ガールズ&パンツァー 隻腕の操縦士 《本編》   作:砂岩改(やや復活)

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第五両 初陣

 

 

 各自が搭乗予定の戦車を洗い終え帰宅した後、優依とイオはその場に残り自動車部の手伝いをしていた。いくら優秀といって自動車部にとって戦車の整備は初めて、少しでも役立てばと言うつもりだった。

 

「いや~、悪いねこんな事まで手伝って貰って。ほら」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 プシュッという音を上げ中嶋から差し出された開封済みの缶コーラを受け取ると一気に煽る優依。だいぶお疲れのようだ。

 

「しかし1度に5両もレストアしとけとか…。生徒会も無茶を言うなぁ…」

 

「それだけ信頼されてるって事でしょ?」

 

「どうかなぁ…」

 

 こき使っているだけに思える優依だがわざわざそれを言うのは野暮というものだろう。

 レストアし終わったM3リーを見ながら飲むコーラは最高だ、これがビールなら申し分ないのだがここは黒森峰ではない。

 

「終わったぁ…」

 

「やりきった、やりきった~」

 

 Ⅲ号突撃砲をレストアし終えたドリキンとイオは優依の近くにおいてあった冷えたドリンクを選ぶと美味しそうに飲む。よっぽど喉が渇いていたのだろう。

 

「本当に助かったよ、流石は姉貴だね」

 

「まぁな…」

 

 ホシノの言葉に優依はなにも言わずに同意する。

 最初こそは同い年からの姉貴呼びに抵抗があった彼女だが自動車部の連中はお構いなしに呼んでくるので優依が折れる形で終息を得た。

 

M18(ヘルキャット)も見させて貰ったんだけど、凄く丁寧に整備されてた。技術もそうだけど整備してる人の思いやりが伝わるようだったよ」

 

「母が使っていたものだ。コイツはオープントップの車両が試合時に安全に運行できるかと言う実験性の強い意味合いで認可された車両らしい。」

 

 ヘルキャットを運搬する際に発見した手紙に書かれていたものをそのまま伝える優依、母は良くも悪くもあまり考えない人間なので祖母が書いておいてくれたのだろう。

 

「あれ、今でもオープントップは認可されてないんじゃ無かったけ?」

 

「それがな、母が強すぎて実験が成り立たなかったらしい。結局、ヘルキャットの中でも認可されているのはこの車両だけだ」

 

 今現在の母からは想像できないがかなり強かったらしい、今後は戦車関係の話もしてみようかと思う優依だった。

 我ながら随分と特殊な立ち位置にいるものだ、このヘルキャットは…。特殊と言えば片手で操縦士をやろうとしている自身もそうか…。

 

「なんだかんだ似たもの同士かな…」

 

「優依?」

 

「なんでもない…」

 

 フッと微笑む彼女を見て不思議に思う中嶋だが優依はその笑みを崩さずに持っていたコーラを飲み干すのだった。

 

ーーーー

 

 翌日、ついに戦車道の授業が開始される時間となり履修車はⅣ号が収まっていた倉庫の前で集まっていた。

 

「ふぁ…」

 

「大丈夫なの、優依?」

 

「大丈夫、眠いだけだ」

 

「深淵は暗闇への道へと誘う…」

 

 割と大きなあくびを噛み殺していると心配そうにみる美優に優依は感謝しつつ先程買ったスッキリガムを口に放り込む。

 

「ついに来ましたね!」

 

 昨晩はかなり遅い時間までレストアを行っていたので眠い優依だが対してイオは超絶元気だ、自動車部の他のメンバーも元気だったのを見ると徹夜などの類いは馴れているのだろう。

 

「彼方にこそ栄えあれ…」

 

「ん?」

 

 相変わらず香奈恵はなにを言っているか分からないが突然、空に向けて指を指した辺り何か来たのだろう。

 彼女の向ける方向に視線を移すと輸送機がこちらに向けて真っ直ぐと飛行してきているのが確認できた。

 

「学園長の車が!?」

 

 その様子を黙って見つめる履修者たち、輸送機の下部ハッチから10式戦車が降下すると思えば近くに駐車していた学園長の車がひっくり返る。

 10式戦車はそれを知ってか知らずかあまつさえ踏み潰しスクラップに変えてしまった。

 

「フェラーリF40がぁぁぁ!中古車ですら3000万円を下らない高級車がぁぁぁ!」

 

 某プリン伯爵の如く頭を抱えて絶叫するイオの声が響き渡る。本当に学園長が一体何をしたというのだ。

 

「こんにちは!」

 

 そして次に響き渡ったのは優しい女性の声、声の主は先程降下してきた10式戦車から顔を出し笑顔をこちらに向けるのだった。

 

ーー

 

「特別講師の戦車教導隊、蝶野亜美一尉だ」

 

「よろしくね、戦車道は今日が初めてという方がほとんどだと聞いていますけど一緒に頑張っていきましょう」

 

