ガールズ&パンツァー 隻腕の操縦士 《本編》 作:砂岩改(やや復活)
「て言うことがあってさぁ」
「地獄の釜が開いたか…」
「自業自得だな」
「優依って相変わらず超辛口」
いつも通りの昼下がり、蒼流優依は新しく出来た友達と昼食を共にしていた。
優依が大洗女子学園に転向してから半年、片腕がないという見た目でありながらこうして接してくれているのはありがたい。
「で、どうするの?戦車道のこと」
「あぁ、それが悩みでな」
学食である天丼を頬張りながら優依に話しかけたのは天道美優、黒髪をポニーテールで纏めた彼女は後輩のイオと同じく陽気な奴だ。
「歴戦の騎士は湖の畔にて膝を突く…」
「ほら、香奈恵も心配してるじゃん」
「私はお前の通訳無しでは理解できん…」
灰色の髪を背中まで伸ばしその黒目の下にはしっかりと隈が出来ている。
その名は神崎香奈恵、一言で言えば中二病である。
半年も一緒に過ごしているが優依は今だに言葉が理解できていない。
中学校からの付き合いである美優は高校に入ってからおかしくなったと言っていた。
「与えられし言葉は定められた」
「結局どうなのって?」
「まぁ、こんな負傷の身になにができるかは分からんがな…」
ーー
この話の発端は数時間前に遡る。
この大洗女子学園を取り仕切る生徒会メンバーである角谷杏、小山柚子、河嶋桃の3人が優依の元を訪れたことに始まる。
「お前が蒼流優依だな」
モノクルの様に眼鏡を片方だけ掛けている少女、河嶋桃は高圧的な態度で一歩前に進み優依を見る。
「そうだが、何か用か?」
「うっ…」
そんな態度が気に入らなかった優依は桃を正面からにらみ据える。
その睨み顔は半年の時を同じくしていた美優と香奈恵にとっても思わず息を呑み込む様な恐ろしいものだった。
「そ、それはぁ…」
「いや~凄い気迫だねぇ、元黒森峰のエースさん」
いきなりメンタルをへし折られた桃に変わり前に出たのは杏、彼女はひょうしょうとした態度で優依に近づくと軽く右肩を叩く。
「黒森峰で発揮してたその腕、もう一度使ってみない?」
「なに?」
「実はさぁ、戦車道を復活させることになったんだよねぇ。だから優秀な人材は確保しておきたいわけよ」
杏の言葉に優依は驚く。
当然だろう、まさかこんな体の元選手を戦車道に誘うとはあり得ない。
「出来るとは思えんがな…」
「こっちは猫の手を借りても足りないんだよぉ。場所とか時間はまた連絡するからねぇ。用件はそれだけだから…じゃあねぇ」
言うだけ言った杏は何故か既に半泣きの桃を連れて帰っていくのだった。
ーー
「まぁ、戦車道って乙女の嗜みって言われてる程だし。優依がやるんだったら私もやってみようかな」
「この身は我が同胞たちのために…」
「そうだな」
何故かやることが前提になっているが優依は一言も了承していない、後から断ると言うのもアリだろう。
事故が原因とはいえ、一度は戦車道から逃げた自分が戻ってきて良いのだろうか、そんな懸念が優依の中で燻る。
「優依の後輩ちゃん、戦車道やってたんでしょ?誘ってみようよぉ」
「イオか…」
「今こそ円卓の騎士が集うとき…」
「円卓は途中で空中分解しただろう」
「うむ…」
香奈恵の言葉に突っ込む優依。
たまに突っ込んでおかないと自分までああなりそうで困る、何より特定の人物としか会話できないのが嫌だ。
「次あったら話しておくか…」
「言葉こそが人間に与えられた剣である…」
「はいはい…」
香奈恵の言葉を流した優依は少し冷めてしまったカツ丼を頬張る。
彼女は上手くやっているのだろうかと保護者的な考えを抱きながら…。
ーーーー
「あぁ…一体どうすればぁ」
同時刻、大洗女子学園の屋上で同じ部活仲間である自動車部と共に昼食をとっていた。
イオは中学校前から戦車の操縦者兼整備士をしていた優秀な人材なのだが親の転勤のせいで戦車道のない大洗に来てしまったと言うものである。
「おやおやどうしたの?イッチー」
イオにしては珍しく大きなため息は自動車部の注目を集めるには十分だった。
和やかに話しかけてきたのは同じ学年のツチヤ、皆はドリキンと呼んでいる。
「元気ないねイッチー」
「どうしたのイッチー」
ちなみにイッチーとはイオのあだ名だ。
イチゴ大好きだからイッチーと安易だが本人も気に入ってるので良しとする。
「実は私、中学の頃は戦車道をしてまして…」
「「「「へぇ~」」」」
イオの言わんとしてることがだいたい分かってきた自動車部の面々、彼女らも生徒会から戦車道の支援を頼まれているからだ。
「スカウトされたんだ」
「はい」
自動車部のリーダーである中嶋悟子の言葉にイオはシュンとしながら答える。
イオ自身としてはもちろん戦車道をやりたい、おそらく姉貴も同じ事を言われただろう。
だけども一年と少し楽しく一緒に過ごしてきた自動車部を立ち去る気にもなれない。
「うちらに気にせず、行ってきなよイッチー」
「そうだよイッチー」
「先輩方…」
スズキとホシノの言葉にイオが感動を覚え目に涙を浮かべる。
「大好きな姉貴の為に頑張ればいいじゃん」
そんなイオの肩を思いっきり叩き励ましたのはツチダだ、同じ学年と言うこともあり特に仲が良かった友の言葉はとてもありがたかった。
「はい!不肖、香月イオ。先輩方とドリキンの感謝を忘れずに姉貴の為に戦います!」
