ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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第五十夜

紅亭での奏夜の父で有る渡の仲間の一人で仮面ライダーイクサだった男『名護 啓介』との会合を終えた奏夜と風花の寮への帰り道…

「ねえ、奏夜くん、学園祭の予定って何か有る?」

「うん、剣道部は兎も角、同好会の方で出し物が有って参加するけど…」

いつの間にか、『紅くん』から『奏夜くん』に変わっている風花からの呼び名に対して気にはなったが、彼女からの質問にそう答える。

「だけど、ここからまた大変になるんだよね。一応、生徒会にも入っているし」

「でも、大変だよね、剣道部に管弦楽部に、ファッション同好会に生徒会にまで所属してるなんて」

改めて考えてみると、生徒会に始まり剣道部、管弦楽部、同好会と奏夜は既に学園の中で四つもかけ持ちしているのだから、学園祭の時期は忙しくなる。

思い出してみれば、先日部活の弓道部で『メイド喫茶』をやる事になったゆかりが、

『何で私がメイド服なの!? つーか、メイド服自体有り得ないでしょ!?』

と言っていたのを思い出した。まあ、身近なところで常時メイド服を着用しているシルフィーが居るのだから、奏夜にとっては珍しくない気もするが…。

「岳羽さんだけじゃなくて、他の部活も大変そうだしね。多分、ぼくは剣道部と同好会の掛け持ちになりそうだけど…」

「確か、ゆかりちゃん、くじ引きで負けちゃったんだって…」

「そう言えば、そんな事も言ってたっけ」

その事を思い出して風花と一緒に苦笑してしまう。当のゆかりは『人生最大の赤っ恥だ』と吼えていたのだが、そうなるとシルフィーはどうなるのかと言う疑問も沸いてくる。

その辺は認識の違いと言う事だろう…。シルフィーが身近に居る為に奏夜の感覚が麻痺しているのかもしれないが。

「…………やっぱり無理かな」

「どうしたの?」

風花が奏夜を見ながら残念そうに呟いた事に気付き、奏夜はそう問いかける。

「あのね、実は管弦楽部でステージ発表する事に決まったんだけど、奏夜くんにも出て欲しくて」

「うーん、ぼくも出来れば出てみたいんだけど、最近顔を出せずに居たし…合同練習とかには…」

最近は剣道部の大会、ファッション同好会での学園祭への準備、生徒会の活動と、色々と忙しく管弦楽部には顔を出せずに居た。その為に管弦楽部の事は全く知らなかった。

「ホント? 時間は二曲演奏できる位有るから、もう一曲ソロでの発表もやろうって事になったんだけど、誰も立候補しなくて…」

「あはは…;」

「それで、奏夜くんにやってもらいたいのは、ソロの方だから練習もし易いと思うけど」

間違いなく誰も立候補しなかった理由は奏夜に有るだろう。それに昔から暇さえあればヴァイオリンは弾いているので単独での演奏は技術的には問題は無いだろう。

「そう言う事なら、喜んで参加させて貰おうかな」

そう快く引き受けた。

さて、その日の夜、寮では美鶴によって一回のロビーにS.E.E.Sのメンバーの非常招集が行われた。

何事かと思って集まるが、何故か其処には幾月の姿は無く、全員の姿が見渡せる位置に美鶴が深刻な表情で座っていた。

「全員、集まったか」

「はい。それで、何か有ったんですか? 理事長の姿も見えないですけど」

「その事なんだが、実は…………………今度の学園祭で我々、特別課外活動部も発表をする事になった」

美鶴がその事を呟いた瞬間、時が凍りついた。

「「「「「「「はあ!?」」」」」」」

脳が美鶴の言葉を直ぐに理解で傷、再起動した瞬間、全員が声を揃えてそう叫ぶ。当然だろう、この部活『S.E.E.S』の活動は飽く迄非公式な物、そんな物が表の部活動に混ざって発表など出来る訳は…。

「あ、あの、桐条先輩。この部活って学園非公式のはずですよね。何でそんな事になったんですか!?」

「実は理事長が…」

突然すぎる事態に頭を抱えながら問いかける奏夜に答える美鶴の言葉に全員の脳裏に『折角の学園祭だからね~、君達も何か発表しようじゃないか』と言っている姿が浮かぶ。全員の意思が一つになった瞬間だった……『お前の仕業か!?』と。

