ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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第六十四夜

ハングドマンを倒し無事影時間が消滅し、S.E.E.Sとしての活動が全て終わったとしても、彼等を包む学生としての日常はそんな事はお構いなく過ぎていく。

特に、それが適応できない者、現実では認識されない時間である“影時間”の中で起こった戦いで在れば、尚更だ。

そして、最後となった11月3日の作戦終了の翌日も水曜日。週のド真ん中であり、当然ながら通常の授業はある。

「はぁ……」

「本当にお疲れ様、奏夜くん」

昼休みの屋上で横になりながら溜息を吐く奏夜の姿に苦笑を浮べながら改めて労いの言葉を告げる風花。

「うん……。……やっぱり、作戦終了の次の日が授業って言うのってやっぱり憂鬱だね……」

「うん、そうだよね」

特に奏夜の場合はキバに変身しての戦闘に加えて、正体を隠す必要がある。最近はキバが人類の敵だと言う誤解も解けているのだが、正体についてはまだ隠すべきと考えた結果でも有るのだが……

「……そう言えば、今朝からアイギスが居なかったけど」

「うん、なんでも理事長と一緒に研究所に行ってるみたい」

「なるほどね、一身上の都合で保護者と一緒に実家に戻ってる訳だね」

「そうだね」

人気がないのは知っているが、それでも誰かに聞かれていないとは限らない。疲労があるとは言え其処まで油断しているとは思いたくは無いが、それでも一応はフォローしておくのに越した事は無い。まんざら嘘でもないのだし。

付け加えると、アイギスと一緒にイクサナックルも一度メンテナンスの為に研究所に持って行った。

流石にパワードイクサーを使ってサバトレベルの巨体の相手との戦闘での運用は前回の戦闘が初めてだった為に、あれで最後とは言え一度メンテナンスしてみる必要が有るらしいとの事だ。

「ねぇ、奏夜くん……。これで全部、終わったのかな?」

「さあ……ね。でも……」

魔術師から刑死者までの12のアルカナに属する大型シャドウの中の、最後の大型シャドウであるハングドマンが変化したサバトを倒した瞬間に影時間が消滅したとしても不思議では無いのに、先日はそうではなかった。

何時も通りに(・・・・・・)影時間は明けて行った。全ての大型シャドウを倒したと言う当初の目的を達成したと言う、勝利に水を差したくなくて黙っていたのだが……

「……油断だけはしない方が良い……」

そう呟く奏夜の脳裏に一つの音楽が蘇って来る。聞いていて不快になる幾月の心から時々聞こえるドロドロとした狂気に満ちた、音楽と言う言葉に対する冒涜の様に聞こえる吐き気さえ覚える“醜い音”。

「……もう、ペルソナとか、シャドウとか、影時間とか、普通じゃ考えられない事に直面してるんだから……何が有っても、不思議は無いんだしさ」

少なくとも、幾月は何かを隠している。確証は無いが、油断だけはしない方が良いだろうと言う判断だ。

「うん……そうだね。でも、今夜の祝勝会に間に合えば良いんだけどな、アイギスも」

「そうだね。最悪……アイギスとはこれでお別れかも知れないんだからね」

アイギスは人格を持っているとは言え対シャドウ用の兵器。必要の無くなった兵器は封印・凍結・解体の何れかの道だ。そうであるべきだと思っているが、

(……人に近い兵器……。心を持った兵器か……対シャドウ用って言うのは、幸運なのかもね。ぼく達にも、アイギスにとっても)

そんな事へと考えが向かってしまう自分に苦笑する。

「しっかし、なんか締まんね~よな~。折角の祝勝会に全員集まってないなんて」

「まあ、仕方ないよ。アイギスや幾月さんにも都合があるんだし」

「仕方ないじゃない。あんたみたいな暇人とは違うんだから」

「う……」

順平の呟きに対して奏夜とゆかりが返す。特にゆかりは何時もながら辛辣な一言で。詳しい説明すると、十二体目の大型シャドウ・ハングドマンを倒した翌日の夜、S.E.E.S(特別課外活動部)の面々は祝勝会と称してラウンジに集合していた。

残念ながら、幾月とアイギスはメンテナンスとその付き添いの為に遅くなると言う事だ。アイギスだけでなくイクサの方のメンテナンスも行うと言う事なので、無事に間に合ってくれれば良いと思っている。

