ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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第六十五夜

自室に戻った奏夜は装備を整えるとポケットの中にキバットを忍ばせ、ロビーに集合した後にタルタロスへと向かう。

残念ながら現在タツロットはキャッスルドランの方に居るので、エンペラーフォームへの強化変身は出来ないと言うのは不安要素では有るが。

「幾月さん! これは一体どういうことなんスか!?」

順平が幾月へと向かってそう叫ぶ。タルタロスの入り口にて奏夜達S.E.E.Sの面々を迎えた幾月の側には直立しているアイギスの姿があった。今の彼女は何時もの人間と変わらない彼女からは想像出来ない機械その物だった。

「アイギス……あんたどうして?」

「彼女は役目に従って此処に居るだけだよ」

幾月はゆかりの問いに諭すように落ち着いた物腰で答える。

「“兵器”としての役割にね」

「なるほど、最初からそうなるように細工されていた。そう言うわけですか?」

「ははっ、さすがだね、紅くん。思えば、君には薄々ながら気付かれていたみたいだったからね。君の言うとおり、最初から彼女には、僕の指示に従う回路が含まれているんだよ」

薄笑いを浮べながら幾月は奏夜の言葉を肯定する。桐条側の人間である幾月ならば細工もし易いだろうという推測からの言葉だったのだが、見事に正解したようだ。

「あなたは、12のシャドウを倒せば影時間も消えると言った! その為にオレ達は戦ってきたはずです! なのに、これは……!」

そう叫ぶのは美鶴に続いて古くから戦ってきた明彦だ。現実を受け止められていても、明彦にとって納得できない部分も大きいのだろう。

「僕は消えるとは言ってないよ。“すべてが終わる(・・・・・・・)”かも、とは言ったけどね」

「確かにあの時、影時間が消えるとは言ってませんでしたね」

「その通りだよ、紅くん。理解が早くて助かるね、君は。…………そう、絶望に満ちたこの世界に、“全ての終わり”が来るのさ」

「12のシャドウを倒せば影時間が消えると言うのは偽りだった……!?」

そう叫ぶのは乾。

「理事長……はじめから知っていたな……? 目的は……なんですか?」

「ふふっ、良い質問だね、桐条くん。さて、君は色々と考えているようだけど、君はどう思っているのかな……紅くん?」

「12のシャドウを倒した時に何かが起こる。お前はそれを望んでいたが、その為の能力を持たない。だからこそ、ぼく達を利用した。そう、12のシャドウを倒す事が……滅びを到来させるために必要な条件」

「正解だよ。12のシャドウは“破片”。元々は一つになるべき物だったのさ。事故でバラバラになってしまったけど、君達が全てに接触した事でそれは再び一つに合わさったんだ!」

淡々とした様子から一転し、幾月の口調が酷く興奮したものに変わっていく。

「“デス”と呼ばれる究極の存在としてね!!!」

興奮が最高潮に達したのだろう、幾月は高らかとその目の奥に“狂気”とでも言うべき不気味な色を宿しながら、その言葉を叫ぶ。

「……“デス”?」

その言葉によって奏夜の脳裏に浮かぶのは“タナトス”の姿。単純に死神のアルカナだから、死の神のペルソナだからなのかと言う疑問は浮かぶが、それは真実では無い気がする。

「“滅び”を呼ぶ者が蘇る……。この鐘はその祝福の鐘さ。タルタロスはね、その“受信塔”なんだ。だからタルタロスにはシャドウが集まるのさ」

シャドウの王、親、本体と言うべきモノが現れる場所。それこそが、タルタロスがシャドウの巣となっている理由だった。

「全ての死……。しかしそれは全ての始まりでもある……。十年前……僕も研究者として計画に携わって居たんだよ。実験は暴走したけど、タルタロスや影時間はそのせいで生まれた訳じゃない……。あれこそ、“シャドウの力”の正しい現われなのさ!!!」

「タルタロスも影時間も、滅びを迎える為の……言ってみれば儀式の祭壇と神殿と言う所か……」

暴走こそしたものの実験は成功していた。いや、この場合は成功してしまっていたと言うべきだろう。

「だから先代は集めたんだ……。“滅び”を得るためにね」

「“滅び”を得るため!?」

「バカな事を……」

幾月の言葉に驚愕と共に叫ぶ美鶴とは対照的に奏夜は吐き捨てる様に呟く。どう考えても人の手に余るものを集めた挙句、世界でも滅ぼすつもりだったのだろうかと美鶴の祖父に対して、思わず殴りたくなる思いだった。

