ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

77 / 83
第七十六夜

(順平、綾時くん、真田先輩、三人とも……本気でごめん)

 心の中でまだ暗いオーラを纏っている三人に対して謝る。今更時間差を付けて女性陣の怒りを買いたくは無いし、明彦は兎も角他の二人は自業自得と言える結果だ。

(……湯煙殺人事件(未遂)は兎も角、色々あったな……)

 夏休みでの屋久島への旅行では仮面ライダーキバーラはファンガイアタイプとの戦闘等色々と大変な事もあったが、修学旅行ではそう言った事は起こらず、平和な物になった。

 だが、キバーラこと奏の言葉で辛うじて荒垣は助かり、ファンガイアタイプとの戦闘もタツロットとザンバットソードの回収の過程で起こった事なのだから、結果としてはどちらも良い物と言えるだろう。

「どうしたの、奏夜くん?」

 修学旅行の事を思い出していた奏夜の顔を覗き込みながら風花が聞いてくる。

「うん、修学旅行が楽しかった……って思ってね」

「そうだね」

「そうだよね、色々ありましたよね」

「ああ、そうだな」

 奏夜と風花の前に座っているゆかりと美鶴の二人が同意する。男子三人と女子四人の計七人がS.E.E.Sの修学旅行に参加したメンバーで、そこに綾時を加えた八人が本来の人数なのだが、何故か奏夜だけ女性陣の方に座っていた。

 その理由は深くは考えず、寧ろゆかりと美鶴の二人の態度の方が気になる。それは悪い意味では無く、良い意味でだ。二人の態度に今まで感じていた溝を感じさせない様子から、修学旅行の時に二人に何か有ったのだろうと感じる。

 改めて修学旅行で廻った場所を思い出す。順平と綾時の二人と一緒に清水寺に行った時だが……一瞬、本気で飛び降りても『奏夜なら無事に済みそうだ』とも思ったりしたが。……実際、其処から飛び降りても結構生存率は高いらしい。普通の人間でもそうなのだから、ファンガイアクォーターの奏夜なら普通に無事で済みそうだ。

 なお、女性陣は有名な縁結びの神社に行ったらしい。……既に奏夜との好感度カンストな風花ちゃんには今更かもしれないが。

 その時に気が付いたのだ。切欠はほんの偶然……お参りをしていた時に浮かない顔の美鶴の姿がゆかりの視界に入った事だった。

 11/17……修学旅行初日まで時は遡る。

 宿泊先のホテルで美鶴は一人昔の事を思い返していた。

『これがタルタロスの内部……』

『特種装備無しで人が入るのは、まだ……二例目と言う事だが……』

 八年前のタルタロスのエントランス。其処に居るのは桐条グループの調査員達と武治……そして、其処場には似つかわしくない幼い日の美鶴の姿があった。調査員の中には若い日の幾月の姿もあった。

『シャドウに通常の武器は通じん。装備など気休めだ。ここにおる者はワシ等の研究所で、“適正”を開発されとる。……十分だ』

 単なる気休め。八年前の幾月の言葉も尤もだろう。重火器でシャドウが倒せれば、奏夜達ペルソナ使いの存在など必要は無い。

『もっとも、“喰われた”とてデータにはなるがな。クックックッ』

(“エルゴ研”の生き残りには変人しか居ないのか……)

 愉しげに顔を歪める幾月に護衛の一人が不快気に顔を歪める。

『それにしても、ご当主……。よろしかったのですか? その……ご令嬢を伴われて……』

『かまいません。私自身が望んで来たのです』

 護衛の言葉に答えたのは武治では無く美鶴だった。

『……あ。……すみません、差し出がましいことを』

 そう言って頭を下げる護衛の一人。だからかもしれない。先程から隣に居る男の様子が編だと言う事に気付いていない。

『う……。……う……ううぅう』

『? ……おい』

 苦しげに呻き声を挙げた事で初めて様子が可笑しい事に気が付く。だが、それは既に遅かった。

『う……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっあああああああああああああああああ!!!』

 頭を抱えて絶叫する男の体から浮き上がる黒いモヤ。それらは黒い怪物を作り出す。

『こ、これは……!?』

 誰が声を上げたのか? いや、全員が声を上げたのかもしれないが、シャドウが出現する瞬間に驚愕の声を上げる。

『シャドウ!!!』

 それに気付いた時には既に遅い。横凪に振るったシャドウの腕が研究員の命を跳ね飛ばす。

『やはりまだ“人工的”に“適正”を発言させるには実験の改良が必要か!?』

 悲鳴が上がる中幾月は狂気の入った声で、今の自分達の成果を確認する。

『ご当主! お嬢様! 後ろへ!!!』

 そう言って護衛が拳銃を取り出して武治と美鶴の二人とシャドウの間に割って入る。

『うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 叫びながら何度も引き金を引くが、シャドウはそれを意に介する事もなく護衛へと肉薄し、その腕を胸に突き刺す。

