遺物使いと幸薄少女   作:黒水 晶

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性懲りもなく戻ってまいりました

とってもとっても亀更新ですが、しっかり完結はさせます


エピローグにしてプロローグ

異世界ミーナエルク

 

十五年前、数百年ぶりに出現した魔王によって人の生存圏が大きく減らされた世界。だが五年前、五人の圧倒的強者が魔王討伐の旅を始め、五年の歳月を経て魔王は完全に消滅させられた。そして勇者達が旅を始めた最初の場所、今では英雄都市など名乗り始めているがその都市のとある酒場

 

「で、どっちに賭ける?」

 

多くの者が席に座り、勇者によって成し遂げられた魔王討伐、その祭りは二ヶ月経っても続いており、多くの賑わいを見せていた

 

その一角に座る男2人と少女1人、その中のスラリとした浅く立っている黒髪の毛を揺らした細い男がそう切り出した

 

チェストプレートとガントレットのみの最低限の装備しか纏っていないが、そのどちらもが無数の浅い傷に覆われているものだ。テーブルにたて掛けられている剣も、鞘と柄が見てわかる程使い込まれている

 

「俺は失敗する方に賭ける」

 

端正な顔に笑みを浮かべもう1人の男に視線を向け、どちらに賭けるか促す

 

その男は大きかった。岩から削り出したかのような顔に非常に厚い胸板、それを支える丸太のような足。それだけ聞くと前線に立つ戦士のように思えるが、彼が纏っているのは法衣にマント、そしてテーブルに杖をたて掛けている魔術師だった。彼は少し乱れていた色素の薄い金髪を後ろに撫で付け

 

彼は一つ鼻を鳴らすと

 

「拙僧も失敗の方だ。アレが成功するとは微塵も思わん。おぬしはどうだファリナ」

 

んー、と少し考え込むような素振りを見せるファリナと呼ばれた少女。彼女も杖を背負い、濃い紫色のローブを纏った魔術師だった

 

少女から大人に変わり始めた、未だ可愛らしいと呼べる顔を少し困り顔にし

 

「賭けが成立しなくなっちゃうけど私も失敗かな~、あの堅物が選ぶ道とは思えないし」

 

さて、彼らが何を賭けているのかだが、ズバリ言うならばここに居ない彼らの仲間の2人の恋が成立するかしないかの賭けであった――いや彼女らと言った方が正しいのだが

 

「ルシャオは民のことを第一に考えないといけない立場だし、リサは貴族連中皆から恐れられてていつ討伐対象にされるか分からないしねぇ。これだけあって成立するって思う方がアホくさいわよ」

 

バッサリとそう切って捨てたルシャオはジョッキを掴むとその中になみなみと注がれていた酒を一気に飲み干し、続けた

 

「だけど、失敗したらリサは世界を滅ぼすでしょうね」

 

「そうであろうな。魔王討伐後一度も面会も出来ぬ始末、そのうえ世界の貴族、王族達が一番恐れているのが剣聖勇者のメルファスでもなく、全てを一に(オール・フォー・ワン)と魔導大聖の名を引き継いだ拙僧すら眼中にくれず、次期魔導大聖最有力候補のファリナでもなく、リサであるからなぁ」

 

「俺も拙僧も単独で国一つ滅ぼせるけど、リサの力は見せてないだけでも俺達を遥かに上回るもんな」

 

うむ、と拙僧やお師匠様と呼ばれた岩のような大男、ミスティカが頷く

 

「その場合無駄な抵抗であろうが住民の避難とリサの奴が城から出てきたあと少しでも時間を稼ぐことをするべきであろう」

 

「意義なーし」

 

「同じく意義なーし」

 

残りの2人が自身の提案に賛成すると一つ頷きを作り、三人揃って立ち上がり

 

「「「じゃあそういうことで」」」

 

まず先陣を切るのが剣聖勇者メルファスと小魔大聖の称号を最年少で与えられたファリナの2人多くの人でごった返す酒場を人との接触をしないで抜け、外に飛び出す。その後に続く後詰は世界に存在する魔術や魔法を全て収め、使いこなせることの証明たる全てを一にの称号と世界最高の魔術師の称号、魔導大聖の二つを持つ最強の魔術師ミスティカ。彼はゆっくりと歩き、人波をかき分け外に出る

 

「成功するに限るがあそこまで追い詰められては正常な思考などできる訳がないのであるからなぁ」

 

