ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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第五十八夜

「くっ…何なのですか、貴方達は!?」

既に持っていたはずの手は火傷を負い銃はなく、それを行ったであろう相手へとタカヤは叫ぶ。

「先輩は後輩を助けるもの…らしいんでな」

イエティを思わせる仮面ライダー、仮面ライダーレイはタカヤからの叫びにそう答える。

「その様なふざけた理由で…」

レイからの返答に怒りを感じながらタカヤは召喚器を取り出し自身の頭に突きつけると引き金を引く。

タカヤより打ち出されるのは彼の宿すペルソナ…眠りの神『ヒュプノス』。背中から生えた翼と思われる部分に支えられた本体が力なく佇む姿は何処か弱々しいイメージを与えるが、持っている力は間違いなくS.E.E.Sのメンバーの持つどのペルソナよりも強大だろう。

「許しませんよ」

高位火炎魔法(アギダイン)!!!―

普通の人間…いや、力量の劣るペルソナ使いでは火炎への耐性が有ったとしても焼き尽くされんばかりの炎がレイへと向かう。特に外見からレイの弱点は炎を思わせているのもあるだろう。

「ペルソナ」

レイの呟きは炎に包まれると同時に消えるが、レイを飲み込んだはずの炎はレイの正面に現れる真紅のペルソナに逆に吸収されていく。

「なっ!?」

その光景に思わず驚愕を露にするタカヤだが、レイはその隙を逃さずに更なる追撃へと移る。

「返すぞ。『 』!」

真紅の炎の如き姿をしたペルソナはタカヤへと手を翳す。操るのはレイの姿からは想像のできない炎の力、

最高位火炎魔法(マハラギダイン)!!!―

「っ!?」

真紅のペルソナによって放たれた広範囲を飲み込む最高位の火炎魔法がタカヤを襲う。タカヤは焦りを覚えながらも内心では『愚かな』と嘲笑う。今の自分の居る場所にそんな広範囲を飲み込む魔法を使えば荒垣達さえも炎に飲み込んでしまう。

「な…に…」

自分を襲った炎が消えた瞬間、炎に巻き込まれた荒垣と乾を想像していたタカヤの表情を驚愕が彩る。炎が晴れた瞬間灰になったか焼け死んだかと思っていた荒垣達は先程と変わらない姿でそこに有った。しかも、地面に焼け跡一つ作っていない。

それは力を完全に使いこなし制御していたとしても簡単に出来る芸当では無い。相手とはペルソナ使いとしての力量に差が有るのは明らかだ。

しかも、彼のペルソナらしき炎の化身の如きペルソナの力は感じられるだけでも強大で、相手は仮面ライダーと言うペルソナ能力が無くとも人外の存在と戦えるだけの力を持っている。正面からぶつかったとしても勝てる訳が無い。

