ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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第八夜

コーヒーショップ『シャガール辰巳店』

 

「すみません、遅れてしまって。」

 

既に席に座っていたライダースーツの男に向かって、『彼』…『紅 奏夜』はそう声をかけてテーブルを挟んだ席に座る。

 

「気にするな。…それより、頼まれていた物だ。」

 

ライダースーツの青年はそう答え一つの封筒を差し出す。

 

「はい。」

 

封筒の中に有る書類には『『すばらしき青空の会』構成員、調査結果』と銘打たれていた。それを一枚一枚目を通していく。

 

「名護啓介…父と共に戦った『イクサ』だった人…。」

 

そこに書かれている文字を確認すると全ての書類を元に戻し青年へと返す。

 

「お忙しい所、すみませんでした。……先輩。」

 

「いや、いい。『彼』から頼まれていた事だ。」

 

伝票を持って立ちあがると丁度彼と入れ代わる様に奏夜の注文したコーヒーが届けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

探索開始から十数日

 

学園生活や明彦が警察の協力者『黒沢巡査』と引き合わせてくれたりと昼の生活と…夜のタルタロス探索と合わせて十数日が過ぎていた。

 

シャドウの巣『タルタロス』…そこは単純に迷宮が存在しているだけでなく、一定の階層毎に『ボス』と呼ぶべき強力なシャドウが存在していた。

 

実際、各階層の番人とも言えるだけ事はあり、その能力は『ファンガイアタイプ』と呼称されている固体程の戦闘力は無いが、どれもやっかいな相手だった。

 

最初に戦った5Fの番人。鳥の姿をした同種三体のシャドウ、呼称『ヴィーナスイーグル』。『女帝』のアルカナに属すシャドウであり、こちらの上空と言う射程外からのヒット&アウェイの攻撃も厄介な物だったが、一番厄介だったのはこちらの手持ちの魔法『火炎系(アギ)』と『疾風系(ガル)』の魔法に対する耐性だった。

 

空を飛びまわる相手に対して接近戦での攻撃は当たらず、痺れを切らした順平が奏夜の指示も待たず魔法を主体に切り替えた時は逆に不利になってしまった。

 

逆に向こうから進んで炎の中に特攻してくるヴィーナスイーグルと、ペルソナを使た事と自分の放った魔法攻撃が直撃した事による油断で、無防備な状態で敵の魔法攻撃を受けて派手に吹き飛ばされる順平。

 

寧ろ炎に焼かれた事で生命力を強くしているその姿は伝説の不死鳥(フェニックス)を連想させた。

 

しかも、不幸にも順平のペルソナの持つ弱点は、相手とゆかりの得意な属性と同じく疾風系(ガル)だったのでそれは致命傷となってしまった。

 

その結果、ゆかりが順平の治療へと回り、順平の治療が終わるまでの間、奏夜一人で三体のシャドウの相手をする事になってしまったのだ。そして、順平の治療が終わった事で、やっと体勢を立て直す事が出来たのだ。

 

(アギ)は無意味所か相手に利を与える事から、敵に対して使う事を考えから除外し、相手も得意としている事から、ゆかりの持つ疾風(ガル)も通用しないと考える事が出来る。故に奏夜はゆかりに回復以外の魔法の使用を止め、彼女の弓による攻撃を主体にした戦い方に切り替えたのだ。

 

奏夜の考えは巧く行き、室内での戦いが自分達に有利に働き、ゆかりの弓によって次々と打ち落とされて床に落ちていくヴィーナスイーグルを、奏夜と順平が各個撃破していく事で辛くも勝利できた。

 

 

 

 

次に戦ったのは10Fの番人。手袋に『魔術師』を意味する仮面をつけた黒い頭部を持つシャドウ、通称『ダンシングハンド』が三体。

 

ヴィーナスイーグルと同じく疾風に対する耐久力を持ち、得に厄介なのは火炎(アギ)以外にも電撃(ジオ)や、凍結(ブフ)と言った魔法も操り、ゆかりも使う疾風(ガル)の魔法よりもワンランク上の魔法『マハガル』による全体攻撃も持つ。更に精神攻撃と癒し(ディア)の魔法さえも操る等、そのアルカナである『魔術師』に恥じない能力を持っていた。

 

精神力を消費する魔法とは違い、体力を削られるのでなるべく使う事を控えていたペルソナによる物理攻撃。幸いにもそれが有効打となり、勝利する事が出来た。

 