空を見上げぼそりと彼は呟いた。そこには満月が美しく、地を照らしていた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

時は戻り宿屋

 

二階建てであり、一階部分は飯屋としても開かれているここは、彼らがこの都市に帰ってきた時から二階の部屋全てを借りて利用している場所だ。だがしかし、人が押し寄せてくるという理由から強烈な人避けの結界を勝手に貼って猛烈な営業妨害をしているため従業員すらいなくなっている。

 

その一部屋、全身を隠す外套を羽織、フードを目深に被った者が扉をノックしようとして

 

「入っていいわよ」

 

そんな声が中から聞こえた。人のものとは信じられぬ澄んだ声はほんの数ヶ月前まではよく聞いたものであった。その言葉に従って扉を開け、中に入る

 

「久しぶりね、ルシャオ」

 

部屋の中だというのにも関わらず、クロークを纏い、フードを被り口元しか見せないという変わらない姿にため息をつきフードを外す

 

「ああ、久しぶりだともリサ」

 

金糸をそのまま髪にしたかのような見事な金色の長髪が零れ落ち、顔も露わになる。今頃認識阻害術式を自分たちに掛け、酒場に入ったであろう三人組もいい顔をしていたが、彼女は別格といってもいいレベルだった

 

顔のパーツ全てが一級の美術品かと思われる程美しく整った顔付に細すぎず太すぎずに鍛え上げられた肢体。魔王討伐の旅の中、常に一番槍として戦った雷撃魔術に限ればミスティカさえ上回るこの都市国家の王女、豪雷槍姫ルシャオ、その人である

 

「お前はちっとも変わらないな、人が居ないところでも未だに顔を隠しているのか」

 

「今まで長く続けてきた習慣をそう簡単には変えられないわ」

 

「なら、私の前でくらいは外せ、今まで散々見たお前の顔を見れないというのは癪に障る」

 

あらあら、と困ったようにフードを外す。女の顔だ、だがそれはルシャオすら霞む程のもので、女神という存在が本当に存在すればこのような人体の黄金律そのものを形にしたものであろう。長い銀髪を月に輝かせ、微笑を浮かべたリサはルシャオに背を向け、窓に近づく

 

「ここからね、あなたが来るのが見えたの」

 

ゆっくりとした声が続く

 

「本当は綺麗な満月を見て、寂しさを紛らわせていたのだけど、あなたが来ると分かって嬉しかったわ」

 

無防備な背を見せ、ゆっくりとゆっくりと言葉を紡ぐリサの言葉に感情が揺さぶられる。ここに来ることになってしまった出来事が嫌でも思い出してしまう

 

曰く魔王以上の脅威、曰く絶対に討滅すべきモノ、そのような言葉が城の中にいるとどこからでも聞こえてくる。この世界に散らばる遺失物、時には強大な力を持つそれらを、使い手すら選ぶ再現不能の力を自由自在に従えるただ一人の存在であるリサにこの国の王族貴族だけではなく、世界中の国のトップたちは震えていた

 

いつ自分たちに襲い掛かるか分からないそれを早々に殺すべきだという者が大多数派で、ただ一人それを変えようと足掻いたが、結局のところ何をしても殺し、世界の敵を増やさないことが可決され、魔王討伐の旅に出る以前から交友があり、何よりリサが一番心を許していることから自分に白羽の矢が立った

 

無論、抗議はしたものの

 

「アナタがやらぬと言うのならば連合軍を編成してどのような犠牲を出そうとも、遺失物使いリサを討滅する羽目になりますな」

 

というお前がやらなければ膨大な死傷者が出るぞという脅しが幾日も続き、精神状態がボロボロになり、無辜の民達が犠牲になるのであれば私が咎を背負うという思いの下ここに来た

 

揺さぶられ、ボロボロの心に、するりと言葉が入っていた。いつの間にかリサはルシャオと向き合い

 

「私ね、あなたと」

 

駄目だ、とその言葉の続きを聞く資格など、やると決めたその瞬間から存在しない。

 

その時、体が動いた。袖口に隠した暗殺用のナイフを滑り落とすように落とし、手に持ち、雷撃魔術の応用であり、深奥――雷速と同等の速度まで一瞬で加速するその動作は誰よりも速く、誰よりも上手く行えるもので、同速でなければ絶対に回避も防御も出来ない。つまり、当代では彼女以上の雷撃魔術の使い手はおらず、素の身体能力か何らかの別の力でなければ確実に当たる一撃であった