タカヤがそんな事を考えていると明彦のペルソナ・ポリデュークスの拳がタカヤへと向かって襲い掛かる。

「チッ!?」

慌てて避けることには成功したが、次からつきへと現れる邪魔に対して苛立ちを覚える。

「次から次へと、生きる意味の無いこんな少年を救ってなんだと言うのですか? ………興醒めですよ」

そう捨て台詞を言い残しタカヤは路地裏の闇の中へと姿を消していく。

「俺にも分からねぇよ」

タカヤの言葉に答える様に荒垣の言葉が零れる。

既に致命傷になっていても可笑しくない傷を負っている荒垣を唖然と見つめている乾へと荒垣は、

「へ………なんて顔してやがるんだ………。折角望みが叶うってのによ。良かったじゃねぇか」

最後の力を振り絞るようにして荒垣は乾へと言葉を続けていく。

「でもお前はガキなんだから、まだやりたいこといっぱいあんだろ。まだ、なんにでもなれる。だから、これからは、テメェのために…生きろ」

今にも消え入りそうな声だが命を賭した最後のメッセージは乾の心へとしっかりと刻み込まれる。

「僕は、そんな…」

「アキ…」

「…おまえ……の、言ったとおりこいつ……を……」

「もういい! 喋るな!!!」

「……だか…ら」

荒垣は明彦の制止の声も聞かずに言葉を続けていく。

「アキ…こいつを…ま………」

全てを言い切る事無く荒垣は崩れ落ちた。

「あ…………ああ、うあああ…ああああああああああああああああ!!!」

崩れ落ちた荒垣を呆然と見ていた乾の絶叫が響き渡る中、近づいてきたレイのベルトから蝙蝠型のロボット『レイキバットMk‐Ⅱ』が外れ、その変身が解除される。

「落ち着け、まだ微かに息はある」

仮面ライダーレイの装甲が解除されてその中から現れたライダースーツの青年はそう告げる。幸いにもタカヤに撃ちれた銃弾は急所にこそ当たっていないが、それでも危険な状態に変わりない。

「そうか!?」

ライダースーツの青年の言葉に明彦は召喚器を取り出す。治癒魔法によって治療なら影時間の中でも可能だ。だが、

「止めて置いた方が良いわ。内臓まで傷は届いてるし、今下手に強力な治癒(ディア)系の魔法は返って彼の体に負担が出るわよ」

ライダースーツの青年と一緒に居た女性が明彦を止める。明彦のボリュークスには確かに治癒(ディア)系の魔法は使えるが強力な物へと強化されてしまった以上、魔法による治療は返って逆効果となるのならペルソナは役に立たない。

「くっ、それじゃあ…」

「応急処置と、これ以上出血するのを防いで…影時間が明けるのを待って医療機関に運んだ方が良いわね」

そう言って二人の男女も何処かに立ち去ろうとする。

「待て、お前達は一体…」

「ペルソナ使いはお前達やストレガだけじゃないと言う事だ」

「縁が有ればまた会うでしょうね」

それだけ言い残して二人の姿は消えて行った。

『真田先輩、聞こえますか?』

「山岸か!?」

『今そっちに紅くんが向かって…「急いで、いや、美鶴に伝えてくれ!」え?』

「ストレガの一人に荒垣が撃たれた! 息は有るがかなり危険な状態だ!」

『はっ、はい、急いで伝えます!』

「そうか…念の為に先輩達に保険を頼んでおいたけど…良かった」

『そうでしたね。危険な状態ですけど、最悪は避けられそうですし…ストレガも撃退できたそうです』

風花の言葉にキバEF(奏夜)は安堵の息を吐く。先日の学園祭前の名護夫妻との会合もこの時のためだ。

『でも、上手く行ってよかったです』

「うん、満月の夜に大型シャドウ以外に誰かが命を落とすとすれば、作戦に参加せずに別の場所…その人にとって何かの理由がある場所に行くはず…そう思って居たけど」

先日名護夫妻に会った時に頼んでいた事、それはバウンティーハンター時代の人脈を利用して過去に次の満月の日である『10月4日』の前後にこの街で起こった事件にS.E.E.Sの誰かが関係しているのではと調べて貰った結果、路地裏のあの場所で乾の母親が命を落としたのが二年前の今日だった。

同時にストレガによる仲間の奪還の際に誰かが命を落とすのかとも考えていたので、念の為にチドリの居る病室には順平も含めて三人も戦力を割いた。

結果的に後者は無駄になったようだが、前者は風花の注意を払って貰っていた。叔父に連絡して助けを求めた先輩達には念の為の遊撃に回って貰ったが。

「…荒垣先輩が撃たれたのは判断が甘かったからだ…」

実際、先輩達にはどちらに場合にも対応できる位置に居て貰ったが、完全に二人居るという路地裏の状況を甘く見ていてしまった。いや、乾の敵が荒垣だともっと早く知っていれば……結果はもっと違う物だったはずだ。

『でも、紅くんが行動したから結果的に荒垣先輩は助かったんですから、元気を出してください』

「うん、ありがとう。一度変身を解いて真田先輩と合流する。影時間が明ける前じゃ無理だろうけど、少しでも早く病院に運びたいしね」

『はい』

翌日10/5

美鶴の手配や明彦や奏夜達の行動によって幸いにも荒垣は一命を取り留めた。だが、医師が言うには荒垣は意識不明の重態である事は変わりなく…少なくとも、S.E.E.Sへの復帰は意識を取り戻すまでは無理だろう。

