都庁から、多くの人が失踪したのは昨夜から未明にかけてのこと。その中には、ムラクモ機関総長であるナツメも含まれていた。
昨夜の警備にあたっていた自衛隊員のその時間だけ、記憶が抜け落ちている。
そんな中、アメリカとの定期連絡の時間となり、この話は後回し。ナツメの代理でキリノが応対。
大統領から直接、各国の最も人口の多い地域に『帝竜』が7匹いると教えられ、アメリカはすでに6体の『帝竜』の討伐を成功させ、最後の一体を討伐次第、日本に援軍を出すことを約束してくれた。
その後、観測班の調査で『帝竜』の反応が2つも出て、その内、一体が国分寺。もう一体は東京の中心部を徘徊していることが解る。
このうちのどちらかが、今回の失踪事件に関与している可能性が高い。
そこで国分寺には機動力のある13班があたり、東京の中心地にはキリノが向かうことになったが、キリノ1人では心細いので、アオイも同行することに。
国分寺へ向けて、13班が出発した後、アオイは自身の出発の準備を整え、何気なく、都庁の中をブラブラしていた。
昨日までは沢山の人がいて賑やかだったのに、今は人はまばらで、本当にシーンという音が聞こえてきそう。
窓辺に最近、やって来た初音ミクがいて、何かぼそぼそと話している。
「あれ?」
ふと見ると、何かパタパタと飛んでいる小さな子供のようなのと、初音ミクは話ているではないか。
近づき、しっかりと見てみた。確かに初音ミクの前にいる。
「何、その子、もしかして、妖精?」
その姿はファンタジー世界や童話で出て来る妖精そのもの。
「あなた、クゥインが見えるの」
と、聞いてきたので、アオイは頷く。
「すごいの~すごいの~、初音ミク以外で、私の事、見える人なんて、《この星》で初めてだよう」
嬉しそうにパタパタとアオイの周りを飛ぶ。
普通の人なら、妖精なんか見たら、多少なりとも驚くだろうが、それはアオイの事、動じることなく、あっさりと受け入れていた。
「これ、食べる?」
妖精のクゥインにチョコバーを差し出す。
「何これ、とっても美味しそうだよう」
食いしん坊な妖精は、興味津々で、早速、モグモグ、齧ってみた。
「美味しいよう」
ほっぺたを押さえて、大満足。
「か、可愛い――。この子、連れて帰っていい?」
今にも抱きしめそう。
「ダメ、クゥインには大事な仕事があるから」
チョコバーを食べ終えた妖精のクゥインを手招き、パタパタと初音ミクの方に飛んでいく。
「大事な仕事?」
都庁の前にアオイが出ると、そこにキリノが待機、その横にはガトウが立っていた。
「ガトウさん、もういいんですか」
まだ額に、包帯を巻いたまま、
「ああ、いつまでも寝て張られねぇからな」
ガッハハハハと大笑い。いたって、元気そう。心配はなさそうだ。
「さて、行こう」
キリノが先頭を切り、行方不明者探索に出発。今回はアオイたちのサポートはミイナが担当。
国分寺は砂に覆われ、砂漠になっていた。
砂漠と化した国分寺のダンジョン『国分寺・灼熱砂房』で待っていたのは『帝竜』だけではなかった。SKYのリーダー、タケハヤ、ネコとダイゴが13班を待ち、最後の勝負を挑んてくる。
これまで、何度かネコとダイゴとは戦ったことがあるか、タケハヤとは初めて。
SKYのリーダーだけあり、タケハヤの実力は凄い。黄金色の剣を振るい、放たれたSKY・インパクトの威力は強烈。
しかし、いくつもの戦闘を潜り抜け、『帝竜』との戦いを制してきた13班も手練れである。
すぐにピンクハーレーがキュアを使ってSKY・インパクトのダメージを回復させ、続いてネコにイフリートベンを撃ち込み、力男が釣鐘マッハをダイゴに叩きこむ。
タケハヤは強い。でも、どこか違和感がある。
それでも容赦なく、刀子は崩し払いをタケハヤに食らわせた。手加減できる相手ではない。
戦闘は13班の勝利で終結。
その場に蹲りながら、タケハヤは自分とネコ、ダイゴは人工的に『力』を持たされた《狩る者》の紛い物だと話す。
そして、タケハヤたちの体を弄ったのはナツメ。
ムラクモ機関の総長で在りながらも、S級の力を持っていなかったナツメは、それがコンプレックスになり、人工的にS級、《狩る者》を生み出す研究に走らせた。