 

その筈だった

 

「な……んで」

 

ナイフは逸らされ自身の胸には黄金に輝く槍が刺さっていた。それは弱いものであれば目にしただけで魂が焼けるほどの強さを持った槍だった

 

「私が、あなたのことを分からないはずがないでしょう」

 

そして、震える身体をなんとか操り、リサの顔を見上げる

 

泣いていた

 

「来る時から気づいてはいたの、城の中で何をしているのかも知っていた」

 

悲しみと憤りを込めた言葉を吐きながら、端正な顔を歪め泣いていた

 

全て知られていた。それだけで意識が消えかかるが

 

「なら……ば、どう……し……て」

 

初めから殺さなかったのか?その問いを投げかける。そうするとリサが一層顔の歪みを深くし

 

「そんなこと、私があなたがを大好きだったからに決まってるじゃない」

 

震える声で続ける

 

「ここにきて、私と話して、心変わりして一緒に逃げようと言ってくれると信じていたからに決まってるじゃない」

 

その言葉を聞き、今にも暗くなりかけている意識に抗いルシャオは最期の言葉を紡いだ

 

「ああ、なんだ」

 

たったそれだけ言えばよかったのか、と

 

動かなくなり、眠るように死んでいったルシャオの体から槍を引き抜き、床に横たえ、傷を塞ぐため、クロークの中から短い杖を取り出す

 

「アスクレピオスの杖よ、この者、既に死んだ身だが、最期の姿は美しくなければならない」

 

それは遺失物を起動させるためのコトバ、力の方向性を決めるためのものにほかならない

 

使い手の意思を正確に仕事を果たし、ルシャオの体には傷一つ残されてはいなかった。

 

そんな彼女の亡骸を抱き上げ、その唇に自身の唇を数秒当て

 

「さようなら、私の親友。今は私の中で(・・・・)ゆっくりとその心と体を休ませて」

 

ルシャオの体を抱きかかえたまま器用に窓を開けると

 

「大丈夫、寂しくないように貴族や王族のクソ共以外そこに送ってあげるから」

 

その眼には光が消え、唯々底冷えするような声で亡骸に声を落とす。一匹の化物がいた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

まず始めに起こったことは城が完全に、跡形もなく、一辺の破片すら出さずに消し飛んだ。そしてそれに伴う爆風とともに、朗々と歌い上げられる詠唱が聞こえてくる

 

“怒りの日 終末の時 天地万物は灰燼と化し “

 

“ダビデとシビラの予言のごとくに砕け散る “

 

それは世界を飲み込む法、新しい概念の流出、旧世界を破壊しつくし、彼女という新しい世界を流れ出すモノだった

 

“たとえどれほどの戦慄が待ち受けようとも 審判者が来たり”

 

“厳しく糾され 一つ余さず燃え去り消える “

 

彼女はこれまでに七回、過去に巡ってきた数多の世界のうちの七つでこれを使用している

 

“我が総軍に響き渡れ 妙なる調べ 開戦の号砲よ “

 

“皆すべからく 玉座の下に集うべし “

 

そしてソレを全て、己という器の中に保存している

 

“彼の日 涙と罪の裁きを 卿ら 灰より 蘇らん”

 

“されば天主よ その時彼らを許したまえ “

 

今、流れ出そうとしているのは死者の軍勢が世界を飲み込む法だ

 

“慈悲深き者よ 今永遠の死を与える エィメン “

 

流出(アティルト)

 

つまり、七つの世界全ての死者が今ここに流れ出すことだ

 

混沌より溢れよ(ドゥゾルスト)怒りの日(ディエスイレ)

 

今ここに流出は成り死者が流れ出す

 

一人の悲しみの中に打ち震える少女の我儘によって世界は食らい尽され、勇者も、小魔大聖も、魔導大聖も、その努力は認めるが全てが無駄なのだと思い知らし、この日、ミーナエルクは、また一人ぼっちになってしまった女によって、完全に食い尽くされたのだった

 




リサ

今作の主人公、どこかの親切な左腕が義腕の神様に適正があるからと死んだあとにDies iraeの全聖遺物を段階まで完全コピー(一部改変有)したものを転生を選んだときに渡され100年程修行を受け、旅立ち2000年overの旅路で擦り切れ、だが発狂することも死ぬこともできない中1人で進まなくてはならなくなった子
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