ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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第八十一夜

 全ての命を順平へと託して散ったチドリを抱きかかえながら慟哭の声を上げる順平。その光景にS.E.E.Sの仲間達は誰も声を掛ける事が出来なかった。

 

「愚かな……」

 

 そんな中、そんな順平の慟哭を嘲笑うかのような声が響く。

 

「こんなにもくだらない最後を選ぶとは……」

 

 侮蔑、嘲り、哀れみ……そんな様々な感情の篭った声の主はタルタロスを背にして立つストレガの一人、タカヤだ。

 

「お前はっ!?」

 

 仲間であった筈の少女の死を、仲間の慟哭を嘲笑う相手の姿に奏夜は怒りを露にして睨み付ける。

 

「…………くだらな……い?」

 

 

―ドックン!―

 

 

「……くだらないって……なんだよ……」

 

 新たな力の鼓動、全身から光を放ちながら出現した傷だらけになっていた彼のペルソナ、ヘルメスの傷跡から太陽のような輝きを持った光が漏れ出す。

 

「っ!?」

 

「な、なんや!?」

 

「これって……?」

 

 その光景に驚愕の声を上げるタカヤにジン、奏夜。

 

「風花……チドリを頼む……」

 

「……う……うん!

 

 帽子を拾い上げながらそう、静かながらも強い意思を持った言葉を呟きながら立ち上がり、ゆっくりとした動作で帽子を被りなおし、タカヤとジンを睨みつけ、腰のホルスターから召喚器を抜くと、それを自分の米神に突きつける。

 

 既に召喚器無しにペルソナは顕現している。……だが、順平は感じ取っていた。まだ完全に彼のペルソナは目覚めていない事を。

 

 ゆっくりとトリガーに力を込め、炸裂音と共に彼のヘルメスが砕け、その中に眠っていた……誕生を心待ちにしていたモノが目を醒ます。

 

 ヘルメスと似た外見ながらも、その姿は真紅の体に雄々しき金色の翼を持った新たな順平のペルソナ。

 

 

 -そは、『ヘルメス』の名を持つ偉大なる存在を同一視する事によって誕生した三位一体の神。錬金術師の祖-

 ―『トリスメギストス』―

 

 

「伊織のペルソナが!!!」

 

「進化した!?」

 

「凄い生命エネルギー……。止め処なく溢れてくる。泉みたいに……!」

 

 美鶴と奏夜が驚愕の声を上げる。既に何人かペルソナを進化させているが、こうして目の当たりにした機会は無かった。全身からあふれ出る力は、順平の怒りとチドリから与えられた命故か?

 

「トリスメギストス!!!」

 

 順平が進化した力の名を叫ぶと、その言葉を待っていたとばかりにトリスメギストスはタカヤへと向かって飛翔する。

 

「タカヤ!」

 

「……っ!」

 

 己へと迫る膨大な力の塊と化したトリスメギストスに対して驚愕が浮かんでいたのだろう、タカヤはジンの言葉にも直ぐに反応できず、結果一瞬と言え致命的な隙が生まれてしまった。

 

 その刹那にトリスメギストスはタカヤの頭を鷲掴みにし、そのままタルタロスの一部へと叩き付ける。

 

「ぐはぁ……!!!」

 

「タカヤ!!!」

 

 叩きつけられた床を粉砕するほどのパワー。ペルソナ使いとは言え人間の体では耐え切れず、タカヤは吐血する。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 強大な力の制御と、チドリとの一戦……それによる消耗も有るだろうが、当の順平の闘士は僅かに揺らぎもしていない。ただタカヤを……チドリの死を侮辱した男を見据えていた。

 

「ドアホが!」

 

 だが、簡単にそれを許してくれる訳がない。

 

「そうそう好きにさせへんわ!!!」

 

 タカヤを助けんと召喚器を取り出し、己のペルソナを召喚するジン。

 