「人は世界を満たしつくし、真っ平らな虚無の王国にしてしまった!!! もはや、“滅び”によってしか救われない!!! 預言書曰く……“滅び”は“皇子”の手により導かれる! そして“皇子”は全てに救いを与えた後、“皇”となって新世界に君臨する!!!」

何時もの紳士的な姿など感じさせない何かに取り憑かれた様に恍惚とした表情で幾月はそんな事を語り始める。

「僕が“皇子”だ!!!」

「自分の歳と器を考えてから言ったらどうですか、理事長。どう考えても皇子って歳じゃないだろ、アンタ」

高らかに宣言する幾月にそう突っ込みを入れる奏夜。妙にその表情には黒い笑みが張り付いていた。他のメンバーが理解不能の域に達している中でのその突っ込みはより効果的だった様子だ。

そして、ある意味的確過ぎる突っ込みに場の空気が凍りついた。奏夜の表情から鑑みると、どう考えても空気を読んだ上で言っている。

「…………ま、君達は未来の為になる事をしてたんだ。今まで通り僕についてくれば“救済”を得られるよ」

「死ぬのが……救済……?」

「なんだよ、それ!」

幾月の言葉にそんな声を上げる風花と順平。

「……悪いけど、ぼくはお前についていく気は無い」

「そうかい、それは残念だ」

「……ちょっと訊きたいんだけど」

剣を握って何時でも飛びかかれる体制になった奏夜を制する様にゆかりが幾月へと問いかける。ゆかり自身それを聞かずにはいられなかった。幾月の言葉が正しければ、今まで自分達を騙していたのなら……それは、

「十年前の父さんの記録……飛び散ったシャドウを倒せっていう……。あれも嘘だったってこと?」

あの映像は矛盾している。

「ああ……。あの記録は実際に本人が残していたものさ。もっとも……意に沿わないくだりには手を加えたけどね」

「……やっぱり」

「ふふっ、其処まで気付かれていたのか? 本当に油断なら無いね、君は」

奏夜の言葉に幾月はそう言いながらも軽薄な笑みを浮かべる。

「……っ!? 改竄したのか!?」

「そう言う言い方はよくないな」

「良くないも何も、それ以外の何物でもないだろう」

美鶴の声に答える幾月に対して奏夜は静かだが良く響く口調で告げる。時々口元が引き攣っている姿から幾月は頭に来ているのだろう。

「岳羽君、君の父上……岳羽詠一郎氏は実に有能な科学者だった。主任だった彼は当時の若い僕など知らなかっただろうけど、僕は尊敬していたよ」

気を取り直して何処か過去を懐かしむように幾月は言葉を続けていく。

「殆どの研究者がシャドウの能力だけを見ていた中……彼は“滅び”について熱心に研究したようだ」

それは本当にゆかりの父親が優秀だった証拠だろう。周囲の研究者がシャドウと言う未知の存在の能力と言う表面的な面にばかり目を奪われ続ける中、彼は唯一人シャドウの本質を見出していたのだ。

「でも惜しい事に彼は“滅び”の“素晴らしさ”までは理解できなかったようでね」

「何……それ……」

(……いや、理解したんだろう……。“滅び”の“恐ろしさ”を)

奏夜は幾月の言葉にゆかりが怒りを覚える中、そんな感想を思う。推測の域こそ出ていないが、“滅び”と言う物を研究する中、その闇に心を捕われる事無く彼は危険性を正しく理解したのだろう。