「姉貴によろしくねぇ」
「はい!」
「まぁ、戦車整備するのうちらだから。頻繁に会えるし」
「生徒会に了承の意を述べてきます!」
そう言った瞬間、昼飯を置いて去っていくイオ。
決めたら即実行、彼女の行動力には感心せざる得ない。
「相変わらず素直だねぇ」
「全くだ」
「今思ったんだけど姉貴って誰だっけ?」
「「「あ…」」」
中嶋の言葉に全員が口を揃えて気づく。
この一年間、何度も姉貴の話を聞いてきたがよく考えて見れば名前を知らない。
「まぁ、そのうち分かるっしょ」
「そうだね」
結局その結論に落ち着き自動車部の面々は走り去っていったイオの帰りを待つのだった。
ーーーー
時間は経ち、昼休みも終わりを迎えそれぞれが授業へと動き始める。
優依は戦車道への参加をするか、しないかと悩んでいた。
《やってやろう相棒》
《お前に任せたぞ…》
親友と交わした約束も無下にして逃げ出した腰抜けに再び戦車に乗る資格があるのだろうか。
そんな事を思いながら授業を過ごしていた優依の姿を香奈恵と美優は心配そうに見つめていた。
そうこうしているうちに最後の授業を終えるチャイムが鳴り響いた。
「全校生徒に告ぐ。体育館に集合せよ、体育館に集合せよ」
チャイムのすぐ後に警告音が鳴り響いたかと思えば学校中に高圧的な声が響いた。
「また生徒会か…」
「まぁまぁ、どうせいかなきゃならないんだし」
「いざ行かん、最果ての地へ」
本日二度目の生徒会にうんざりする優依をなだめる美優、相変わらずの香奈恵。
まだ大洗に来て半年の優依だが碌でもないことが始まろうとしてるのは分かる、生徒会の無茶ぶりは今に始まった事ではない。
一同はしぶしぶ体育館に向かうのだった。
ーー
「静かに…」
今朝、半泣きになっていた桃が凛々しい姿でざわめく生徒たちに注意する。
徐々に話し声が消え、集まった生徒たちが生徒会がいる前方へと注目する、それを確認した桃は話を続けた。
「これより必修科目のオリエンテーションを始める」
端的に言い放った桃の言葉と共に彼女の後方にあったスクリーンに映像が映し出される。
そこには《戦車道》と達筆で書かれた文字が堂々と映し出されていた。
《戦車道。それは伝統的な文化であり乙女の嗜みとして受け継がれていきました。》
「はぁ…」
始まったのは予想通り戦車道の説明、その状況に優依も思わず大きなため息を出してしまった。
あの生徒会たちは自身を何としても戦車道に入らせたいと言うことなのだろう。
周りの生徒たちが目を輝かせている一方、彼女は冷ややかな目でその宣伝を見つめていた。
説明を終えるとスクリーン付近が爆発し申請書と思われる物がデカデカと映し出されていた。
「実は数年後に戦車道の世界大会が日本で開催されることになった。その為、文科省から全ての高校、大学に戦車道に力を入れるように要請があったのだ。」
凜々しく発せられた桃の言葉に優依は違和感を覚える。
戦車道は殆どの学校が選択肢として備え付けられている、大洗の様に戦車道がない学校が珍しいぐらいだ。
元々あった学校ならともかく、戦車道がない学校に対してわざわざ行わせる大きな理由などないはずだから。
「んで、うちの学校も戦車道復活させるからね。選択すると色々特典が着いてくるんだぁ。副会長」
「成績優秀者には食堂の食券100枚、遅刻見逃し200日、更に通常の単位の3倍を与えます!」
「「「おぉ!」」」
「ということでよろしくぅ!」
法外な報酬に生徒たちはたまらず歓声を上げる。
文科省からの要請を達成させるためなのだろうか違う目的があるのかは知らないがこれで食いつかない奴はいないだろう。
ーーーー
「聖剣はここに眠りし」
「確かに魅力的なはなしだったねぇ」
オリエンテーションを終え生徒たちの話題は当然、戦車道のことだ。
美優と香奈恵(美優の訳つき)もかなり賛同的な意見を話している。
流れ的には優依にも戦車道を薦めるのが当然だろうがこの二人はしない、彼女の腕は戦車道によって傷ついたものだ、そこら辺の配慮はわきまえている。
「姉貴ぃー!」
「ん?」
そんな時に現れたのは後輩のイオだった。
イオは満面の笑顔で手を振りながら優依の元へと駆け寄った。
「姉貴はどうしますか?私は生徒会にやるって言ってきました」
「そうか…」
「姉貴は…すいません」
「いや、気にするな」
喜々として話すイオは風に流される左袖を見て黙り込んでしまう。
それに対し優依は怒ることも悲しむこともなく優しく頭を撫でる。
「まぁ、よかれと思ってしていたし落ち込むことないよ!」
「陽と影は離れられぬものだ…」
「ほら!香奈恵もそう言ってるし!」
落ち込むイオを頑張って励まそうとする二人、香奈恵に至っては何を言ってるのか理解できないが口調からして慰めようとしているのは明らかだ。
「お前ら落ち着け」
自分のせいで騒いでる3人に優依は恥ずかしくなってくる。
必死になってるせいか声のボリュームも上がり周りの人たちがチラチラと見始めていた。
「優依先輩?」
「ん?」
必死に宥める優依の背中に話しかける少女がいた。
呼ばれたらその者を見るのが当然の反応だ、優依も例外ではなく振り返り声の主を見る。
「みほか!」
「やっぱり優依先輩だったんですね!」
満面の笑顔で優依を見つめたのは彼女の親友の妹であり、自慢の後輩である西住みほであった。