その人体実験の犠牲となったのがタケハヤたちのような孤児。
それが刀子の感じた違和感の正体。
過酷な実験により、タケハヤの体はボロボロで余命は長くない。
それはサポートしていたミロクにも聞こえた。
ミロク、ミイナのも同じ境遇。
アイテルは確信をもって、13班に告げた。
「あなたたちは、確かに《竜を狩る者》」
刀子、ピンクハーレー、力男、13班はドラゴンより、世界を守る希望。
東京タワーの麓、そこには沢山のドラゴンやモンスターの遺骸が転がっている。
都庁から行方をくらませた住人たちを守るために戦う、アオイとガトウ。
戦っている相手は、くすんだ桃色の髪を靡かせ、背中には鋼のような触手を生やした異形。それは13班の集めた『帝竜』のサンプルを悪用し、自身に使用したナツメ、否、人竜ミヅチ。
これを実現させるために、タケハヤたち多くの孤児を実験に使ったのだ。
倒れているドラゴンとモンスターを仕留めたのは人竜ミヅチ。次に狙っているのは、数多くの住人たち。
そうはさせるかとガトウとアオイは戦う。
右手に持ったM249軽機関銃をぶっ放すガトウ。それを空を舞い躱す。
つかさず死角から、トンファーで攻撃を銜えるアオイ。
その攻撃を触手で受け止め、素手でアオイを貫こうとする。
銃声が轟き、その攻撃を止める。
ガトウは左手に持ったデザートイーグルを発砲。
この隙に、アオイは距離を取る。
「恥ずかしい女」
ナツメの裏切りは彼女を信頼していたキリノにとって、大きなショック。何も言えず呆然と立ち尽くしていた。
この獲物では不利。そう判断したアオイはトンファー投げ捨て、背中に隠し持っていた三節棍を取り出す。
M249軽機関銃を容赦なく、撃ち込む。
襲い来る触手の攻撃を躱しながら、隙をついての三節棍の攻撃。避けられた触手は、いとも簡単にアスファルトを砕く。
躱しきれなかった触手は、デザートイーグルで牽制して、命中させない。
アオイとガトウの息の合った連携。これには人竜ミヅチも躱しきれず、何発かはヒットしてはいるが、大きなダメージには繋がらず、じり貧状態。
「いやァ、厄介な相手ほど、燃えるねェ。これは性分たな」
M249軽機関銃とデザートイーグルを撃ちまくる、これでもかというほどに。
ここで諦めたら、アオイ、ガトウどころか住人は皆殺しにされてしまう。
絶対に諦めるわけにはいかない。
「大丈夫ですよ、切り札はありますから」
初音ミクの言った妖精のクゥインの『大事な仕事』それが切り札。
「切り札、そんなもんがありゃ、とっとと、出してくれ。そろそろ、弾が尽きちまう」
愚痴りながらも攻撃の手を緩めない、弾を撃ち尽くすまで撃ちまくるる。
「ガトウさん、やっと、来てくれましたよ、彼」
残像を残すほどの速さで、人竜ミヅチの間合いを詰め、ボコボコに殴りつける。
一旦は倒れたが、すぐに起き上がり、
「リュウちゃんだったわね。強烈なパンチだったわよ」
口元の血を舐めて、拭う。
リュウを呼びに行くのが、妖精のクゥインの『大事な仕事』。
無言で剣を抜く。
先に攻撃を仕掛けたのは人竜ミヅチ。絶え間なく繰り出す、触手の攻撃。目にも止まらないスピードで。
その目にも止まらないスピードの攻撃を全て、剣で弾き、一つもヒットさせない。
触手を防ぎ切ったリュウは、攻撃に転じ、下方から切りかかる。
その剣を右手で受け止め、左手の爪で切り裂こうとした。
それを蹴っ飛ばすことで、やり過ごし、さらに剣に力を籠める。
剣を掴んだ人竜ミズチの指が切り落とさせるが、たちまち再生。
「あいつがリュウか、話には聞いていたが、すげェな」
リュウとは初めてのはずのガトウ。あの人竜ミヅチと、たった1人で互角の戦闘を行っているリュウに関心。
「リュウちゃん、力がもたらす、恐怖と悲しさを教えてくれるかしら」
凄まじい速さで突進しながら、縦横無尽に触手を動かし、貫こうとする。
ものともせず、触手を斬り飛ばす。
が、薄ら笑いを浮かべた人竜ミズチは至近距離から、必殺技のアイシクルエデンを打ち込む。
