、フィーバー!!!」
キバEFはシャークファンガイアタイプへとキバフォームの必殺技・ダークネスムーンブレイクの強化版の必殺技、
『EMPEROR MOON BREAK!!!』
両足に赤いキバの紋章を模したエネルギーを纏った両足での飛び蹴り『エンペラームーンブレイク』を撃ち込む。
飛び蹴りが直撃した瞬間両足から伸びたキバの紋章がシャークファンガイアタイプの体を切り裂く。キバEF(エンペラーフォーム)の両足から叩きつけられたキバの紋章がシャークファンガイアタイプを吹き飛ばし、そのままキバの紋を上空に浮かべシャークファンガイアタイプは爆散する。
「えっと…敵シャドウの反応、消滅しました」
風花の言葉と共にその夜の演目は終焉を迎えた。