ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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-Ⅷ- 正義《ジャスティス》
第五十九夜


真っ白な空間の中で対峙するキバの姿の奏夜とファルロス…。奏夜の足元からは何故か12の影が伸びている。

「いきなりだけど、お別れしなきゃ…君と」

ファルロスからの第一声がそれだった。

「今だから分かる…。君と友達になれた事は僕にとって奇跡みたいなものなんだ。そして…僕は僕自身の役割がはっきり分かった」

キバの足元から伸びる影からそれぞれのシャドウのアルカナを象徴する仮面を着けた12体のファンガイア達、それはこれまで奏夜が戦ってきたファンガイアタイプ達の姿だ。ファンガイア達が現れて奏夜に並ぶと一斉に人間の姿へと変わり、同時に奏夜のキバの鎧が砕け散る様にキバへの変身が解ける。

「今まで集まっていった記憶の欠片…遂に全部繋がったんだ」

どう言う意味か理解した時、声を出したくても口が動かず声が出ない。

「君と会えた事は僕の宝物だ。例え今日が最後になっても“絆”が僕らを何時でも繋いでる。…忘れないで」

例えどれだけ放れていても、それが死であったとしても、人と人の絆だけは永遠に断ち切れない。ファルロスがそう呟いた瞬間、他の奏夜達が消え去り12の仮面だけが残る。

「今まで楽しかった」

最後にファルロスから告げられるのは感謝の言葉と、

「…じゃあね」

振り向きながら大人の姿へと変わったファルロスを漆黒の鎧が包みこんだ瞬間告げられた別れの言葉。

そんな奏夜の影から現れる異形の影。朽ち果てた異形の怪物の屍が巻き戻されるように形を取り戻していく。

「『 』」

声にならない声で奏夜はその名を呟くと、奏夜の手の中に異形は一枚のカードとなって収まっていく。

それが、近い未来で起こる、避けられぬ別れと力の完成の瞬間。………此処にいたるまでの物語を語るには、時は僅かに遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最悪こそ避けられたが、荒垣が結局意識不明の重態に陥ってしまう言う結末を迎えた満月の戦いから数日後…

『……今夜はちょっと冷えそうだ。もうすぐ冬が来るよ』

影時間の夜…

『…なんだか疲れてるみたいだね。何か有った?』

「うん、色々とね」

何時もの様に部屋に現れた少年ファルロスの言葉にそう返事を返す。

こうして、ファルロスと出会う度になのだろうか、それとも大型シャドウを倒す度にそうなっているのだろうか、少しずつだが自分の中に潜む死神の存在が強く・はっきりと感じられるようになってくるのは…。

『……この世界じゃ毎日沢山の人間が死ぬんだ』

「…人だけでもね。人以外も入れれば……『死』が無い日なんて無いのかもしれないね」

『そうなのかもね。でも、そんな事は風や水の流れと同じもの。今までは…そう思ってた。でも今はちょっと違う』

「違う?」

『うん。僕にも友達が出来たからかな』

「そうだと思うよ、ぼくも」

あるいは恋人でも、家族でも、仲間でもいい。大切な人間が居るほど死と言うのは強く感じる。そして、心の何処かで死を実感するからこそ、生を感じることが出来る。

『…このごろ、はっきりと感じることが有るんだ』

ファルロスがそう言葉を切り出す。

『僕が言う“終わり”の事を“滅び”と呼ぶ者も居るみたいだけど、…それは凄く近づいてきている。君は何も感じないのかな…? 僕らは共にある存在のはずなのに、何で僕だけが思い出すんだろう』

何処か悲しげにファルロスは呟く。

『…これはとても辛い事だよ。もしかすると僕は君には受け入れて貰えない存在なのかもしれない』

「そうだね…それは辛い事だと思う」

そもそも奏夜も“ファンガイア”の“クォーター”。奏夜も『他人には受け入れて貰えないかもしれない存在』なのだ。

『……今日は変な話をしちゃったね。僕が君の友達なのは変わらない筈なのに…』

「うん。ぼくも…誓うよ。君が何者でも、友達だってね」

『じゃ…今夜はこれで…。おやすみなさい』

「冬…か」

「おう、アイツの言ってた通りもう直ぐ冬だけどよ~、それがどうかしたのか?」

制服に着替えながら昨夜のファルロスの言葉を反芻する様に呟く奏夜にキバットは疑問の声を上げる。確かにもう直ぐ冬が近い。だが、冬と言う季節が連想させるのは『死』と『終わり』。

