ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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-Ⅸ- 隠者《ハーミット》
第六十八夜


「だけど本当、これからどうします? 影時間を消すどころか手掛かりもゼロ。それらしい敵ももういないし……」

 

ゆかりが改めてそう口を開く。

 

「……“デス”……。今日紅君が『手掛かりが有るとすればこれだけだ』って」

 

風花から伝えられた奏夜の伝言で先日の幾月の言葉を思い出す。あの時、確かに幾月は“デス”と言う存在が蘇ると言っていた。

 

「結局、あの人の言ってた“滅び”って何の事だったんでしょう。“滅び”を呼ぶ者が蘇るとか言ってたけど」

 

狂人の妄言と切り捨てる事の出来る言葉だが、今までもシャドウやペルソナと言う超常の現象に関わってきた以上、幾月のその言葉が妄言だとはとても思えない。恐らくは近い将来、必ず“滅び”と言うのは訪れるのだろう。

 

「行き成り、『はじめまして』とか言って目の前に現れたりな」

 

「アホらし……」

 

順平のボケにゆかりが呆れたと言った口調で答える。

 

「とりあえず今のオレ達に出来ることが一つある……」

 

明彦が結論付けるように言葉を告げる。リーダーである奏夜やまとめ役である美鶴が不在である以上、現状でのトップは彼だ。そんな彼の告げる言葉を固唾を呑んで待つ一同……。

 

「な……なんスか」

 

全員の心境を物語る順平の呟きに答える様に立ち上がった明彦が答えを告げる。

 

「トレーニングだ!!!」

 

やっぱり明彦は何処まで行っても明彦だった。冷たい空気が流れる中その場は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

キャッスルドラン……

 

机に前に座りながら手にしたカードの束をゆっくりと広げる。

 

「なんだよ、それ? タロットカードか?」

 

「うん、帰り道で買ったんだ。カード自体はその辺で売ってる安物だけど、どちらかと言うと今はこのカードの名前に用がある」

 

そう言って奏夜はタロットを一枚ずつ手にとって並べていく。

 

「魔術師、女教皇、女帝、皇帝」

 

寮、モノレール、タルタロス一階で戦った大型シャドウを思い出しながら四枚のカードを並べる。

 

「法王、恋人、戦車、正義」

 

次はホテルと防空壕で戦った大型シャドウを思い出しながら並べていく。

 

「力、隠者、運命、そして……刑死者」

 

最後にその四枚のカードを並べ、全部で十二枚のタロットを並べ終えた後キバットへと視線を向ける。

 

「これがぼく達が今まで倒してきた大型シャドウで、同時にタルタロス……と言うよりも影時間に存在するシャドウの属するカテゴリーだ。だけど……」

 

「おう。タロットはまだ半分も残ってるし、もう一体だけ13番目のカテゴリーのシャドウが居るって言ってたよな」

 

「そう……最後の13番目のカテゴリー。それが……」

 

ゆっくりと12枚のタロットに続けて13枚目のカード『死神』のカードを置く。

 

思い出すのは己の中に存在する『タナトス』の姿とタルタロスの中で一度だけ遭遇した『刈り取る者』の姿。

神格を与えられた死である死の神タナトスはこのカードのイメージに相応しいだろう。そして、唯一あのシャドウだけが現在確認されているシャドウの中で死神タイプに分類されている。

その二つが死神のカードを象徴している。

 

「……死神(デス)……」

 

「つまり、もう一体大型シャドウが残ってるって事か?」

 

「いや、事実はそんな単純じゃないと思うよ。それに、幾月は『蘇る』って言っていた。それに……奴の言葉を信じれば、デスを倒した所で事態は何も好転しない」

 

幾月の言葉を思い出しながら奏夜は残ったタロットの束を机の上に無造作に置く。

 

「奴は言っていたデスは『“滅び”を呼ぶ者』だと。まだ、デスの呼び出した正体不明の“滅び”が残っている」

 

「つまり、奏夜は“滅び”とか言うのが……」

 

「ぼくは、影時間の本当の元凶だと思ってる」

 

それをシャドウと呼ぶべきかは分からない。だが、同時にシャドウの親玉であり影時間の元凶である可能性だけは高い。

 

そう告げて広げたタロットカードを集めていると一枚のカードが手元から落ちる。

 

