ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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第五十二夜

それは、奏夜と荒垣がS.E.E.S(特別課外活動部)に復帰した後の時期…丁度シャークファンガイアタイプを倒した後日の事だ。

キャッスルドランから持ってきた荷物を部屋に置いて、ラウンジに行くと一人で居る乾の姿を見かけて声をかける。

「どうしたの、そんなにぼーっとして」

「あ、紅さん…」

表面に見える…見せている感情は変わっていないだろうが、乾の心の中に浮かぶメロディーは、どこか禍々しさと背筋が寒くなる音色を奏でていた。

そんな心の音楽が聞こえてくる事を相手に気取らせない様に、奏夜は乾にそう声をかける。

誰かがラウンジで一人で居る事は別に珍しい事ではないが、乾の様に呆けているのは珍しい。

「あの人、荒垣さんとおっしゃるんでしたっけ?」

「うん。見た目は怖いかもしれないけど、凄く頼りになるいい人だよ」

何気なく言った言葉。少なくとも、荒垣の心の音楽はとても綺麗な音楽を奏でていた。だからこそ、確信を持ってそう言い切れる。だが、それに対する乾の反応は、予想よりも遥かに異なっていた。

「……そうは思えません」

「え?」

「あの人、溜り場の不良なんでしょう? マトモな良い人が、あんな場所で生活してる筈がありません」

大人びた子供と言うのが乾の印象だが、彼のその台詞からは違和感を感じられる。どちらかと言うと子供特有の偏った思考を持たない彼にしては、明らかに偏見と言うのに相応しい言葉。

「あのさ、人を勝手な思い込みだけで判断するのは良くないよ。実際に色々と経験した上でそう思うなら仕方ないけど…それはタダの侮辱だよ」

「すみません」

人は様々な背景を、事情を持って生きている。奏夜や次狼達もそうだ。

だからこそ、その一部分だけを捉えて、その人間の全てを否定するのは許容できる事じゃない。

奏夜の言葉に乾は素直に謝罪する。

だが、奏夜は乾の心から感じた音楽へ、意識をも向けておくべきだった。……初めて彼と出会った時、その時から感じていた音楽だった為に気にならなかったのかもしれない。

もっと早く気付くべきだった。…未来から来たもう一人の自分、“奏”の忠告の最初の答へと繋がる疑問に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後の帰り道…モノレールの中…

(…なんだか、今日は疲れたな…)

流石に通常の授業に加えて同好会の出し物の準備と合間を縫ってのS.E.E.Sでの映画撮影、剣道部での出し物の話し合い。

流石に一日でする事は多すぎた。しかも、最後の話し合いが長引いたせいで一緒に帰ろうと約束していた風花には謝って先に帰ってもらったが。

耳に聞こえてくるクラシック音楽は相変わらず心地よく、疲れからか自然と瞼も重くなり、『睡眠』と言う欲求に抗う事も難しくなっていく。

(…眠い…)

眠りに堕ちそうになった時、丁度何時も降りている寮の近くの駅に着いたと言う放送が聞こえた。眠気を振り払う様に頭を振って立ち上がると、モノレールを降りる。

(…寮に帰ったら一度顔を洗った方が良いかな…? 下手に寝たら夕飯の時間が過ぎそうだし…)

夕食に関しては時間によっては最悪は巌戸台駅の近くの商店街にでも行けばラーメン屋の『鍋島ラーメン はがくれ』や牛丼屋の『海牛』等食事が出来る店は多い。だが、万が一、風花に見付かってしまうと…。

(…うん、命が危ない…)

屋久島でも皆で作ったカレーの一件から危険を感じた事で風花の料理の特訓には付き合っている。だが、奏夜が強く言えないのが原因なのか、まだ油断をすると危険なレベルからは逃れていない。

しかも、少しずつ上達しているのが、返って危険だ。世の中、自称中級者が一番危険だと言うが…まったくだ。

(…寮に帰って夕飯の時間に間に合わないのは………命に関わる)

物凄く失礼な言い草だが、何気に風花はオフィシャルで『料理の姿をした兵器』と言う評価を下されている。仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。