 飛び散る鮮血と倒れる護衛の姿。そのを目の当たりにした美鶴は、

『お父様!!!』

『美鶴!?』

 脅えるでもなく、父を守るための前に立つ。その瞬間だった。彼女の中からそれが現れたのは。

『ペ……ペペペ“ペルソナ”だ!』

 幼い日の美鶴の家より現れてシャドウを一瞬の内に屠る彼女のペルソナ、ペンテレシア。その姿を見た幾月は歓喜の声を上げる。

『やはりペルソナを……。ペルソナを使える人間は存在する!!!』

 幾月の掻く気の声をBGMにシャドウを屠り、己の役目を終えたペンテレシアは再び美鶴の内へと戻っていった。

 それと同時にペルソナを扱った事による披露から倒れてしまう美鶴。そんな彼女を抱きとめるのは直ぐ近くに居た武治。

『素晴らしいですぞ、ご令嬢っ! “適正自然獲得者”!!! これでこの先に光明が見えましたな!!!』

 桐条の記録の於ける初めてのペルソナ能力の発現。その事実に歓喜の声を上げる幾月。確かに、シャドウと戦うための唯一の手段の獲得の切欠は、今後の為の一筋の光明とも言える。

 例え、その光明の先にあるのが、それが幾月にとっての破滅であったとしても……ペルソナ能力の実在を確認できた事は、彼にとって歓喜に値する事実だったのだろう。

『何を喜ぶか!!!』

 そんな歓喜の幾月に向かって怒りを込めて怒鳴るのは武治だ。その表情に歩浮かぶのは怒りだけではなく、後悔を初めとする様々な感情。

 ペルソナ能力の発現……それが彼の娘に背負わせてしまう宿命を彼は一番理解している。願わくば、それは全て己で清算したかったモノを、娘にさえ背負わせてしまう事になると。

『これでもう……美鶴は贖罪の定めから逃げられない……』

 桐条グループの犯してしまった罪への贖罪。それが自分だけでなく、己の娘へさえも背負わせてしまった事。

『一番輝いている年頃を、我々の負の遺産に縛られて生きる事になる。何が……光明なものか』

 武治にはペルソナと言う力がなかった。だからこそ、この後……桐条グループの贖罪の為に奏夜達の力を借りるしかなかった。

 ……もし、先代の狂った研究を止めてくれていたのなら……それが己の身の破滅でも受容れていたかもしれない……。

 だが、運命は彼だけでは無く……背負わせたくなかった娘を初めとする少年達を選んだ。……奏夜にとっても、キバとしてシャドウと戦うのは一つの宿命だったかもしれない。だが……

『お父様……。心配なさらないで、お父様……』

 掠れる様な声でそんな言葉が響く。腕の中で意識を失っていたはずの美鶴が、後悔の念に捕われていた武治へとそんな言葉を告げる。

『私が、望んだ事ですから。お父様は……』

 それは幼い日の彼女の願いと誓い。そして、叶えられる事のなかった……

『私が守ります』

 彼女の願いだった。

 現在……

「お父様……」

 そう美鶴は誰にともなく呟いた。

 翌日、11/18

 京都の某所、其処に美鶴の姿があった。

「もう戻らないと、夜の点呼に間に合いませんよー」

 そんな美鶴に声を掛けたのはゆかりだった。

「それにこの辺から四条くらいまではカップルで混み出しますよ」

「……どうしてそこまで私に構う?」

 ゆかりの言葉に美鶴はそう返す。

「君と私は戦いによって引き合わされた。そして、戦いは終った」

 ゆかりへとゆっくりと己の感情を吐き出していく。

「目的(・・)も! 倒すべき敵(・・・・・)も! 全てが消えた(・・・)!!! 私に執着する理由など……もう無いだろ?」

 美鶴にとってはそうだろう。奏夜が居たのなら、倒すべき敵が増えたと言っていただろうが、美鶴にとってはそうではない。既に戦う理由の全てをなくしている。

「……そう言う言い方は無いと思いますけど。私たち今まで」

「答えは出たんだ……。これ以上何のために戦えばいい」

 桐条美鶴。……S.E.E.Sを率いて戦ってきた彼女にとって戦う理由は、たった一つだけだった。それは、奏夜の戦う理由が父より受け継いだキバの鎧とキバの名に有るように、