「あれは命と引き換えに残された記憶だった!!!」

思わず叫ぶ。怒りを露にしているのはゆかりだけではない。剣を握って睨みつける美鶴も、当の幾月は意にも介していない。

「らしいね。役に立ったんだから、良かったじゃないか」

そして、軽く言ってのける。これ以上ないほど感情を煽り立てる言葉を、易々と。

「全部、利用してたって事だよね。父さんの事も、私も、私達も!!!」

召喚器を構えるゆかり。

「利用なんて人聞きの悪い。世界のためなんだ、しょうがないだろ?」

「世界のため? 笑わせてくれるね……。全部、お前のどうでも良い狂った妄想の為だろ」

ダークオーラを纏いながら奏夜は幾月を睨みつける。美鶴の怒りも意に介していなかった幾月も流石に僅かながら引いている。

「私達の役目は、残された過ちを正す事だ! 私は、それを遂行する!」

既に狂言は聞いていられない。向こうにはアイギスがいるが、数の上では奏夜達の方が圧倒的に優位に立っている。

地面を蹴って幾月達との距離を詰めて剣を振り下ろす奏夜。今までシャドウを葬ってきた一閃は、本来ならば無防備な人間一人簡単に切り裂けるであろう人達は金属同士がぶつかる衝撃音と共に、アイギスに受け止められていた。

「まったく……単純で理解力に欠ける行動だね」

「いや、躊躇無くお前をどうにかしなきゃいけないって言う、至極理性的な考えの上で行動なんだけど、ね!」

アイギスの体を蹴って後ろに飛び仲間達の元へと戻る。

「それを単純で理解力が欠けている行動だって言ってるんだよ。まあ、子供だから仕方ないか……。アイギス!」

多少呆れたように呟く幾月。

「さあ、お前の“役目”を果たす時だ! 彼等を捕らえ、滅びへの“贄”とせよ!!!」

「……了解しました」

抑揚の無い声で呟くと共にアイギスは“オルギアモード”を起動させ奏夜達へと襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ」

奏夜はゆっくりと意識を取り戻す。アイギスが襲い掛かってきた瞬間、明らかに攻撃とは別の衝撃を受けた事から、何らかの罠でも仕掛けていたのだろう。

「うおっ!!!」

「何これ!?」

メンバー全員が捕らえられ、十字架に貼り付けにされている。ペルソナで何とか出来ないかと思ったが、力を感じられない所を見ると何らかの特殊な手段で封じているのだろう。拘束はびくともしない。

(……特殊能力者を捕まえたなら、それを封印するのは当然だよね)

両腕を動かしてみた所、拘束している十字架は通常の金属……そもそもペルソナの恩恵を上回っているキバの鎧による身体能力の強化が有れば、余裕で拘束を解く事も出来る。

(キバット)

ポケットの中で何かが動く気配を感じる。キバットの存在には気付かれなかった様子だ。もっとも、幾月も奏夜がキバだと言う事には気付いていないが。

「どう言う事だ!? 幾月、これは何の真似だ!?」

「!! お父様!!!」

意識を取り戻した美鶴が叫ぶ。彼女の眼前では武治がアイギスによって補足されていた。

「見ての通りですよ。彼らには、滅びの先駆けとして、生贄になって貰う。キバが居ないのは残念だが、これで預言書に示された段取りは全て完了だ……」

其処まで言った後、必死に拘束を解こうとしている明彦へと視線を向ける。

「ちなみに、君達を拘束してるその十字架はペルソナを抑える装置でも有る。力は使えないよ」

「くそっ!」

その言葉を聞いて一層必死に拘束から逃れようとしている面々だが、それが可能な気配すらない。例外なのは、身体能力がペルソナの恩威を受けても普段と大差ない風花と、既に逃れる方法のある奏夜だけだろう。

実際、奏夜は飛び 出すタイミングを計っている。流石にアイギスに武治が拘束されている状況では迂闊に飛び出してもムダだろう。

「貴様、正気か!?」

「勿論。思えば先代も不幸な方だ。何を求めていたのか、世継ぎの貴方は十年経ってもまだ理解できない」

憎悪の感情を向ける武治に対する幾月の反応は憐れみだった。

「いや、そんな老人と狂人の狂った妄想なんて、何億年掛かっても理解できる訳無いだろうが」

「ふ……ふはははは……。随分と余裕そうだけど、キバの助けでも期待しているのかな? だけど、それもムダだよ。対キバ用の罠も幾つも仕掛けてある。此処までたどり着ける訳が無い。辿り着けたとしても罠によって傷付いたキバなど敵じゃ無い!」

