空は青く、海も青く、シュノーケルを付けた高海千歌と桜内梨子は手を繋ぎ…海面下に漂いながら海の音を静かに感じていた。前は渡辺曜と三人で海を感じて暗いながらも三人一緒に音とは云えない音を感じる事が出来た。今日に至っては何やらザワついた感覚が少々邪魔をしている様にも思えたがそれはそれで悪いモノでもなかった。
そんな二人の前に一人でスキンダイビングを楽しんでいた鞠莉が下より上がって来たので三人で海面上に頭を出して深呼吸をした。
「もう二人共クラゲみたいに漂ってるだけじゃつまらないわよ。一緒に潜ってしゃいに~しようよ!」
鞠莉の誘いに千歌はニッコリと笑って応じる。
「そうだね、梨子ちゃんも慣れて来たしスキンダイブしよう♪」
「えっ、でも海の下…暗くてまだ怖いわ。」
まだ海に畏怖を覚える梨子を千歌と鞠莉は“大丈夫”だと言って先に潜ってしまう。
「それじゃお先に“リリー”。」
「海底もなかなか面白いよ、梨子ちゃん。」
一人海面上に残された梨子は近くに浮かぶ果南のいるクルーザーを見た。
「全くあの娘達ったら勝手なんだから~!梨子は無理しないで一度上がって。鞠莉も千歌も泳ぎは慣れたものだけど初心者の貴女は私と潜りましょう。二人が上がるまで船の上で身体暖めなさい。」
そう言うと果南は潜る用意の為に一旦クルーザーの奥に姿を消す。梨子は果南の言う通りにして「ハイ。」と返事を返してクルーザーまで平泳ぎをする。…と、その時、左足に突っ張る様な激しい痛みが駆け抜けた。
「梨子、早く上がって……、っ!!!」
船上からまた顔を見せて梨子を呼ぶ果南だが、彼女の姿が見えずクルーザーの周囲を見渡して梨子を探すが見つからない。果南の顔が青醒め、彼女は即座に海に飛び込んだ。
梨子は左足を抑えたままゆっくりと海に沈んでしまっていた。左足をつってしまったのである。泳ぎたくとも足が痛くて動きもままならず、もがけば息がどんどん苦しくなり、沈んでいく間に水圧も強くなってくるのが分かった。
(苦しい、痛い、も…駄目…!?)
梨子は口を開けてしまい、空気が勢いよく海面へと上がり、彼女は意識を失い…力なく海底へと沈む…。しかしその時その海底よりものすごい速さで上昇してくる物体があった。ソイツは梨子を受け止めると背中に取り付き更にスピードを上げて上昇した。
遠くからも梨子を呼ぶ声が幾つも聴こえ、彼女はゆっくりと目を開ける。其所には泣きじゃくった千歌の顔があり涙が彼女の顔に幾つも落ちた。
「梨子ちゃん、梨子ちゃん、目を開けてよ梨子ちゃん!!」
梨子は朧気ながら今の状況を理解する。自分は溺れたのである。そして多分…死にかけたのだ。そして何故かは分からないが九死に一生を得たのだろう。だから意識があり自分の為に泣いてくれている千歌の泣き顔を見てとても嬉しいのだ。
「目…、開いてますよ…千歌ちゃん…。」
仰向けのまま意識が戻ったのを千歌に伝える梨子。千歌は彼女が無事であると分かると梨子の胸に顔を埋めまたワンワンと泣き出してしまった。
「りいこおちゃああん、よがったああ、よがったよおおお!!!!」
「よしよしっ…て…、千歌ちゃん重い…苦しい。」
梨子は自分の胸に顔を埋めたまま泣きじゃくる千歌の背中をポンポンと叩いて宥める。そしてホッとした顔の果南と鞠莉もちょっぴり目尻を濡らして梨子の無事を喜んだ。
「良かった、一事はどうなるかと思ったわ。」
「果南さんが…助けてくれたんですか?」
梨子の質問に果南は首を横に振り、代わりに鞠莉が答えた。
「Non、リリーをヘルプしたのは“ゴジオ”よ。」
「…えっ!?」
梨子は起き上がろうとして上半身を起こし、船上を見渡してゴジオを探した。果南の話では彼女が海に飛び込んだ時、海底に沈む梨子を追おうとすると海の下からゴジオがもの凄い速さで上昇して来て梨子の背中に取り付いて海面まで押し上げてくれたのである。梨子はゴジオを見つけて千歌に支えてもらいながら立ち上がりゴジオのいる場所へ歩み寄りゴジオの前に座り込み…抱き締めた。
「ありがとう…ゴジオくん…。」
