ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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第六十夜

10/21

「よっ、チドリン」

順平は何かを小脇に抱えてヒマワリの花束を持って、チドリの病室へとお見舞いにやってくる。此処の所ほぼ日課と化している行動だったりする。

彼女はそんな順平をベッドに横になったまま一瞥する。

「…………。何よ、それ」

「ラフレシ屋で買ってきた。こんな味気無い部屋じゃ寂しいだろ~。此処に飾っとくぜ」

そう言って順平は何も飾られる事無く置かれていた花瓶にヒマワリを生けると、もう一つ持ってきた物をチドリへと差し出す。

「ほら、あとこれも」

「あ…」

それはチドリの持っていたスケッチブック。

「けど、他のもんとかはやっぱ返せねぇってさ」

「…別に期待してない。監視されてる身だし」

スケッチブックを受け取りチドリはそう返す。他の所持品は流石に返せない物が多いのだから、仕方ないと言えば仕方ないのだが。

「でも、此処に居れば順平が来る…。だから、今は此処でいい」

チドリから何気なく告げられた言葉に順平は顔を真っ赤に染める。

「そ…そっか。へへ、来るよ。全然来るよ、俺」

嬉しそうに、照れくさそうに、順平はそう答えた。

10/30

「なーに、描いてんの?」

その日、スケッチブックに絵を書いていたチドリに順平はそう声をかける。

「そう言えば、チドリの描いた絵って見たこと無いな」

「なんだっていいでしょ…」

「見してよ」

「…ヤダ」

「いいじゃんよー、それくらい」

「………」

陽気に話しかける順平と何処か素っ気無い態度で返すチドリと言う図が繰り広げられている中、以前持ってきた花が萎れている事に気付く。

「持ってきた花萎れちまってんな、また持って来ないとな」

チドリは萎れているヒマワリの花を一輪手に取ると、萎れていたヒマワリの花がまるで“生命力”を与えられた様に萎れる前の姿を取り戻していく。

「すげ…!」

目の前の光景に順平は驚きを露にする。

「何ろ、今の! どうやったの!?」

「…私のを少し分けただけ。私の“力”は生命エネルギーを放出できる。人を“探知”できたり、“撹乱”できたりするのはその応用…」

「ほへー…。治癒の力って、こんな事まで出来んだ。すっげ、マジックみてぇ…」

素直に感心しているが、順平はその事の危険性に気付いているのだろうか、生命エネルギーを放出できると言うのは…一歩使い方を間違えれば…。

「別にスゴクないわ。順平だって力があるんでしょ? 少し力の方向性が違うだけ…」

「…オレ」

チドリの言葉に順平はゆっくりと口を開く。

「ペルソナの力を取ったら、正直何も無いんだ。“正義の為”なんて口ばっかで…」

順平が思い出すのは他の仲間たちの事。だが、所詮正義などは無限に存在している。奏夜にも奏夜の正義が有る様に、他の仲間達にもそれぞれの、戦う目的と言うべき正義が存在て居る。

「桐条先輩やゆかりんみたいに強い目的が有る訳でもないし、真田先輩みたいに強さを求めてるって訳でもないし…。風花にだって戦ってる理由だって有るんだろうし…」

何のために戦っているのかと言う理由を考えると、己には仲間達にある目的等存在していない事に改めて気付いた。

年下の乾には最初は母親の敵討ちと言う物が有った。アイギスにも自らの使命と言う理由も有った。コロマルにも自分の飼い主と過ごした場所を守ると言う理由があった。明彦には今度は荒垣の分まで戦うと言う理由も出来た。

そして、風花と同じ様に戦う理由こそ分からないが、複数のペルソナを操りリーダーにも抜擢されたクラスメイト…奏夜の顔が浮かぶ。

「あいつなんて、戦う理由もオレよりすげぇ力も、持ってるしさ」

蟠りが無くなったとは言っても、心の何処かに残照程度は残る。そして、それと同時に羨望も持っている。

そして、言葉にこそ出していないがキバの姿さえの頭に浮かぶ。あんな風に強くなりたいと何処かで憧れていた。だが、初めてイクサを使った時は……無様な結果に終わってしまった。

