「……えっと、順平………なんか、ゴメン」
「いや、良いんだよ…もう」
上映されているS.E.E.Sの自主制作映画を見ながら順平はorzな体制で項垂れている。なんかもう、すっかり、主人公としての立場は兎も角、主役の座はダークヒーローなラスボスの奏夜に盗られている事に対してはすっかり諦めていた。
…どうでも良いが桐条グループの全面バックアップの元で製作されたこの映画は明らかにも本格的なレベルだ。
(…映研とかに悪い気がするんだけど………物凄く)
流石に限られた技術と道具で頑張っている人達には心から悪いとは思うが、奏夜達は言ってみれば、完全な一回限りの舞台。だからこそ、こうして拘って見るのも悪くは無いだろう。………“スポンサーのバックアップの元”で。
「では、改めて明日の夕方学園で紅の追加シーンの撮影と、エンディングの山岸のシーンの撮影だな」
美鶴の号令に当人である奏夜と風花と、項垂れている順平の三人以外が同意の声を示していた。
「しかし。此方の方が使い易いな…これからはこれを使おう。…理事長の思いつきも無駄ではなかったな」
なお、今回の撮影で使った美鶴の新しい武器『突剣』。こうして実際に使って見た所、奏夜も愛用している片手剣よりも其方の方が使い易かった為だ。こうして、美鶴の専用武器が突剣となって、複数の武器が使える奏夜も片手剣が専用武器となった。
「…ううぅ…なんだか、恥ずかしい…」
「…それはぼくも同感」
風花の言葉に同意する奏夜。今更ながら、演技している時は特に何も感じなかったが、実際に撮影した映画を改めてみると妙に恥ずかしい物がある。
「はい」
「あっ、ありがとう」
「どういたしまして」
寮の中にある自動販売機から買ってきた缶ジュースを風花に差し出す。
「エンディングって何言えば良いんだろう…」
「…それはぼくも同感」
『ワンッ!』
奏夜と風花の二人がそんな事を考えているとロビーに居る一匹の犬、S.E.E.Sの最後のメンバー『コロマル』の鳴き声が響いた。
「あっ、コロちゃん」
「そう言えば、コロマルだけ仲間はずれになっちゃったね…あの映画」
コロマルを撫でながら奏夜は改めてそう思う。学園祭期間の前…残念ながら乾の参加した作戦には専用の召喚器が無かった為に不参加だったが。
「そう言えば。ゴメンね、コロちゃん」
…以前影時間の中でシャドウに襲われて怪我をした所を助けたのが、コロマルが影時間への適正、ペルソナ能力を持った“犬”だと分かった切欠だ。
ロボットであるアイギスの次は犬であるコロマル…本来は『虎狼丸』。どう考えても色んな意味で個性豊か……で済ませて良いのかどうかは疑問だが、それでも人間以外の人材(?)も揃っている時点で、人材豊かと言うべきだろう。…………人じゃないが。
「…折角S.E.E.S全員で撮った映画なんだから、コロマルや天田君にも参加して貰うんだったかな…戦闘シーンとかで」
「あはは…。流石にそれは順平君が可哀想だと思うな」
少なくとも、イクサ込みの先輩達とアイギスに加えて奏夜との一騎打ちと、どう考えても大変と言う言葉では語りきれない程の苦労を背負った順平にしてみれば、コロマルと乾まで敵役に加わったら流石に哀れすぎる。
コロマルを撫でる風花の横顔を眺めながら、奏夜はコロマルが仲間になった時の事を思い出す。
数日前…
「先日保護した犬……コロマルって名前だったよね? 彼が今日、ようやく退院出来たそうなんだ」
「本当ですか!? 良かった、コロちゃん……」
「良かったね、風花さん」
コロマルが入院したのは奏夜が離脱していた時に起こった事件だけに奏夜が知る事なかったが、何度かコロマルを心配する風花から話は聞いていた。
一番コロマルの事を気にかけていた風花が安堵の表情を浮かべる。そんな良いニュースに全員が顔を緩めていた時、玄関からノックの音が鳴る。
幾月が扉の方に向かい、ノックの主に対応すると、
「コロマル!?」
そこには真っ白な毛の柴犬、コロマルが居た。
「ワンッ!!!」
「先日は危ない所を助けて貰って感謝している。と、コロマルさんは言っているで有ります」
「行き成りお礼か……何て賢いワンコだ」
「ってか、アイギスって犬の言葉も分かるんだ…」
アイギスの翻訳に順平が呆れ気味に言う。奏夜はアイギスが犬語の翻訳が出来る事の方に驚いてはいるが。
「ワンッ!」
「奏夜さんに、始めましてよろしくお願いする。と言っている有ります」
「そっか、よろしくねコロマル」
そう言って指し出した手にコロマルが前足を乗せると握手をする様に軽く握る。これが奏夜とコロマルとの初対面だ。
コロマルは奏夜が時折立ち寄る長鳴神社の神主の飼い犬だったが、事故で飼い主を亡くした後は野良犬として過ごしていたらしい。神社に現れたシャドウとの戦闘でペルソナ能力を覚醒させて、それを撃退したらしい。
「けど理事長、どうしてコロちゃんを…?」
「彼にも適正があるようだったからね。身寄りも居ないようだし」
つまり、ペルソナ能力を覚醒させたコロマルをこの寮の飼い犬として引き取ってS.E.E.Sに入れると言う事だろう。だが、
(…犬って、良いのかな…?)