「…改めて思うと、ファルロスの言ってた冬って言うのは“終わり”の事なのかも知れないね…」

「…“終わり”が近いってか? ったく、お前の考えすぎなら良いんだけどよ」

「…ぼくも、これが考え過ぎなら良いって思ってるところだからね」

そう、平行世界の奏夜である奏の言っていた事を考えると大型シャドウは次の満月に出てくる12体目のシャドウで最後だが、まだまだ戦いは本当の意味では終わりはこないと言う事になる。そして、その先に奏の警告の先に有る未来の分岐点も…。

「ところで、そう言うのを考えるのは後にした方がいいんじゃないのか?」

「あ゛」

キバットが翼で示した先に有る時計に表示されている時間を見た瞬間、奏夜の表情が凍りつく。………そろそろ出ないと冗談抜きで遅刻する。

「行ってきます!」

脇目も振らずに部屋を飛び出していく奏夜を見送りつつ、キバットは欠伸をするとナイトキャップを被りなおして優雅に二度寝を始めるのだった。………付け加えるとタツロットはまだ寝てたりする。

その日の放課後…久しぶりに生徒会の方に顔を出した奏夜は校内での喫煙事件の捜査をしている風紀委員の『小田桐秀利』と事件について話した後の帰り道…。

(…『孤高』と『孤立』ね…。あれ?)

「や、風花さんも今帰り」

「あ、奏夜くん」

何処か落ち込んでいる風花と会った。

「ところで、最近落ち込んでるようだけど…どうしたの?」

「うん…実は…」

放課後の月光館学園の屋上で風花は夏紀と話していた。

「転校!?」

風花は夏紀の言葉を聞いて驚きの声を上げる。

「あんたも物好きだよね。嫌な女が出てくってのに惜しんだりして」

以前うおどうかは分からないが、今は夏紀は風花にとって大切な友達だ。

「転校しちゃうなんて全然知らなかった…」

「言ってどうなるもんでもないっしょ。暗い話になんのもヤだしね…」

最後まで風花とは笑って別れたかったのだろう。

「パパが急に倒れちゃってさ…。難しい病気らしくて、直ぐには治んないんだって…。ウチあんまお金ないし。なんつーか、ノンビリしてらんなくて」

夏紀は感慨深く呟く。

「気付いてみりゃ、あたしの世話焼くような物好きはアンタだけだったな」

夏紀の言葉に風花は悲しげな表情を浮かべる。風花にとって夏紀が始めての友達と言っていい。そんな相手とこんなに早く別れるのは辛いのだろう。

「前に言ったよね、あたしはアンタと同じだって。ウチの親…あたしに興味とか全然無くてさ。だから、アンタが寮に入った時、ちょっと羨ましかった」

両親が居ないのではなく単純に放れたいだけ。だが、それは一歩間違えれば後悔に繋がる事もある。そう、だからこそ………

「…でも、アンタんとこ話して何とかなりそうってんなら、早めに話しときな。ウチのパパ…今の様子じゃ当分話とかできなそうだし。ハハ、何言ってんのかね、暗い話ヤダって自分で言ったクセにね」

