ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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―大好き……順平……―

 それは、一人の少年の一つの成長の物語……


第七十八夜

「あっ、奏夜君」

 

「風花さん」

 

 キバットと入れ替わりの形で屋上に出てきたのは風花だった。

 

「もしかして、眠れないの?」

 

「うん、ちょっと眠れなくて」

 

 そう言って風花は奏夜の隣に座る。何処か不気味ささえ感じさせる不気味な月を二人で見上げる。

 

「此処が奏夜くんが」

 

「うん。ぼくが始めてペルソナを使ったのは……此処だよ」

 

 キバの力は以前から使っていたが、ペルソナ能力の覚醒が起こったのは、ここで間違いない。此処で最初の『魔術師』の大型シャドウとの戦いで奏夜は初めてペルソナ能力に覚醒した。

 あの時は暴走させるだけだった黒衣の死神……タナトスさえ今は自在に扱えるようになっている。それだけでも過去の自分との差が理解できる。

 

「……ねぇ、奏夜くん。私ね、ストレガの言っていた事を考えちゃったの」

 

 そう呟く風花の表情は自然と暗いものとなっていく。考えてしまったのだろう……力が、ペルソナが無くなった時の事を。

 少なくとも、何人かはペルソナが消えてしまうと言う可能性を考えると、影時間を消す事に躊躇してしまう者も出てくるのだろう……。

 人を襲う怪物と人知れず戦うヒーロー。そんな肩書きは背負う者によっては例え様のない甘美な響きと高揚感があるだろう。……少なくとも、最初からキバと言う力を持っている奏夜にはペルソナ能力などはただ手札が増えた程度の感覚だったが……。

 

「もし、ペルソナが使えなくなったら……私にどんな価値があるのか、って」

 

「風花さん」

 

 ペルソナと言う力から始まった仲間との繋がり……彼女にとってペルソナと言う力が絆の始まりとなった。だからこそ考えてしまうのだろう、『力が消えてしまったら』と。

 

「この力が無くなったら……私に奏夜くんの側にいる資格が有るのかな、って」

 

「そんな事は無い!」

 

「奏夜くん?」

 

 彼女の弱気を吹飛ばすように奏夜はそう叫ぶ。例え彼女が力を失ったとしても、誰かの側に居る資格がなくなると言うことは無い。誰かとの絆が消えると言うことなど無い。何より……

 

「側に居て欲しい、って言うのはぼくの方だからね」

 

 改めても思う……。奏夜が変わったと言うのならば、一番の切欠は彼女に有る。……キバの事から何処か距離を置いていたS.E.E.Sの仲間達と本当の意味で仲間になれたのも、彼女が居てくれたからだろう。だからこそ、彼女は奏夜にとって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11/21(土)

 

「みんなー、修学旅行はどうだった~? 先生、寺なんて興味ないから参ったわ」

 

 ……確かに興味ない者にとっては面白味に欠けるかもしれないが、態々生徒達の前で言うのはいかがなものかと思う。

 

「だからねー、先生はグアムが良いって言ったの。けど誰も賛成してくれなくて……、て言うか皆バラバラでね~」

 

(えーと、これって……)

 

「江古田……先生はもち京都でしょ。小野先生は東北? 何もないっつの」

 

(グ、愚痴だ……)

 

「大西先生は温泉とか言って、竹ノ塚先生はリニアに乗りたいとかさ。寺内先生はダーリンと一緒なら何処でも……とかうるさいし。まとめろっつーのよね。団結しないから毎年京都なのにさー」

 

(愚痴を聞かされてる……)

 

 クラスの全員の心が一つに成った瞬間だった。知りたくも無い教師側の内情と修学旅行の裏側……。はっきり言って生徒の前で言うべきことでは無いと思う……。

 

「火曜からは体験学習ね。面倒な社会科見学だと思えば良いわよ。社会に出るって大変なの。これをキッカケに皆にも分かって貰えそうでうれしいわー」

 

(体験学習か……風花さんと一緒なら楽しそうだけどな……)

 

「その間、先生遊べるしね」

 

 ……色々と台無しに成る一言だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後……

 

 順平は一人病院への道を歩いていた。

 

(京都土産買って来たは良いけど、チドリの奴……喜んでくれるかな……)

 

 そう思う順平の脳裏に浮かぶのは修学旅行前……最後に彼女に会った時の事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11/7(土)

 

「よう、チドリ。悪ィな、ここんとこ来らん無くてさ。色々あってちっとな」

 

「……」

 

「ん……どした?」

 

 彼女……チドリの様子を不思議に思いながらも、一つ載り結論に辿り着いた順平は、

 

「そっか、タカヤとジンって奴の事聞いたのか……? 話さなきゃとは思ってた。チドリの仲間だった奴等とオレ等戦った訳だし……」

 

 そんな順平の言葉をチドリは首を振って否定する。

 

「え……そのことじゃねぇの?」

 

 奏夜達に敗れて海に消えて行ったストレガの二人。……確認こそしていないが、状況から見てどう考えても生存は絶望的だろう。

 

「やっぱり……怖い。苦しい……」

 

 真っ直ぐに自分を見つめている順平から視線を逸らしながら、彼女はそう呟く。

 

「順平……。……順平はあと二年経ったらどうしてる?」

 

「二年……? えと……さあな。進路とかはまだ決めてねーし……」

 

 急に将来のことを言われても、順平はどちらかと言えば戸惑ってしまうタイプだろう。……彼の性格上無理は無いだろうが。

 

