虚無の栄光   作:因幡の白ウサギ

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ちょっと季節を巻きます。話のネタも無いので……


03,冬でも変わらず、皆で

 03,冬でも変わらず、皆で

 

 秋はあっという間に過ぎ去り、早くも冬が来た。

 あれから毎日、私とレン君は鈴虫の声を夜になると聞いていたから、秋から冬になった途端に聞こえなくなった鈴虫の鳴き声に私もレン君も一抹の寂しさを感じていた。

 でも、冬には冬の良い所がある。具体的にはと問われると、私は迷わずに「おでんが美味しい所」と答えるだろう。そして、レン君ならきっと「雪が綺麗な所」と答えるに違いない。

 というか、先ほど実際にヴィクターに聞かれて、私とレン君はそう答えていた。

 

「世間では、今日はクリスマスという地球の行事が行われる日らしいですわよ」

 

 慈愛に満ちた目でレン君の口元をナプキンで拭いながら、ヴィクターは唐突にそう言った。

 今日の日付は12月の25日。カレンダーには大きな赤い二重マルがされている。

 

「クリスマス?」

 

「ええ。何でも聞いた話だと、専用の真っ赤なバリアジャケットを着たサンタクロースという名前の白ヒゲのお爺さんが、使い魔のトナカイを従えて空を飛び、一年を善良に過ごしていた子供の家に天井から忍び込んで願いを一つ叶える日……らしいですわ」

 

「……なに、それ。かなり怖い」

 

 レン君の意見に完全同意だ。願いを叶えるというのもそうだが、さり気なく天井から家に忍び込むとか怖い事を平然とやってのけるサンタクロースとは何者なのだろう?

 

「一説には、サンタクロースはミッドチルダから地球に移住した魔導師の末裔なのではないか。という物がありますわ」

 

「信憑性高そうな説やなぁ」

 

「ええ。実際、この説が主流だそうですわよ」

 

「地球……怖い」

 

 レン君は何をイメージしたのか、身体をブルっと震わせながらそう言った。

 

「そういえば、管理局のエース・オブ・エースも地球の出身やったよね?確か、えっと、タナ、タナマ……」

 

「高町なのは、ですわよジーク」

 

「ああ、そうそう。そないな名前やったね」

 

「ジーク……」

 

 ヴィクターが、何やら可哀想な物を見る目で私を見た。何でや。何で人の名前知らないくらいで、そないな目で見られなアカンのや。

 

「いえ、割と一般的な常識を知らないバカ娘(ジーク)に呆れていた……なんて事はありませんわよ?」

 

「え?常識なん?」

 

「…………貴女って人は」

 

「航空戦技、教導隊の……管理局のエース・オブ・エース……これくらいは、僕でも知ってる」

 

 2人に完全に呆れられているが、知らない物は知らないのだから仕方がない。自慢にならないが、常識の無さでランキングしたら五本の指に入ると自負している。

 

「本当に自慢になりませんわよ……はあ、もう良いですわ」

 

 そう言ってヴィクターはティーカップを傾けて、ヴィクター自身が用意した紅茶を飲んでから外を見た。

 ヴィクターのお付きのエドガーは、今は外に出ていて居ない。買い物に出掛けている。

 そして、そのエドガーにしては随分と時間がかかっていた。

 

「エドガー……遅いですわね」

 

「足止め、くらってる……?」

 

「かもしれへんなぁ」

 

 外は、雪がしんしんと降り積もっていた。

 

 

 ────────

 

 

「──よし、これで全部だな」

 

 卵、蒟蒻、大根、ちくわ、その他色々な食材、クラッカー、雑巾、包帯、エチケット袋、人生ゲーム(ミッド成り上がり編)、レンに頼まれて見繕った小説3冊etc…

 買った物を確認して、指定された物を指定された量だけ買ってある事を確認する。念の為に二度、三度と確認したが、どうやら間違いは無いみたいだった。

 

「だいぶ時間が過ぎちまったな」

 

 まさか交通事故が起こっているとは……いや、雪の日だし、事故の一つくらいは想定出来た筈だ。人の所為にするのは止めよう。惨めになるだけだ。

 

「ジークがおでん。ヴィクターとレンはお任せ、か。……地球食で固めるか」

 