本気でそう考え込んでしまう奏夜だった。正に何でもあり。そんな様相を見せてきたこの部活の行く先に若干の不安を覚える奏夜だった。
「ワンワンッ!」
「自分も戦って、皆さんに恩返しがしたい。と言っているで有ります」
「コロマル……。義理堅い犬だね、アンタは」
そんな奏夜を他所に、コロマルはしっかりとやる気を見せている。ゆかりが頭を撫でると、気持ち良さそうに喉を鳴らした。
「本人……いや、本犬がそう言うなら断る理由はあるまい」
「そうだな。コイツの姿勢には漢を感じる。……オレも負けていられんな」
美鶴と明彦の二人が何一つ抵抗も無く、あっさりとコロマルの加入を認めていた。奏夜も別に犬だからと言う理由で反対する気は一切無い。………それは置いておいて、改めて思うのだが、
(…先輩達ってどこか抜けてる気がする…)
「これでまたしても頼もしい仲間が増えたね。素晴らしい、これこそ、“犬(ワン)ダフル”! なんてね。ワハハハハ!!!」
理事長の寒いギャグに凍りつく思いだった。
現在…
「コロマルも次の作戦の時には頑張って貰うよ」
ふとそんな事が口から出る。…コロマルのペルソナは『ケルベロス』。ギリシャ神話の冥界の神ハーデスに仕える冥界の番人とも言われる三つ首の魔獣、地獄の番犬として有名な神獣でもある。
犬繋がりの上に飼い主への忠誠心と言う点からもコロマルに似合っているペルソナとも言える。
付け加えるなら、コロマルの武器は『ナイフ』でアイギスの銃と並んで奏夜にも使えない武器だ。
(…そう言えば…)
コロマルのペルソナで改めて思うが奏夜達のペルソナ………複数のペルソナが使える奏夜の場合は初期ペルソナの『オルフェウス』だけだが、
奏夜の『オルフェウス』を初めとして、
ゆかりの『イオ』
順平の『ヘルメス』
風花の『ルキア』
と、S.E.E.Sの全員のペルソナの全てが『ギリシャ神話』と言う共通点を持っている。
「私もアイギスみたいにコロちゃんの言う事が分かればいいのに」
「あはは…次狼さんも分かるかもね…」
何気に後日、ウルフェン族の次狼にあわせて見たが、本当にコロマルと会話が成立していた。
………確かに狼は分かり易いイヌ科でウルフェン族は人狼(ワーウルフ)の伝承の元となったが………本当に会話が成立するとは思わなかった。
なお、コロマルの本来の名前が正しくは『虎狼丸』と言うのはその時に分かった事だ。
閑話休題(それはさておき)
「でも、やっぱり…その場のノリでやるしかないかもね。元々順平の台本にも台詞の大半はアドリブって有ったし」
「それしかないかな…」
奏夜の言葉に風花はコロマルを撫でながら苦笑する。そもそも、この追加シーン自体シナリオには存在していないのだが、元々大きな流れしかない以上、他の部分の撮影と大差ないのは不幸中の幸いかもしれないが。
「まあ、決まっちゃった事は仕方ないし、明日の撮影は頑張ろうか」
「うん」
コロマルを抱きかかえながら風花はそう答える。そして、撮影こそ(奏夜と風花の二人の羞恥心と言う点以外は)無事終わったのだが…
9/18(金)
「………ただいま」
土砂降りの雨の中、キャッスルドランの方に出かけていた奏夜は見事に突然の大雨で頭からびっしょりと濡れてしまった訳だ。……確かに出かけた時は晴れていたが、台風が近づいているという天気予報を見ていて傘を持って行かなかったのは、奏夜が悪いかもしれないが。
「あー、見事に降られちまったみてーだな」
「く、紅くん、早く着替えないと、タオルタオル!」
慌ててタオルを取りにいってくれる風花と、
「順平さん…、フラれたでありますか。ご愁傷様であります」
「ちげーよ! え? 聞きたい? 聞きたいの? チドリン、この連休もオレに会いたいから来て欲しいって」
「……チドリン」
妙なボケをするアイギスと、映画のダメージが回復した様子で惚気話をする順平と、そんな順平に呆れるゆかり。