黒くゴツゴツした肌の感触が妙に気持ち良く、何となくゴジオに直ぐ抱きついたりちょっかいを出す千歌の気持ちが解る気がした。…ふと、梨子はゴジオの口がしっかり閉ざされている事に気付く。普段は口元が力なく隙間を開けており鋭い牙を覗かせているのだが今は全く見せていない。ゴジオから身を離し、下を見るとゴジオの下っ腹が異常に膨らんでいる事にも気付いた。
「千歌ちゃん、ゴジオ君のお腹…膨らみ過ぎない?」
「ええ、…ホントだ、ポッチャリ通り越してるね。」
二人はマジマジとゴジオのお腹を見ていると…、ゴリュッと
「千歌~、どうしたの?」
「リリー、大丈夫~?」
二人共呼び掛けに反応せず、ジッと我慢中のゴジオを見ていると唐突にゴジオの口が開き勢い良く“何か”が飛び出て来て真っ直ぐにそそり立った。何と“ウツボ”である。千歌と梨子は点目のまま真っ青な顔になって凍りつき、ゴジオの胃液で溶けかかっていてヌラヌラウネウネと動いたウツボは突然二人の顔をベチョンベチョンベチョンベチョンと交互に叩き、ゴジオの口の中に戻って行った。その様子を見ていた果南と鞠莉は何が起こったのか理解が出来ず只呆然と立ち尽くし、千歌と梨子は顔をベチョベチョにされ悲鳴も出ないまま白目を向いて二人同時に後ろに倒れた。
どうやらゴジオは海に潜った時にウツボを捕まえ丸呑み…踊り食いをしていたのである。ソイツがなかなか胃の中で溶けずうねっていて飛び出した様だ。
果南のクルーザーがお店に着くと待ちくたびれた黒澤ダイヤと渡辺曜が迎えてくれた。曜が手を振りながら千歌達に呼びかける。
「お帰り、遅かったって事は一杯楽しんだ?」
しかし千歌と梨子はクルーザーを降りて曜の所に行くと力なく溜め息を吐き、曜は二人の様子が心配になるが、取り敢えずある事に気付いたので其れを聞いた。
「二人共…
怪訝な顔でそう言われてしまい二人はまた大きな溜め息を吐き、ゴジオに目を向けた。ゴジオは口に白いテーピングをギチギチに巻かれており、一見虐待でもされている様な格好だが…当人は特に嫌がってはおらずいつも通りに大人しくしていた。…と、其所に一年三人娘もやって来ていつも通りのテンション且つ“ズパッ”と何処かのセーラー戦士みたいな決めポーズの津島善子が前に出た。
「ジャジャーン、二匹の使い魔を率いて堕天使ヨハネ降臨!!」
彼女の両脇で勝手に使い魔にされてしまった国木田花丸は怪訝な表情となり黒澤ルビィは困り顔で苦笑した。
「いつ誰がよっちゃんの使い魔になったズラ?」
「本当にいつだろう?」
「Aqoursに入った時、私の脳内で。」
そんな訳の解らない事を言うと二人を余所に直ぐ様ゴジオに駆け寄り何やらハーハーと息を荒げ出して指をワキワキと動かす。
「善子さん、何か怖いですわよ…!?」
「ダイヤうっさい、今日こそはゴジオを我が使い魔として契約…、何コレ??」
善子はゴジオの口に巻かれた白いテーピングに気付き眉間を寄せると…、何を思ったのか口のテーピングを剥がし始めてしまった。千歌と梨子は“ヒイイイ!!”と悲鳴を上げて善子を止めようと二人同時に手を伸ばす。
「善子ちゃんダメエエッ!!」
「それを取ったらいけないわああ!!」
「二人とも臭い、近付くな!!」
『ガーーーンッ!!!!』
曜のみならず善子にまで言われて二人はショックで凍りつき、善子はゴジオのテーピングを剥がし取ってしまった。そして彼女がゴジオを撫で回そうしたその時、ゴジオの口からあの“ウツボ”が勢い良く飛び出て来て善子の顔面にぶち当たった。
「グヒャウッ!?」
奇妙な悲鳴を上げる善子にウツボは追い討ちとばかりに大福ビンタの如くベチョンベチョンベチョンと叩き最後は顔面に胴体で面打ちをかまし…彼女の顔面の上に乗っかり息絶えた…。メンバー達はあまりのお約束な状況に言葉が出ずに立ち尽くし、堕天使ヨハネのけたたましい悲鳴が轟いたのであった。
そんな光景を車道脇から見つめる人物が一人、“彼女”は手にデジタルカメラを持ち、無表情でカメラの画面に視線を移す。…其処にはAqours達とゴジオの姿が写し出されていた。