ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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キバット「タロットカード。その起源については、エジプト起源説(クール・ド・ジェブラン)、ユダヤ起源説、インド起源説などが唱えられてきたが、いずれも信憑性に乏しく。
歴史上辿れる限りでは、15世紀前半の北イタリアで製作されたのが始まりと思われる。その当時は、貴族や富豪の為に画家が描いた手描きの物が主流で、ゲーム用に使用されていたらしく、この頃のタロットは、元来あった数札に、よりゲームを複雑化するための絵札を追加して行ったものと考えられていて、まだ枚数や絵柄なども確定していなかった。その後、16世紀頃から木版画の量産品が出回るようになり、徐々に庶民へ、全ヨーロッパへと普及して行った。
18世紀頃に、ミラノ辺りでほぼ現在と同じ絵柄、枚数が確立。この当時の絵柄のタロットは、当時一大生産地となったマルセイユにちなみ『マルセイユ版タロット』と呼ばれる。この頃からタロットを神秘的な物と見る風潮が高まり、ようやく占いに多用されるようになる。クール・ド・ジェブランがエジプト起源説を唱えるなどし、それを受けてエッティラが新解釈の『エッティラ版タロット』を創作し、『タロット=神秘的』というイメージを確立する。」


-Ⅱ- 女教皇《ハイプリーテス》
第七夜


 タルタロスの中に入ると、そこは外観に似合った広々とした空間だった。もっとも、得体の知れなさを思わせる概観に反して、何本もの石柱に支えられた空間は中世の神殿を連想させる物では有ったが。

 そして、その空間の中央に座し、己こそこの空間の主であり、その空間が己のために存在していると主張するかのごとく聳え立ち、その中央には先へと続く長い階段が存在していた。

「なんか、気味悪い」

「おお、中もスゲェな」

「……なんだか……嫌な感じがする場所ですね……」

 自分達よりペルソナ使いとして先輩に当たるゆかりでさえ、そんな反応を示す事から考えると、このタルタロスと言う空間の探索自体、今日が初めてなのだろう事はたやすく想像できる。

「ここはまだ『エントランス』だ。迷宮は階段の上の入り口を抜けてからだ」

 美鶴に言われ、奏夜は階段の先へと視線を向けてみる。その奥には装飾が施された壊れた時計を連想させる円状の造形物が扉と一体化していた。

「しばらく探索はお前達三人で行ってもらう」

「え!?」

「…三人と言うと…怪我人の真田先輩は論外として…。…ぼくと、岳羽さんと、順平ですか?」

「そうだ。深入りさせるつもりはない。私は通信でここからお前達をナビゲートする。タルタロスの内部は複雑でな、しかも日によって構造が変わってしまうんだ。」

機材の詰まれた珍しい形のバイクの傍に立ちながら告げられた美鶴の言葉に新人三人だけで探索させる理由に納得する。確かに、ナビゲート…後方からのサポートはタルタロスの中で活動するのにもっとも重要な役割となってくるだろう。

どうでもいいが、『論外』といわれた明彦がショックを受けているのは些細なことだ。

「だが、私のペルソナの能力でなら、内部の構造を僅かだが確認出来る。本当は私もそちらに加わりたい所だが、私は外部から内部を探索する君たちを通信でナビゲートする。……もっとも伝えられるのは声のみだから、君たちの苦労を考えると心苦しいのだが。」

「いえ。前線での戦力よりもこう言う場合は重要な役割だと思いますから。」

「そう言ってくれると助かる。」

順平とゆかりの二人の方を振り向いてみると、二人ともその表情には少し不安げな物が浮かんでいるが、納得したのだろう。…もっとも、納得の前に『渋々と』と言う言葉が間違いなく、つくであろうが。

(…気持ちは分かるけどね…。)

これから自分達が挑もうとしているのはシャドウの巣。どんな奴が潜んでいても不思議ではない場所なのだ。先日戦ったファンガイアの姿を模した強力なシャドウ以上の固体が存在していたとしても不思議ではないのだ。

「安心しろ、今日の所は深入りさせるつもりはない。」

その表情を見て美鶴がそう言い切る。『今日の所は』と言っている所が有る程度の深入りはさせるつもりなのが伺えるが、今日は肩慣らしのつもりなのだろう。特に自分以外の新人組み…特にその中でも戦闘どころかシャドウとの遭遇さえも初めてであろう、順平も存在しているのだ。

