ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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第六十一夜

「あれは?」

乾とコロマルを風花の護衛に残してムーンライトブリッジを進み、上空に浮かんでいる大型シャドウ・ハングドマンの丁度真下になるであろう場所に着くと、新たに三体のシャドウの姿が確認できた。

「石像、かな?」

ゆかりがそう呟く。仮面を着けたマリア像の様な形の三体のシャドウ。タルタロスの中でも似た様な固体と遭遇した事も理由の一つだが、一番の理由は…。

「それにあの仮面は、刑死者のだ。……多分、上空居るシャドウと何か関係有る」

『紅君の思ったとおりだと思います。あの三体のシャドウから、上空の大型シャドウと同じ反応を感じます』

風花からの通信が響く。どっちにしても、放置する訳には行かない相手なので倒す心算だったが、奏夜の予想通りあの三体のシャドウはどう言う方法でかは不明だが、上空に浮かんでいる大型シャドウと関係が有るのなら、倒せば何か状況は変化する。

「岳羽さんは全員の援護を、アイギスは遊撃に廻って不利そうな人のフォローを」

「分かった!」

「了解であります!」

「順平は左、桐条先輩は中央、真田先輩は右を」

「オッシャー!」

「分かった」

「任せろ!」

奏夜の指示に各々が返事を返す。

「僕と岳羽さんの魔法攻撃を合図に攻撃開始、僕はダメージが大きそうな相手を狙うから、其処は二人掛かりで一気に勝負を着ける。…それじゃあ…」

「任せて、イオ!」

「ガルル!」

二人の内より打ち出されるペルソナ、イオとガルル。そして二体のペルソナは同時に同じ性質の魔法を発動させる。

―中位疾風魔法(マハガルーラ)―

―高位疾風魔法(ガルダイン)―

二人の放った疾風の刃は一つに重なり、より巨大な竜巻へと姿を変えて、三体の石像を飲み込む。それを合図に三人はそれぞれ指示された相手へと攻撃を開始する。

「行っけぇー、ヘルメス!」

「ペンテレシア!」

「カエサル!」

二人の疾風(ガル)系魔法によってダメージを受けた三体の石像に対して、三人が同時にペルソナを発動させる。

―中位火炎魔法(アギラオ)―

―高位凍結魔法(ブフダイン)―

―高位電撃魔法(ジオダイン)―

三体のペルソナの放った炎、氷、雷がそれぞれ指示された相手へと向かって放たれる。

「やったか?」

「桐条先輩。それって、生存フラグらしいですよ」

『はい、敵健在です』

奏夜の言葉を肯定する様に風花の報告が響く。爆煙が晴れた瞬間現れたのは疾風魔法のダメージは有ったものの、それ以外のダメージを受けた様子の無い石像達の姿。

(…三人に魔法が返って来た様子は無い…。反射が無いのは安心したけど、耐性か無効を持っている…)

少なくとも、そう推測すると先程の指示のままで戦わせるのは攻撃の為の手札が削られる。ならば…

「三人とも、作戦変更! 別の相手に攻撃を! 念の為に魔法じゃなくて、物理攻撃をメインで! 岳羽さんはこのまま遠距離と疾風(ガル)系で援護を、アイギスは誰かと合流して一気に叩く! 風花さんは石像の弱点を、念の為に一体ずつ!」

「分かった」

「了解であります!」

『分かりました、やってみます!』

二人へと指示を飛ばすと小剣を持ち直して奏夜は急いで三人と合流する。少なくとも、三体とも疾風属性に対する耐性は無いのだろう事は先程証明されている。

(…ダメージは似た様な物、だったら…)「ガルル!」

―月影―

蒼き人狼の姿のペルソナ・ガルルの放った斬撃が、奏夜から一番近かった中央の石像の体を切り裂く。その様子からして石像達はタルタロスに出現する似たタイプの固体とは違い、自由に動けないようだ。

…あれも自由に動くと言って良いのかは疑問だが、考えても見て欲しい…。仮面着けたマリア像モドキがピョンピョンと飛び跳ねながら襲ってくる姿を。……不気味以外言う言葉が思いつかない。