 

 

 

 

そして、現在…タルタロスF14

 

番人のシャドウの特徴として…こちらが一定の範囲に近づくか、こちらが攻撃を仕掛けるまでは向こうから動き出そうとしない事がある。故にこうして相手の姿を覗いながら、ある程度体制を整える事が可能なのだ。

 

目の前に居るのは今までの物より大型のシャドウが一体だけ。顔に当たる部分に着けられているのは『戦車』を意味する仮面。円形の盾の様なパーツの付いた脚部と腕のある所に鋭い刃の様なパーツの着いたシャドウ、通称『バスタードライブ』。

 

単独でいるが、こうして様子を覗っているだけでも、寧ろ今まで三体ずつ存在していた敵よりもその戦闘力は高い物と簡単に推測できる。

 

(仕方ないか…。)

 

既に手持ちの治療薬は底を付いている。ペルソナを使用する為の精神力も無理をすれば、あと一回位は戦えない事も無い。

 

だが、それは飽く迄通常のシャドウを目安とした物で、相手は今までの番人の中でも得に強力な物と推測できる程の敵。ここで無理をするのは不利益しか生まないと判断し、本日の探索を切り止める決断をする。

 

「桐条先輩。」

 

決断を下した後は行動は早い。素早く美鶴との通信を繋げる。

 

『どうした、紅?』

 

「…今日はこれで一度帰還します。」

 

『分かった、では、そのフロアにある転送装置を起動させてくれ。ご苦労だった。』

 

「はい。」

 

帰ってくる美鶴からの返事を聞くと自身の言葉を告げ、奏夜の判断に美鶴も同意の意思を示す。

 

「んだよ、折角ここまで来たっのに。」

 

一人不満の声をあげる順平を一瞥しつつ、熟れた手つきで奏夜は転送装置を起動させる。

 

「残念だけど、もう治療薬が切れた。ここの番人と戦うのは一度戻って準備を整えてからだ。」

 

「んだよ、まだ戦えるだろう。」

 

「ちょっと、順平。」

 

「…確実に勝利する為にも一度戻って体勢を整えたい。リーダーはぼくだからね、判断には「へっ、オレ一人でやれるってとこ見せてやるよ! 華麗に活躍して、リーダーの座ゲットだぜ!」順平!」

 

『待て、伊織!』

 

「順平!!!」

 

奏夜、美鶴、ゆかりの三人による静止の声が響く前に番人『バスタードライブ』へと向かっていく。時は既に遅い、既に順平は敵の領域(テリトリー)に入ってしまっている。

 

「あのバカ!!! 岳羽さん、ぼくと順平のサポート、お願い! ぼくが順平と一緒に前に出る!」

 

「分かった!」

 

ゆかりへと指示を出し、既に戦闘に入っている順平に加勢すべく、剣を持ってバスタードライブへと切りかかる。

 

だが、順平の刀も、奏夜の剣もバスタードライブの透明な壁に弾かれる。

 

「ペルソナ!」

 

弾ける音ともにゆかりの叫び声が響き、疾風(ガル)がバスタードライブの体表へと叩き付けられる。

 

(接近戦は不利…一度離れて…。倒せるまで持つか?)「順平、一度離れてペルソナの魔法で!」

 

その隙を逃さず素早く後に下がりながら順平へと指示を出す。だが、当の順平は何を意地になっているのか、奏夜の指示を無視して効きもしない物理攻撃を繰り返しているばかりだった。

 

「何考えて「うるせぇ!」…バカが。」

 

こっちの指示を聞かずに暴走する様に戦っている順平に怒りを覚え、このまま順平を置いて逃げるべきかとも考えるが、直にその選択肢を頭の中から消す。

 

(まったく、リーダーなんて引き受けるべきじゃなかった。)

 

「紅君。」

 

ゆかりの言葉に我に返るとバスタードライブの動きが醒めた頭の中に刻まれる。ダメージを受けていないはずのバスタードライブが無意味な攻撃を繰り返している順平に対して、反撃するでもなく、『動きを止めている』のだ。

 

(…まさか…。)

 

「おい、なんかヤバイぞ。」

 

ポケットの中に隠れていたキバットが奏夜へと言葉を継げる。そして、奏夜の頭の中に浮かび上がって来るのは最悪の可能性…。

 