 多分、それが一番無難だ。俺はもう一度だけ確認すると、それを車の後部座席に乗せて車を発進させる。

 デパートの立体駐車場から出ると、途端に雪がフロントガラスに付着し始めた。

 

「…………」

 

 俺は無言で車を走らせ、次の目的地へと向かう。その間に何も無いというのも寂しいので、俺はラジオを聴く事にした。

 信号で止まった隙に周波数を合わせると、途端に騒がしい音と声が車内を満たす。

 

『さあ、ウィンターカップもいよいよ大詰め!やって来ました、決勝戦です!』

 

「そうか、ウィンターカップの時期か」

 

 お嬢様もジークも参加していなかったから存在そのものを忘れていたが、そういえばそんな大会もあったなーと思う。

 聞いた所によると、夏のインターミドル、冬のウィンターカップは全次元世界の市民の祭典であるらしい。参加者側である俺に、その実感は全く無いが。

 

『赤コーナーから入場するのは──』

 

 選手の名前が叫ばれると、歓声がスピーカーから思い切り聞こえる。でもそれは、ジークに向けられるそれとは幾分か劣って聞こえた。

 ……当然か。片や四連覇中の世界王者で、片や大型ルーキー(らしい。そう言っていた)。失礼な話だが、そもそも立っている領域も違う。

 

『青コーナーから入場するのは、こちらも大型ルーキー!インターミドル参加歴は2回とまだ少ないが、その回数で都市本戦まで駒を進めたエリートファイター、砲撃番長(バスターヘッド)のハリー・トライベッカ選手だぁぁぁぁ‼︎』

 

「ハリー・トライベッカ……確か、ヴィクターの()()ライバルだったか」

 

 事あるごとに付き纏われて正直鬱陶しい(あの不良娘、非常に面倒くさいんですけれど)。とはヴィクターの言だ。

 そして、自称という言葉からも分かるが、ヴィクターはトライベッカ選手の事をライバルとは思っていない。そもそも人間と認識しているかすらも怪しい所だ。

 

「なんて事を思ってる間にっと……」

 

 目的地に到着した。駐車場に車を停めて、駆け足気味に店に入ると、そこにはケーキを選ぶカップルやら家族連れやらで賑わっていた。

 此処はケーキ屋さんである。

 

 多分かなり繁盛しているであろう店内に入る。すると、店内の視線のほぼ全てが俺に──正確に言うなら執事服に──注がれる。

 

 また、これか。

 

 溜息を吐きたい衝動に駆られるが、それをグッと堪えて俺はポーカーフェイスで列に並ぶ。

 執事服は、ヴィクター(仕える主人)が居ないだけでこうも特異に見えてしまう。着始めた当初は、その奇特な物を見る目線に何度もイライラしたものだった。今はもう慣れたが。

 

「いらっしゃいませー」

 

「すいません、ムダイの名前で予約していたんですが」

 

「はーい。少々お待ちください」

 

 自分の番が訪れる。簡潔に要件を伝えると、予め予約しておいたケーキが素早く出てきた。代金を払ってケーキを受け取ると、俺は素早く店内から外に出る。

 

「ありがとうございましたー」

 

 人の熱から逃げるようにして外に出ると、途端に外の寒さが俺を襲う。心なしか、雪の降りつける強さが強くなっているような気がした。

 

 

 ────────

 

 

「誕生日おめでとうレン君!」

 

「おめでとうレン」

 

「14歳、おめでとうございます」

 

 クラッカーが三方向から弾けて紙吹雪が撒き散らされる。

 今日、12月25日は僕の誕生日だ。今日で僕は14歳になる。ケーキに立っている、吹き消された14本のロウソクがそれを証明している。

 

「エドガー。そんな堅苦しくしないで、ほら」

 

「……そうだな。親友の誕生日だ。そういうのは無し……で良いんだよな?」

 

「構いませんわよ。ねえレン?」

 

「うん、皆ありがとう……」

 

 皆で笑いながら食事をする。その当たり前である筈の行為が、途轍もなく愛おしく思える。

 

「14歳……無事に、迎えられた」

 

「そうね」

 

