ガールズ&パンツァー 隻腕の操縦士 《本編》   作:砂岩改(やや復活)

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第十三両 始まり

 

 

「姉貴ぃ!」

 

「イオ、悪かったな勝手にいなくなって」

 

「本当ですよ。驚いたんですからね」

 

「まぁ、こっちも買い出しがあったからちょうど良かったんだけどね」

 

「運命はいつも唐突である」

 

 聖グロリアーナから帰ってきた優衣を迎えたのはイオ、美優、香奈恵の3人。彼女らは自然な動作で優衣から手提げ袋を受け取ると自身の肩に掛ける。

 片腕の優衣にはあまり荷物は持たせないようにしているのだ。

 

「学園艦の出航まで時間があるけどなにか用事ある?」

 

「あぁ、実は祖父の元へ顔を出さないと行けないんだ。寿司屋を営んでいてな」

 

「せっかくだから付き合わせてください姉貴」

 

「もちろん、断る理由など無い」

 

 優衣は祖父の計らいで大洗女子学園へと転校を果たした。祖父がいなければこのようにのんびりとしてはいられなかっただろう。そんな祖父の元へと4人は出向くのだった。

 

ーー

 

「良く来たね優衣。準備は整ってるよ!」

 

 寿司屋に出向いた4人を待っていたのは大量の寿司、寿司、寿司。用意されていたのは大きな寿司桶が7個。一つの桶がだいたい2、3人前。いやこの大きさは4人前までいきそうだ。それが5つも、約28人前ほどの寿司に一同が唖然とする。

 

「戦車道連盟から補助金も出るし、何より優衣の新たなる門出だ。友達の分も用意しておいたよ!」

 

「だよね、そうだよね」

 

 この量は明らかにみんなで食べる用の物だ。しかし約30人前の寿司が眼前に現れると言葉を失ってしまうものだ。

 

「美味しそうなお寿司!」

 

「姉貴、この店ってそこそこ高めの…」

 

「ここがアヴァロン!」

 

 当然ながら回らないお寿司である。しかもこの量だ金額にしてみればかなりの…。いや、言うまい…人の善意を金額で推し量るのは悪い考えだ。

 

「君たちも優衣が世話になってるね。これからもよろしくね」

 

「いえ、こちらがお世話になってるので」

 

 最初の寿司にこそ度肝を抜かれたが気の良いおじいさんでホッとする一同だった。

 

ーー

 

 その後、車で学園艦まで送られたイオたちは優衣のおじいちゃんと別れを告げて乗艦。そこには寿司の件を伝えた会長たちが待っていた。

 

「いやぁ、聞いたときは驚いたけどこりゃ凄いね」

 

「場所はもう用意してあるよ。出航したら集まるようにみんなに連絡を入れたし」

 

 つまれた寿司桶に感嘆する杏と柚。どうやら打ち上げ用の場所も確保しておいたらしい。

 

「桶はこっちで貰っておく。1年生たちがお前たちに用があるそうだぞ」

 

「ん?」

 

 桃の言葉に背後に並んでいた1年生たちに目を向ける。全員が反省の表情を浮かべて叱られるのを待っているようだった。

 

「副隊長、勝手に戦車を放りだしてすいませんでした!」

 

「「「すいませんでした!」」」

 

 梓が頭を下げて他の5人も頭を下げる。

 

「香奈恵、持っててくれ…」

 

「承知」

 

 優衣は持っていた荷物を香奈恵に渡すと数歩前に進み1年生の前に立つと息を吸う。

 

「バカ者!」

 

「っ!」

 

 優衣の怒声に1年生たちが縮み、関係ない桃が姿勢を正す。そんな桃を見て柚と杏は苦笑いする。

 

「なぜ私が怒っているか分かるか?」

 

「私達が試合中に逃げ出したから…」

 

「違う。その事については私は気にしていない、むしろ恐怖を感じることは良いことだ。お前たちの豊かな感性は素直に評価している」

 

「じゃあ…」

 

 優衣の言葉に1年生たちは理解できずに首をかしげる。

 

「私が怒っているのは、砲弾が飛び交う中をなにも考えずに走って行ったからだ!」

 

 戦車道に対する危険性については優衣が誰よりも知っている。今こそ、戦車道と呼ばれ乙女の嗜みとして広がっているがかつては人などを殺すために作り上げられた兵器の一つ。その気になれば簡単に人を殺せるものなのだ。

 

「お前たちがあの時、走って行ったと聞いて。私がどれだけ肝を冷やしたか」

 

 こちら側の印象などという対面などどうでも良い。そんなもので人は守れない。優衣は心から心配して怒っている、それが1年生たちにも良く伝わっていた。

 

「優衣先輩…」

 

「これを見ろ」

 

 そう言うなり優衣は制服の上着を右手だけで起用に脱ぐと上半身を1年生に見せる。

 

「姉貴ぃ!?」

 

「優衣!どうしたの!?」

 

 流石のイオたちも驚きを隠せないが彼女は止める気配を見せない。優衣の体にあるのは無数の傷、これは全て事故の際に受けた傷だった。

 