「分かりました。」

「それと探索にあたり現場でのチーム行動を仕切る『リーダー』を決めておこうと思う。」

「リーダー? 隊長!? ハイ! ハイハイッ!! オレ、オレッ!」

リーダーと言う言葉に過剰に反応した順平が手を上げて自己主張するが、周囲の面々は冷めた視線で彼を見た後、明彦と美鶴の視線が奏夜へと向けられる。

「……紅、お前がやれ。」

「え゛? ぼ、ぼくですか?」

「なんでっスか!? こいつ、隊長っぽくないっしょ!」

リーダーになれないのが不満なのだろう、順平が抗議の声を上げる。…自分がリーダーと言う立場になってしまうと後々、万が一の場合に姿を隠してのキバへの変身ができなくなってしまう危険があるのだ。

「あ、あの…なんで、ぼくなんですか?」

「彼が実戦経験者だからですか?」

「えっ……マジ?」

口を開いて出たゆかりの言葉に順平が驚きの声を上げる。自分と同じ新人と言う事もあり、同じく実戦未経験と思っていたのだろう。

確かに、奏夜はキバとしてだけでなく、一度だけだがペルソナ使いとしての実戦経験もある。

「…それだけが理由じゃないみたいですけど…。」

いくら実戦経験者でも、そう言う事には向き、不向きがある。故に自分をリーダーに選んだ理由は他に存在していると考えて、そう問う。

「ああ。選んだ理由はもっと簡単だ。順平、それに岳羽もだが………。」

そう言って二人へと視線を向けると、明彦はホルスターから召喚器を抜き、自分のこめかみに宛て、にやりと笑ってみせた。

「ペルソナの召還、紅の様にちゃんとできるか!?」

「も、もちろんっスッ! バッチリ、決めますってッ!」

「私も、大丈夫です。」

「…分かりました。現場の指揮はぼくが引き受けます。」

明彦の言葉に同様を浮かべながらも、二人はそう答える。奏夜はそんな仲間の様子を眺めつつ、覚悟を決めて、既に決定事項となり、断った所で無意味と感じ、リーダー就任を引き受ける事を告げる。

(…やれやれ、大丈夫かね、これからこんな調子で?)

奏夜のポケットの中から顔を出しながら、キバットはそんな事を考えてしまう。奏夜ならば心配は要らないだろうと考えながらも、彼へと嫉妬と言う意識の篭った対抗心を燃やす順平を見て、思わずそんな事を考えてしまう。

「相手はシャドウだ。出来なきゃ話にならないぞ。」

「はい、分かってます。」

「よし。では、探索を頼む。」

美鶴はゆかりの言葉にそう返すと幾つかの装備を渡す。

「君達専用の召還機にガンベルト、傷薬に通信機。少々心許無いが、武器も用意した。」

美鶴の言葉に従い、三人は各自、自分の装備を確認する。三人共通の装備である召還機をガンベルトへと収め、それぞれが迷宮に挑むに置いて命綱となる通信機と、非常用の傷薬を持つ。

その後に確認するのはそれぞれの武装。奏夜に渡された武器は片手剣、奏夜はそれの使い心地を確かめる様に軽く構える。

ゆかりが渡された武装は弓と矢、弓道部に所属している彼女にはもっとも使い慣れた武器であるはずだろう。

そして、最後に順平に渡された武器は奏夜の物よりも大型の両手剣。それを両手で持ち上げながら『スゲー』と言って、玩具を渡された子供の様に喜んでいる。

各自がそれぞれの装備を確認した所で、階段へと向かおうとした時、奏夜は立ち止まり、エントランスの中央へと視線を向ける。

(扉?)