「二人共、逃げて!!!」

 

既に叫んで後方へと下がるがもう遅い。彼が警告の叫びを上げた瞬間、バスタードライブより放たれるのは『雷の豪雨(マハジオ)』の魔法。

 

「オワァ!!!」

 

最初にダメージを受けたのは至近距離に居た順平だった。だが、順平のペルソナ『ヘルメス』には耐性こそ無いが『電撃』は弱点ではない。これもいい薬だと思って、ゆかりと自分へと注意を向ける。自分とゆかりの…ペルソナの弱点は電撃なのだ。

 

「グァ!」

 

「キャア!!!」

 

反応が早かった奏夜でさえ、片足を雷に貫かれる。そして、奏夜でさえそうなのだ、『反応できなかった』ゆかりは全身に雷の洗礼を受ける事となった。

 

『紅、岳羽、無事か!?』

 

通信を通じて美鶴からの声が聞こえる。

 

「…桐条先輩…。順平は少し痛い目をみた方がいい位に元気です。ぼくは何とか回避しましたけど、右足に…。岳羽さんは最悪と言った方が良さそうです。」

 

状況を確認しつつ、自分達の現状を美鶴へと報告する。

 

現状は順平の暴走を止められなかった自分のミスと言ってしまえばそれまでだが、勝手に暴走した順平の方に一番責任があるだろう。

 

まだ右足に痺れと痛みが残るが、辛うじて動く事の出来る奏夜はともかく、ゆかりはダメージが大きく、まだ動く事が出来ない。倒れていては召還器を取り出す事も出来ず、集中も出来ない以上、彼女のペルソナ『イオ』の癒しの魔法も使う事は出来ない。

 

(どうする?)

 

自分の手持ちの手段(カード)の中で現状を打破できる可能性が有るのは二つ。一つは勿論、キバへの変身。

 

キバへと変身してしまえば、この悩みなど一瞬で消え去る。キバへと変身すれば目の前の相手に等負けはしない。だが、ゆかりや順平の前で変身する訳にもいかない。ならば、使える切り札はただ一つ…。

 

(仕方ない…使うか。)

 

自分の持つ切り札の一つ、自分の中に座す存在を別のものへと変える。『オルフェウス』に変わって現れる碧色の半漁人…『バッシャー』へと。

 

弱点はオルフェウスと同じく『電撃』だが、幸いにも直に次の『マハジオ』の魔法は使えないのだろう。まだ時間が有る。

 

「『バッシャー』!」

 

(え?)

 

奏夜は自身の中に宿る『仲間』の名を呼び、引き金を引く。ゆかりが奏夜を見た時、撃ち出されたペルソナはオルフェウスではなく、碧色の半漁人、彼が『バッシャー』と呼んだそれはゆかりへと手をかざし、

 

「『ディア。』」

 

碧色の半漁人の放つ癒しの光りがゆかりの体を包み込み、全身の痛みと痺れが消えていく感覚を覚える。

 

「えっと……紅君…それって?」

 

「話は後。次は…君の番だ…奴と…ついでに順平の頭も冷やしてもらう。頼んだよ、力さん。『ドッガ』!」

 

再び、こめかみへと押し付けた召還器の引き金を引くと今度も別のペルソナが奏夜の内より、その姿を表した。

 

「うそでしょ…。」

 

奏夜の内より現れたのは先ほどの碧の半漁人とも、オルフェウスとも違う、紫の巨人。重厚感の有る紫色の体と前方で握り拳をぶつけ合う様な体勢で現れた巨人へと指示を出す。

 

「…順平が倒れない程度に…だけど、『奴』には最大限の一撃を…。『ジオ』!!!」

 

単体が対象の電撃系の初級の魔法をバスタードライブと再び大剣を持って切り掛かろうとしていた順平へと向かって放つ。先ほど同じ魔法で大したダメージは受けていないのだ、巻き込んでも大丈夫だろうと判断した結果である。

 

「ウギャァ!!!」

 

それを受けて後ろに倒れるバスタードライブ…と行き成りの不意打ちで叫び声を上げる順平。バスタードライブを観察しつつ、電撃の魔法を操る割に電撃が聞く物だと思ってしまう。

 

「テメェ! なに「魔法攻撃、早くやれ!!!」オ、オォ。」

 

