ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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 ……これは、一人の少年の成長の物語。

 少年と少女の物語その……終わり。


第八十夜

 ……そこで順平は目を醒ます。朦朧とする意識の中、彼の視界に飛び込んできたのは清潔な天井。

 

「……こ、ここは……?」

 

 見覚えのある景色……何度もチドリのお見舞いに足を運んだ彼女の病室だが、何故其処に自分が居るのか順平は直ぐに理解できなかった。

 

「良かった……。気が付いた」

 

「チドリ……?」

 

 そんな声に気が付いて順平が其方へと視線を向けると。其処には微笑んでいるチドリの姿が有った。

 

「あれ……オレ、たしか……」

 

 死んだはずと口に出しそうになるが、それだとこの状況に説明が付かない事に気づく。

 

「私……間違ってたみたい……」

 

 順平が己の疑問を考える前にチドリがそう呟く。

 

「怖いのも、心が痛いのも、順平が居るせいだと思ってた。だって……順平と会うまで、一度もそんなことなかったから」

 

 その考えは間違いでは無いかもしれない。順平との出会いと関わりが切欠となっているのだろうし。

 

「でも、順平に会って、私……初めて……考えたの……。自分がどうしたいかって……」

 

「君の……したいこと?」

 

 今までは他の二人と共に一瞬を楽しんで生きてきた。未来も過去も考えず刹那の中で一瞬を楽しむ生き方……今を生きるとも違う、そんな生き方の中では考えることも無かったこと……。

 

「私……。順平と一緒に居たい。ずっと一緒に居たい」

 

 それが初めて彼女が考えた事……。本当の意味で今を生きると言う『理由』。

 

「あ……えと。あの……オ……。オレだって君と……」

 

「でも……」

 

 彼女からの『告白』に答え様とした順平の言葉を遮ってチドリの言葉が響く。

 

「辛いの……。だって、あと少しだから……」

 

 刹那を生きる。未来に希望を持たず今だけを楽しむ者の共通点……その多くは、こういうだろう。『未来』と言う物が本人にとって何の意味も無いと。それは、

 

「私達はあなた達と違う……。最初にペルソナを得た時から分かってた……」

 

 

 

 ―“ストレガ”が命を失う日―

 

 

 

 長く生きられないこと。彼女達ストレガが初めてペルソナを手にした時に……本人だからこそ分かっていた。……いや、悟っていたのだろう。長くは生きられないことを。自然に能力を会得した奏夜達とは違う……人工的に生み出されたペルソナ使いだからこそ、その代償は……『未来』だった。

 

「えっ……!?」

 

「考えたら、すごく怖かった」

 

 順平の後ろ……其処に有る花瓶に生けてある大輪の向日葵の花が枯れて散って行く。それは何かを案じさせるような光景にも見える。

 

「自分が死ぬ日のことなんて、今まで一度も想像したこと無かった……」

 

「チドリ……?」

 

「死ぬって……」

 

 今にも消えてしまいそうなチドリへと手を伸ばす順平。そんな順平の手をチドリは両手で握る。

 

「“もう会えない”って事なのね……」

 

 完全に散っていった向日葵の花。

 

「だからね……。これで良かったの」

 

「チドリ……」

 

 彼女の言葉の意味が理解できない。いや、冷静になってしまった頭の中では……理解してしまったが、必死にそれを否定する。そんな中で彼女の手が順平の頬に触れる。

 

「順平は……こんなところで死んじゃダメ」

 

「オレが……死ぬ? えっ?」

 

 順平がチドリに触れようとした瞬間、彼女の体をすり抜けて順平の手が空を切る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「順平!!!」

 

「順平君!?」

 

 タルタロスの前、順平の名を叫ぶS.E.E.Sの面々。

 

「オレ……は……」

 

 そんな中、順平は意識を取り戻す。先程の病室でのチドリとのやり取りを覚えていた。そして、撃たれた事も自覚していた。何故自分が生きているのだろうと考えるよりも先に、己にすがり付いているチドリの姿が視界に飛び込んできた。

 

「チド…………リ……?」

 

「良かった……」

 

 何処か苦しそうに微笑む彼女の表情に順平は嫌な物を感じてしまう。

 

「順平さん……無事なんですか……!?」

 

「信じられん……。蘇生させたのか!?」

 

 乾と明彦が驚愕の声を上げる。目の前で撃たれた順平の姿は見ていたと言うのに、当の順平は意識を取り戻していたのだから。流れる血の量から考えても、外れたとは考えられないだろう。

 

「私の力と逆……」

 

「風花さんの力と逆? まさか、彼女のペルソナは!?」

 

 対極にある物は最も遠く最も近い。故に逆のタイプのペルソナで有る為に風花は直ぐに理解できたのだろう。同時に彼女の言葉から奏夜もそれを理解する。

 

「うん、命を感じ取るんじゃなく、放出するペルソナ……」

 

「……人一人を蘇生するだけの命を放出なんてしたら……」

 

「うん、人一人を蘇らせるなんて……。そんなことしたら」

 

 奏夜と風花の目の前では先程とは逆に力なく崩れ落ち居ているチドリが順平に抱きかかえられている。そんな彼女の側にはゆっくりと崩壊していく彼女のペルソナであるメーティアの姿が有る。

 

「聞こえる……順平の生きてる音……。トクン、トクンって……」

 

「チドリ……」

 

 今にも消え去りそうな声で順平の頬に触れながら呟く。

 

「これで私は……順平の中で生きる……」

 

 ゆっくりと彼女の手が頬から離れていく。

 

「ずっと……一緒……」

 

「おい、チドリ……しっかりしろって! な、何言っちゃってんだよ……」

 

 必死に己の中に浮かんだ答えを否定する。否定していても、順平は理解してしまっているのだ……彼女は、もう……

 

「これからはね……」

 

「チドリ……」

 

「私が……」

 

「何言ってんだよ……。そんな事、ある訳」

 

「順平を守るよ」

 

「ある訳ねぇだろ!!!」

 

「……ずっと……」

 

「あ……ああ、オレもだ!!! オレだって君を守るよ! だから!!!」

 

「やっぱり……良い気持ちだね……。順平と居ると、……良い気持ち……」

 

 そんな彼女から向けられる表情は、儚げながらも心からの……最も人間らしい笑顔。それが彼女の最後の表情。

 

「あり……が……とう」

 

 力無く崩れ落ちるチドリの手。それが彼女からの最後の言葉となった。

 

「…………。…………チ……ドリ? ……」

 

 腕の中に居る少女が既にどうなっているのか? 何故自分が生きているのか? それの答えが腕の中に在る。

 

「…………うそだろ?」

 

 腕の中で温もりを失っていく彼女の体。最後の言葉を残して……彼女が考えていた物とは別の形で、それは訪れた。

 

「……チドリ…………。返事してくれよ……」

 

 何も感じることも無く刹那の中で行き続けたのでは得られなかった気持ちを持って、一人の男の狂気によって人生を狂わされた少女は、大切に思える相手と出会い……。

 

「チドリィィィィィィィィィィィィィィィィイ!!! あああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 その命を終えた。

 

 

 

 ……これは、一人の少年の成長の物語。

 

 少年と少女の物語その……終わり。

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