「ん? これって……」

 

「そう言えば、ペルソナのカテゴリーにも存在してないカテゴリーが有ったね」

 

そう呟きながら『21』のアルカナ……『世界』のカードを拾い上げる。ペルソナのカードを作ってきたが何故か『世界』のアルカナのペルソナは作れなかった。

“先輩”が言うには過去のペルソナの中には『世界』のアルカナに属しているペルソナも普通に存在していたらしいが。

 

(……ぼく達と先輩達じゃペルソナ使いの能力も大きく違うらしいしね)

 

今では奏夜だけしか使えないワイルドの能力であるペルソナチェンジ。ゆかり達は単一のペルソナしか扱えないが、過去のペルソナ使い達は自由にペルソナを付け替える事が出来たそうだ。

 

「それで、これからどうするんだよ、奏夜?」

 

「やるべき事は決まってる。…………“滅び”を倒す、それだけだ…………」

 

決意を込めた声で奏夜はそう告げる。

 

「……良いのか、奏夜? 風花ちゃんや他の奴らに何も言わないで……」

 

「風花さんには言う心算だよ。結局、影時間の中で全力で戦うには彼女の協力は必要だ。だけど……」

 

アイギスを破壊してしまった事、武治を助けられなかった事、もう少し上手く行動していれば結果は変わったかもしれない。そんな自分がどうやって顔を出せば良いのか。

 

「……ここからは、ぼくの、戦いだ……」

 

それはまるで仲間達との決別の意思を示すかの様に、制服の上着を脱ぎ捨てる。

 

「ったく、渡とは別の意味で面倒な奴だな、お前は」

 

「……ごめん、キバット。でも、さ……」

 

決意を込めて、決意を抱いて、

 

「父さんが、叔父さんが……みんなが守った世界を、絶対は終らせはしない」

 

静かにそう宣言する。

 

 

 

 

 

 

 

 

寮……

 

「ゆかりちゃん」

 

自室に戻る途中ゆかりを風花が呼び止める。

 

「あのね……理事長の部屋の物、全部回収されちゃったんだけど、その前に理事長のパソコンを調べてみたら、ハードディスクの中に映像が残ってて……」

 

そう言って彼女はゆかりに一枚のCDを差し出す。

 

「殆ど消されかかってたんだけど、何とか復元してみたの。きっと、ゆかりちゃんの大切な物だと思う」

 

「ありがと……あとで見てみるね」

 

ゆかりはCDを受け取ると風花の微笑みながらそう答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆかりの自室……

 

 

 

―『この記憶が……心ある人の目に触れる事を……願います』―

 

 

 

「これって……あの時の……」

 

風花から渡されたCDを再生すると、ノートパソコンの画面には以前屋久島の別荘で見せられたゆかりの父の映像が映し出される。

 

 

 

―『ご当主は忌まわしい思想に魅入られ変わってしまった。この実験は……行われるべきじゃなかった!』―

 

 

 

映し出された内容にゆかりは思わず驚きを露にする。

 

 

 

―『だから私は強引に実験を中断した……』―

―『しかし、そのせいで飛散したシャドウが後世に悪影響を及ぼすのは間違いないだろう。でもこうしなければ世界の全てが破滅したかもしれない!!!』―

―『頼む……よく聞いて欲しい。くれぐれも聞いて欲しい。散ったシャドウに触れてはいけない!!!』―

 

 

 

「えっ、これ……」

 

炎に包まれる映像の中で告げる父の言葉は、最後に残された父の言葉は屋久島で聞いた物とは全く別の言葉。

 

 

 

―『この研究を……私は止める事ができなかった。悪魔に魅入られたご当主の耳に私ごときの言葉は届かなかった!』―

―『あれらは互いを食い合い一つになろうとする……。そしてそうなれば、全てが終わりだ。もう一度言う……』―

―『散ったシャドウに触れてはならない!!!』―

 

 

 

「ホントの記録」

 

彼女の父の最期に残した本当の最後の記録。

 

「父さん、実験を止めようとしてたんだ……」

 

己の命を賭して実験を止めようとしていた。己の父は決して間違っていなかったと、その記録は告げている。

 

 

 

―『僕はもう助からないでしょう。最後に……一つだけ。これを見たどなたかが、娘に、ゆかりに会うことがあったら、伝えて欲しい……』―

 