 何とか、本当に何とか僕はこの日を迎えられた。僕の中では、もうこの日の為だけに生きていると言っても過言ではないくらい大切な日なのだ。12月25日という日は。

 

「来年も……こうしていられるかな?」

 

 けれど、来年はこうしていられる保証は無い。そもそも何処に居るかも分からない。病院のベッドの上(Death)それとも(or)墓石の下(die)

 そんな選択肢が本当に目の前に出て来ているかのような錯覚を、僕は味わっていた。

 

「当たり前やろ?レン君は死なない。来年も、再来年も、それから先も……ずっとこうしていられる。(ウチ)はそう信じてる」

 

 そんな、僕の頭の中に広がっていた霧を払ってくれたのは、ジークのその言葉だった。俯いていた顔を上げる。

 

「ジーク……」

 

「俺もジークと同意見だ。大丈夫さ、きっと何とかなる」

 

「私もジークに同意ですわ。今までだって、私達は4人で困難を乗り越えて来たんですもの。これからも乗り越えられるに決まってますわ」

 

 エドガーがポンと肩に手を置く。ジークは真面目な表情で、ヴィクターは母が子を見るような柔らかい表情で僕を見ていた。

 

「うん……頑張るよ、僕」

 

 そうだ。ネガティブになっていたら、治るものも治らなくなってしまう。ポジティブに生きていれば、きっとチャンスは来る筈だ。

 

「その意気だ。じゃあ先ずは、病気を治す為の体力を沢山食べて付けないとな。ケーキは最後のデザートにして……何から食う?」

 

「うーん……」

 

「レン君、おでん食べる?」

 

「……じゃあ、頂こうかな」

 

「じゃあはい、あーん」

 

 満面の笑みで僕に串に刺さったままのおでんを差し出してくれるジーク。頬を少し赤く染めているのが可愛らしいと思う。

 でも、その手に握られたソレが全てを台無しにしていた。

 

「えっ……ジーク?」

 

「なんや?」

 

「まさかとは、思うけど……これ、今食べなきゃダメ?」

 

 ジークの手に握られたソレ、その正体は……まあ本人の言う通りおでんなのだが、その熱さが問題だ。

 

 何処の家でもそうだとは思うが、リビングと台所は繋がっている。これは自分の勝手な想像だけど、きっと作った料理を運ぶ距離を短くする為なのだろう。熱々の内に料理を食べる為の親切設計なのだろうが、今回に限ってはそれが心折(しんせつ)設計となって僕に猛威を振るった。

 この家も例外ではなく、台所とリビングの距離は近い。

 

 そして、おでんが出来たのが10分前で、土鍋ごとテーブルに置かれたのが5分前。ケーキの火を消したのが2分くらい前。30秒ほど前にジークが開けるまでは、土鍋の蓋は閉められっぱなしだった。

 ……つまり何が言いたいのかというと

 

「湯気、凄いけど……」

 

 熱いのだ。顔を近付けるのが困難なくらいに。

 

 そんな、熱々である事を湯気で主張するおでんが、僕の口元へと向けられていた。

 心の中だからぶっちゃけると、もう口元にある時点で色々ヤバイ。湯気で目が必要以上に潤ってるし、鼻もスースーする。コレを口に入れたら悶絶する未来しか見えない。

 

「……もしかして、おでん嫌いやった?」

 

「違う。……違う、けど」

 

 もしかして自覚無い?そんな熱いのを口に突っ込んだら火傷待った無しなんだけど。

 

「ジーク、せめて冷ましてあげないと。レンは貴女みたいに熱々のおでんを笑顔で頬張れるおでんキチではありませんのよ」

 

 困った所にヴィクターが絶妙なタイミングで援護してくれた。空気の読めるヴィクターは、僕が困ったタイミングで何時も援護してくれる。本当にありがたい。

 ありがたいけど、何処となく言葉に棘があるような気がするんだけど……。

 

「おでんキチ?それってどういう意味なん?」

 

「ジークのような人の事ですわ」

 

「なるほど、唯のおでん好きって事やな」

 

「ええ……?」

 

 違う、絶対に違うよジーク……。

 内心でそうツッコミながら、僕はエドガーから渡されたおにぎりを食べる事に専念するのだった。

 

 ……あ、中身ウメボシだ。

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