「オレほら、ハンパってゆーかさ。何のために戦ってんのか…」

自分だけが戦う理由も何も無い事に気付かされてしまう。

「つか、何のために生きてんだろうな…」

「何のために…生きる?」

生きている目的……夢と言い換えても良いそれも、自分の中には何も無い。そんな事を思ってしまう。

「ガキの頃はさ、バカみたいな夢とか有ったけどな…」

「…夢?」

「メジャーリーガー。…アホだろ? まぁ、ガキの時なんてそんなもんだろ」

「わかんないな…。私は…小さい頃のこと、あまり覚えてない。覚えてるのは…」

チドリ、彼女が思いを馳せるのは過去の記憶。記憶に残る価値も無いのか、忘れているのか……それは定かでは無いが、唯一つだけ…。

「白い部屋…。ずっと真っ白…。病院は嫌い…」

ただその一つだけ…

そして、時は最後のその瞬間へと、流れていく。

11/3

ムーンライトブリッジの上…と言うよりも遥か上空、天空に浮かぶ影時間の禍々しい月光を一身に浴びた巨大な最後のシャドウ、十二番目のアルカナ『刑死者』のシャドウ『刑死者(ハングドマン)』。

皮膚が引っ張られる形で巨大な十字架の様な物に吊るされたその姿は、処刑機具か拷問道具に捕われた罪人の姿の様にも見える。上下逆となっている頭の仮面は刑死者(ハングドマン)のアルカナに相応しい姿にも見える。

「はぁ!」

そのハングドマンに見下ろされている様な位置で、ムーンライトブリッジの上、奏夜達S.E.E.Sのメンバーと戦っているのは、最後のシャドウを守ろうとするストレガの残りの二人であるジンとタカヤ。

奏夜のペルソナ・ガルルの放つ重力魔法(グライ)を避けたタカヤが奏夜へと銃を向ける。奏夜はタカヤが引き金を引く前にタカヤの懐へと飛び込み、奏夜の振るう剣がタカヤの持つ銃を弾く。

―ドックン!―

(くっ、何だ…今の感覚…?)

タカヤと戦いながら己の中の何かが歓喜の声を上げている様に感じる。

「まだです!」

彼が召喚器の引き金を引いた瞬間、タカヤの背後から現れる運命のアルカナに属する彼のペルソナ、眠りの神『ヒュプノス』。

「来い…」

奏夜も頭に召喚器を突きつける。最後の決戦に備えベルベットルームで新しいペルソナも用意してある。それを使おうと召喚器を突きつけた瞬間、己の中の玉座に座主存在が何かに変わった事を感じ取る。

(っ!? これは、まさか…!?)

己の中に存在していたそれが真の名を奏夜へと告げる。同時にシルエットだけだった、奏夜の中のペルソナカードに絵が現れる。

(…そうか…これが!?)

ボロボロの黒衣と髑髏の様な仮面、背中にはマントの様に棺を繋ぎ、その手に持つのは無銘ながらも命を刈り取る死の剣。それこそが、13番目のアルカナ『死神』に属する奏夜の中に存在していた、新たなるペルソナ。

ハングドマンを視界に納めると、黒衣のペルソナは真に生まれ出でた事への歓喜の叫びを上げる。

「『タナトス』!!!」

神格を与えられし死『タナトス』。

奏夜はその相手のペルソナの名を知らず、またタカヤはこの奇なる偶然を理解しているのかは分からない。だが、ペルソナの原型となりし神話に於いて兄弟として共にあった二柱の神は、互いに敵として対峙した。

(っ!? ダメだ…ぼくに扱える範囲のペルソナの筈なのに…気を抜いたら今にも暴れだしそうだ!)

一瞬でも気を抜けばタナトスは最初の夜の様に暴走しそうになる。だが、制御するのにも苦労するその力は言い方を変えれば、それだけ強大な力を有していると言う事の証。

「「これで…」」

奇しくも重なる奏夜とタカヤの言葉。

互いの主の命に従い、タナトスとヒュプノスは魔法スキルの発動の体勢へと移る。

―核熱魔法(メギド)―

最初に放たれたのはタカヤのヒュプノスからの核熱魔法(メギド)。そして、それに遅れる形で奏夜のタナトスから放たれるのは、

―中位核熱魔法(メギドラ)―

奇しくも同種の魔法ながらも、その位は奏夜の放つそれが一段階上回る中位核熱魔法(メギドラ)。

ぶつかり合う二つの魔法だが、二つの魔法は一瞬の拮抗の後、タカヤの物を押し返し始めていく。

「バ、バカなっ!?」

「…行け…!」

中位と初級…その差は大きな差となり、この結果へと直結した。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」