エントランスの隅にある青白い光に包まれた扉が視界の中に止まる。一同の中から離れるとその扉に近づいていく。

「紅君?」

「ごめん、ちょっと待ってて。」

ゆかりの言葉を聴き、その『扉』が普通の人間に視認で来ていない物と判断する。

「キバット…見える?」

「いや、壁しか見えないぞ。何か有るのか?」

「…そう…。今から何が起こっても心配しないで、多分、大丈夫だから。」

小声で話したキバットとの会話に自分の考えが真実と判断、確信を持って、契約者の物とされる鍵を差し込み、扉に手をかける。

軋んだ音と共に開かれた扉、その先には…エレベーターの中の様な部屋の中に置かれたテーブル。それを挟んで奏夜の目の前に座る長い鼻の老人『イゴール』と青い服の女性『エリザベス』の姿があった。

「お待ちしておりました。」

そう言われ、手で椅子に座す様に促されると奏夜はそれに従い座る。

「さ、いよいよその力、使いこなす時が訪れたようですな。」

「そうみたいですね。」

「今から挑まんとする塔は、果たして何故生まれ、何の為に存在しているのか……? 残念ながら現在の貴方では、二つの仮面の力を持ってしても、まだ答えを導く事はお出来にならぬでしょう。」

イゴールの言葉には妙に納得してしまう。父より受け継いだキバの力も完全に使いこなせるとは言えず、まだ『真のキバ』の力は一割も引き出してはいないのだ。

「…なんだか…その答え知ってる様に聞こえますけど?」

探る様にそう問いかけてみても、『さて』と惚けて見せられる。

「しかし、だからこそ、進まれる前に知っておかれるが宜しい。貴方ご自身の、力の本質というものを知っていただきたいのです。」

「力の本質?」

イゴールが言うのだからペルソナの方の事だろう。だが、その言葉には『他の者とは違う』とでも言っている様に聞こえる。

「貴方の力は、他者とは異なる特別なものだ。言わば、数字のゼロの様な物……からっぽに過ぎないが、無限の可能性も宿る。」

そう言うと、イゴールは『オルフェウス』の絵が描かれたカードを取り出す。確かにそこには『0』の数字が書かれていた。

「なるほど…それで、ぼくの力の本質とは?」

奏夜が先を促すと、イゴールは『にたり』と笑いを浮かべて、

「貴方はお一人で複数のペルソナを持ち、それらを使い分ける事が出来るのです。」

「いや、それは想像出来たから。」

思わずイゴールの言葉に突っ込みを入れる。先日、ガルル、バッシャー、ドッガのカードも見せられたのだ。そして、その力は今も自分の中に確かに感じている。

だが、未だにあの『漆黒の死神』だけはその力は感じられない。

「…なるほど、他の人だと一体しか使えないんですか?」

「然様でございます。」

イゴールは神妙に頷いてみせる。

(また、ぼくだけが特別か…。)

自分にだけ与えられた『特別』な力…キバの力だけでなく、自身の中にあるまた他者とは違う力に内心辟易していたのだ。

「敵を倒した時、貴方には見える筈だ……自分の得た可能性の芽が、手札としてね。」

「…敵を倒せばカードを一つ貰える…ぼくだけに採用されたアンティルールですか。しかも、スタートの時点でさえ手札は合計四枚の。」

「然様で。それらは捕らえ辛い事もある。しかし、恐れず掴み取るのです。貴方の力はそれによって育ってゆく……。よくよく心しておかれるが良いでしょう。」

「わかりました。」

そう簡潔に答えると、席を立って扉へと向かっていく。

「──いよいよ私も忙しくなりますな。新たな力を手にした時に、またここを訪れるが良いでしょう。その時こそ、私の本当の役割……貴方への手助けについて、お話しましょう。」

イゴールのその言葉を背中に受けながら軋む音と共に扉が閉じられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、大丈夫?」

後ろから聞こえてきた言葉に振り返ってみるとそこにはゆかりと順平の姿があった。

「うん、大丈夫。心配ないよ、岳羽さん」

その扉の存在もベルベットルームの事も説明でない以上、そうとだけ言って会話を即座に切り上げる。

「紅、大丈夫なんだな? 岳羽と順平には実戦経験がないんだ。お前がサポートしてくれないと困るぞ。」

「大丈夫です。」

明彦の言葉に答え、内部へと続く階段を上り、

「二人共、心の準備はいい?」

奏夜の言葉にゆかりと順平が頷く。それを確認すると奏夜達はタルタロスの内部へと続いていく入り口を潜っていった。

その内部は外見に似合わず異常な光景だった。

例えるならば『騙し絵』の中と言うべきか、『立体迷路』と言うべきか…表現に困る場所だった。外見に似合った異常さを持った空間と言うのが一番適切な空間だろう。

「なんか、気味ワリィな。」

「迷いそう…。」

(…外観…エントランスの広さに比べて部屋の空間が広すぎるな…キャッスルドランの中みたいな所を想像してたけど、はっきり言って全然別物だね。空間が捻じ曲がっている…とでも言うべきかな、これは?)

