「ふふふ、流石のバーサーカーも私とリズの二人には勝てないみたいね」
「イリヤ、次はそこに刺す」
「きったねーぞ!二人がかりで…ちょ、止めっ!アーッ!」
───シュコン!
見事に打ち上げられた黒ひげ人形──エドワードではない──が床に転がる。三人は今黒ひげ危機一発で遊んでいたのだ。
理由は簡単、ただただ暇だったからである。
冬木市に着いてから数週間が経ったものの、未だ他陣営に動きは無い。おまけに情報収集をしようにもイリヤもリズも目立つ容姿であり、バーサーカーはそもそも動くつもりが無かった。
時代は化学が進歩しており、少なからずパソコン等も普及しているのだ。それなのにわざわざ出歩いて危険に身を晒す位ならいっそ引きこもってそういった類の物に頼ろう、といった結論に至った為だ。
結果として、日がな一日遊び呆けるイリヤとバーサーカーとリズ。それに対して小言を漏らすセラと言うのが最近のアインツベルン城での日常風景だった。
「だぁー、クソ!また俺ちゃんの負けかよ…名前負けも良いとこじゃねぇか」
「バーサーカー、言葉が汚いです」
「へいへい、気ぃつけまーす」
黒ひげ危機一発を片づけながら悪態をつくバーサーカーにセラの小言が飛んでくるが、それを適当にあしらいながらバーサーカーは立ち上がった。
「バーサーカー、どこ行くの?」
「ちょっくら視察、俺ちゃんが帰って来るまでに罰ゲームでも何でも考えときな」
普段ならば拠点で、といつも口にしていたバーサーカーが腰を上げた。その事に少しばかり違和感を感じつつもイリヤはその姿を見送った。
◇◇◇◇◇
デッドプールは普段の赤いタイツ姿では無く、衛宮切嗣の姿へと変わっていた。死せずして英霊として喚ばれた影響からか霊体化が出来ないため、わざわざ姿を変えないと出歩く事すら難しい。
街中を歩きながらデッドプールはこの世界についての情報を改めて脳内で整理していく。
調べて分かった重大な事実が一つある、この世界にはアメコミが存在しない。
理由は分からないが、幾ら調べてもスパイダーマンやアイアンマンといった単語が見つからないのだ。つまり、信仰や信奉といった英霊達の力の源が得られない。
だが逆を返せば、弱点や真名を暴かれる心配も皆無に等しいと言う事にもなる。それがメリットとなるかデメリットとなるかは現状分からないが、少なからず原作知識というアドバンテージがある自分はまだ有利だと信じていた。
そうこうしている内にデッドプールは、日本に来た当初に訪れた商店街へと来ていた。漫画やアニメ等で見た事はあったが実物を見るのは初めてであった。
(アメリカじゃこんな場所無ぇからな、興味はあるけど今は情報収集が先だな…)
そんな事を考えつつ歩を進めていると、とある店先から飛び出して来た少女とぶつかってしまった。
「うぉっと、大丈──」
「はい、平気です。こちらこそすみません…慌てていたものですから」
デッドプールもといキリツグは言葉に詰まる。謝罪してきた少女、間桐桜をじっと見つめたまま固まってしまっていた。
予定外の接触に頭を回転させるものの、とりあえず良い案も浮かばなかったためにその場を離れようとする。
だが、そんなキリツグを見て桜は呼び止める。
「あ、あの!服にアイスクリームが!」
「うぇ?あ、あー…」
こうして、キリツグはラスボス候補の一人との邂逅を果たすのであった。
◇◇◇◇◇
喫茶店の席に向かい合って座る少女と男、互いに何も喋らず沈黙したまま彼此数十分は経っている。目の前に置かれた熱かった筈の珈琲は既に冷たくなっていた。
(ヤベェ、迂闊に聖杯戦争の事とか喋れねぇからなんて言えばいいのか分からん!)