ペルソナの恩恵か、己の魔法による軽減か、それともその両方なのか、吹飛ばされながらもまだ立ち上がる気力の残っているタカヤは最後の力を振り絞り立ち上がる。

その足元に吹飛ばされて来るのは他の仲間達が戦っていたジン。そして、タカヤへと剣を突きつける奏夜の元に他の仲間達も合流する。

「……ぼく達の…勝ちだ!」

「終わりだ、降伏しろ!」

奏夜と美鶴の言葉が響く中、ストレガの二人はフラフラとした様子でレインボーブリッジの端まで移動する。

「………くっ! 結局勝てへんのか…!? “力を与えられた”わしらは、自ら目覚めよったモン等には勝てへんのか!?」

響くのは敗北したジンの慟哭。

「まあええ…。行ってシャドウ倒したらええ。お前等の戦いがなんやったか…それで全部わかんやろ!」

「ジン…もういいのです」

尚も言葉を続けようとするジンをタカヤが止める。

「さて…普通はこの辺りが潮時でしょうかね…」

そう言ってタカヤはレインボーブリッジの端へと背中を預ける。その行動でタカヤの目的を察したのかジンもまた同じ様に背中を預ける。

「薬で制御しないと力が保てぬ、時の限られたこの体…。力を失ってまで生き永らえるなど無意味…!」

「捕まって恥さらすんは、死んでもゴメンや! よう見とけ、わしらの生き様!」

「っ!? 待て!」

奏夜が叫びながら止めようと走るが、既にその行動は遅かった。二人の体はムーンライトブリッジからその下の海へと落下していく。

急いで手を伸ばすも奏夜の手は虚しく空を切る。下を見下ろしても人工の光の無い影時間では海面の様子は伺うことは出来ない。だが…

「ストレガの反応…消失しました」

風花の言葉が響くと、彼女のペルソナ・ユノが消えて立ち眩みを起した様に倒れそうになる。奏夜は慌てて風花の側まで駆け寄ると彼女の体を支える。

あの状況で反応が消えたと言う事は、可能性は二つ。一つはユノの探索範囲から完全に離れたと言う可能性、もう一つは…。

「生きているにしても、もう我々の邪魔は出来ないだろう。あとは…」

そう言って視線を向けるのは上空に浮いている刑死者(ハングドマン)のシャドウ。

「奴を倒すだけだ」

「だが、何人戦える?」

そう言って明彦は後ろを振り向く。実際、ペルソナ使い二人との戦いは思った以上にダメージは有った様子だ。

「すみません」

「くぅ~ん」

消耗が激しいのは小学生である乾とコロマルの一人と一匹。

「私はまだ大丈夫ですけど…」

「オレッちもまだ戦えますよ、真田先輩」

「私もまだ行けます」

消耗は大きいものの十分に戦えるゆかり、順平、アイギスの三人。

「オレと美鶴も問題は無い、だろ?」

「ああ」

「紅、お前はどうだ…結果的にストレガの一人と一騎打ちになってしまっていたが…」

「ぼくの場合逆に絶好調です。寧ろ、戦う前より好調なくらいです」

「私も大丈夫です」

明彦、美鶴、風花の三人も十分戦える。そして、タカヤとの戦いで新しいペルソナ・タナトスを手に入れた奏夜は寧ろ好調と言ったところだろう。

「…消耗の大きい天田くんとコロマルは此処で風花さんの護衛を、他のメンバーは最後のシャドウとの戦いに」

奏夜の言葉に静かに頷く。そんな中、ゆかりが手を挙げる。

「あのさ、あんな所に居る相手にどう戦えばいいの?」

「………えーと…アイギス、岳羽さん、銃撃や射撃でダメージを与える事は出来る?」

「ふむ、遠距離攻撃か、中々いい考えだ。よし、岳羽、アイギス、一斉射撃だ」

「はい!」

「了解であります」

奏夜と美鶴の言葉に答えて銃撃と矢を放つが残念ながら途中で失速していく。

「……やっぱり、接近戦しかないか……。もう少し近づいてみよう」

真下に行けば何か分かるかもしれない、と思いながら刑死者(ハングドマン)の元へと向かっていく。

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