 現れたのはルーレットの様な1から24の数字を持った隻腕の人型……と言ってもまるで生物と言うよりも無機物を思わせるロボットの様なペルソナ。

 

「『モロス』、出番やぁぁ!」

 

 ジンのペルソナ・モロスは一直線にトリスメギストスへと向かって行く。

 

「生憎、ワイに炎は効果あらへんで!!!」

 

 彼のペルソナ・モロスには炎への耐性があり、前回の戦いで順平のペルソナは炎の属性を特異と言う事を知っている。進化しても得意属性や攻撃が劇的に変わると判断していなかったのだろう。

 

「コイツ……まさか……!!!」

 

 だが、トリスメギストスは炎の魔法を使う事無く純粋に力だけでモロスを受け止め、片手で持ち上げ、そのまま地面へと叩き付ける。

 

「順平君、凄い!」

 

「……いや、あれじゃダメだ……」

 

「え?」

 

 奏夜の言葉を肯定するかのように、トリスメギストスは動けずにいるタカヤの頭を鷲掴みにして持ち上げ、再び地面へと叩き付ける。

 

 何度も無造作にたたきつけられるたびに吐血するタカヤ。ペルソナのパワーで叩きつけられている体は骨が砕け、内臓も傷付いているのだろう……吐血を繰り返している。

 

「風花さん、岳羽さん、見るな!」

 

「イヤッ……!」

 

 あれが暴走状態……奏夜が始めてタナトスを使った時に近いことに気付いた奏夜が、風花に見ない様に叫ぶが既に目の前で繰り返されているタカヤの嬲り殺しの現場を直視してしまった風花は、その光景から目を逸らす。風花と同様にゆかりも目の前の光景から目を逸らす。

 

「まさか…………伊織のヤツ…………」

 

「間違いない、順平……」

 

「ペルソナを制御できていないのか!?」

 

{間違いない、あれはぼくが始めてペルソナを使った時に似ている……}

 

 圧倒的な力で大型シャドウであるマジシャンを叩き潰したタナトス。その光景が今のトリスメギストスに重なる。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ、許さ……ねえッ……」

 

 己のペルソナの力の暴走ゆえか自身の順平の体が燃え始め、同時にタカヤの顔面を鷲掴みにしているトリスメギストスの前進が炎に包まれている。ペルソナの力が暴走し、術者である順平さえも傷つけている。

 順平の中にあるのはタカヤへの憎悪……復讐と憎悪の意志が炎となって、順平自信さえも焼き尽くそうとしている。

 

「早まるな!」

 

「駄目です、順平さん! コイツら(ストレガ)と……同じことをする気ですか!?」

 

 己の命を燃やし尽くしてでもタカヤを殺そうとしている順平を止めようとする明彦と乾だが、順平には彼等の言葉が届いた様子は無い。それどころかトリスメギストスは纏っている炎の火力を更に上げていく。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 響き渡るのは生きながら火葬にされると言う苦痛を味わっているタカヤの絶叫。そのあまりにも壮絶な姿にS.E.E.Sの面々は誰も声が出せずにいる。

 

「イヤ……」

 

 そんな中、ゆかりの中に蘇る父の死の光景。

 

「やめて……」

 

 船絵ながら声を絞り出すゆかり……

 

「お願い……だれか止めてよ……」

 

 ゆっくりと奏夜の手がホルスターに有る召喚器へとふれる。

 

「もう誰かが死ぬ所なんて、見たくないっ……!!!」

 

「大丈夫」

 

 涙を浮べたゆかりの叫びに奏夜はそう呟いて一歩前に出る。あのままでは順平は間違いなくタカヤを殺してしまうだろう。例え敵であっても、誰かが死ぬ姿を見たくないと叫ぶゆかりの気持ちも理解できる。

 

「順平!!!」

 

「来んじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」

 

「タナトス!!!」

 