アイシクルエデンの直撃を受け、吹っ飛ばされたリュウは倒れた。直撃を受けた腹からは出血。
「ふふふ、本当に素晴らしいわ、力を持つことは」
高笑いする人竜ミヅチ。斬り飛ばされた触手は再生を始めていた。
「リュウ!」
近づこうとしたアオイの肩を掴んでガトウは止めた。
傷の深さ、失血量、傭兵として世界を駆け巡ったから解る。あれでは助からない。
さらなる深刻な事態。人竜ミヅチはこちらを見て、笑っている。言葉はなくとも解る。【次はあなたちの番よ】。
薄ら寒い空気が流れる。逃げられない、助からない。絶望感が住人たちを包み込む。
それでもアオイとガトウは、最後の最後まで戦うつもり。1人でも多くの住人を助けるために。
人竜ミヅチが襲い掛かろうとした時、リュウが起き上がった。腹に受けた傷は、瞬く間に治癒。
一体、何が起こっているのか? 誰も理解不能の状況。
「ディアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ」
叫び声を発すると、リュウの体が漆黒のドームに包まれる。
漆黒のドームが消えた時、そこにいたのは……。巨大な体躯、宝石のように蒼く輝く鱗、全身から強いオーラを放つドラゴン。
呆然としていたキリノも流石に、我に返り、
「カリアッハ・ヴェーラ」
呟いた。
「そう、そうだったのね。あなたはドラゴンだったの。面白い、面白いわ―」
大声で笑い声をあげる人竜ミヅチ。
「この力であなたを倒せば、私がドラゴンを超える存在という証になる!」
蒼いドラゴンと化したリュウに襲いいかかる。『帝竜』クラスと断定されたリュウに勝てば、『帝竜』を上回ると証明される。自身が宇宙最強の存在と世界に知らしめるための狼煙。
襲い来る人竜ミヅチを腕、もしくは前足で殴りつける。
反射的に両手でブロック。それでも思いっきり、ふっ飛ばされ、後ろにあった建物の激突。その衝撃で崩れ落ちる建物。
「やったか」
住人の誰かが余計なことを言う。
崩れ落ちた建物の瓦礫を吹き飛ばし、人竜ミヅチが飛び上がる。
「ものすごい力だわ、ブロックしたのにこの威力」
ふわふわと飛びながら、位置を変える。その背後には住人たち。
蒼いドラゴンは動かない。戦おうとはしない。
そこへ『帝竜』トリニトロを討伐した13班が駆けつけてきた。おまけにダイゴもいる。ネコは負傷したタケハヤの看病中。
蒼いドラゴンとと13班、ダイゴを同時に相手にするのは不利だと判断。
「本当は、凡人のこいつらを全員、神の居城の生贄にしたかったけど、ここはドラゴンとモンスターで我慢するわ」
トウキョウタワーは大地を揺らしながら、曲がりくねって伸び、まるで生き物のように、まるで蛇のように、空を突き破り、大気圏を突き抜け、宇宙まで伸びていく。
「ねぇ、リュウ。あなたはどうして、それ程の力を持ちながら、凡人を守ろうとするのかしら、どう私と一緒に来ない?」
それに対して、何も答えず。むしろ、否定の意思。
「そう」
小さく静かに、それだけ答え、上空に舞い上がる。
「我が名は人竜ミヅチ……。新たなる神の名、覚えておきなさい!」
高笑いしながら、人竜ミヅチは自らの居城と化したトウキョウタワーの頂上へと飛んでいく。
恐れるように視線が蒼いドラゴンに向いている。
蒼いドラゴンは自分たちを助けてくれた。しかし恐怖が住人を支配した。ドラゴンは人類の敵。世界の敵。人竜ミヅチに対する恐怖、ドラゴンに対する恐怖。みんな、ごく普通の人なのだ。13班のような特別ではない。
『あのドラゴンを倒さないのか?』
視線は、13班にそう訴える。
《竜を狩る者》の刀子、ピンクハーレー、力男とて、蒼いドラゴン、リュウと戦うことは躊躇してしまう。
住人がどう思っても、彼が皆を守ったことは事実。なら『山手線天球儀』も助けてくれたと判断できる。
何かを言おうとしたアオイ。
そんな皆の心理を悟った蒼いドラゴン、リュウは大きな羽根を羽ばたかせ、彼方へと飛び去って行った。
アオイなら、妖精が見えそうな気がしたので、あのエピソードを書きました。アオイと妖精のクゥインの語らいは書いていて、楽しかったです。