三者三様の感想を漏らす三人、そんな三人の耳に通信機を通して美鶴の声が聞こえてくる。

『三人とも、聞こえるか?』

「はい、聞こえます。」

通信機から聞こえる美鶴の言葉に奏夜は応答する。

『通信状態は良好だな。ここからは出来得る限り、私が声でバックアップする。』

「えっ…中の様子が分かるんスか?」

美鶴からの通信に答えたのは順平。

『私の『ペルソナの特徴』でな。

(『ペルソナの特徴』…桐条先輩のペルソナは探知能力とかが有るのか…? 次からはキバに変身する時は出来るだけ気を付けた方がいいな。)

そもそも、ただでさ自分がキバである事は黙っておきたい上に、敵とも公言されている身の上なのだから。変身して自分の反応がキバに変わればバカでも気づくだろう、『奏夜=キバ』と言う公式に。

(はぁ、犯罪者の心境ってこんな感じなのかな? はっきり言って理解したくないけど。)

美鶴から聞いた彼女のペルソナ能力に対して、万が一の際にキバに変身する時の事を考えていた奏夜の耳に、再び美鶴からの通信が聞こえてくる。

『いいか? このタルタロスは時間によって中の構造が変わってしまう。ある程度こちらからサポートできるが、くれぐれも三人纏まって行動してくれ。今、君らの居る場所は、既にいつ敵が出てもおかしくない。『習うより慣れろ』だが、充分に注意して進めよ。』

「分かりました。」

「うっす!」

「了解です。」

美鶴からの通信に三者三様の答えを返す。

(…探知能力の妨害が出来るペルソナを手に入れて、変身する前に離れた後、自分の周辺だけ妨害…それ位しか今は『対策』が出来ないな。)

状況から考えて自由に変身するには全員にキバの正体を教えるしかない。だが、それははっきり言って『却下』と言うべきだろう。そもそも、『キバが人類の敵』と伝えた人間の顔がまだ見えないのだ。それは危険過ぎる。

そして、美鶴の立場上、キバの正体を教える事は全員に伝わるだけでなく、影にいる第三者にキバの正体を教える事になる。『キバの正体』は今の自分にとっての最大の切り札(ジョーカー)なのだ。

(…それに桐条先輩も何かを隠している…。隠し事はお互い様って、言う事で許してもらおうかな。)

そんな事を考えながら、三人によるタルタロス探索の講習会は始まった。

映像を写せないのにどうやってこちらの状況…こちらからの話している余裕が無い時はどうするのか疑問に思い聞いてみた結果、奏夜にとっては更に悪い事に、『映像は写せないが解析画像らしき物は見れる』らしい。

『紅! 前方にシャドウ反応だ、分かるかッ!?』

「はい。」

今後のファンガイアの姿をしたシャドウ、美鶴のペルソナ能力に対する対策を考えていた事で意識が思考の中に居たのだろう、美鶴の言葉通り前方から三体程シャドウらしき影が近づいてきている。同族なのだろう、三体とも奏夜がオルフェウスに覚醒した時に始めて倒した敵と同じ姿形をしていたのだ。

「来た!」

そう叫ぶとより強く武器として渡された片手剣を握り、床を蹴り、まだ反応しきれていないゆかりと順平を置いてシャドウとの距離を詰める。

不意打ちの形で振り下ろされたそれが簡単にシャドウの仮面を真っ二つに切り裂き、弾けるような音と共に消滅していく。

「まずは一つ。」

あの時は…最初に戦った時は生身と言う事も有り、オルフェウスの力に頼りっきりになってしまったが、その時の経験からこの固体が…恐らくだが、最弱の固体と推測できる。そして、素早く懐のホルダーから召還器を取り出し、自分の額へと向ける。