アイギスだけでなく、武器と言う形では有るがイクサもS.E.E.Sの仲間の一人で有る事に間違いない。

「そう言うな。あとで理事長とアイギスも合流すると聞いている。先ずは私達だけで楽しもう」

「うむ。君達の功績は、人に知られぬ事とは言え、計り知れないものだったのだ。今宵は存分に楽しんで欲しい」

全員が揃っていない事に対して不満げな順平を諌める美鶴。そして、彼女の言葉に続いたのは最後の大型シャドウを打倒した事に対する労いに来てくれた美鶴の父である武治だ。

だが、全員が揃っていないと言う点では未だに病院に居る荒垣の事もある。どっちにしても、本当の意味では全員が揃っては居ない。

少なくとも、此処に居ない者は兎も角、此処に来れない者の分まで楽しむべきだと、奏夜は考えている。

テーブルの上には武治がお祝いとばかりに様々な高級食材を持ってきたので、デーブルの上は豪華絢爛な世界と変わっていた。そして、テーブルの中央を飾っているのは順平からのリクエストの特上の寿司。

武治は一度言葉を止めると、

「感謝している。……ありがとう」

そう言って奏夜達の頭を下げる。

「あ、いえ、そんな……」

「全ての元凶であった12のシャドウは君等のお蔭で滅んだ。これ以上は何も背負う必要はない。君らは若さの本分を謳歌する権利がある」

そう言って武治は奏夜達へと視線を向ける。

「今夜0時を持って、特別課外活動部は解散となるだろう。戦いに身を投じる必要はもうない。明日からは普通の学園生活に戻ってくれたまえ」

さて、其処に妙にそわそわとしてる順平の様子が目に留まる。

「どうした?」

「あ……いえ」

そう言って取り出したのは一台のデジタルカメラ。

「ハイ! 注目ー。ここで記念写真を撮ろうと思いまーす」

「まあ、本当は作戦終了した時に撮りたかったけどね」

「そっ、本当は昨日現場で撮ろうと思ってたんスけど、影時間で見事に使えませんでした」

「影時間の時は機械と動かないしね」

まあ、記念撮影と言うなら昨日の作戦終了時にしたかったのだろうが、残念ながら影時間の中ではデジカメは使えない。そんな訳で結果的に祝勝会での記念撮影になったと言う訳だ。

「では皆さん、よろしいですか?」

「はいはーい」

そんな訳で武治の連れていた男女の秘書らしき人の一人にカメラマンを頼み、乾がコロ丸を抱き上げて全員が一箇所に集まり、

「おいコラ! 引っ付きすぎだ!」

「えー、良いじゃないっス、真田センパーイ」

うっかりカメラのウレームに移るために明彦にくっつき過ぎていた順平に明彦の裏拳が直撃するというトラブルがあった為に、幾月とアイギスを除いた記念写真は多少トラブルのあった形で終わった。

「うぉっし、食うぜ、超食うぜぇ!!!」

「順平、少しは味わって……ああ、もう!!!」

「順平さん、僕の分まで取らないで下さい」

「むっ、オレの陣地を侵す者は許さん!!!」

撮影が終わり、開放された安堵感からか、晴れやかに騒ぐ面々。

(……ぼくはまだ真実に至っていない……か)

改めて今まで手に入れた真実の断片を考えていくと、其処に考えが至る。どう真実を組み合わせても、それは欠片(ピース)の足りないパズルにしかならない違和感。

そうだとしたら、

(……まだ何も終わっていない……?)

「なんだよ、みんな、もう食わねぇの?」

「ぼくはもう良い」

「私も……このくらいで」

流石に多過ぎたのか宴もたけなわと言う所で料理はまだ残っている。

「先輩達は?」

「今はもう良い」

「…………。そっ……そっスか」

全員が全員満腹の様子だった。

「それにしても、二人ともまだ来ないね」

「そうだよな。アイギスと幾月さん遅いな……」

「そうだね。もう直ぐ……0時だ」

奏夜と順平の言葉が交わされる。S.E.E.S(特別課外活動部)の解散の時間まで、もう僅かしかない。ある意味全ての始まりである影時間の始まりである0時を迎えた時に解散と言うのは、今まで影時間の中で活動してきた奏夜達にとって相応しい時かもれないが、

(流石に荒垣さんは兎も角、全員が揃わずに解散ってのも寂しいものだな……。本当に、全てが終わったなら)

