遺物使いと幸薄少女   作:黒水 晶

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流石に1万字オーバーのモノを上げる気なんぞさらさら起きないので大体半分ぐらいのところを投下


1話前編:出会い

ハルゲニア

 

少女は困惑していた

 

今日は2年生への進級の際の『召喚の儀』と呼ばれる儀式の日であり、少女は今日を楽しみに待っていた

 

肩口まで伸ばした茶髪にまだあどけなさの残る顔、平均程度の身長の華奢な少女は青い目を左右にせわしなく動かし、どうしてこうなったのだろうと考えていた

 

思えば、今までの人生碌なことがなかった。母親が小さい頃に死んでしまってからというもの、父親は出世欲に憑りつかれ、金と権力を手に入れるためには貴族の誇りすら捨てた行為を平然とするようになった。まだ早いというのにどこそこの貴族との見合い話だの、学校に居るうちに自分の家よりも高い位の貴族に取り入って運が良ければそのまま既成事実を作れだの言われることはしょっちゅうだった。家に居る時は父親の機嫌が悪くなることから使用人達から腫物扱いでしかなく、苦痛な時間を過ごしていた

 

唯一、自分に優しくしてくれた歳の離れたたった一人の兄も数年前に魔法衛士隊に配属されてからというもの顔を合わせた記憶は数度しかない

 

そんな自分にもようやくずっと一緒いてくれる『使い魔』ができると、昨日の夜は遅くまで寝付けなかったものだ。狐や猫のような動物系の使い魔が一緒に寝れるからいいなぁとか思ってみたりもしていた。だが

 

「えっと、あの」

 

いざ呼び出してみると現われたのはまさかの

 

「おい、あれって」

 

「人……だよな?」

 

周囲の騒めき通り人であった。少女よりも少し、背が高く、しかもゆったりとしたクロークを着込みフードも目深に被っている。声から女性であることは理解できるが、『サモン・サーヴァント』で人を呼び出したという事例が報告されたことはない

 

「余り怯えないで欲しいのだけど……あなたが私を呼んだの?」

 

「はっ、はい!」

 

明らかに困惑した口元が目に付くが、今はそれどころではなく

 

「ミスタ・コルベール、あの、私はどうすれば」

 

少女はこの儀式の引率である“ツルリ”と見事に禿た中年の魔法使いに指示を求めるが

 

「ミス・シャリューこの召喚の儀で呼び出されたものを例外なく、使い魔とする。そして神聖な儀式ゆえ一度召喚した使い魔は変更することができない。好む好まずに関わりなく、呼び出した……」

 

声が届いておらず、どう呼ぶか分からず言いよどんだコルベールにフードの女性は

 

「リサよ、魔術の先生」

 

澄んだ女性の声が響き、名前を告げる。その声で女性と分かったコルベールは諭すように続きを言う

 

「呼び出した彼女と契約をしなければならない」

 

それを聞いたミス・シャリューと呼ばれた少女は俯いてしまい、事情が呑み込めたリサは少し、腰を曲げ視線を合わせ、質問を投げかけた

 

「ねぇ契約の方法を聞いてもいいからしら?」

 

「えっと、それは」

 

「言えないようなもの?」

 

小さく首を振り否定する少女、そこに出来るかぎり優しい声で

 

「できれば聞かせてほしいのだけで……駄目かしら?」

 

「……キス、です」

 

小さな声だったが、納得したように頷き、コルベールの方を向くと

 

「流石に人と人とのキスを大勢の前でするのはちょっと憚られるので他の生徒の皆さんには後ろを向いていて欲しいのですけど……駄目ですかね?」

 

「いえ、契約してくださるというのなら構いませんが……よろしいのですか?」

 

「ええ、私は旅人でして、そろそろ定住してもいいかと思っていたところなんです。それに、誰かの庇護下に入るというのも悪くはないでしょう?」

 

そういうことかと得心が行ったコルベールが生徒に指示を掛けるのを横目に、少女の方に向き直る

 

少し涙目になっている少女の頭に手を伸ばす。一瞬ビクリと震え目を閉じたものの、その手が優しく自分の頭を撫ぜていることに気づいた少女リサを見上げると、弧を描いた口が目に付き

 

「これからよろしくね、ご主人様」

 

優しい声だった。こんな人なら、一緒にやっていけるかもしれないと淡い希望を得て、少女は決心した

 

「我が名はアニエス・クーピエ・ド・シャリュー。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

 

コントラクト・サーヴァントの呪文を唱え、顔を近づけ、唇を重ね、離す。すると

 

「その契約に応じるわ」

 

そう、リサが宣言をした。すると少し顔を顰めた

 

「どうした……んですか?」

 

「いえ、右肩の辺りに少し痛みが」

 

コントラクト・サーヴァントが恙無く終わったことが分かり、こちらに近づいてきたコルベールが口を開く

 

「コントラクト・サーヴァントによって契約した使い魔にはルーンが宿ります、おそらくはその痛みでしょう」

 

へぇ、と呟き、クロークの下に来ていた軍服らしき物の袖を一気に肩口まで引き上げる。すると確かに、それらしき物が刻まれていた。コルベールは手にしたスケッチブックにそのルーンを模写すると

 

「これは共有のルーンだね。視界や思考の共有が可能となるものだ」

 

へぇと眺めているリサを見ていたアニエスの視線はある一点で止まっていた。そこにあるものは大きく自己主張をしており

 

まさしくその胸は豊満であった

 

悲しみの表情になり、視線を落とすがそこにあるのは平坦なものだった。少し思考が悲しみのループに入りそうになったが

 

「次の子の番だからそろそろどいてくれると助かるのだが」

 

そのコルベールの一声で、アニエスはリサの手を引き、急いで待機場所へと戻っていった

 

