「ッ!?」
「ぐっ!」
無感情に殴りかかってくるBライジングイクサの拳をキバは両腕でガードする。
ライジングイクサの能力を含めてイクサシステムを完全再現していると言う幾月の言葉が本当ならば、奏夜の聞いているライジングイクサのスペックは確実にキバのキバフォームを上回っている。
加えて、幾月に操られて変身している今のアイギスの動きは機械その物の正確さと冷酷さで、確実にキバを葬ろうと攻撃してくる。
「やめろ、やめてくれ、アイギス!」
人間の力を遥かに超えたキバの能力を発揮した事で拘束から開放されたのは奏夜だけ。最初から拘束されてさえいないコロマルと幾月に操られているアイギスを除いた他のS.E.E.Sのメンバー達は未だに拘束から逃れられていない。
そんな中で美鶴はアイギスに向かって叫ぶ。彼女達に出切る事は叫ぶ事だけ、こんな時に何も出来ない自分自身に憎しみさえ湧いてくる思いだ。
「無駄だよ。今の彼女に君達の言葉は届かないよ」
そんな美鶴の叫びを幾月はそう切り捨てる。奏夜がキバに変身する事に成功し、こうして拘束から脱出したと言っても事態はそれ程好転した訳ではない。
未だにアイギスは幾月にコントロールされている上に、アイギスは今までS.E.E.Sの使っていた物よりも強力なBライジングイクサに変身している。そして、キバの基本フォームであるキバフォームはBライジングイクサに負けている上に、奏夜自身アイギスに対して下手に攻撃は出来ない。
キバが判断に迷っているとBライジングイクサはキバから距離を取り、ガンモードへと切り替えたイクサカリバーをキバへと向け引き金を引く。
「っ!?」
「おわっ!?」
一切の躊躇無く引き金が引かれると、先程までキバの立っていた場所にガンモードのイクサカリバーから放たれた弾丸が撃ち込まれる。
やはり、元々銃を武器としているだけ有り、アイギスの銃撃はソードモードのイクサカリバーやイクサナックルを使う際の補助程度にしか使っていない、順平や明彦の時よりも正確だ。……もっとも、実戦では使い慣れた武器を使う事が多いが。
付け加えるなら、二人よりも銃の腕は奏夜の方が上だったりする。その辺は元々多くの武器を扱えるが故なのだろうか?
まあ、キバに変身できる奏夜が一番上手くイクサを扱えたとしても、下手をすれば戦力の低下に繋がる危険が有るので、これまでの大型シャドウ戦の際の使用は、法王のシャドウと戦った時以外はリーダーと言う理由で辞退していたが。
「くっ!」
なにより、奏夜にアイギスを傷つける意思が無いのだから、キバはBライジングイクサには勝つ事ができず、自我を奪われ幾月に操られているからこそBライジングイクサはキバに勝つ事が出来る。能力以前の問題だ。
「もうやめるんだ、アイギス!」
「……ッ!?」
銃撃を掻い潜りながら直ぐ近くまで近づきアイギスヘとそう叫ぶ。結局の所今の奏夜に出来る事も捕われている美鶴達と大差は無い。言葉を伝えるだけだ。だが、その問いかけが、アイギスに僅かな変化を齎す。
「わたし……は……」
キバへと向けられようとしていたソードモードへと切り替えたイクサカリバーを持った腕が停止し、先程まで無言のままに襲い掛かって来て居たBライジングイクサからアイギスの声が零れる。
「何をしてる、アイギス! 早くキバを、紅奏夜を始末しろ!!!」
「……キバ……紅……あぁ……」
「くっ……出来損ないの人形が!!! もういい!」
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
幾月が懐から取り出した装置を操作すると、再びアイギスの叫び声が聞こえ容赦なくキバを切り裂こうとイクサカリバーが振り下ろされる。
「なっ!?」
自我が戻りかけていたアイギスの突然の凶行に驚きながらも、キバは素早く後ろに跳んでそれを回避する。
「何が……?」
「ふふふふ……。私はかなり優秀な研究者で通っていてね」
アイギスの姿に美鶴が疑問の声を上げると、その理由を解説するように幾月が自慢げに口を開く。
「流石に最大の不確定要素だったキバが内に居たと言うのだけは予想外だったけど、こうして予想できた事態には対策を施していたのさ」
そう言って先程操作した装置を美鶴達に見せ付けるように上げる。
「念の為に彼女の使っているイクサシステムには彼女用に再調整する際に仕掛けをしておいたのさ。万が一彼女が意識を取り戻した時の対策として、彼女の自我を消去するための装置をね」