「理事長は私が責任を持って“処刑”しておいた」

「桐条先輩、ぼくにも声をかけてください。言って貰えればぼくも手を貸したのに…」

「そうか。それはすまなかった。次は必ず連絡しよう。だが、流石に時間を貰った以上、何もしない訳には行かない。問題は何を発表するかだが…学園祭での予定は…」

何気に次回の理事長の危機をかんじさせる危険な会話を混ぜつつ、美鶴は話を進める。

「ファッション同好会と管弦楽部に、あと、生徒会。もしかしたら、剣道部で何かやるかも知れません」

「私も管弦楽部で」

最初に発言する奏夜と風花。

「オレもボクシング部で」

「私も……不本意ながら、弓道部でメイド喫茶」

次いでの発言は明彦とゆかり。

「私も生徒会の用事で手が離せない。それに各自学園祭で予定が有るだろうが、やるからには全力を尽くしたい」

真剣な表情で告げられる美鶴の言葉に対して、その場に居る全員がコメントに迷う表情を浮かべてしまう。

…真面目なのか、何気にその状況を楽しんでいるのか…。多分、前者である可能性が高い。

「そこでだ。今回の『学園祭特別ミッション』でのリーダーを決めたいのだが、学園祭の期間中で手が空いているのは……」

その瞬間、全員の視線が小学生で有る乾を除いた、順平とアイギス、荒垣の三人に集まり、

「よっしゃー! オレっちがリーダー♪」

それが確定してしまった。アイギスも荒垣も自分からリーダーをやるタイプでは無く、この場合は順平一択しかない。

「それで、順平。あんた、何かアイディアがあるの?」

「学園祭で発表って言ってもぼくと山岸さんは管弦楽部の発表が有るから、出れない可能性も…」

「へへっ、任せてくれって、紅、ゆかりっチ」

自信満々にそう言う順平に対して、物凄い不安に襲われるが、残念ながら手の空いている者の中で今回のミッションでリーダーが出来そうな者は居ない。

「その前に、リーダーの言う事は?」

「「絶対?」」

順平の言葉に彼が期待している言葉を予測した奏夜とゆかりの二人が声を揃えて返す。もっとも、疑問系なのは違って欲しいと言う意識が込められていたと思われる。当の順平は満足出来た返事に気を良くしながら、

「へへっ、みんな部活や生徒会の出し物で忙しくて当日出れないなら、当日何人居なくても発表できる物にすれば良いって考えた訳よ」

そう言って順平が提案したのは、S.E.E.Sのメンバーによる『自主制作映画』だった。

「確かに、学園祭までの放課後や早朝、休日の時間を利用して撮影すれば良いんだろうし、当日誰かが都合悪くなっても映像を流すだけで良いんだろうけど…」

そう、失礼ながら映画を撮影すると言う順平のアイディアは悪くない。運動部と文化部、同好会に生徒会まで入って忙しい奏夜としては特に助かる。だが、此処で一つ問題が有るのを忘れてはいけない。

「映画撮影は良いけど、編集とかの技術は、それに撮影の許可とかは…」

「それなら大丈夫だ、全面的に協力しよう」

「あっ、パソコンを使った作業なら私もお手伝いできます」

奏夜の言葉に答えるのは美鶴と風花…。

「えっと、順平…」

「どうした、紅?」

「…学園祭までそれほど時間無いのに、映画を撮るって言っても肝心のシナリオはどうするの?」

「そりゃ、皆で簡単なダイジェストを考えて台詞やアクションはアドリブでどうだ?」

…要するに全員でアイディアを出して大まかな流れだけを決めて、後は行き当たりばったりで撮影すると言う事だ。確かに細かい物を考えている暇は無いので仕方ないと言えば仕方ないが。

「んじゃ、学園祭まであんまり時間も無いし、締め切りは明日の同じ時間で皆でどんな物にするか考えるって来るって事で」

アイディアは確かに悪くないが………色々と問題だけしか無い様な気がする。時間が無いとはいえ、行き当たりばったりの映画撮影と言う時点で不安は山盛りだ…それがマトモな物になれば良いが…。