その時、アニエスの頭に声が響いた、共有のルーンの効果でリサは思考を飛ばしたのだった

 

(貴方は一番の当たりを引いたのよ)

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

少女は困惑していた

 

先程、クラスメイトが人を召喚しており、自分はそんなことにはならないと思っていた。

 

桃色がかったブロンドの髪をした少女は呼び出してしまった(・・・・・・・・・)息遣いが荒く、血達磨となった体長2メイルを超えていそうな岩から削り出したかのような男を目前とし、非常に困惑していた

 

しかもその男は漆黒のマントを羽織、自身の体長程もある長い金属製の杖を握りしめていた

 

その男は呼吸を整えると少女に向かって

 

「少女よ、ここは何処であるかね?」

 

低い声であった。だが決して汚いものではく、どこか人を引き付ける声だった。だが、想像してみよう。いきなり血達磨になった大男が眼前に現れてしかも、この世界で貴族の象徴たる杖とマントを身に纏っているのだ。まともな思考などできる筈も無い

 

少女が混乱して喋れないことを察すると血達磨は周囲を見渡し始めた。すると走ってくる禿た中年男性と、つい先ほどまで決死の覚悟で少しでも進行を遅らせようとしていた女が目に入った。リサだ

 

「ふむ、つまり」

 

目の前に突然現れた鏡、なぜか居るリサ、それが意味することは

 

「拙僧は守れなかったということであるか」

 

そう呟き、ミーナエルク史上最強最高の魔術師、ミスティカは目を瞑り、膝から倒れおちるように気を失った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ミスティカが倒れおち、広場は騒然となっていた。例外が2例も起こるだけでも騒がしくなっていたのに今度は死んだかのように人が倒れたのだ。これで騒然とならないわけがない。しかも、相手のことを知らない為、杖とマントを手にした男性はこの世界では貴族扱いだ。それか没落貴族から傭兵へと流れた者のどちらかだ

 

そんな状況で1人するりと動いた者がいた。彼をよく知り、自身の感覚ではつい24時間程前に殺し合いをしていた仲であるリサだ

 

彼女は人込みをかき分けると悠然と近づいていき、ミスティカを運ぼうとしているコルベールを制する

 

「少し、待っていただけませんか?」

 

「な、なにを言っている!すぐに運ばねば命に……」

 

「ええ、だから、この場で治療します(・・・・・・・・・)

 

「はぁ!?」

 

クロークの中から短い、蛇が巻き付いた杖を取り出す。コルベールやミスティカを召喚した少女、アニエスが目を見開くが、そんなことは露とも気にせず、ミスティカの前に立ち

 

「アスクレピオスの杖よ、この者、未だ死する定めに能わず」

 

リサとしては旅の中で幾度となく唱えた馴染みの起動文を読み上げる。杖が光を放ち、ミスティカを照らすと、彼の体の傷が次々と消えていく。その現象を見たコルベールが驚愕の声で

 

「ヒーリング?いや、秘薬も無しにここまでの効果は……」

 

ミスティカを呼び出した少女やアニエスが何かとてつもないようなものを見る目を向けて来るが無視し、ミスティカを軽々と左肩に担ぎあげる

 

「コレを寝かしておく場所が必要になるのだけど……どこかない?夜までここに放置しておくのもさすがに可哀想だからできればベッドなんかを借りたいのだけれども」

 

その言葉にハッと我に返ったコルベールは

 

「な、ならば医務室に運ぶのがいいでしょう」

 

「案内してもらえるかしら?駄目ならご主人に頼むわ」

 

生徒達を見ると騒ぎ声をあげており、一つ首を振ると

 

「私はあの騒ぎを鎮めて、ここであったことをなるべく内密にするように指示を出す必要があります。だから、ミス・シャリュー、それからミス・ヴァリエール案内して差し上げなさい。それと、彼が起きたら私に報告を」

 

指示を出し、生徒の方に近づいて行くコルベールの指示に従い

 

「こっちだよ、ついてきて」

 

と右手を引き先導する。その後ろから

 

「なんで私がこんな目にあうのよ」

 

とぶちくさ文句を垂れてヴァリエールが付いていく形となった

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

リサは医務室のベッドにミスティカを寝かすとそこら辺にあった椅子を運びベッドの近くに座る。それに習うようにアニエスやヴァリエールも椅子を持って来るが、ぼそりと聞こえた呟きに動きを止める

 

「鏡の召喚術を見たときに“コレか”と思ったけど、あなたなんで私よりも後に来てるのよ」

 

聞き取れるか聞き取れないかと言った呟きだが、はっきりとそう言っていた

 

「えっと、リサ?この人……知り合い?」

 

「ええ、一緒に旅して……楽しく殺し合った仲かしら」

 

「ちょ、殺し合ったって何よ!」

 

そこで共についてきていたヴァリエールが声を上げる。それに同調するようにアニエスも首を縦に振り

 

「どういうこと、リサ」

 

「うーん一言では言い表せないけど……比較的近い言葉で言うなら、傷心ゆえ?かしらね」

 

納得がいかないといった2人に落ち着かせるように

 

「だけどもう争う理由も何もかもなくなってしまったからコレが起きてすぐに再開っていうのは絶対に有り得ないわ。これだけは断言できることで、コレが眠っている今、話せることよ」

 

そう言い口を噤むリサにまだ納得できないといった雰囲気のヴァリエールだったが

 

「この人が起きたらしっかり話して貰うからね」

 

と一言いった後鼻を鳴らし、黙った。それに続くようにアニエスも

 

「しっかりお話ししてね」

 

と釘を差すのだった

 




異世界『ミーナエルク』
地球系神話ごった煮ワールド、だけどインド系は流石に弱体化してる。時々酷いバクキャラが生まれることがある
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