 だが、順平は気付いていなかった。チドリの言葉に込められている意思は……希望に溢れた物では無く……『未来』に対する一種の諦めと言う感情が込められている事に。

 

「あ、そういや、チドリ最近あれなくなったよな。ペルソナがチドリの事勝手に傷つけちゃうヤツ」

 

「え……? ああ……そうね……」

 

 ペルソナの暴走……それによる自傷行為……。それが無く成ったと言う事は推測される事は二つ。ペルソナ能力の消失か、或いはペルソナ能力の安定。順平にとってはどちらにしても幸いと言うべきだろう……。

 

「よかったぜ。つか、こんなキレイな手してんのに」

 

「……っ!?」

 

 順平の手が彼女の手に触れようとした時、

 

「触んないでよ!!!」

 

 彼女にしては珍しい大声でそう叫ぶ。突然の拒絶に一瞬だけ戸惑う順平だが……

 

「え……あ、ゴメン。そんな心算じゃ……」

 

「……。痛くて……苦しい」

 

 慌てて謝罪する順平だが、チドリはそう搾り出すように呟く事で答える。

 

「順平が来ると前は楽しかった。良い気分になる事もあった」

 

 それは恐らくだが……彼女の中に芽生えた一つの恐怖の感情が感じさせる『苦しみ』。

 

「でも、今は……違う。痛い……苦しい……こんなの……我慢できない!」

 

「な、なんだよそれ……全然わかんねえよ!? オレなんか嫌われるような事した!?」

 

 ストレガとして終わる事を望み、何も繋がりを作らずに生きてきた頃にて理解できないであろう苦しみ。……その感情を正しく理解できないが故に、生まれる拒絶。

 

「ワケを聞かせてくれよ!」

 

「順平……」

 

 その苦しみから逃れるために……正しく理解できないが故に……手に入れたものへの投げ捨てる事で苦しみから逃れようとする。それが、彼女が『ストレガ』だったが故に今まで一度も感じる事の無かった感情から逃れるために、

 

 

―もう……来ないで―

 

 

 拒絶する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在……

 

 お土産を持ってきた順平は無人となった病室に呆然としてしまう。

 ベットの上に置かれた一冊のスケッチブックがその部屋が彼女の居た病室だとイヤでも理解させ、間違いでは無いと認識させてしまう。

 

「なんだよこれ……? どこ、行っちまったんだよ。チドリ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11/22(日)

 

「風花が反応を見つけた! 私達ではないペルソナ使いがタルタロスの前に来ている!」

 

「ペルソナ使いって、まさか……」

 

 美鶴の言葉にゆかりがそんな声を上げる。……自分達以外のペルソナ使い等、彼女の知識の中ではストレガ以外には居ないだろう……。奏夜にとってはそうでもないが、奏夜の知る彼らが態々こんな形で姿を見せるわけは無い。

 

「風花さん、人数は?」

 

「一人だけです……」

 

(一人だけ……じゃあ、あの二人じゃない、か)

 

 風花の言葉に奏夜はそう考えを広げる。海に落下した事で美鶴達は彼らが死んだと思っているが、奏夜はそうは思っていなかった。……海に落ちた程度で簡単に死なない奴が多いのは、父の代かららしいので。(どう考えても、仮面ライダー関係者限定だ)

 

 だが、タルタロスの前に居るのは一人……二人揃って負けておいて態々一人出て来る理由が理解できないので、彼らでは無いと推測できる。

 

「ただ、この子……」

 

「ただ?」

 

「確か、病院にいたはずじゃ……」

 

 風花の言葉に順平の表情が変わる。血の気が引いたかの様に真っ青になる表情……。S.E.E.Sのメンバーの中で唯一知っているからだ……。彼女が病院に居ない事を。

 

「どう言う事……?ってか、順平! あんた何か知ってんじゃないの!?」

 

「うっせーよ! オレが聞きてーよ!!!」

 

 ゆかりの言葉に順平がそんな叫び声を挙げる。……彼女が何処に行ってしまったのか知りたかった。だが、こんな形では再会したく無かっただろう。

 

「順平……もしかして、彼女は……」

 

 病院では召喚器は持っていなかった筈だ。少なくとも……病院内にそんな物を置いておくわけが無いだろう。だとしたら、

 

(……他の二人が生きていて、彼女を助けた? そう考えるなら辻褄が合う。だとしたら、風花さんの能力に対してジャミングが出来るサポート型のペルソナ能力者が分かり易い所に居るのは……)

 

「順平、みんなも。これは多分……」

 

 考えを広げた後出した結論……。チドリと言う少女がタルタロスの前に居るのは、『罠』だと伝えようとした瞬間、順平が走り出していく。

 

「くそっ!!!」

 

「順平! 待て!!!」

 

 奏夜の静止の声も聞かずに順平は飛び出して行ってしまった。

 

「……ったく」

 

「変わらないな、伊織は……」

 

「そうですね。間違いなく、罠だって言うのに」

 

「紅、お前もそう思うか? だが、放っては置けない。追うぞ!」

 

「はい。それに……間違いなく」

 

 奏夜の言葉の意味を理解したのだろう、明彦と乾の表情が鋭さを帯びる。……彼等の言葉で、予想は確信へと変わったのだろう……。

 

「もしかしたら」

 

「いや、間違いないと思います」

 

「ああ、ヤツラが潜んでいる」

 

 荒垣の仇がそこに居る。……死んではいないが……。

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