『っ!?』
幾月とアイギスを除いた全員がその言葉に言葉を失う。
「彼女が対シャドウ用の兵器である最大の理由はペルソナ能力を持っている事だ。元々ペルソナと言う能力は人間の精神、心、自我と言った部分に関係している力と研究されていた。だから僕もペルソナ能力が使えなくなる事を恐れ、彼女の自我を消す様な事はしなかった。だけど……強力な兵器も役に立たなければ何も意味が無いだろう? だからこそ、こうして万が一の保険として、彼女の自我を消し去れるようにしておいたのさ」
「何て事を!?」
「何て事? 私の立場なら当然の事じゃないのかな?」
美鶴の言葉に当然の様に言い返す。確かに幾月の立場ならばその程度の保険はかけておくべきだろうし、アイギスの自我……精神の消去にも躊躇する理由は無いだろう。
「私を……破壊して……下さい……。皆さんを……傷つけたく……ない」
(くっ……)
辛うじて残っている自我でアイギスは己の破壊をキバへと懇願している。だが、幾月の制御下に置かれている彼女のボディの操るBライジングイクサはキバや本人の意思さえも無視して冷酷に襲い掛かってくる。
(何とかして彼女を止めないと……だけど、どうすれば)
「さっき、あのオッサンイクサシステムに細工してあるって言ってたよな。だったら、イクサシステムを外せば良いんじゃないのか?」
「だけど、風花さんのペルソナ能力が無いとフォームチェンジは出来ないし、タツロットも今は手元に居ない。今のアイギスを安全に止めるには……」
「最悪、アイギスちゃんには悪いけど、手荒い手段で止めるしかないか。何か気付くトコ無いか!? あいつ等のリーダーだろ、奏夜!?」
「そんな事言われても……待てよ!」
キバットの言葉に以前アイギスと話したことを思い出す。
~「へー、アイギスの武器ってパーツごと取り替えるんだ」~
~「はい、戦闘用のボディは腕や脚部を取り替える事で私は装備を取り替えます」~
作戦を立てる為と言う事でアイギスの武器についても詳しく聞いた事がある。その際に、『
……以前、他の武器と一緒に売りに行った時苦労した覚えが有るからよく覚えている。流石に最終的にはマネキンを運ぶ振りをして運んだが……。冗談抜きでその時はあの巡査、アイギスのパーツを買い取ってどうする心算なのか……心底疑問だった。
それはさておき、その言葉を思い出しながらキバはBライジングイクサへと視線を向ける。
「キバット……」
「おう」
「アイギスの四肢を破壊する。そうすれば変身解除をさせる事が出来る」
「って、おいおい……大丈夫なのか、それ!?」
「以前アイギスが言っていた……。彼女の両腕や脚部は武装の一部として取り替えることが出来る、って!」
其処まで言った後、慌てて彼女の攻撃を回避する。仮にも仲間の四肢を奪うと言うのは気分としては最悪と言うほか無いだろうが、完全にアイギスの自我が消える前にイクサシステムを解除させなければ、彼女は……死ぬ。ならば、武器として交換が可能な四肢を破壊した上で彼女の扱っているイクサシステムを外すしかない。
意を決してキバはBライジングイクサヘと向き直ると、ファイティングポーズを取り彼女へと向かっていく。Bライジングイクサの振り下ろすイクサカリバーを避けて腕の付け根を狙いパンチをボディに叩き込む。
キバの行動に幾月に動揺が浮かぶ。仲間であるアイギスを相手に攻撃する事は出来ないだろうと思っていた幾月には、予想外の展開だ。その隙を武治は見逃さなかった。既に両腕を拘束はコロマルが解いてくれていた。今はキバとBライジングイクサの戦いに幾月の意識が向いている。
幾月へと向かって走りながら懐から銃を取り出す。それに気付いた幾月も同様に懐から銃を取り出し、互いに相手へと銃を向け……放つ。
影時間の禍々しき夜に響く二つの銃声。
「あ……あぅっ……」
言葉が出ない……。
「……み……つる」
目の前で崩れ落ちる武治。無力な己の前で自分の父は……
「お、お父……様? お父様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあー!!!」
微動だにせずに床に倒れ伏し、ゆっくりと彼を中心に赤い液体が広がっていく。そんな父に向かって必死に叫ぶが、その答えは決して帰ってこない。
(私は、私は……お父様のために……!)