 凜々しい顔立ちに優しげな声、一見すると悪い人でも話しかけにくい人でもなさそうだ。

 

「あれ、西住師範の娘さんじゃないです。西住師範にはお世話になっているんです、お姉様も元気?」

 

「あ…はい」

 

「西住師範って?」

 

「有名なの?」

 

「西住流ってのはね戦車道の流派の中でも最も由緒ある流派なの」

 

「教官!教官はやっぱりモテるんですか!?」

 

 気さくに話しかけてくれる蝶野だったが話題があまりよろしくなかった。返答に困るみほを助けようとした優依の先を取ったのは沙織だった。

 

「モテると言うより狙った的は外したことはないわ。撃破率は120%よ!」

 

「「おぉ…」」

 

「教官、今日はどう言った練習をするのでありましょうか!」

 

 上手く話が逸れ優花里が知ってか知らずか話を元に戻す。素晴らしい連係プレイだ。

 

「えぇ、本格戦闘の練習試合。早速やってみましょうか」

 

「えぇ!あの、いきなりですか?」

 

「大丈夫よ、何事も実戦、実戦。戦車なんてバーと動かしてダンッと動かしてドンッと撃てばいいんだから」

 

 驚く柚子の言葉に対し蝶野は笑顔を崩さない。あまりの急展開に他のメンバーもざわめく。

 

「じゃあ、それぞれの開始地点に向かってね」

 

 持参した地図を広げ指示を出す蝶野、それを見た時、柚子はやるしかないと思うのだった。

 

ーー

 

「じゃあ、昨日説明した通りでお願いします」

 

「分かったよぉ」

 

「承知…」

 

「優依ちゃん…」

 

 指示で各自が戦車に登場していた時、優依を呼び止めたのは蝶野だった。彼女は優依の隻腕を見やりほんの少しだけ悲しい顔をする。

 

「蝶野さん…。やっぱり覚えていましたか」

 

「えぇ、彼女もかなり心配していたわよ。連絡は…」

 

「いえ、しかし彼女も気付くでしょう。私が再びこの場に戻ってきたことはいずれ…。」

 

「そうね」

 

 相変わらずの優依の態度に笑みをこぼす蝶野。本人が進もうとしているのだそれを他人がとやかく言うは必要はない。

 

「新たなスタートね、頑張って」

 

「ありがとうございます」

 

 なら自分は笑顔で見送るまで、それが自身の出来る最高の手向けなのだろう。

 

 

「姉貴、どうしたんですか?」

 

「もう準備できてるよ」

 

「すまないな」

 

「いざ、遠征へ…」

 

 既に準備万端な三人を見て優依は素早く操縦席に座ると慣れた手つきでエンジンを始動させギアを合わせる。

 

 緩やかにアクセルを踏み徐々にクラッチを上げてゆくとヘルキャットは前進を始め速度を上げていく、速度がつくとクラッチから足を離しギアを上げると運転に集中する。

 

「滑らかだねぇ」

 

「まさしく、日常…」

 

「これぐらいはな…」

 

 後ろから仕切りに感心されなんだか落ち着かなくなってきた優依は思わず頬をかきたくなるのだった。

 

ーー

 

 しばらくした後、指定ポイントに到達した優依は車両を停止させる。

 

「各自、礼」

 

「よろしくお願いします」

 

 蝶野の説明の後、無線を聞いていた全員が車両の中で礼をする。

 

「それでは試合開始!」

 

「それで、どうしますか?」

 

 蝶野の開始宣言が下されるとイオは優依に意見を求める。それはそうだろう、イオは初めて車長というものをやるのだから。

 

「知らん…全部お前に任せる」

 

「え…」

 

 まさかの回答にイオは言葉を失ってしまう。そんな彼女の姿を香奈恵と美優は同情の眼差しで見る。

 

「この試合はお前が間違えれば損する人など我々の他にいない。それに負けたって責任などない。ならお前の思うとおりにやって見ろ、自己判断こそ必要なことだ」

 

「は、はい!」

 

 簡単に言えば習うより慣れろと言う事だ、それを察したイオは元気な声で返事をすると周囲を見渡し始めるのだった。

 

「……」

 

 そんな彼女の姿に優依はほんの少しだけ昔のことを思い出した。

 

《お願いします!副隊長のように隊長と並べるような車長になりたいんです!》

 

 黒森峰時代、寮の部屋に押しかけてくるや頭を下げてそう叫んだ後輩、いろんな意味で真っ直ぐすぎてとても面白い後輩だった。

 

ズドォーン…

 

 すると聞こえてきたのは砲声、明らかに戦車が砲を放った音だった。

 

「南南西の方角ですね。恐らくですが川の向こう側、吊り橋付近」

 

「じゃあどうする?」

 

 優依の言葉に対しイオはほんの少しだけ思案すると指示を出す。

 