「………来い。」

躊躇無く自身へと向けた銃口、そして、引き金(トリガー)を引く。

「オルフェウス!!!」

目の前で行われている有る意味、自殺にも似た光景に未だに動けないゆかりと順平の体が緊張する。しかし、それは当然、奏夜の命を奪う所か、彼に傷一つ付ける事無く、自身の分身…『オルフェウス』の姿を具現化させる。

そして、振りぬいた剣を引きずりながら、後へと下がり召還器を持った手を召還器毎、シャドウへと向け、

「『アギ』!」

次の行動を定めた瞬間、自然と口からそんな叫びが出た。

オルフェウスの能力…技…魔法が知識として彼の中に流れ込んでくる。否、全てを一瞬で『理解』する。それは誰に教えられずとも手足を動かす事が出来るように当然の動作として、オルフェウスの力を発動させた。

オルフェウスが背中に背負うハープを外し、それを鳴らした瞬間に打ち出された炎が残るシャドウを纏めて焼き尽くす。

『アギ』…数ある魔法の中の初級に位置する単独の敵を対象とする初級の火炎系魔法の一つ。その攻撃力は低いが、だが、それは十分に対象としたシャドウを焼き尽くすには十分すぎる攻撃力を有していた。

「ふっ。」

だが、本来は単独の相手を対象とした魔法なのだ。『巻き込まれたニ体目』までは倒しきれなかったのだろう。まだ炎に包まれ、辛うじて生きているそれを横薙ぎに振った剣で切り裂く。

『別格』…二人の中に浮かんだ感想はそれだろう。美鶴からのサポートが追いつく間も無く三体のシャドウを瞬殺したのだ。

奏夜に実戦経験が有るのは、ゆかりは直に見た、順平も話だけは聞いていた。だが、たった一度の戦闘で奏夜と自分達との間にある『圧倒的なまでの』実力差を突き付けられてしまったのだ。

躊躇無く自分に向けてトリガーを引き、二度目だと言うのに熟達した使い手の如く、自在にペルソナを操っており、彼の動きは実戦熟れしている。だが、『そんなもの』よりも、ゆかりが気になっているのは彼の表情だ。

(…ホント、どっちが本当の彼なんだろう…?)

表情一つ変えずに躊躇無く、何の感慨も無くシャドウを葬った彼は今までの彼とは別の人間を見ている様に感じてしまったのだ。

「………。」

その一方でまた順平も別の感情を感じていた。自身の手の中に有る両手剣を握る手に必要以上に力が込められる。その感情の名も、その感情の持つ意味も今は未だ形にすらなっていなかった。だが、確実にその感情は彼の中に芽生えている。

動き始めた運命と初期のタルタロス探索メンバーとなった三人の中に芽生え始めた三者三様の感情。

伊織順平の中に生まれた感情はまだ形を持たず。

岳羽ゆかりの中に生まれた感情の名は『興味』と『疑問』。

そして、『紅 奏夜』の中に生まれた感情の名は『不信』。

だが、

「二人とも…大丈夫?」

仲間を気遣う優しい口調。だが、その中に有る本当の意思は氷よりも詰めたく刃よりも鋭い物。

「え? 大丈夫って…。」

「大丈夫だから。次は私だって、ちゃんとやってみせるからね。」

その真の意味を理解したゆかりはそう答える。それを聞き順平も理解したのだろう、奏夜の言葉の意味に。

今はそれはまだ小さい物、

「それじゃ、行こうか。」

その後次の戦闘は先ほどのシャドウと同族の固体が二体。奏夜が下がる事で奇しくも一対一の状態になった。

「「ペルソナ!!!」」

己へと召還器を向け、引き金を引く。打ち出される『力』と言う名の弾丸。その『弾丸』の名は『ペルソナ』。

奏夜のオルフェウスと同じく炎を操り、物理攻撃能力さえも持つ順平のペルソナ『ヘルメス』

今後の戦いの中で最も重要になるであろう、疾風と癒しの魔法を操るゆかりのペルソナ『イオ』

初陣としては上出来と言った所だろう。

万能型と言える奏夜と前線型の順平、後方での援護に長けたゆかりと、メンバーとしてはこの三人はバランス型と言えるだろう。

そして、記念すべき初探索は最初の階のみで終わりを告げた。

初めての探索という理由もあるのだが、その最大の理由はタルタロス、否、影時間の中では、通常の時間の中より、多くの体力を消耗する事となる事があげられるのだ。

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