「ふっ!」

続いて中央の石像の担当になった明彦がストレートを打ち込む。幸い物理攻撃は問題なく有効だった様子だ。アイギスが順平の、ゆかりが美鶴の援護に廻り二対一の構図が出来上がる。石像達も炎、電撃、氷を打ち出しながら反撃してくるが、それほど協力でではなく、並の番人級レベルだ。だが…。

(物理攻撃系のスキルと普通の攻撃だけじゃ時間が掛かり過ぎる。…それまでアイツが大人しくしてるとは思えない)

その時、そう思って上空に浮かぶハングドマンを見上げたのは偶然だった。

「え゛?」

『皆さん、急いで回避を! 大きいのが着ます!』

「一旦引く!」

-ゴッドハンド-

上空から襲い掛かる衝撃が回避したS.E.E.Sの六人を吹飛ばす。幸い風花と奏夜の指示を聞いて直ぐに動けた奏夜、ゆかり、明彦、美鶴の四名は直ぐに体勢を立て直せたが、

「痛っ…」

「くっ」

僅かに回避の遅れた順平と、順平を庇って直撃を受けたアイギスのダメージは大きい。

「二人とも、無事!?」

「へへっ、まだまだ」

「七転び八起きであります」

奏夜の言葉に二人は立ち上がりながら答える。敵は此方の攻撃が届かない上空から強力な物理攻撃系のスキルで攻撃し放題。連発こそは出来ないだろうがそれでも石像達に手間取っていれば危ない。

「二人とも、直ぐに回復させるから! イオ!」

―中位回復魔法(メディアラマ)―

「へへっ、助かったぜ、ゆかりっち」

「ありがとうであります」

ゆかりのペルソナ・イオの放つ癒しの光が順平とアイギスの傷を癒す。一度体勢を立て直したものの状況は不利である事は変わりない。

(…キバになればキャッスルドランを召喚してアイツを倒せる。だけど、今の状況じゃ変身できない。だったら、タナトスを召喚して先に石像を…いや、ダメだ)

キバには変身できず、タナトスは強力な分だけ消耗も大きい。後者の手段はハングドマンを残している状況では使えない。

『皆さん、解析終了しました。敵シャドウ運命タイプ。奏夜くんの予想通り、それぞれ似ていますが別種のシャドウみたいです。それぞれ耐性が違いました』

「マジかよ!?」

「それで、何が効かないの!?」

『はい、無効属性は右から雷、氷、炎です。丁度紅くんが最初に指示した相手には順平君、桐条先輩、真田先輩の得意な属性は効かないと思ってください』

順平とゆかりの言葉に答える風花。そのアナライズ結果に思わず頭を抱えたくなる。

(…僕の最初の指示は悪すぎたか…)

直ぐに対応できた物の相手への指示は悪過ぎた。運悪く唯一の耐性に対応する相手を選ぶ時点で運が悪すぎる。

「真田先輩、桐条先輩、魔法攻撃は派手に纏めて吹飛ばす位やって下さい、一体は耐性で防げても残りにはダメージは有ります。ぼくも協力します」

「なるほど」

「分かった」

奏夜の考えが分かったのか美鶴と明彦が笑みを浮かべる。

「ペンテレシア!」

「カエサル!」

撃ち出される二人のペルソナ。

―上位雷撃魔法(マハジオダイン)―

―中位凍結魔法(マハブフーラ)―

雷撃と吹雪が三体の石像へと襲い掛かり、雷と氷のどちらにも耐性を持たなかった左の石像が、そのまま雷撃と凍結の中に飲み込まれて消えていく。そして、奏夜も召喚器を己の額へと突きつける。

己の中の玉座に座すモノは信頼する四魔騎士(アームズモンスター)ではなく、最強の黒衣の死神(タナトス)でもなく、この日の決戦の為に用意した切り札だったペルソナ。タナトスにその座は奪われたものの、強力である事に変わりない。

「来い…『スザク』!」

奏夜の内から打ち出されるのは高らかに声を上げる空の覇者。美しい真紅の翼と、尾羽を広げ高らかに産声をあげる聖鳥。

本日の決戦の為に奏夜が新たに用意していた『節制』のアルカナに属する四神の中の一体、南方の聖獣のペルソナ。真紅の翼を広げた南方の守護者がその力を存分に発揮する。

―上位火炎魔法(アギダイン)+火炎ブースター+火炎ハイブースター―

アクティブスキルと呼ばれる常時能力を強化するスキルの一つ『ブースター』。上位と下位のブースターを同時に会得させ上位魔法の破壊力をワンランク上の破壊力に限りなく近づける。