「音の鳴った地点の対岸に出るように前進します。恐らく全車がそこに集結するでしょう。前進開始です!」

 

「了解した…」

 

 イオの指示通りにヘルキャットを進め始める優依。その後もイオは考えながら細かい指示を出していき砲の装填を終わらせ目標値点に辿り着く。

 

「うわぁ…。優依の後輩ちゃんが包囲されてるよ」

 

「四面楚歌…」

 

「予想以上でした…。経験者を先に潰そうという事でしょうか…」

 

「イオ、指示を出してくれ…」

 

「あ、はい」

 

 ヘルキャットの位置はM3リーの後方、向こうからは木々が死角を作っているため発見されていないだろう。

 

 12.7ミリの後方装甲が丸見えな上に向こうは無警戒、距離も離れていないので十分撃破可能だ、38Tも問題ない。

 

「砲塔を旋回後に攻撃に映ります。Ⅳ号には悪いですが囮として使わせて貰います。優先目標はM3リー次に38T…」

 

「承知せり…」

 

 イオの言葉に香奈恵もやる気満々で答える。

 

「シュトリヒ…シュトリヒ……」

 

 香奈恵は珍しく優依の理解できる単語を呟きながら砲の角度を調整していく、現在は停車しているため狙いやすい。

 

「うむ…」

 

「発射!」

 

 イオの言葉と共に放たれる砲弾、偶然にもヘルキャットと砲撃とⅣ号の砲撃は同タイミングだった。

 

ーー

 

「ふはは、周り込んだぞ!」

 

 完全に優位に立ってる故に桃は高笑いをしながら目の前で立ち往生しているⅣ号に狙いを定める。

 だかその瞬間、すぐ後ろに着いてきていた一年生チームのM3リーが被弾し白旗を揚げた。

 

「な、なんだ!?」

 

「あちゃー。後ろ取られたね」

 

 突然の事態に混乱する桃を尻目に干し芋を囓っていた杏が暢気に状況を理解していた。

 

ーー

 

「えぇ…」

 

「なぁにぃ~」

 

「一年生チーム、撃っておいてなんだけど大丈夫?」

 

 突然撃破された一年生チームは何のことか分からず疑問の声を上げていると無線から美優の声が車内に響き渡った。

 

「こちらは大丈夫です。驚きはしましたが…」

 

「ごめんね、こっちの人たち容赦ないから」

 

「おい、誰が鬼畜だ」

 

「そんな事言ってないでしょ」

 

「そうですよ、姉貴は誰に対しても容赦ないだけです」

 

「魔王…」

 

「お前ら私が何かしたか?」

 

 美優の言葉に答えたのは一年生チームのリーダーの澤梓だった。

 彼女は無線の向こうから聞こえてくる美優と優依の話し合いに思わず笑みをこぼす。気になっていた片腕の先輩は思った以上に接しやすい人かもしれないとその時、無線を聞いていた一年生は思うのだった。

 

ーー

 

一方、生徒会チーム。

 

「おのれ、あの時の礼を今こそ返してやるからな!」

 

「桃ちゃん、まだ根に持ってたんだ…」

 

「桃ちゃんと呼ぶな!旋回して迎撃するぞ!」

 

 桃の指示に対して柚子はチラリと杏を見るが華の彼女は相変わらず干し芋を食べ、なにも言わない。

 彼女は指示通り38Tを後ろに旋回させるが肝心のヘルキャットの姿が見つからない。

 

「撃て…」

 

 その時、装填を終えたヘルキャットの砲が再び火を噴き38Tに直撃する。

 

「あ!いた……」

 

 木々の間が突然光り砲弾が飛来する。桃がその異変を察知し言葉を発すると同時に強い衝撃が彼女達を襲った。

 

「くっそう!」

 

「そう怒らないで桃ちゃん」

 

「桃ちゃんと呼ぶな!」

 

 一方的にやられ憤慨する桃だったが柚子と杏は仕方ないと笑うのだった。

 

ーー

 

「なんかいつの間にかやられちゃってるんだけど」

 

「たぶん、優依さんのチームだと思う」

 

 Ⅲ突と89式を倒したみほは前方にいたはずの2両が白旗を上げている姿に驚き身を乗り出し周囲を見渡す。

 

「優依さん事だからこちらから見にくい場所に…いた!」

 

 みほはせわしなく木々を見渡すとその間に砲身を向ける姿を見つけ出した。

 

「いた!」

 

「麻子、後ろに下がって!」

 

「分かった…」

 

 みほの言葉に恐怖を覚えた沙織は操縦士となった麻子に指示を出すと彼女はギアを変え後方へと再び進み出す。

 

「撃てぇ!」

 

 それと同時に発せられるイオの命令、鳴り響く砲声。みほは砲弾が放たれる様を目を見開くのだった。

 

 

 





最後の方の優依サイドは次回でやります。

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