予感は有った。だが、予感が考え過ぎか、それとも真実なのかどうかはもう直ぐ分かる。そして、時計の針は運命の時、午前0時を迎える。

『っ!?』

そして、その時間を迎えた時全員が言葉を失う。世界が暗転する。その異常は感覚としては捉えられるが、真実を告げてくれたのは武治の連れていた二人だった。二人は影時間への適正を持たないタダの人間。そんな二人の立っていた場所には二つの棺……

「んだよコレ……!? 影時間がまた!?」

「順平……“また”じゃない、“まだ”だ」

「可能性はゼロじゃないと思ってたがな」

「実感……あんまり無かったですよね」

比較的冷静に受け止めている奏夜と風花に上級生の明彦とゆかり、そして最年少の乾。逆に一番動揺しているのは一切の疑いも無く影時間が終わったと思っていた順平。ゆかりは同様こそしているが、比較的落ち着いている。

「そんな……」

考えても居なかったと言う現実に押し潰されている様子の順平。無理も無いだろう、全て終わったと思っいたのに、実際は何も終わっていなかった。

(……あのテープじゃ、全てのシャドウを倒したら全部終わるって……)

ゆかりの父が残した最後の記録。桐条のサーバーに存在しているデータ。そして、この場に居ない幾月。それらが一つの答えへと結びつく。

「岳羽さんのお父さんの映像が改竄されているとしたら、それを改竄できたのは……第一発見者だけ……。都合の良い様に映像を改竄した上で、データベースの情報を消せたのは……」

奏夜の推測が響く。深い沈黙の中、奏夜の推測について誰も感想を零せずに居た。そんな誰もが黙り込み、痛いほどの沈黙が流れる。

―ゴーン……!―

その瞬間、何処から響いてくる鐘の音が聞こえてくる。

「ちょっと……なんか聞こえない?」

「これは……鐘の音?」

真っ先に気付いたゆかりの言葉に奏夜が続く。

「どこから?」

「…………これは、学園の方から…………。っ!? 学園!!!」

何処から音が響いて来たのか気が付いたのは奏夜だ。しかも、今は影時間の夜。そんな時に学園と言えば、

(タルタロス!? しかも、鐘の音って……不吉な物しか考えられない!!!)

考え過ぎと言う言葉が虚しくなるほど、現状は最悪の事態だ。一応は想像の範囲とは言え……この鐘の音が想像の範囲を遥かに超えた悪い方向に向かうための最初の一歩としか思えないのだ。

「幾月だ。幾月は……」

奏夜の推測に答えを出す様に武治がこの場に居ない幾月の名前を呟く。

「幾月は何処に居る!? なぜ何も言ってこない!!! アイギスを連れて、イクサシステムを持って、何の理由で遅れているのだっ!?」

「っ!? メンテナンスが長引いているって言う可能性は……なさそうですね」

全ての糸は幾月へと繋がる。いや、これまで感じた幾月の心の音色と、屋久島への量うの時から持っていた疑い。それらが今、確信へと変わる。奏夜は美鶴へと向き直る。

「……美鶴」

「先輩っ!」

「ああ……」

明彦と奏夜の言葉に美鶴は答える。

「みんな出撃だ! タルタロスへ向かう!!」

全員召喚器は深夜零時を過ぎてから返却する為に祝勝会の会場に持ち込んでいる。直ぐにでも出撃は出来る。

「ストップ!」

飛び出そうとした一同を奏夜の言葉が止める。

「先輩、焦り過ぎです。何が有っても言いように……。ここは全員一度部屋に戻って武器を持って。いや、服も作戦用の服に着替えて万全の体制を。念の為に一度薬品等を確認して!」

的確に指示を出す。そして、全員が思いとどまり頷きあう。

「すまない、紅。私とした事が取り乱してしまっていた」

「いえ、流石にこの状況は……予想していても、不意打ち過ぎるから無理もないですよ」

奏夜は美鶴の言葉にそう答える。風花はそんな奏夜に近づいて彼の袖を掴んで不安げに震えながら寄り添う。

「ねえ……いったい何が……」

「分からない。……でも、鐘の音色は学園……タルタロスの方からだ」

「間違いないのか?」

確認するような響きに美鶴の言葉に奏夜は無言のまま頷く。

「みんな、何が起きているか確かめるために、タルタロスへ向かう!!! 出撃の準備が出来次第、ラウンジへ集合だ!」

美鶴の号令に従い全員がそれぞれの部屋へと向かって走る。

「クゥーン……」

「お前は此処で留守番な!」

不安げな鳴き声を上げるコロマルの頭を撫でながら、順平は言葉を続ける。

「なんかあったら、よろしく頼むぜ」

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