…………料理特訓の度に料理の姿をした兵器と命懸けで戦っている奏夜の姿は正に仮面ライダーの名に相応しい………かもしれない。

『ごめん、物凄く要らない評価なんだけど。by.奏夜』

そんな訳で疲れて眠いからと言って下手に寝るわけには行かない。

「あれ?」

寮への途中で奏夜は見慣れた風花の後姿を見かける。先に帰ったはずなのだが、まだ鞄を持っている事から今寮に帰る所なのだろう。

間違いなく映画の撮影とは関係ないのは分かっているし、第一撮影ならばカメラが近くに有るはずだ。

「風花さん、今帰り」

そう考えて奏夜は風花の肩を軽く叩いて呼び止める。

「キャッ」

それに驚いたのか風花は小さな悲鳴を上げて後ろを振り返る。

「く、紅くん!? もう、驚かさないで!」

「ごめん、まさかそんなに驚くとは思わなくて」

そう軽く言葉を交わすと目的地は同じために自然と二人は一緒に並んで帰ると言う図が展開される。

奏夜はふと隣を歩く風花へと視線を向けると、彼女の表情は何処か落ち込んでいる様にも見える。

それだけではない、彼女の心から聞こえてくる音楽も何処か暗い物が混ざっている。別に不協和音は嫌いでは無いが、それでも優しく温かい音色を奏でている彼女の心の音楽の中にあると、違和感しか感じられない物だ。

思わずその事を聞くべきかと迷うが…。

(まだ聞かない方が良いかもな)

以前の風花だったら『それとなく聞いた方が良いだろう』とも考えただろうが、今の風花は良い意味で変わっている。自分も少しは信頼されているだろうし、仲間も居るし友達もいる。下手に聞くよりも少しだけ様子を見てからの方がいいと考えた結果である。

さて、今夜の撮影は最終決戦の時…

「おい、ちょっと待て紅!!!」

「何?」

「何? じゃねぇよ!? 何でアイギスだけじゃなくて真田先輩がイクサに変身してんだよ!?」

「そうは言ってもね…。流石にラスボスの側近がアイギスだけって言うのも………面白くないからね」

寮の地下に用意された訓練用のスペース。そこに立つ………やる気満々でイクサに変身して素振りをしている明彦の姿を見て絶叫する順平だった。

「二人とも、今夜の撮影はアイギスと真田先輩の二人がメインだからね。台詞は無いけど頑張ろう」

「明彦、私達の分まで頑張ってくれ」

「頑張るであります」

「任せておけ」

奏夜と美鶴の激励にやる気を見せる明彦イクサとアイギス。後ろには影時間verの満月の背景にした玉座と言うべきな立派な椅子が用意されていたりする。

…どちらがイクサを使ってラスボス前の前哨戦の相手になるのか、三人でのジャンケンで決定したのが明彦だった。

なお、最初に負けた荒垣は夕食当番と言う事もあり、撮影している間に夕飯の用意をしてくれている。

「それでは、撮影開始だ!」

文句が有りそうな順平を放置しつつ、奏夜達が各々の配置に着くと何処からか持ってきた映画撮影でよく使われる物をカチンと鳴らして美鶴が撮影の開始を宣言する。

玉座に座しながらゆっくりと己の下へとたどり着いた順平、ゆかり、風花の三人を見下ろしながら口を開く。

「『よく此処まで来たね。…誉めて上げるよ』」

笑みを浮かべながら衣装である『キバ本編での渡の着ていたキングの服装』で奏夜はそう宣言する彼の左右には、奏夜の側近役のアイギスと明彦イクサの姿がある。二人は主に台詞はなく動きだけの演技だが。