 奏夜の内より出でるは黒衣の死神『タナトス』。二人の叫びと共にぶつかり合うトリスメギストスとタナトス。その衝撃は大きく、全身に大火傷を負って力が抜けていたタカヤの体は簡単に吹飛ばされてしまう。

 

「タカヤッ!!!」

 

 そんなタカヤに駆け寄ろうとするジンの行く手を阻む明彦と乾。

 

「……っく」

 

 その間にも奏夜のタナトスと順平のトリスメギストスのぶつかり合いは続いていく。トリスメギストスの斬撃スキルをタナトスは手に持つ剣で切り払う。

 

「……、ハァ、ハァ」

 

「止めろ順平! 本気で殺す気か!?」

 

「うるせぇ!」

 

「っ!?」

 

 後ろから羽蛾いじめにして止めようとする奏夜を振り払って順平は奏夜へと殴りかかる。

 

「ハァッ……クソッ、クソクソッ」

 

 息を上がらせての拳が奏夜に当たる事無く、順平の拳を全て避けていく。

 

「お前はいつも……」

 

 トリスメギストスとタナトスの戦いも熱を増していくが、奏夜のタナトスが完全に優勢だった。トリスメギストスの攻撃は全てタナトスに切り払われる。

 

「いつも、そうやって……っ」

 

 単純に反撃されていないからダメージを負っていないだけで、反撃に出ればタナトスの勝利で終る事は誰が見ても明らかだった。

 そんな中でタナトスの一撃がトリスメギストスを捉える。ペルソナへのダメージは順平へと伝わり、苦痛の表情を浮べる。

 

「ぐ……あっく……!!!」

 

 体力の限界……一度命を落としての蘇生された直後と言うモノも有るのか、奏夜の襟首を掴みながら順平は崩れ落ちる。

 

「ヒーローぶれやがってよ……ぉ……」

 

 崩れ落ちる順平の視界に移るのはタナトスに押さえつけられているトリスメギストスを移しながら、思う……。

 

(ヒーローぶってるんじゃねぇよな……)

 

 奏夜と重なるキバの姿。最初は幾月の言葉から敵だと思っていた。だが、何度も、何度も大型シャドウやファンガイアタイプとの戦いで助けられるたびにこう思うようになっていた。

 

 『ヒーローの様だ』と。

 

(あいつはヒーローじゃねぇか……どっからどう見ても……立派に)

 

 法王と恋人の大型シャドウとの戦いの際にはイクサの姿を見てこう思った。……自分だってヒーローになれる、と。だが、いざ変身してみたら……キバに助けられる事しかできなかった。

 自分が倒せなかった戦車と正義の大型シャドウ……合体をしている事を知らなかったとは言え、圧倒的な力で叩き潰すキバの姿は、本当に格好良く映っていた。

 

「……ちくしょう……」

 

 改めて思う……己は奏夜に……キバに憧れている、と。だが、自分はたった一人も助ける事ができなかった。

 

「……なりてぇよ……お前みたいに……」

 

 リーダーとしても、ヒーローとしても、順平は奏夜の姿に憧れていた。

 

「エネルギーの放出が……収まってく? 奏夜くん、やりました!」

 

 順平が落ち着いたが故か、タナトスに押さえつけられているトリスメギストスの動きが止まっていく中で、風花の呟きが零れると暴走を止められたことへの嬉しさを隠さずに奏夜へと向かって叫ぶ。

 そんな彼女の姿に自然と微笑が浮かぶ。やはり、奏夜にとって彼女のその表情は……安らぎになる。

 

 暴走するように纏っていた己さえも焼き尽くさんとする炎がゆっくりと治まって行くのが見て取れた。

 

「後は……彼らか」

 

 ジンは兎も角、トリスメギストスの炎に全身を焼かれたタカヤは放っておけばこのまま命を落とすだろう。

 別にそれはそれで問題ないかもしれない。寧ろ、これから咲きの事を考えるとそれを選んだほうが良いのかもしれない。だが、

 

(出来ないよね、そんな事)

 