未だにBライジングイクサと戦っているキバの姿が視界に入る。奏夜やコロマルが逆転の一手になる行動を取ってくれたというのに自分は何も出来なかった。父さえも守ることが出来なかった。そんな無力感が強く彼女へと圧し掛かる。
僅かに早く武治よりも引き金を引いた幾月は、フラフラとした足取りでありながらも尚も倒れない。スーツの胸部は血に染まり、傷口を押さえている手の隙間からは血が滴り落ち赤い水溜りを作っている。
致命傷と言っても過言では無いはずの血を流しながら、幾月は叫ぶ。
「じゅ……十年だ、十年を無為にしたんだ……! 先代の時とは違う。今度こそ、いかなる例外も許さないっ!」
幾月を動かしているのはただ狂気のみ。狂気だけが幾月を動かしている。
「ふ……ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。何故分からない。新しい世界には“滅び”が不可欠なんだ……」
狂気と憎悪を込めた視線をBライジングイクサと戦っているキバへと向ける。キバ……奏夜こそが彼にとっての最大の不確定要素、現状を生み出した切欠となったのはキバだ。
「このままじゃ世界は長い年月をかけて腐っていくだけだ……」
「っ!? そんな事はお前が決める事じゃない!」
Bライジングイクサと戦いながらも、そう叫び幾月の言葉を否定する。思い浮かぶのは、祖父の、叔父の、父の、父と共に戦った人々の戦う記憶を思う。だからこそ、そんな人々の戦いの上に作られた世界だからこそ、
「少なくとも、そんな物は……始まる前にぼくがこの手で叩き壊す! キバの名に誓って!!!」
「紅……奏夜ぁぁぁぁぁぁあ!!! アイギス、そいつを処刑しろ! 終わりにしろ!!!」
胸を押さえながら幾月は叫び、憤怒の形相で懐から装置……恐らくはアイギスのコントローラーなのだろう。
「アイギス! 今助ける!」
ダメージによる強制的な変身解除と四肢を破壊した上で変身を解除させる。方法は二つだけしかないが、事態は一刻を争う。
「凄い……凄いぞ、私は! 私は次の世界の“皇”になれる!!!」
二度目の銃声が響くと、幾月は一歩一歩断崖へと向かっていく。虚ろな瞳が見つめるのは、深く暗い闇の下。
「もう少しだ……私が、新世界の、皇子……」
最後に一言言い残し、闇の中へと落ちていく幾月。それが、狂気に取り込まれた男の最後の瞬間だった。
「くっ!」
幾月が死んだとしても最後のコマンドは精神を消去されかけているアイギスは余計に逆らえない。
「だったら……」
横凪に振るわれるイクサカリバーの一閃を避け、そのまま一直線にBライジングイクサと共に断崖から落下する。
「奏夜くんッ!」
そんな奏夜の行動に風花が叫ぶ。キバとBライジングイクサ……奏夜とアイギスの姿もまた断崖より闇の中へと消えて行った。何も出来ない無力さを風花もまた感じている中、浮遊感と共に彼女の体が拘束から開放される。
慌てて奏夜とアイギスが落下していった所から覗き込み、
「奏夜くん! アイギス! 奏夜くん!!!」
風花はタルタロスから落下した二人の名前を叫ぶ。
タルタロスから落下しながらもアイギスの重要部分が有るであろう頭部にダメージが起こるのを防ぎつつ、地面に激突させる。激突前にBライジングイクサの体を蹴って距離を取りつつ、着地する。
「どうだ?」
その衝撃で強制的に変身解除が出来れば良いが、
「いや、それは失敗フラグらしいぜ」
キバットの言葉に其方へと視線を向けると、Bライジングイクサは全身の装甲から火花を散らしながらも立ち上がる。
「……ってか、あのオッサン。妙な装置着ける代わりに安全装置外したんじゃないだろうな」
「有り得るね」
タルタロスからの落下は無事で済むモノでは無いだろうが、それでも仮面のせいでその姿は平然とした様子で立ち上がる様にも見える。
だが、二人の推測が正しければダメージによる強制的な変身解除は不可能、恐らく幾月がアイギスのダメージを無視して戦わせる為に外したのだろう。これで変身解除させる為には無理矢理ベルトを外すしかなくなった訳だ。
『奏夜くん、聞こえる!?』
「風花さん? 良かった、そっちは開放されたみたいだね」
『うん。奏夜くん、アイギスも、無事?』
「……ぼくは大丈夫だけど、アイギスは拙いかもしれない。早く変身解除させないと……」
『うん。私が全力でサポートします。アイギスまで……』
「……そう、だね……」
彼女が何を言いたいのか理解できる。だからこそ、アイギスまであの男の狂気の犠牲にはさせない。
「ガルルセイバーで」
―それで、良いのかな?―
「っ!?」
「おい、どうしたんだよ、奏夜!?」
奏夜の脳裏にだけ響く声。それが奏夜へと言葉を告げていく。
―彼女は君にとって……―
「これって……」
声と同時に奏夜の脳裏に浮かぶのは記憶に無いビジョン。それは、
―憎むべき、仇のはずだよ―
奏夜が両親を失った日の記憶。其処には……
「父……さん?」
黄金のキバの鎧を失い血に染まりながら崩れ落ちる、彼の父、紅渡の姿、そして、
「アイ、ギス?」
返り血を浴びるアイギスの姿……。
「あ、ああ……」
「おい、奏夜、どうしたんだよ!?」
『奏夜くん、しっかりして!!!』
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
キバットと風花の声も届かず絶叫する彼の中から撃ち出されるのはタナトスのペルソナ。そして、タナトスはゆっくりとキバの鎧と重なり、その形を屋久島の時と同じ漆黒のキバへと変える。
「この記憶は……何だ? 何で知らないはずの記憶が……? 父さんが死んだのは、父さんを殺したのは……」
『死神』のアルカナに属する『死』の神の力を宿したキバは……
「君なのか……アイギス!!!」
そう叫び、マントの様に繋がれた棺を翻しながら、漆黒のキバ……『仮面ライダーキバ デスフォーム』はBライジングイクサへと拳を叩きつける。