「信じていたものは全て“嘘”。そして……」

「そして……なんですか? 守りたい人も守れなかった……とか言いたい訳ですか?」

 ゆかりの言葉に一瞬美鶴が黙り込む。図星だったのだろう。

「グループの罪滅ぼしなんて、そんなのウソ……。どうせホントは初から“お父様を守るため”だけだったんでしょ!?」

「……ああ、そうさ」

 ゆかりの言葉を美鶴は肯定する。彼女にとっての戦うための理由など、全ては父親を守るためだけだ。

「ああ、そうさ!!! だが見たろ、とんだ茶番だ!! アイツ(・・・)の一番近くに居たと言うのに、丸め込まれて何も出来なかった! ……寧ろ、紅の方がアイツの正体を見破っていた! ……私が紅の様に、いや……ホンの少しでも見破れていれば……」

 そこで一度言葉を切り、美鶴は俯いてみせる。

「……それのせいで……お父様は……」

 彼女の中に浮かぶ感情は後悔の二文字。キバと言う切欠があったとは言え、少しでも疑えていれば……そう思わずにはいられない。

「お父様は、桐条の責任の全てを一人で抱え込んでいたんだ……。私が覚醒したあの事故以来、お父様はまるで死に場所を探して居る様な顔をしていた……。生きる資格がないと言いたげな!」

 その結果があの日の幾月との一件。奏夜とコロマルのお蔭で武治以外の全員が助かったとは言え、心の何処かで探していたであろう死に場所に辿り着いた彼の心境は如何なるものなのか……それは本人にしか分からない事だろう。

「あの顔を二度とさせないための戦いだった!!! だが、全てが無駄だった……。そもそも、私がペルソナに目覚めて戦いに身を投じたのも、お父様の苦しみの一つになっていたのだろうな……」

 間違いなくそれは正しいだろう。元々背負っていた罪に、娘の覚醒……奏夜達無関係な少年少女達を贖罪に巻き込むこと、それが全て彼の苦しみになっていたのだろう。

「私など居なくても良かったんだ!!! そうだろ!?」

 『パァン!』と言う乾いた音が響く、

「……」

「ごめんなさい。でも……無駄かどうかはこれからでしょ?」

 ゆかりの平手が美鶴の頬を叩く音が響かせ、感情を爆発させていた彼女を冷静にする。

「……」

「私、前にこの辺に住んでた事あるんです。まだ誰にも言った事なかったけど、私のお母さん……。お父さんが死んでから、いつも知らない男と一緒に居たんです。それがイヤでいっつもこの辺の川縁に一人出来てました……」

 そう言ってゆかりは美鶴へと笑顔を向ける。

「だから私……。せめて父さんを信じていないと普通で居られなかった」

 そして、一度は揺らぎかけていたそれは、風花のお蔭で間違いではなかったと分かった。

「……お父さん、危ない研究に関わっていたけど、最後は食い止めようとしてくれた。『シャドウを放っておくと危ないぞ』って、体を張って食い止めようって。だから、私、戦うことにしたんです。私……影時間を無くすために戦いたい。お父さんの意思を告ぎたいから!」

 死人には何も出来ない、何も残せない。だが……その意思を誰かが受け継ぐ事だけはできる。奏夜達が渡からキバの鎧と共に遺志も受け継いだように、ゆかりもまた父の意思を受け継いで戦うこと、それを決めた。あの瞬間から、

「……意思。お父様……の意思!? 意思を……継ぐ……!!!」

「うん。それが私に……私達に出来る事だと思うから!」

 ゆかりの言葉が再び彼女に戦う意思を与える。

「……フ、そうだったな。まだ……何も終っていないな。……なら、見届けて貰おうじゃないか! 天上のお父様と、そして、君にもだ!」

 新たな決意と共に立ち止っていた美鶴に再び動き出す力を与える。そして、美鶴の中の決意は、

 彼女のペルソナ、ペンテレシアが砕け散り、彼女のアルカナ『女帝』の名に相応しい新たな姿へと代わる。

 その名は『アルテミシア』。ペルシア戦争に於いてどの将軍・提督にも勝る知略と勇気を示した女王の名を持つペルソナ。

 仮面を付けた騎士と言える姿から変化したその姿は、彼女の心境そのものだろう。

(お父様……ご心配には及びません。私は独りではないのです。そして、もう、振り返ることもしません)

 そう心の中で父へと告げた美鶴の表情には晴れ晴れとしたモノがあった。

「ご覧になっていてください」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。