「絶対に私のようになってはならない!砲弾が実際に当たってはいない。近くに着弾しただけでこのザマだ…。でも皆無事で良かった…」

 

 1年生たちには傷一つ無い、知ってはいたがそれを見て優衣の声色は優しいものへと変わっていった。そんな彼女を見て梓たちは涙を浮かべる。

 

「優衣先輩!」

 

 泣きながら優衣に抱き付く1年生たち。それを彼女はしっかりと受け止めて右手で順に撫でていく。

 

「もう危ないことはするなよ」

 

「はい、もうしません!」

 

 感動的な光景に見守っていた杏たちも表情を綻ばせて柚は涙を目に浮かべる。

 

「姉貴、服を!服を着て下さいぃ!!」

 

 そんな中、イオの声がむなしく響くのだった。

 

ーー

 

「おぉ、来たか。みほ」

 

「わぁ、すごい」

 

 打ち上げ会場に最後に現れたのはみほたちAチームだった。並べられた寿司に驚きながらも彼女が横に座るように促すとみほは隣に座る。

 

「今日はお疲れだったな」

 

「いえ、あのクルセイダーを抑えてくれた優衣さんたちのお陰です」

 

 優衣はオレンジジュースを持つとみほのコップに注ぐ。

 

「お前は隊長として文句の無い働きをしたと思ってる」

 

「優衣さん…」

 

「他人を気遣うのも良いけど自分のにも入れようね」

 

 そう言うと中嶋は優衣のコップにもオレンジジュースを注ぐ。

 この打ち上げに参加していたのは戦車道を履修した者たちだけでは無い。戦車のレスポンスや整備を担当している自動車部も参加している。

 ホシノと美優、スズキと香奈恵、ツチヤとイオが談笑しながらそれぞれ楽しんでいる。

 

「あ、いつもお世話になっています」

 

「あぁ、気にしないで。こっちは趣味みたいな感じだし」

 

 整備士は影の立役者。強豪校には必然的に優秀な整備士たちが存在し尽力している。その点、この大洗は整備士に恵まれている。ここの自動車部たちは整備、レスポン、調整、魔改造何でもござれの化け物集団だ。

 

「よし、全員集まったな。今回はご苦労だった、各自の課題も分かっただろう。優衣、音頭をとれ」

 

「ん、分かった」

 

 優衣が立ち上がると彼女に視線が集中する。

 

 

「試合前に私は言った。なにかを掴んで欲しいと、なにかを掴んだか?戦車道の厳しさも楽しさもこの試合で感じてもらえたら私は嬉しい。そして率直な感想を述べよう」

 

 優衣の言葉に全員が息を飲む。鬼峡間である優衣からどのような評価が飛び出すのか不安だったからだ。

 

「よくやった。お前たちは私の予想を遙かに超える活躍をしてくれた、お前たちは羽ばたけるぞ。乾杯!」

 

「「「乾杯!!」」」

 

 優衣に褒められた嬉しさが混じった全員の盛大な乾杯コール。初戦の奮闘を祝した打ち上げが始まったのだった。

 

ーー

 

「いやぁ、ありがとね。2人とも」

 

「負けちゃったけど、良い試合になりました」

 

「課題は山積みだがな」

 

 みほと優衣の元に来たのは生徒会チーム。5人は互いに飲み物を注ぎながら話をする。

 

「どう、2人からしてみると全国大会も勝てそう?」

 

「はい、クルセイダーを含む聖グロリアーナにここまで肉薄出来ました。確実とは言えませんけど夢では無いと思います」

 

「みんなの士気も高いし、変に気負わないからな。夢は持っても良いかもしれない」

 

「どうだ、気になる点はあるか?」

 

 2人のまずまずの評価にホッとした表情を見せる柚、すると桃は改善点に突いて聞いてくる。すふと優衣は笑いながら答える。

 

「まずはお前の芸術的な砲撃からだな」

 

「なっ!」

 

「確かに桃ちゃん、外しすぎだし」

 

「あれはどうにかしないとね」

 

「会長まで!」

 

 自然と笑いが起こり桃を除く4人全員が笑う。こうして話しているといつの間にかみほと優衣を中心に全員が集まりたわいの無い話を繰り広げ楽しい時間を過ごすのだった。

 

ーー

 

 《第63回 全国高校生全国大会》そう掲げられた会場の中、みほは抽選で8番の札を取りトーナメントが決定する。

 

 1回戦の相手はサンダース大付属、戦車保有数最大を誇る強豪校の一角だった。それを見たサンダースのメンバーは互いにハイタッチをして喜ぶ。

 

「いきなり強豪ですね姉貴」

 

「勝つつもりならどうせ当たることになる。それが遅いか早いかだ」

 

「我らは死神に追いつかれる前に駆け抜けるのみ…」

 

「おぉ、緊張してきたぁ!」

 

 会場の観客席で抽選を見ていた優衣たち4人は顔を引き締める。

 

 

 ついに始まる全国大会。彼女たちの本当の戦いが始まろうとしていたのだった。

 

 

 

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