「『だけど、此処で君達は終わりだ。………行け』」

そうそう奏夜が命じるままに順平達……主に順平に向かっていく側近役のアイギスと明彦イクサ。

「って、おわぁー!」

既に演技とかを忘れて明彦イクサの攻撃を必死に避けている順平。流石にイクサのパンチもアイギスの武器も考えればどちらも危険なのだが、

「行きます」

「ちょ、危なっ! 死ぬ! 死ぬって!」

足元にとは言え容赦なく順平へと襲い掛かる両腕の銃口から放たれる銃弾。

「はいカット! …順平、演技忘れてるよ」

「あの状況でそんなモン、出来るかぁ!」

涙目で奏夜の言葉に反論する順平。もっともな答だ。

「それなら大丈夫、全部BB弾とゴム弾に変えてあるから、アイギスにも顔を狙わない様に言って有るし」

「撮影用の安全使用であります」

「って、どこが安心なんだよ、それの!?」

「当たっても痛いだけなら…」

「BB弾は兎も角、ゴム弾の方は当たったら怪我するだろ、どう考えても!?」

「いや、少しは怪我する危険が有った方が演技にもリアリティが出るかと思って…」

さらりと恐ろしい事を言ってくれる奏夜だった。

「だったら何でオレが二人同時に相手しなきゃならないんだよ!」

「え? ぼくがラスボスだと…そのメンバーの中じゃ、前衛の順平が前に出て岳羽さんが後衛って言うのが…」

そう、前衛と後衛のどちらも出来る奏夜が居ない以上二年生チームの中で前線に出られるのは順平だけ。結果的に撮影で前衛二人を相手にするのは順平が確定しているわけだ。

「それじゃ、納得したところで撮影再開。あっ、アイギス、次は何も言わないでね、無言で戦うシーンだから」

「分かりました」

「準備は出来てるぞ」

「夕食までに終わらせるからね」

『オー!』

「鬼ィー!!!」

順平を除く全員の声が重なると順平の悲鳴が響き渡るのだった。

さて、結局最終決戦前の前哨戦の戦闘シーンはその後食事休憩を挟んで一時間ほど掛かってやっと完了した。

「…終わった…良かった…生きてる…やっと、終わった」

「あのさ、順平」

奏夜は床に突っ伏して真っ白に燃え尽きている順平の肩を叩き、ある意味死刑宣告に等しい言葉を投げかける。

「なんだよ? オレは今危険な撮影を生きて切り抜けられた事を喜んでるんだから…」

「次は最終決戦じゃなかったっけ?」

奏夜の言葉に完全に凍結してしまう順平。模造品の剣を準備しながら奏夜が告げると。

「…マジで、今すぐ?」

「いや、この勢いでやった方がリアリティが有るからね…」

一応ストーリーの上では側近役の二人、アイギスと真田イクサに勝った後の連戦と言う設定だから、丁度良いと言えば丁度良いのだが…。

「私は全然元気なんだけど」

「私もだけど」

「そりゃ、二人は狙われなかったからね…。まあ、順平…そこは主人公の宿命として諦めて」

「酷っ!?」

「それに、今日の撮影が終われば最後のエンディングのシーンだけなんだから、早めに終わらせた方が良いとは思うけど」

「そ、そりゃ、そうだけどさ…紅」

「良し、それではサッサとやるとしようか」

「ちょっ、待って下さいよ桐条先輩!?」

「はいはい、ラストシーンはぼくと順平と一騎打ちって台本に有るんだから」

玉座にスタンバイする奏夜に、ラストバトルのシーンに出番のないゆかりと風花はカメラに映らない位置に移動する。

「1、2、3、アクション!」

美鶴の掛け声と共にカメラが動き出し撮影がスタートする。

「『まさか、最強のシャドウだった彼等を倒すなんて…。どうやら、ぼくが居なくなってから、想像以上に成長した様だ』」

「えっと、『へっ、当たり前だぜ、紅! オレ達を舐めんなよ』」

背中に羽織ったマントを翻しながら、奏夜は玉座から立ち上がり腰に刺してあった模造剣を持って模造刀を杖代わりにして膝立ちしている順平を見下ろしながら、ゆっくりと玉座から降りていく。

「『だけど、岳羽さんと風花はその代償に動けない。彼らは最低限の役割くらいは果たしてくれたようだ』」

マントを翻し、腰に挿してあった模造剣を引き抜き奏夜は順平へと突きつける。

「『さあ、君達に敗北と言う名の終末をあげよう。ぼく自身の手でね』」

そこで共に停止する奏夜と順平。

「……あのさ、順平。此処って君から切りかかって来るのをぼくが防ぐシーンなんだけど?」

「悪い、紅。もう少し休ませてくれ」

どうやら、当の順平は休憩していたようだ。

「いや、休みたかったらこのシーンの撮影を終わらせてよ」

「鬼か、お前は!?」

「いや、ラスボスだよ」

涙目で抗議する順平に対して黒い笑みを浮かべて答える奏夜。…完全に黒い、悪役モード入っている。

「ちくしょー、こうなりゃ、もう自棄だ!!!」

「あはは、それじゃ、始めようか。ぼく達の最終決戦を!」

そんな感じでラストバトルも撮影終了、あとはラストシーンだけなのだが。

「…此処までのシーンを編集してみたんだが…」

「…いや、主役ってオレでしょ」

エンディングシーンを撮影する前にこれまで撮影した物を編集したテープを試写会として全員で見ていたのだが、

「…どう見ても紅が主役だな…」

「いや、悪の黒幕でラスボスですよ、真田先輩」

「でも、順平君より演技が上手いから紅くんの方が主役に見えちゃうよね」

完全に主役である順平を奏夜が食っていた。そして、議論の結果…エンディングには奏夜のシーンも追加される事になった。

「でも、桐条先輩、ぼくって順平に倒されて死んじゃてるんじゃ…」

「それなら問題ない、山岸も一緒に出てもらえばな…」

「それって、幻or幽霊役ですよね…」

「ああ」

最初から台詞の無い新規追加の重要シーン。奏夜と風花は撮影予定の明日の夕方までに台詞を考える事となったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、その年の学園祭では不幸にも日の目を見ることなく終わってしまったこの映画が正式に日の目を見るのは、数年の後に行われたとある地方の大型デパートのイベントでの事であった。

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