台風は関東地方に上陸し沼津市も暴風圏へ入った。旅館“十千万”の外も暴風と豪雨で荒れ狂う音がしているのだが、高海三姉妹の次女である高海美渡はビショビショの末娘である千歌が連れ帰った異形に顔を青醒めさせた。
「何じゃコレエエエエエエ!?!?
千歌あんた一体“ナニ”を連れて来たのよ!??」
「何って…、多分ゴジラ。」
千歌はおっきなぬいぐるみの如くゴジラに似たソイツを前に抱き抱えソイツは床に付く程に長い尾っぽをユサユサと振りながら旅館の玄関内をキョロキョロと見回す。すると玄関の受付から女性が一人現れて困りげに千歌と美渡を諌めた。
「二人共、こんな所で遊んでたのね。もう雨戸は私が全部閉めたわよ。」
彼女は高海志満、高海三姉妹の長女でこの旅館…“十千万”を営んでいる。
「志満姉、千歌ってば海で遊んで来てゴジラみたいな生き物連れて来てんだよ。」
「だって放って置けなかったんだもん。こんな台風の中に独りぼっちなんて可哀想よ!」
言い合いを始める妹二人を余所に志満は千歌からゴジラ?…を預かり、床に下ろして自身もスカートを膝裏に畳んで腰を落とすと…、志満は優しくソイツの顎下を撫でて首元も両掌で撫で回した。ゴジラに似たソイツは円らなまん丸の目を瞑り、ゴロゴロと気持ち良さげに志満に自分を預けた。美渡は臆する事なくソレを撫でくる姉に感嘆して…、妙に人懐っこいソイツを見ていて自分もウズウズしてきた。
「あ~っ、私も…触る。」
そう言って美渡も座り腰になりソイツを撫で回した始めた。するとゴジラ似たソイツは段々とウトウトとしてきて…、コテンと座り込み寝息を立て始めてしまった。
「なっ…、何なんだごの人懐っこさは…!?
かわいいではないか!」
先程とは態度をガラリと変えた姉の美渡に千歌は同意の笑みを浮かべた。
「そうでしょ、“このコ”可愛いでしょ!
…でも、このまま海へ帰しちゃうのは何か可哀想だよ。だから家でさ、飼えないかな?」
千歌は何処か切なげにそのコを見つめる志満に懇願するが、それを美渡がバッサリと斬り斬り捨てた。
「家で飼える訳ないでしょ、このコどう見たって“ゴジラ”じゃない!」
「美渡姉ってば今可愛いって言ってた!!」
「そっ、其れと此れとは…、別問題よ…うん。」
飼う事を提案した千歌と反対をする美渡だが…、長女の志満は暫し沈黙する。正直に言うなら飼う事には美渡と同じ反対であった。姿形を見れば解る様にこのコは明らかに二ヶ月前に東京を襲った巨大不明生物…“ゴジラ”に関係する存在だ。ゴジラは二度襲来し、自衛隊の総攻撃や米軍の新兵器もものともせず…今は東京駅で日本政府の奇策で完全凍結をして居座っている。
ゴジラが一体何なのかは一切解らず、日本政府と在日米軍によってゴジラの研究が進めされている。…ならば日本政府や米軍…他国から見ればこのコは喉から手が出る程に欲しいであろうサンプルの筈なのだ。
このままこの小型不明生物であるコを人間の世界に留めておくのはこのコはにとっても自分達にとっても危険が付きまとう事となるだろう。
…と、志満が苦悩していると台風で家の中に居れていたモフモフの大型犬である“しいたけ”が奥から現れてゴジラに似たコに近付き、鼻先をそのコの顔に近付けてクンクンと匂いを嗅ぎ出すと、そのコの横に並び寝転んでしまった。更に座り寝をしていたそのコの身体が傾き、ボフッとしいたけの横っ腹に倒れ、二匹はそのまま寝息を立て始めてしまった。
そして千歌と美渡の顔が真顔になり即座にスマホを構えカメラモードに切り替える。
「コレは正に撮ってくれと…っ!!」
「…言わんばかりのシャッターチャンス、逃しはしないわ!!」
二人の持つスマホがパシャパシャと音を立ててしいたけの上に寝るゴジラに似た仔を画像に収め出し、千歌と美渡は夢中になる。すると新たなスマホの音が並び妹二人は長女に顔を向けた。
「お姉ちゃん…?」
志満はもう一枚ミニゴジとしいたけの画像を撮りスマホを下ろすと千歌と美渡を見つめた。
「論理的に考えれば…、私も美渡と同じでこのコは海に返した方が良いと思うわ。」
長女である志満の言葉に千歌はショックを受け、何故だか美渡も表情を曇らせた。
「でも…、人間のエゴかな。もう出会ってしまったんだものね。」
そう言って志満は微笑み、千歌も彼女の言わんとする事を理解して笑顔になる。美渡も反対した手前笑みは見せないが千歌と同じく理解を示した。
「まっ、志満姉の決定なら…仕方ないわよね。」
それを聞いた千歌は寝こけているそのコを抱き上げてクルクルと回り出した。
「ウオオオ、美渡姉も折れた!
此で“ゴジオ”は我が家の一員だよおっ、!」
「折れたとかゆーな、それに何よ“ゴジオ”って!?」
「このコの名前。」
それを聞くや美渡は“ええ~~~?”と厭な顔をし、千歌が志満に理解を得ようと彼女に顔を向けるが長女もまた…“ソレはないだろう…。”と言わんばかりに困った顔をしていた。
「うう~、このコはゴジオ、ゴジオに決定なのおお!!」
台風の海にて出会ったゴジラに似た小型不明生物は千歌の強引な一存によって“ゴジオ”と命名された。そして当のゴジオは寝ていたのを邪魔されてまた抱き上げられたので怒っており、千歌の頬をペシペシと尾っぽの先で叩いていた。
「あうっ、あうっあうっ♪♪」
高海千歌は喜んでいる様だ。
次回…ゴジオは“Aqours”と顔合わせ。