遺物使いと幸薄少女   作:黒水 晶

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2日目の授業まで終わらそうと思ったらまた長くなりそうなので半分投稿


2話前編:夢、目覚め、問いかけ

夢を見ていた、他人の記憶をなぞるような夢だった。

 

見知らぬ土地、見知らぬ人、言葉の意味は理解できるが発音はわかない

 

戦い、戦い、戦い

 

数え切れぬほどの命を奪い、多くの人を救い、世界に平和をもたらした英雄の夢

 

顔はぼやけてよく分からないがこれが誰かの視点とするならば5人旅だったのだろう。昼に多くを剣や魔法で打ち倒し、夜はたき火を囲んで語らい、交代で寝ていく。それを繰り返し、最終的には敵を滅ぼしたのだろう。今まで救ってきた国を来たのとは逆回りで巡り、そのすべてで歓声に包まれ、始点となった国の首都へと凱旋、そこで場面が飛んだ

 

そこは地獄のような光景だった。髑髏の兵が生者を殺し、全てが燃え落ちていく、その中心。いまなお増え続ける髑髏が溢れ出る場所に

 

「なぜとは聞かん」

 

男の声だった。低く、しかしどこか引き付けられる声で、聞き覚えがある

 

「女ひとりの恋路すら許容しない世界など滅びて当然である」

 

「そう、ならなんで私の前に立つのかしら?メルもファリナも私の軍勢に取り込んだわ」

 

「拙僧これでも一応は人類の守護者である“魔導大聖”であるからなぁ、立場上はお主の敵であるよ」

 

「そういう柄じゃないでしょうあなた」

 

会話が続くが2人とも聞き覚えがあった。リサと……そういえば名前を聞いていなかった。ミスヴァリエールが呼び出した大きい人、あの2人の声だ

 

「なぁにどうせ死ねば会える(・・・・・・)のだから一度ぐらいは真面目に職務を果たすだけであるよ」

 

そう言い放つ彼の周囲に膨大な量の、様々な模様が描かれた円形のモノが現れ、それが1つに重なり、炎で出来た槍のようなものが作られる

 

「そういえばあなたとは前もこうして戦ったわね」

 

「ああ、あの時はこのような地獄絵図の中ではなかったが」

 

「あの時はこうなるなんて露にも思ってなかったものよ」

 

「うむ、きっと幸せに満ちた希望の未来が待っていると、誰しもが思ったであろう」

 

2人はそれだけ言い、手にした武器を構える。リサは黄金の槍を、彼は作り上げた炎の槍を

 

「それじゃ」

 

「うむ」

 

顔を見合わせたのだろう、少し目線が上を向いた。そして頷きあい

 

「「いくぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」

 

一足で双方、距離を詰め、2人の武器の穂先がぶつかり合い、そして

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

朝日を浴び、ゆっくりとアニエスの瞼が開く。寒さは季節の移り変わりとともに心地よい暖かさに変わっていたが、アニエスはわずかに震えていた。

 

「今のは……」

 

思い出すかのように呟く彼女はふと枕元に誰かが座っていることに気づいた。リサだ。

 

「リ……サ……?」

 

「ええ、おはようご主人。夢見はどうだったかしら?」

 

そう、夢だ。アニエスが見た奇妙な夢。それは、共有のルーンによってリサが見せた自分自身の記憶。無論、少し検閲はしたが、彼女がミーナエルクで記憶したことの全てだった。

 

「あれは……夢なの?」

 

「正確には私の記憶ね、ご主人にだけは知っていてほしかったから」

 

私の記憶、そう告げられた意味を少しの間、アニエスは理解できなかった。否――理解したくなかったのだろう。今まさに、記憶におぼろげに残っている母のように、優しく頭を撫ぜてくれて、口元が緩やかに弧を描いて笑っているリサが、あの惨状を生み出したことや、そもそも人にあんな力があることも、アニエスの理解の範疇外のことだった

 

「どうして?」

 

「なんとなく……かしら?これから付き合っていくにしても隠し事があったら不和の原因になるから、だから見せた方がいいかなって」

 

自分にもよくわからないといった風に、困ったようにそう答えるリサは続けて、アニエスに問いかける

 

「あなたは私を信用できるかしら?」

 

信用、難しい話である。これが年単位で付き合いのある人物ならば判断できるが、まだ会って1日しか経っていない人物に判断を下せるほど、アニエスは人生経験が豊富ではなかった。だからだろう

 

「分かんないよ」

 

無意識だがそう口に出たのは、リサの口の両端が先程よりもつりあがるが、アニエスは目を閉じ、ぽつぽつと

 

「まだ、会って1日しか経ってないし、あの夢の中でも、よく笑って、悲しんで、怒って、そういった感情も感じたけど、まだ、分かんないよ」

 

元気がなくなり、今にも泣きだしそうになっているアニエスの頭を撫ぜていたリサの手が止まり、軽く、額を2,3度叩くと

 

「合格よ」

 

「へ?」

 

くすくすと笑い始めるリサに間の抜けた返事を返すアニエスだが、そんな彼女にリサは

 

「これで信用するって言ってたら本気で情操教育から関係が始まるとこだったわ。だから、分からないでいいの」

 

そう優しい口調で言い、彼女は立ち上がり、一度大きく伸びをすると窓の方に歩き出し

 