生命維持装置をつけて何時目覚めるか分からない眠りの中に居る荒垣の病室へと明彦が訪れる。

「よう…。相変わらずだな、子供の頃から変わってない。黙ってないで返事くらいしろよ。…何時もそうだ、お前は」

明彦は返事が返ってくることのない荒垣へと言葉を続けていく。

「何時も黙って勝手に行っちまうんだ。こっちの身にもなれってんだ。…ったく」

明彦はそのまま苦笑を浮べる。

「………ふっ、逆だと言いたいのか? ……そうだな。力だ、理屈だと一人で突っ走ってたのはオレの方だ。妹を…美紀を失ってからオレはひたすらに力だけを求めてきた…。力さえあればどんな物でも守れると思っていた。だが、どうだ!?」

明彦は慟哭する。今まで求めていた力が足りなかったのか、根本的に間違っていたのか、それはまだ分からない。だが、分かりきっている事は一つだけ。

「結果はこの様だ! ……まるで必死なオレを笑うかのようにな」

あと一歩、仮面ライダーレイが現れるのが遅かったら荒垣は命を落としていたかもしれない。結局、明彦はまた守ることが出来なかった。…それは…。

「戦ってりゃ死ぬかもしれないって、そんな事! 分かってたはずなのに!!! オレは戦う事に夢中で何も見えてなかった!!!」

何も見えてなかった。過去を知っている明彦ならば、もっと早く気付いても良かったのに、それなのに…。

「いくらカッコつけて走ってみたって結局このザマだ!!! 馬鹿みたいじゃないか!!!」

明彦は慟哭する。己の無力さを、弱さを、愚かさを呪う様に。

「…すまないな」

一通り胸の奥に突き刺さっていた物を吐き出すと晴れやかな顔で顔を上げる。

「気が済んだ。子供の頃もこうやってよく泣いていた。だが、オレはもう」

そう言って明彦はベッドに眠る荒垣へと背中を向けて、

「子供じゃない」

そして、その表情に晴れやかな笑みを浮かべて、

「いいかシンジ…。そこで暫く休んでいろ。お前が目を覚ます頃には全てを終わらせる。まだオレにはやることが有る。まだ、前に進める…。そうだろ?」

決意の心が明彦に新たな力を呼び覚ます。ボリデュークスは新たな姿へと進化する。彼のアルカナである『皇帝』に相応しい姿を持った地球を抱いた白き皇帝『カエサル』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寮…

その日、乾は夜遅くになっても寮に戻っていなかった。

「天田君…遅いな…。もうこんな時間、お腹空いてないかな、何か食べたりしているのかな…?」

ロビーで風花はまだ戻っていない乾の事を心配していた。流石にしっかりしていると言っても乾は小学生なのだ、心配するなと言う方が無理があるだろう。

「天田君、帰ってきますよね?」

風花が不安げに呟く。乾には既に戦う理由がなくなってしまった。そして、荒垣の重態の原因も…。だからこそ、戻ってくるのか不安になるのも無理は無いだろう。

「………私、やっぱり!」

「ちょっと待って、心配なのは分かるけど…一人で飛び出しても…」

「でも、でも…」

「風花、落ち着いて! 心当たり有るの?」

慌てて飛び出そうとする風花を止める奏夜とそう言って思いとどまらせるゆかり。

「ないけど…でも、でも!!!」

「あー…こう言うと煽る様だけど……心当たりは有るんだよね」

「本当ですか!? 何処に…」

「だから、落ち着いてって」

実際奏夜には乾が行っていそうな場所に一つだけ心当たりが有る。だが、間違いなく其処は風花一人で行かせるには危険な場所だろう。

「あいつの事は放っておけ」

聞き様によっては冷たく切り捨てている様にも聞こえる明彦の言葉。

「連れ戻したところで何かが変わるのか? 天田自身のけじめだ。どう生きるかは自分で決めるしかない。結局はそんなの自分しだいだ」

それは一つの心理だろう。

「…自分で決めるしかない」

「明彦…」

全ての決断は結局の所自分で決めて行動するしかない。初めてこの寮に来た時にサインする前に言われた言葉を思い出す。

(…ぼく達に出来る事は…どんな決断をしたとしても受け入れてあげる事、後一歩が踏み出せないなら……背中を押してあげるだけか…)