自分も巻き込む攻撃に対して抗議の声を上げるが、怒気を含んだ奏夜の指示と言う名の叫び声を聞き、おとなしく直にそれに従う。

 

召喚器撃ち出す様な破裂音とともに現れた順平のペルソナ『ヘルメス』の操る炎がオーバードライブの装甲を焼く。奏夜の指示に従った瞬間、今までの苦戦が嘘の様にバスタードライブへとダメージを与えられているのだ。

 

「…もう一度受けておいた方がいい…『自分がされて嫌な事を人にしちゃいけない』って、いい教訓になるよ。」

 

微笑を浮かべながら引き金を引き、現れた紫の巨人から放たれた電撃が再びバスタードライブの全身を焼き尽くす。その一撃に辛うじて耐えていたバスタードライブだが……奏夜の冷たく睨みつける瞳がその姿を捉えていた。

 

「…終わりだ…。『ジオ』!!!」

 

冷たさが感じられ言葉と共に三度放たれた電撃がバスタードライブを打ちぬき、砕け散る様に倒れ、跡形も無く崩れて消えていく。

 

「よ、ヨッシャー!」

 

消え去っていくバスタードライブを見て、強敵に勝利したと言う達成感から、順平は剣を持っていない手を振り上げて勝利の雄叫びを上げている。

 

「…順平…。」

 

「テレッテー…。オゥ、なんだ「歯を食いしばらないで力を抜いて。」へ?」

 

いつも以上に穏やかな声で順平の名前を呼んだかと思えば、衝撃音と共に順平の体が後方へと吹き飛んでいく。それを成したのは順平の頬へと打ち込まれた奏夜のパンチだった。

 

「何すんだよ、テメェ!!!」

 

「ちょっと、紅君!」

 

「悪いけど、岳羽さん、少し黙ってて。」

 

突然の事に順平とゆかりの抗議の声を笑顔を浮かべていながら、有無を言わせぬ言葉で、そう一言だけ答えると、順平へと視線を向ける。

 

「順平…君は自分が何をしたのか…分かってる?」

 

「分かってるよ、シャドウを倒したんだろう!」

 

「違う! ぼくは『そんな事』を言ってるんじゃない! ぼくの指示も聞かず、君の勝手な行動でぼく達は危険に晒されたんだ。特に岳羽さんは危ない所だった。もし、奴があの魔法を連続で使えたら…岳羽さんの命が無かったかもしれないんだ。」

 

「………。」

 

「…今回は警告だけにしておく…。今度また勝手な行動をとるようなら…桐条先輩達と話し合った上でそれなりの罰を受けてもらう。いいね?」

 

そう順平へと告げると通信機の向こうにいる相手へと声をかける。

 

「桐条先輩。」

 

『あ、ああ。』

 

完全に奏夜の気迫に圧されて口を挟む事が出来なかった美鶴は通信機の向こうで奏夜の言葉にそう答える。

 

「…今日はこれで帰還します。」

 

『分かった。ご苦労だったな。』

 

美鶴の返事を聞くとこの階に有る往復可能なタイプの転送装置を起動させていると、ゆかりが近づいてくる。

 

「紅君…気持ちは分かるけど…あれは少し遣り過ぎなんじゃ。」

 

「…確かにね…。でも、今回全員が無事だったのは、はっきり言って運が良かっただけだ。誰かが犠牲になっていてもおかしくなかった。ぼくの切り札が無かったらね。」

 

「切り札って? なんで…。」

 

「ごめん。悪いけど、説明は明日させてもらう。」

 

『本来なら、一人一つだけのはずのペルソナを三つも使えるのか?』と言う疑問を続けたかったゆかりだが、奏夜のその言葉で説明を遮られてしまう。

 

(…また、守られちゃった…。)

 

一階へと転送されながら、ゆかりはそんな事を考えてしまう。結果的に奏夜に守られたのはこれで二回目なのだ。

 

 

 

 

 

 

…もっとも、『キバ=奏夜』に助けられた事は一回と合計でカウントしていいのだろう。まあ、キバの正体を知らない人間に対してはどちらにしろ一回でいいのだろうが。

 

そして、順平の中に湧き上がった僅かばかりの蟠りの種火…『劣等感』と『嫉妬』…そして、『羨望』が生み出した暴走はまだ解決はしていないのだが…神ならぬ身の奏夜にそれを知る術は無かった。

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