日本の某所にある冬木、その街の商店街を白髪の少女が駆けていく。そして、それを追う黒いコートを着た男性。
「キリツグー、早く来ないと置いていっちゃうよ!」
「はいはい、全くお転婆なお姫様だな」
少女は紫のコートを羽織り、初めて見る物ばかりの為か興奮しきりのようだ。
透き通るような白い肌と真っ赤な瞳、その整った容姿から御伽噺から飛び出して来たのかと思う様な印象を受ける。
それとは反対に、少女からキリツグと呼ばれた男はコートから何から黒一色の地味な日本人であった。
傍から見れば異色過ぎる組み合わせであったが、どこか親子の触れ合いにも思える光景に待ちゆく人は微笑みを浮かべていた。
だがしかし、そんな二人の出会いは散々な物であった。それは数ヶ月前に遡る。
◇◇◇◇◇
デッドプールは今、宙を舞っている。正確には首が胴体からオサラバしてるのだが。
理由は単純明快だ、少女の側に立つ白い服の女が振るったハルバードの一閃により、切り離されたのだ。
そのまま地に落ち転がる頭、それを真っ赤な顔で睨みつける銀髪の少女。普通の人間ならば嘔吐待ったなしの現場であるにも関わらず、少女は怒り心頭といった面持ちのままだ。
暫しの静寂の後、転がり落ちた生首が突如として叫び声をあげる。
「おうコラ、テメェ人がせっかく久しぶりに休めたからオ〇ニー楽しんでたっつーのになに出会い頭に首チョンパしてくれてんだよ!?イク前に逝っちまうぞあぁん!?」
「な、生首なのに喋った…?って言うか、なんでヘラクレスじゃ無くて何処の馬の骨かも分からない男が召喚されたのよ!」
残された胴体はハート柄のトランクス一枚の姿で、股間部からはイチモツがこんにちはしていた。
「知るかバーカ!それよりそこの身体に俺ちゃんの頭乗せろよ、さっさと一発ヌいちまうか───」
生首の言葉を遮る様に振り下ろされたハルバード、スイカ割りよろしく縦割りにされる頭部。
「イリヤを馬鹿にする奴、許さない」
「OKOK、一先ず落ち着こうぜ、な?パンツ直したいから乗っけて頂けませんかね?」
「……リズ、仕方ないから乗せてやって」
イリヤと呼ばれた少女が女性に指示を出すと、不承不承ながらも割られた頭を首に乗せる。
すると、割れた筈の頭蓋や溢れた中身は瞬時に再生し、元の形へと戻っていく。念願の再会にデッドプールは一息吐くと、既に萎れたイチモツをパンツにしまいつつ、今現在手にいれた情報を頭の中で整理する。
(イリヤ…ヘラクレス…召喚。あ、Fateかコレ!)
「あー、お嬢ちゃん。差し支えなきゃ教えて欲しいんだけんどもよ、これって聖杯戦争でサーヴァント呼び出そうとしたの?」
「そうよ、わざわざヘラクレス縁の品まで用意したのにとんだハズレを引いちゃったわ」
「んぁー、イリヤちゃんよ。今って西暦何年?」
「えっと…2004年だったかしら。それが何か召喚失敗と関係してるの?」
「いや全く、つかそんな昔に召喚されても俺ちゃん知名度この頃本土でしか高くねぇぞ…せめてアメリカで聖杯戦争してればなぁ」
何ぶつくさ言ってるんだ的なイリヤの視線を無視しつつ、いつもの赤と黒のコスチュームを着ていくデッドプール。
更に二本の刀を背負い、腰にはテレポート機能付きのベルトを装着する。身支度が済めば思い出したかの様に振り返り、膝を曲げ目線を合わせる。
「えーっと、それで俺ちゃんと契約はするのか?」
「…本当は嫌だけど、再召喚の儀は難しいかも知れないから結んであげるわ」
こうして最強のマスターと最狂のサーヴァントのタッグが誕生する事となった。
◇◇◇◇◇
所変わって冬木市郊外に存在するアインツベルンの森。
大昔にアインツベルンに買い取られた広大な森の中を、イリヤを肩車したキリツグが歩いていた。
「それで、これからどうするの?」
「聖杯戦争が始まり次第衛宮士郎と遠坂凛の二人に接触、そのまま同盟結んで他陣営とも手を組めたら組むんだ」
キリツグの言葉にふむふむと頷いて見せるイリヤ。キリツグはそのまま話を続ける。
「だがまぁ…一先ず厄介なのはランサーだな。原作でも何だかんだ最後まで残ってたし何より対一じゃ俺ちゃんでも勝てるか分からん」
「つまり、同盟を組んだら真っ先にランサーを叩くべきなのね」
「そうなるな、十中八九その裏にマスターの親父を殺した原因を作った腹黒神父も居るしな」
キリツグのその言葉にイリヤは少しばかり暗い表情になる。日本に来る前にアハト翁すら知らなかった情報も全てバーサーカーであるデッドプールから教えられたのだ。
曰く、冬木の聖杯はこの世すべての悪により汚染されている。
曰く、キリツグは最後までイリヤを取り戻そうとしていた。
曰く、言峰綺礼こそ真の仇である。
最初の内は信じられずにいたが、アハト翁に問い質したところ確かにキリツグは来ていたと言われ、イリヤはキリツグに対する恨みが霧散するのを感じた。
捨てられた訳では無かった、その事が何よりも嬉しくそしてアハト翁に対する怒りが湧き上がる。
だがその怒りをぶつけようにも力の差は歴然、どうする事も出来ずにいたがバーサーカーは違った。
アハト翁に対してイリヤの聖杯としての機能を他のホムンクルスに移す事を求めたのだ。それに対してアハト翁は頑として拒んだが、バーサーカーの耳打ちした言葉を聞くと青ざめながら了承した。
後ほど聞いた話によると、『アハト翁の胡桃をもぎもぎしてからもぐもぐさせる、自分は幾ら殺されようがやると決めたらやる男だ』と脅したらしい。危うくアハト翁はアハト婆になる所だったようだ。
そして、日本に発つ前にイリヤの機能は他のホムンクルスに移され、傍付きのメイドであるリズらと共にアインツベルン城へと運ばれた。
因みにバーサーカーがそのホムンクルスを見た時、ダッチワイフみたいだと呟いていたがイリヤはその言葉の意味を知らず、流されたが知っていれば恐らくバーサーカーの尻に蹴りが放たれた事は想像に難しくない。
斯くして、晴れて自由の身になったイリヤはこうして日本へと赴いたのだ。今のイリヤの胸の内にあるものは二つ、一つはまだ見ぬ弟である士郎と会いキリツグとの思い出を聞く事。もう一つはキリツグの仇である言峰綺礼を倒す事。
その二つの思いを胸に幼くして最強のマスターと呼ばれるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンは聖杯戦争へと挑む決意を固めていた。操るは最狂のバーサーカー、そのバーサーカーの胸中には呼び出されるであろう紫色のライダーの胸に対する期待が渦巻いていた。
イレギュラーであるデッドプールが招くのは、果たして如何なる終わりなのか…今はまだ誰も知らない。
デッドプールの宝具
何事もまずは形から【クレイジードッペル】
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
デッドプールの知識の中にある姿に変身する。一日に一度の制約があるものの、解除する迄は如何なる看破術も受け付けない。
また、英霊等に化けた場合はその英霊の持つ宝具を一つだけ使用可能。