自分達か乾に出来る事はそれだけだと思う。…念の為に次狼さん辺りに様子を見に行って貰うべきかとは思っているが。……奏夜も奏夜で心配なのだ。

「私………。晩御飯作る。みんなで食べよう」

晴れやかな笑顔でそう告げる風花。だが、

「…手伝うよ」

「ぼくも手伝うよ」

風花の決意にゆかりと奏夜がそう答える。

どうでも良い事だが、どう見ても言い出せる雰囲気ではないのだが、『料理の形をした兵器』が作り出されるのを阻止する意思が盛大に存在していたりする。

まあ、彼女の料理の技術はシルフィーの指導と奏夜の必死の戦いによって確実に向上している。…五つに一つはマトモに食べれる物が出来るほどに。

流石に彼女の料理でS.E.E.S全滅などと言う笑えない結末だけは絶対に阻止しなければならないだろう。…現に屋久島の時は一度その危機を迎えてしまったのだし。

「…ねえ、奏夜くん…。私、不安なんです」

「…風花さん?」

夕飯の支度中風花がそう話しかけてくる。

「荒垣先輩だけじゃなくて…また誰かが居なくなるんじゃないかって…」

「…大丈夫だよ…」

「奏夜くん…」

「…ぼくがそんな事はさせない…。どんな事になっても、ぼくが誰も死なせない…。ぼくは…“仮面ライダー”だからね」

ふと、そんな言葉が零れた。

路地裏…

其処に乾の姿は有った。

「もう………分かってるんだ。悩んでたって何も変わらないって…」

彼の中には既に一つの答えは存在していた。

「そうさ…。ホントは分かってたんだ。母さんは“力”を抑えられなくて、自分の弱さに飲まれたんだって…」

全ては分かっていた。乾の母は己自身の弱さに飲まれたと、

「シャドウになった母さんから僕を守ってくれたのは荒垣さんで…。でも荒垣さんも母さんと同じで…。分かっていたんだ、みんな。全部…誤魔化しなんだって」

荒垣を憎む事で、自分の気付いていた真実を誤魔化していた。それが彼の復讐の真実。

「誰かを憎んでいれば立っていられた。だから…僕は」

誤魔化しでもそれが有ったからこそ、乾は立っている事が出来た。

「僕は…僕だけで生きているのが怖かったんだ。こんな、“可哀想な僕”は周りから拒絶されるんじゃないかって。それでも崩れる家から僕を庇ってくれたのは、母さんだ。そして、今回も…」

同じ場所で二度も守られた。唯一の救いは荒垣が命を落としていない事だろうが…そんな事は何の慰めにもならない。

「僕って守られてばかりじゃないですか。生きてるなんて、辛いだけなのに…」

必死に復讐だけを支えに生きてきた日々、それが今までの乾の人生の全てだった。

「でも…まだ大丈夫なんですよね」

空を見上げながらそう呟く。

「とりあえず…目が醒めるまでやれるだけの事はやっておきます、荒垣さん。母さんも…もう大丈夫だから」

それが乾の心に現れた一つの決意。そして、それは新たな力を呼び覚ます決意。復讐の神は無限を意味するメビウスの輪を宿したような姿のペルソナ『カーラ・ネミ』へと変わる。

「っさてと。みんな心配してるだろうな。寮の人達変わった人達ばかりだけど、皆良い人達だからな。やっぱり僕が一番まともかも」

心の其処から晴れやかな表情で乾は帰路に着く。

「でもなんか戻りづらくなっちゃったな。なんて言ったらいいかな。心配かけてごめんなさい。気にしてませんから。んー、こう言う事って事前に考えるものじゃないよね。まあ、初めはこう言おう」

乾は寮のドアを開くと出迎えるように揃っていた仲間たちに、

「ただいま」

そう告げた。

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