「また折を見て同じ問をさせて貰うわ、その時までに答えを用意しておいてちょうだい、それじゃ、私はちょっと朝食の材料(・・)を捕りに拙僧……ミスヴァリエールだったかしら?あの子が呼び出したデカいのとちょっと行ってくるから、授業までには戻るわ」

 

そう言い残して、窓を開け、飛び降りて行った。

 

アニエスの部屋は寮の上層部に存在するためそこから落ちたとなると

 

「ちょ、ええええええええ!?」

 

今までまどろみの中に居たアニエスが驚愕で飛び起きる程度には危険である。急いでベッドから飛び起き、窓の下を見ると2人程、学園を囲むようにたてられている壁をジャンプ1つで飛び越え、近くの森に姿を消すところが見えた

 

「えぇ……ちょっといい話してた雰囲気だったのにこの流れは酷いよ」

 

と口に出してみたものの、もうそろそろ朝食の時間である。仕方ないとため息をつき、いそいそと着替え、いつもよりもなぜか、弾んだ足取りで食堂に向かうのであった

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

食堂

 

いつものように、出来るだけ目立たないように空席に座るアニエスだったが、今日に限っては周囲の目線にさらされていた。今年は2人もメイジを召喚の儀で呼び出したとあって、その噂は学園中に広まっていたからだ。こうなるだろうと予測はしていたアニエスだが、いざ、こうして目線にさらされると逃げ出したくなる。そう思っていた矢先に

 

「隣、良いかしら」

 

そう声を掛けられた。驚き、体が一瞬硬直するが、慌てて声をかけてきた人物の方を見る。(くだん)のもう1人であった

 

「ミスヴァリエールッ……私なんかの隣でよければどうぞ」

 

段々と声が小さくなっていくが、そんなことは知らんとばかりに、アニエスの隣の席に座る。どうしたらいいのだろうとオロオロし始めるアニエスを横目で確認し、ため息を一つつき

 

「そういう情けない姿を見せない」

 

「えっ?」

 

「それと、ルイズでいいわ、アイツとあんたの使い魔は知り合いみたいだし、よく会うことになりそうだから」

 

ここに至ってルイズが隣に座ってきた理由をアニエスは察する。要は召喚の儀で大当たりなのか大外れなのかよくわからないモノを引いたからという訳だろう。だが、アニエスの家は男爵家であり、トリステインでも有数の貴族であり、公爵家の3女であるルイズを名前で呼ぶなど恐れ多いものであり

 

「で、ですがミス」

 

「私が良いって言っているのだから名前で呼びなさい。敬語も要らないから」

 

半目になりながらジッと見つめてくるルイズにアニエスは根負けし、ガックリと肩を落とし

 

「分かった、分かったからそんな風に見るのやめて」

 

「分かればよろしい」

 

ふふんと鼻で笑うルイズだが、ミスティカの姿が見当たらない

 

「あのおっきい人はどうしたの?見当たらないなど」

 

「ああ、アレ。朝起きたら“じゃあ拙僧朝食の材料捕ってくるのである”とか言って窓から出てったわ」

 

「あぁ……リサと同じかぁ」

 

「そっちも?」

 

「うん、朝起きて、ちょっとお話しして窓から飛び降りて走ってった」

 

2人は顔を見合わせ、一つため息をつくと

 

「変な使い魔と契約するとお互い大変ね」

 

「うん、ほんとに」

 

くすりと笑う声が被りお喋りの時間は終わり、食事の時間に移っていく。始め程の緊張感を持っているわけでもなく、唯々自然体になったアニエスもまた、少し変であるが、リサに刻まれた共有のルーンの影響によるものかもしれない。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

さてそのリサであるが、主人2人がお喋りに花を咲かせる少し前から食事をとり始めたころまでの会話を一部聞いてみよう

 

「拙僧、そっち何か捕れた?」

 

「兎を1羽捕まえたのである。そっちは?」

 

「少し離れたとこに川があったから魚を4匹」

 

「うむ、処理の方はどうであるか?こちらはもうあとは焼くだけであるが」

 

「こっちも内臓取り出してきたからあとは焼くだけね」

 

「うむ、薪用の木片の在庫もまだ残っておるから、さっさと焼いて食事を済ませるとしよう」

 

「ええ……あ、そうそうご主人に夢としてミーナエルクの最期までを見せたわ」

 

「あー見せたのであるかー、まぁ機嫌が良いのであるから悪いことにはならなかったのであろう」

 

「ええ、しっかりとした答えは貰えなかったけど暫くしたらしっかりと答えて貰うわ」

 

「うむ、お主は無駄に歳食ってるにも関わらず永年者特有の超然とした雰囲気も無く、誰かが前に居ないと不安で不安でしょうがないという幼子のようなものであるからなぁ」

 

「ほーんとなんでこんな性格に育ったのかしら?旅立ち前に師匠にいくつか記憶封印されたのが原因かしら?」

 

「まぁ時間だけはあるのだからゆっくり直していけばよかろう。魚はもう食べごろであるな」

 

「兎もいい感じよー、さっさと食べてご主人たち待ちましょうか」

 

「うむ、授業がいつ始まるかも分からず出てきたのであるからな」

 

「ええ、ちょっと無茶したものよねぇ」

 

と、主人2人が聞いたら呆れるか激怒し始めるかの2択のような会話をしながらささやかな朝食を摂っていく使い魔2人であった

 

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