「焼き尽くせ!!!」

スザクの放つ炎が残す石像…雷撃と凍結…耐性を持たない側のダメージを受けた二体では、それに抗う手段は無い。

石像が撃破される度に、上空に浮かぶハングドマンの体勢が次々と崩れていく。そして、最後の石像が撃破された瞬間、ハングドマンの体が地上へと落下する。

「ようこそ…………地上へ! みんな、総攻撃チャンスだ!」

「オッシャー!」

「オッケー!」

「任せろ!」

「分かった!」

「了解であります!」

奏夜の指示に同時に返事を返すと、空中に浮かぶ力を失い、射程圏に飛び込んだハングドマンへと総攻撃を開始する。

「イオ!」

「カエサル!」

―中位疾風魔法(マハガルーラ)―

―上位雷撃魔法(ジオダイン)―

落下しながらゆかりと明彦のペルソナから放たれた風の刃とに切り裂かれ、雷撃に焼かれ、

「ヘルメス!」

「召喚シークエンス」

―ギガントフィスト―

―ヒートウェイブ―

順平とアイギスのヘルメスとパラディオンの一撃がハングドマンを吹飛ばし、

「ペンテシレア!」

―コレステレイト+上位凍結魔法(ブフダイン)―

強化された凍結魔法がハングドマンの巨体を地面へと縫い付ける。

『み、皆さん凄いです』

「…攻撃が届かなかったのが頭に来てたの、かな?」

思わずその様子に苦笑してしまう。が、直ぐに大地へと縫い付けられたハングドマンへと視線を向けなおす。

必死に凍結による拘束から抜け出そうともがいているが、それは奏夜の中に在(あ)る黒衣の死神への恐怖心なのだろうか。

「…暴れないでよ…。そんなに騒がなくても、召喚(だ)してあげるから!」

奏夜の内より撃ち出される黒衣の死神(タナトス)。タナトスは己の獲物が手の届く場所に有る事に対する歓喜の喜びを上げる。

「さあ、行け!」

奏夜はそう呟き、黒衣の死神を縛る最後の戒めの鎖を解き放つ。

戒めから解き放たれた黒衣の死神・タナトスは、背中に背負う棺をマントの様に翻し、翼の様に広げ、無銘ながら全ての命を刈り取る剣を振るい、地面に縫い付けられた哀れな獲物へと襲い駆る。

―アカシャアーツ―

―五月雨斬り―

必死に己へ迫るタナトスへと攻撃を繰り出すが、辛うじて放ったスキルは逆にタナトスのスキルにより切り払われる。

―ブレイブザッパー―

最後の一撃により切り裂かれたハングドマンは刑死者の象徴たる仮面を残し黒い泥に変わって消滅する。己の勝利を喜ぶ様に咆哮するとタナトスは奏夜の中へと戻っていく。

「…さあ…結構きつかったけど…そろそろ第二ラウンドか」

『はい、敵刑死者タイプ、反応増大、再生始まります。気をつけて、敵ファンガイアタイプ…来ます!』

風花の警告と共に浮かび上がる刑死者の仮面。それはハングドマンを構成していた黒い泥の様なモノだけではない。まるで、街中から外に出たシャドウを吸収する様に次々と集まっていく。

「なに、あれ?」

「嘘だろ?」

思わずそんな声を上げるゆかりと順平。

「バカな」

「おいおい、階級が違いすぎるぞ」

流石の上級生二人…美鶴と明彦も驚愕のあまりそれ以外言葉が無いと言った様子だ。

「…過去最大の大きさであります」

「…言われなくても分かるよ…これは」

思わず見上げてしまいたくなる巨大な姿。シャドウの仮面が何処に有るのか等どうでも良い上に検討もつかない。

「おいおい…嘘だろ、これも有りなのかよ?」

ポケットの中から顔を出しながらキバットも奏夜にだけ聞こえる様に気をつけながらまた呆然と呟く。

「…『サバト』なんて…」

キバットの呟きがその新たな敵の名を告げた。敵、ファンガイアタイプ改めファンガイアタイプ・サバトは自らの産声を上げる様に咆哮を上げた。

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