「ありがとう」
奏夜はパタパタと風花が部屋から取って来てくれたタオルで水気を拭き取る。
「いやー、まいっちゃうね! あ、ヤベ、言っちゃったー、ハズカシー!!! ねぇ、聞いてる? アイちゃん、聞いてる?」
「はいはい、ご馳走様…。折角だからあの映画も見せてあげたら」
「え? そう、オレっちもオレのカッコいいところを一度チドリンに見せてやろうかなー、なんて思った訳よ」
完全に惚気ている順平にゆかりは呆れた目を向けていた。
「災難だったね、紅くん。ついさっき上陸したみたい…。なんでも、例年に無いくらいの大型の台風で……しかも、結構居座りそうなんだって」
「…そうなると学園祭は中止かな…」
「そうなるね」
安心した様子の風花、心なしか学園祭の中止でメイド姿を晒さずに済んだゆかりもホッとしている。
水気を拭ってシャワーでも浴びて着替えようと部屋に向かおうとした時、扉が開く。外から帰ってきたのだろう、奏夜と同じくびしょ濡れになった乾の姿があった。
「おかえりなさい、天田君も一足遅かったね」
「そうですね、お蔭でずぶ濡れです」
そう言って乾にもタオルを渡す風花に言葉を返す。
「諸島部だからもっと早く帰って来れたのにね、どこか寄って来たの?」
「…………神社…」
どこか重い響きを持って乾が風花の言葉に答える。
「いつもあそこでお祈りしてるんです。願掛け……って言うんですかね、こういうの?」
「台風の時くらいいいだろ、そんなの」
「毎日やるから、意味みたいなの有るんじゃないんですか、こう言うのって?」
「そんなもんかね…。もしかして明日も、この台風んなか行くつもりか?」
「そうですけど?」
そう告げる乾の心から聞こえる音楽は何処かドロドロとした暗い物が響く。それが奏夜には願いの内容を物語っている様にも感じられた。
「君は、何をそんなに願ってるの?」
「内緒ですよ」
奏夜の問いかけに乾は言葉を返す。
「ほら、着替えだ。冷めない内にシャワーでも浴びて着替えて来い」
「ありがとうございます」
そう言って奏夜はロビーから離れていく。本気で寒くなってきたのだ。
「おら、お前も…」
「いいですよ」
乾は差し出された着替えを受け取らず、
「このまま直ぐ部屋に戻りますから」
そう言ってさっさと部屋に戻って行った。
「………可愛げのねぇ奴だぜ…」
「照れてるんですよ、可愛いじゃないですか」
「フン」
ベットに横になっている奏夜は天井を眺めながら、
(…何だか熱っぽいな。…風邪引いちゃった…かな?)
そう思うと部屋の一部へと視線を向けて、
「キバット」
「おう、どうした?」
「何だか風邪引いちゃったみたいだけど…皆には、『心配しないで』って伝えて貰える、かな?」
パタパタと飛んでいるキバットへとそう伝言を頼む。
「おう、任せとけ、だからお前はゆっくり寝てろよ~」
そう言って飛び去っていくキバットの姿を横目で眺めながら、奏夜の意識は眠りの中へと落ちていく。
さて、予想通り風邪を引いた奏夜は21日まで寝込む事となるのだが、その間に有った事を抜粋すると、
「た、大変だ! 紅の部屋になんか、メイド服のお姉さんがぁ!?」(順平)
「おい、順平! あれがどうすれば女に見える!? 屈強な燕尾服の大男だっただろうが!?」(明彦)
「いや、私が行った時には妙にワイルドなスーツ姿の男の人だったんですけど」(ゆかり)
「っ!? 我々にも気付かれずにこの寮の中に不審人物が!? これはセキュリティを見直す必要があるか!?」(美鶴)
「えっと、みんな紅くんの知り合いだから不審者じゃないんですけど…」(風花)
偶然にも風邪と知らされてお見舞いに来ていた四魔騎士(アームズモンスター)達と遭遇した人達でした。
シルフィーと出会った順平と、力と出会った明彦、次狼と出会ったゆかりに寮のセキュリティーを見直している美鶴。なお、風花はラモンと出会ってゆっくりとお話していたそうな。