 

 

そして、最後に残したのはゆかりへと向けられたメッセージ。

 

 

 

―『帰るって約束したのに、こんな事になってすまない』―

―『でも父さんは、お前と一緒に過ごせて、この世の誰より幸せだった』―

 

 

 

「お父……さん」

 

ゆかりの目に涙が浮かぶ。

 

 

 

―『どうか元気で居て欲しい……』―

―『愛してるよ、ゆかり』―

 

 

 

「お父さん!!!」

 

その言葉を最後に映像の中のゆかりの父は炎の中に消えていく。何年もの時を経て遂に届いた父からのメッセージ。ノートパソコンを抱きしめながら泣き崩れる。

 

「でも」

 

先程までとは違う晴れやかな笑顔で顔を上げる。

 

「無駄じゃなかった。信じてた事、無駄じゃなかった!」

 

今まで父の事を信じていたのは、何も無駄ではなかった。

 

「私は元気だからさ……。随分時間掛かっちゃったけど、メッセージ……ちゃんと受け取ったよ」

 

しっかりとノートパソコンを抱きしめる。

 

「お父さん。私、なんとかしてみるよ」

 

彼女の決意と共に彼女の背後に現れるのは彼女のペルソナ・イオ。

輝きと共にイオに変化が訪れる。牝牛の頭の玉座に座する乙女の姿から玉座を頭部の一部とした女神を模した姿へとその形を変える。

 

大きく光に輝く翼を広げたエジプト神話の女神を象った彫像の様な形のペルソナ。

その名は天空の神の母にして、生と死を操る強大な魔力を持った女神『イシス』。

 

(それでいいよね)

 

晴れやかな表情でゆかりは父へとそう告げる。

 

 

 

―『……………す……か……』―

 

 

 

「え?」

 

その声が聞こえた事でゆかりは再びノートパソコンの画面へと視線を落とす。

 

まだ流れていた炎に包まれた画面。そこに映し出されていたのは……。

 

 

 

―『大丈夫ですか、しっかり!』―

 

 

 

「……これって、キバ? でも、この声……紅くん……じゃない」

 

炎のせいでよく見えないが、倒れた父を抱き起こす黄金のキバの姿。だが、画面の中から聞こえてくるキバの声は自分達が知っている奏夜の声ではない、明らかに違う人物の声。

 

安否を確認して残念そうに首を振るとゆかりの父の亡骸を其処に横たえた所で映像は途切れていた。だが……

 

「これって……どう言う事なの?」

 

その言葉に篭っていたのは色々な意味が篭っていたが、その疑問の声に答えるものは誰も居なかった。

 

ふと、そこで思い出すのは奏夜の事……ゆかりが父を失った様に、奏夜もまた両親を失っている。同じ時期に……。

 

「もしかして……」

 

映像の消えた画面に視線を落としながら続ける言葉……。奏夜がキバで有る事、そしてキバについての情報で教えられた過去のキバが存在していた時期は、明らかに奏夜の年齢よりも以前から存在している。

 

「もしかして、あのキバって……紅くんのお父さん?」

 

翌日……

「あー……」

キャッスルドランの一室、風花から先日のS.E.E.Sの話を聞いていた奏夜は思わず机に突っ伏してしまう。

「あっ、その……ごめんなさい」

「いや、言って良いって言ったのはぼくだから、大丈夫だから。何て言うか……一人で戦うって決めた矢先にこれだからね。昨日のぼくの決意はなんだったのか、なんて思って……」

「奏夜くん、そんな事考えてたんだ」

「……危険は分かってるけど、風花さんには協力を頼む心算、だったけどね」

ジト目で睨んでくる風花に苦笑しながらそう告げる。

「そうなんだ。……あっ、それと……今日、皆さんがこっちに来るそうです」

「そう、なんだ……。それと、先に風花さんには先に伝えておくけど」

思わず頭を抱えてしまうが、風花には前もって己の推測を伝える。

「……“滅び”……」

「うん。デスも多分元凶じゃない。だけど、本当の元凶に至るための手掛かりにはなると思う……。それも含めて推測の段階だけど、みんなには伝えた方が良いね。今後の方針として」

取り合えず丁度良い機会だと割り切る事にした奏夜だった。

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