キリツグの内心は先程から嵐の如く乱れていた。服の弁償がしたいからと引き止められ、一度は断ったものの桜が頑として引かずそのままずるずるとこの店に連れて来られたのだ。
どうやって現状を切り抜けたものかと思考を巡らせていると、不意に桜が口を開いた。
「あの、お名前を伺っても宜しいですか?」
今更な質問ではあったが確かに今の今まで自分は名前を口にしていなかった。別に金さえ受け取れば話す必要も無いのだろうが、キリツグの顔で金を少女から受け取るのは些か気が引けた。
何よりイリヤがキリツグの顔で変な事をするなと口酸っぱく注意するものだから、尚のこと桜に対して無碍に対応出来ずにいたのである。
「…黒田、です」
「黒田さん、ですか」
ぱっと名前が浮かばず、適当に黒一色だから黒田。一先ずはそれで通そうと思い名前を述べた。
その後は桜からの質問に対して適当に答えつつ、頃合を見て席を立つ。後日またこの喫茶店で、との言葉に頷いて見せれば珈琲の代金を支払って店を後にした。
数日後、再度あの喫茶店の前に立ち寄ったキリツグは桜から綺麗に仕上がったコートを受け取る。そのまま雑談を交わしながらふと桜の手を見れば、其処には刺青のような物があった。
キリツグは胸中で遂に来たか、とぼやきながら何気ない風に装いつつ問いかける。
「おや、桜ちゃん…それは?」
「あ、コレは…その」
言い淀む桜に対して言えない事ならば構わない、と返せばキリツグは緩く笑みを浮かべた。桜もその言葉に一つ会釈を返せば、踵を返して足早に去って行った。
その姿を見送りつつキリツグは気を引き締め直す。記憶が確かならば残るサーヴァントはランサーとアサシン、そして同盟を組むべきアーチャーとセイバーの筈である。
つまり、間も無く聖杯戦争の火蓋が切られた事になる。その事にキリツグは楽しみ半分面倒臭さ半分といった面持ちで帰路へとついた。
◇◇◇◇◇
言峰教会へと続く坂道を、赤服のツインテールの少女と赤髪の少年、更に黄色い雨合羽を着た少女?が下っていた。
「でもまさか、衛宮君が最後のマスターだとは未だに信じられないわね…おまけにセイバーを引き当てるなんて」
「そんな事言われてもな…俺だってまだ心の整理が追い付いてないんだ」
ツインテールの少女と赤髪の少年は言葉を交わしながら道を進む。一方その後ろをついて歩く少女は黙ったままだった。
しかし、そんな少女が不意に二人の前に飛び出し庇うかのように立ちふさがる。
「どうかしたのか、セイバー」
「この気配…サーヴァントです。士郎、凛、戦う準備を」
ただならぬ気配に三人は身構える、すると路地から人影が二つ現れる。一人は子供、一人は大人程の大きさで、街灯に照らされたその姿を確認した瞬間、セイバーと呼ばれた少女と士郎と呼ばれた少年は同時に叫ぶ。
「キリツグ!?」「親父!?」
視線の先に佇むのは、セイバーにとって苦い思い出の男であり、士郎にとっては大切なたった一人の親である男──衛宮切嗣。
その居るはずの無い者の登場に困惑し、未だ動けずにいた二人とは反対に、初対面であるツインテールの少女──凛は問いかける。
「貴方、衛宮君のお父さんなんですか?」
「違うよ、もうキリツグは居ない人。これはバーサーカーが化けてるだけ」
その問いに紫色の服の少女が答えた。その答えに三人は瞠目する。
「バーサーカー…サーヴァント!?」
「くっ、逃げて下さい!」
凛の言葉に続いてセイバーが声を荒げる。士郎と凛の二人はすぐ様来た道を引き返そうとしたが、気が付けば眼前にはバーサーカーである衛宮切嗣が立っていた。
振り返ると先程まで居たはずの場所にバーサーカーは居らず、幻影などでは無いという事が分かる。つまりはセイバーすら追えない速度で動いて見せた、と言う訳だ。
───そんな化物相手にどう戦う?
士郎と凛の頭の中ではそんな思考が渦巻き、殺されると警鐘を鳴らしている。
そんな二人の事を気にする風も無く、バーサーカーが口を開いた。
「よぉ、ちっぱい騎士王様。それに絶倫朴念仁とアカイアクマ、とりあえず俺ちゃん達と手ぇ組まねぇか?」