奏夜へと幾月は嘲笑を続ける。俯いている用に見せかけて幾月に見えない様に笑みを浮かべる。少なくとも、この場には罠は仕掛けて居無いと言う事だろう。

「父は間違っていたのだ! 死が人の救いなど断じて有るはずが無い!!! 死が人の救いだなど、継ぐべき思想ではない!!!」

きっぱりと断じる武治。その場に居る全員が同じ気持ちだった。だからこそ、影時間を消滅させるために今日まで戦ってきた。

「愚かな! これだけ言っても考えは変わらないみたいだね……」

だが、その意思は幾月へと届く事は無かった。

「今まで色々お世話になったし、貴方だけは生かしてあげようと思っていたけど……。どうやら、邪魔のようだね……。アイギス!」

幾月の呼びかけにアイギスは自らの銃口を武治へと向ける。零距離で突きつけられた銃口、希望も何も無く、撃たれてしまえば即死は逃れられない。

「理事長……随分とキバの事を警戒しているようだけど、よっぽどキバが怖いみたいだね」

奏夜がそう口を開く。

「? は……ははははは……。怖い訳じゃ無いさ。ただ、奴は何処からか実験の情報を手に入れて、邪魔をしようとしていた。詠一郎氏も彼の侵入を助けていたようだしね。まともに相手をするには確かに不確定要素の多い相手だが……」

「だったら……その不確定要素は此処に居る!」

「な、何を……」

「キバット!」

奏夜がそう叫ぶとポケットの中からキバットが飛び出していく。

「オッシャー! 待ってたぜ、奏夜! ガブッ!」

ポケットの中から飛び出したキバットが奏夜の手へと噛み付くと、それにより口内の牙『アクティブファング』から『魔皇力』と呼ばれる力の一種『アクティブフォース』を注入し、秘められた『魔皇力』を活性化させる。

それに合わせ、彼の右手から右頬までステンドグラスの様な模様が浮かび上がり、何処からか現れ、腰に巻きついた鎖が砕け散り、『キバットベルト』を作り出す。

「変身!!!」

「キバって行っくぜー!!!」

そして、彼の叫びと共にベルトのバックル部分『キバックル』にある止り木『パワールースト』へとキバットが停まり、彼の体を『キバの鎧』が纏う。

キバへの変身と同時に奏夜を拘束していた十字架を力任せに引き千切る。

「なっ!? キ、キバだって!!!」

「嘘っ!?」

「まさか……」

「紅が……」

「キバ、だったのか?」

風花以外の全員が奏夜の変身の瞬間に驚きに包まれる。その間は最大限に彼らへと味方する。

ペルソナ『ケルベロス』が武治を拘束していたアイギスを吹飛ばす。それと同時にコロマルの加えていたナイフが武治の手首を縛っている縄を切る。

「コロマル!」

「コロちゃん!」

「ナイスタイミング、コロマル!」

順平、風花、キバの順に最高のタイミングで飛び出してきてくれたコロマルへと賞賛の声を上げる。

「っ!? アイギス!!!」

素早くアイギスは幾月の言葉に従い彼を守るように立ち塞がり、それを取り出す。

「黒いイクサナックル?」

「ははは……。旧素晴らしき青空の会のデータから対シャドウ用の兵装として再生させたイクサシステムだけどね、これはその前に作られた……試作品、いや、完全なるコピーさ!」

《レ・ディ・ー》《フィ・ス・ト・オ・ン》

アイギスの姿が黒いイクサへと変わった瞬間口の部分にあるパーツ、携帯電話型ツール《イクサライザー》を取り出し、

「そのスペック故に並の人間には使えないイクサシステムを通常スペックをペルソナ使いに限定し、通常の人間の時には性能を抑える事で使えるようにしたのが、君達に渡されたイクサだ。だが、これは違う!」

《1・9・3》《ラ・イ・ジ・ン・グ》

イクサライザーに黒いイクサがコードを打ち込むと、全ての性能を開放した漆黒のイクサ、黒い《仮面ライダーライジングイクサ》へと変身する。

「兵器であるアイギスならば、普通の人間だけじゃなくペルソナ使いにさえには扱う事の出来なかったこれを、十全に扱う事が出来る! そう、これが対キバ用の最後の切り札、ライジングイクサだ!!!」

「悪いけど……名護さんの変身したイクサなら兎も角、今のアイギスの使うイクサには負ける気はしないよ!」

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