 そんな奏夜の考えを肯定するように、ゆっくりとゆかりが大火傷を負ったタカヤに近付いていく。

 

「岳羽……」

 

「近付くなや!?」

 

 そんなゆかりに対してジンが己の武器である鞄へと触れる。

 

「タカヤはお前らと違うて大きな事を成す奴や……! 情けなんて必要あらへん!」

 

「何それ?」

 

 ジンの叫びをゆかりはその一言で斬り捨てる。

 

「このまま死なれても気分悪いし……。生きてないと小さな事もできないじゃん……」

 

「君達の負けだよ。大人しくしていた方が良い……君の言う、『大きな事』ってのをやりたいならね」

 

「くっ……」

 

 ゆかりと奏夜の言葉にジンは表情を歪める。その表情は『屈辱』と言った所だ。ゆかりのペルソナ『イシス』の回復能力ならばタカヤを助ける事が出来るだろう。ジンにしてみれば、大きな事を成すにはゆかりの力に頼るしかない。……ジンのペルソナに回復能力などないのだから。

 

 ゆかりの回復魔法を受けながら感情の篭らない目でタカヤはゆかりを見つめていた。同時にゆかりの瞳もタカヤと同じ感情の篭らない目。

 

「タカヤ!」

 

 大火傷が引いたタカヤをジンが抱き上げる。致命傷と言う程の傷だったが、それで助かるのだからゆかりのペルソナの回復能力の高さが伺える。

 

「貸しの心算かしらんが後悔するで……」

 

「別にそんな心算はないわよ」

 

「後悔させたいならご自由に……後悔するのは、そっちだろうけどね」

 

 モロスに乗ってジンはゆかりと奏夜の言葉に表情を歪めながらも、

 

「影時間を消す手立てのないお前らなぞ気にせんでエエと思うてたけどな」

 

「そうだね。こっちにしてみても、影時間を消す方法を探すのが先決……はっきり言ってお前達の事はどうでも良い」

 

 屈辱と憎悪……その二つの感情をS.E.E.Sの面々を見下ろしながら、ジンは彼らへと宣言を叩き付ける。奏夜もまたジン達ストレガを見上げながら挑戦状となる言葉を叩き付ける。

 

「いずれ決着をつける日も近そうやな……」

 

「今回の落とし前は付けさせる……絶対にね」

 

 流石に今はこれ以上は戦えない。思った以上にトリスメギストスを止める為の消耗激しい。

 ……まあ、キバに変身すると言う手段こそ残されてはいるが、それは飽く迄最後の手段、なるべくならば使うことは避けたい。生身の相手をキバに変身して戦うという事態は、色んな意味で気が引ける。

 

「クソッ……待てよっ!」

 

「よせ、もう無理だ!」

 

 消耗した体に鞭打ってタカヤとジンを逃すまいとする順平だが、それを明彦に止められる。

 

「オレは……!」

 

「彼女に貰った命だろっ!?」

 

 明彦の静止も聞かずに動こうとする順平だが、明彦のその言葉に思いとどまる。

 

「託されたんだ……。無駄遣いするな」

 

 様々な感情の篭った明彦の言葉、相応の重さを持ったその一言は憎しみに支配されている順平を思いとどまらせるのに十分だった。

 

 

 

「……チドリ…………」

 

 明彦の言葉に我に返った順平が向かうのはチドリの元。フラフラとした足取りで彼女の元に向かい、倒れている彼女を抱き上げる。

 

「……チドリ……オレ……オレ……」

 

 彼女の体を抱きかかえる。力なく目を開く事のない彼女の重さが……順平に、己に託された物の重さをイヤでも分からせる。

 

「こんなのキツ過ぎっけど……。でもさ……」

 

 思い浮かぶのは彼女との始めての出会い。これまでの彼女との思い出……。

 

「オレ一人の命じゃ、無いんだよな……」

 

 

 それが、一人の少年の成長の物語のエピローグ。




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