友達である風花には後悔はして欲しくないと言う彼女なりの気遣い。

「何時…出てっちゃうの?」

「ん…一週間後。もうこの景色も見納めか」

夕焼けに染まる屋上から見える町並みを見つめながら、夏紀はそう呟く。

「なんだって…」

夏紀との会話の内容を話してくれた風花に対して奏夜は。

「…風花さん…。友達と別れるのは…辛い?」

「…辛くない訳…ないじゃないですか…」

「ゴメン」

失言だったと思って直ぐに謝る。だが、

「だけど…本当に友達なら、どれだけ離れていても絆と心は、繋がっているはずだよ」

「…絆と心…?」

「うん。どれだけ短くても、その絆が本物なら、心でなら繋がってるはずだからさ」

「…そう、ですよね…」

一週間後…

「もぅいいのに、見送りなんて」

駅前、其処に風花と夏紀の姿があった。

「そんな訳にもいかないよ…」

「授業途中でフケたりしたのなんて初めてなんじゃない?」

「…そうかも。でも前まで不登校だったからあんまり変わらない」

「そうだった」

そう言って二人は笑い合う。

「言っとくけど、あたし結構ゲンキよ。アンタに会えて…けっこう変わったからネ。今はやれる事やってみようって思ってる。…だから、アンタもやりたいこと探しな」

「私の…やりたいこと…」

風花は夏紀の言葉に戸惑ってしまう。

「私…今まで、人に好かれなきゃ居場所は無いんだって思ってた。だから嫌われるのが怖くて、何時も周りに合わせて…。私、自分がホントは何がしたいかなんて、考えたことなかった…」

「ハハハ、アンタらしいよ。ヤならシカトしときゃいいじゃん」

風花の言葉に夏紀は何時もどおり笑って返す。

「…でもあたし、風花の事好きよ。風花自身が自分の事嫌いでもね…」

「夏紀ちゃん…」

「じゃ…行くから」

風花に手を振りながら夏紀は駅の中に消えていく。

「あ」

そんな夏紀を見送っていると大事な事を思い出す。

(連絡先! 何も知らない!)

風花がそう思い出した瞬間、メールの着信音がなる。それに気が付いた風花が携帯電話を開くと、『夏紀だよ』と言うタイトルのメールが着信していた。

ごめんね、アンタの友達にメアド聞いちゃった。でも、これで“離れてても繋がってる”でしょ? 何時だって話せるよ。今まで、ありがとね。あたし、ちょっとだけ泣いてるw

 追伸、紅って奴がアンタの事泣かせたら何時でも言ってよ、一発殴りに行くからさ

「…夏紀…ちゃん…」

大切な友達との繋がりをかみ締めるように風花は携帯電話を抱きしめる。

「…なんか、分かっちゃったよ。私…この“力”に目覚めたのは自分の性格のせいって思ってた。人の気持ちばっかり気にしてるから…だから“探す力”なんだって…」

彼女の表情に晴れやかな笑顔が浮かぶ。

「…でも、私にも出会いがある。みんなが仲良くしてるだけで、奏夜くんの傍に居れるだけで、私、凄くうれしいの。私は…それをずっと見ていたい」

それに気が付いた風花の心が彼女に新たな力を目覚めさせる。薄っすらと浮かび上がった彼女のペルソナ・ルキアの姿が変化する。ピンク色のドレスを纏った女性のような姿をしたペルソナ『ユノ』。

「離れてても繋がる力。私のペルソナは…“結ぶ者”」

奏夜の言葉の意味を理解する。いや、奏夜は最初にその事に気付いていたのだろう。影時間と言う壁を越えて己と仲間達とを何度も結んでくれていた彼女の力を。だからこそ、そんな彼女だからこそどれだけ離れていても心で繋がり続けていると信じていた。

「私が願う“絆”そのもの」

己の心に気付けたからこそ、彼女は新たな力に目覚めることが出来た。

「“離れてても繋がってる”…。この力でやれるだけのことをやる。それが、私の願い…。ふふ、言葉にすると当たり前ね」

空を見上げながら呟くと後ろを振り返り、

「だよね、奏夜くん?」

「あ…あははは…;」

風花の言葉に思わず苦笑しながら出てくる奏夜。

「何時から気付いてた?」

「気が付いたのはさっき。なんだか、奏夜くんが其処に居る様な気がしたの。でも良いの、奏夜くんって優等生でなのに」

「別に。一度くらい学校サボってもそう簡単には落ちないから、大丈夫」

「もう、桐条先輩に怒られてもしらないから」

「あはは…その時はその時ってね。それじゃ、見送りも終わったし、どうする?」

「ふふ、今から戻ったらもう放課後よ」

そう言って奏夜と風花は歩き出す。

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