学園祭対策係のリーダーになった順平の言葉でその場は締められ、その日は解散と言う事になった。妙に順平が楽しそうな笑みを浮かべていたのには気になるが…。

「…ってな事になったんだけど…」

「なあ、そいつ…あの姉ちゃんに“処刑”される前の理事長から聞いてたんじゃねぇのか?」

キバットの言葉に奏夜は引きつった表情で一時思考停止してしまう。

「えーと、もしそうだとしたら…」

あらかじめ何をするか考えている可能性も有る。あの自主制作映画のアイディアも、前から考えていたのだろう。

「…まあ問題は無いか…。有るとすれば…」

「シナリオだな」

はっきり言ってどんな物をやらされるか不安材料しか存在しない。

其処まで考えた後、一時の沈黙…そして、無言のまま予備で用意していた新品のノートを取り出してそれを開く。

さて、シナリオの発表日で有る翌日の放課後…寮のロビーでは、

「んじゃ、早速考えてきたシナリオの発表行って見ようか」

上機嫌でそう言う順平だが、手が上がる者は誰も居なかったりする。

「で、あんたは何か考えてきたの?」

「モチロン! ほら、オレッちリーダーだろ。やっぱ、こう言う時は率先しないとね」

そう言ってシナリオが書かれたノートを差し出す順平。

「…伊織?」

「へへ、どうすか、いいアイディアでしょ、桐条先輩」

順平のアイディアはS.E.E.Sの活動を映画化した物。勿論、映画の中で名前は変えているが…。

「…なんでシル…春花さんの名前まで?」

「んだよ、オレ達だけじゃ役者足りないだろ? そこでだ、自主制作映画の協力って事でお前の方から一つ、頼めないか?」

「うん、まあそう言う事なら…少しは協力させてもら…う゛!?」

順平のノートを捲っていく過程で思わず声が裏返ってしまう。

「…順平…?」

「おう、どうだ? オレっちの考えたアイディア、悪くないだろ?」

「そうだね…ぼく達の戦いをベースにしたいいシナリオだとは思うよ。活動報告も兼ねてるね…内容は映画と言えば映画らしいから、フィクションって言い張れるし…。でもさ…これ何?」

そう、順平の考えた映画は奏夜達のシャドウとの戦いをベースに良く出来ている。

街中に現れて人を飲み込む迷宮『タルタロス』と其処に潜むタルタロスを作り出す謎の敵『シャドウ』と、それと戦う為の力『ペルソナ』に目覚めた少年少女達と彼等を集めS.E.E.Sを結成した学園の理事長(演者・美鶴)

と、自分達の戦いをベースにしながら結構良く出来たストーリーだ。絶対に処刑前に理事長から聞いたのだろう。

奏夜が驚いたのはその先だ。

「順平…君さ…ぼくの事、そう言う目で見てたんだ? へー、ふーん」

「あ、あれ? オレッち何か、地雷踏んじゃった?」

笑顔を浮べているが目だけが笑っていない黒い笑顔で告げる奏夜と、自分の失敗を悟る順平。

実行部隊のリーダーで有りながらシャドウを陰で操る悪の黒幕役(演者・奏夜)と、主人公の新人隊員(演者・順平)と有ったり。

「そうだな、確かにオレも言いたい事が有るな」

「奇遇だな、オレもだ」

明彦と荒垣にも妙に殺気の篭った目で睨まれる順平。

ストーリーを説明するオープニングの部分の最後で命を落とす先代リーダー(演者・荒垣)や、中盤で行方不明にシャドウに倒される元メンバーの教師(演者・明彦)だったり、

そりゃ、勝手に黒幕や死亡者役にされれば頭にも来るだろう。

「ちょ、ちょっと、奏夜くん、落ち着いて!」

「真田先輩も荒垣さんも落ち着いてください!」

必死でダークな笑顔を浮べている奏夜を宥めている特に変わらない役柄の風花とゆかりの二人。

「そうだな、私も色々と言いたい事は有るが、他にアイディアは無いんだ。諦めて演じるしかない…だろう」

「そ、そうっすよね、桐条先輩」

「だがな、伊織。…学園祭の後で何故この様な配役にしたか説明して貰うぞ…じっくりとな」

穏やかな声が寧ろ逆に恐ろしい、最年長の役回りを任された美鶴。既に自分の未来を創造してしまって真っ白になって冷や汗を流す何気に自分を主人公にした順平。

「…ああ、ちゃんと声をかけておくよ、順平」

「そ、そうか、サンキュー、紅。楽しみだな、あの美人のお姉さんと…」

「次狼さんと力さんに」

奏夜の言葉に凍りつく思いの順平だった。シルフィーこと春花の役回りが急に屈強な大男二人と入れ替わったのだからダメージは大きい。少なくとも、屋久島への旅行で力とは面識が有っても留守番をしていた次狼とは面識は無いのだが…。

「く、紅…?」

「…黒幕らしくしないとね…。演技とかってアドリブで行くんでしょ?」

頭に#マークを貼り付けながら、クスクスと黒い笑みを浮かべる奏夜君でした。こうして、順平の恐怖の未来が確定した学園祭での自主制作映画のシナリオの発表会の夜は更けていくのだった。

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