虚無の栄光   作:因幡の白ウサギ

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ハリーちゃんのキャラが分からぬ……

今回は少し短いです


04,インターミドルへ向けて

 04,インターミドルへ向けて

 

 何事もなく年は過ぎ、春が来た。

 春といえば、学校は入学式があったり、会社なら新入社員が入ったりする季節だ。……まあ、そのどちらも私には関係無いけれど。なにせ、私やレン君を含めた4人は修士課程まで既に修了している。

 

「はっ……はっ……」

 

 だからこそ、こうして平日の真昼間から外をジョギングする事が出来る訳だ。

 

 インターミドルは一般市民にとっては夏の風物詩扱いらしく、チャンピオンという肩書きはかなりの意味と知名度を持つ。それ故、誰かに見つかるだけで大騒ぎ確定な私にとって、人目が無いというのは良い、最高だ。ビバ平日。平日万歳。土日なんて要らなかった。

 なんていう世間の9割を敵に回すような発言を心の中でしながら、家から出て人通りの少ない住宅街の道を走り、公園の横を駆ける。まだ幼稚園児でもない小さい子が母親に連れられて砂遊びをしていた。

 公園の横を駆け抜けてから5分ほど走り続けていると、今度は道が大通りへとぶつかる。大通りへと出ると、スーツ姿の男の人達の間を縫うように私は走る。大きいテレビスクリーンを有する建物の前を通り過ぎ、ただ真っ直ぐに進む。

 

「はっ……はっ……」

 

 真っ直ぐに進んでいると今度は河川敷に出る。そこはランニングする人達の間では走りやすいと、それなりに評判の良い場所で、平日の真昼間という時間でもそれなりに人が居る。

 その人達に混じるように私は走る。時に抜かしたり、抜かされたりしながら私は走り続ける。

 

 こうして走っている時間が、レン君達と過ごす時間の次に私は好きだ。風を感じながら走っていると満たされるのだ。

 そして、家から離れていくにつれて、最近やけに「家から出せ」と身体の奥底で暴れている『エレミア』が落ち着くのが分かる。それを実感する度に、やはり『エレミア』は放浪の一族であり、私もその血を引いている事を嫌でも思い知らされた。

 ていうか、ジョギングも放浪の内に入るのか……。

 

 なんて、自分の『エレミア』のいい加減さに困惑しながら足を早める。少しずつ、でも確実に。

 そうやって、自分が出せる最高のスピードで走り続けること約20分。無事に家に帰り着いた私はその足で庭へと向かい、そこでシャドーの基本技の練習を行う。

 暫く練習していると、エドガーがスポーツドリンクを持って縁側にやって来た。

 

「精が出ますね、ジーク様」

 

「同然やろ?今年も(ウチ)はレン君との約束を果たさなアカンし」

 

「そのレン様から伝言です。あまり無茶はしないでね、と」

 

「レン君らしいなぁ」

 

 私はそれを受け取り、蓋を開けて一口飲む。そうして喉を潤した後、私は鋭い目をエドガーへと向けた。

 

「……で、そのレン君は?」

 

「レン様なら、今は寝室でお休みになられておりますが」

 

「この時間に?」

 

「ええ、この時間に」

 

 思わず低い声を出してしまった私に、あくまで笑みを崩さないエドガー。

 数秒間の対峙の末、折れたのは私の方だった。

 

「……そか。まあ、エドガーがその調子なら平気なんやろな」

 

 お天道様が天高く昇っているこの時間にレン君は普通なら寝ない。この時間のレン君は大体は本を読んでいるからだ。そのレン君が寝ているという事は……そういう事なのだろう。

 

「でもエドガー、レン君の側から離れて平気なん?」

 

「そこは問題ありません。文明の利器に頑張ってもらっていますから」

 

 エドガーはテーブルの上に置いてあるトランシーバーを指差した。

 

「スイッチを入れておくだけで、もう一方のトランシーバーから音が聞こえるという物です。レン様が咳き込めばすぐに分かります。ちなみに、此方からの声は聞こえません」

 

「何処で買って来たん?」

 

「近くのベビー用品店で。このトランシーバーは、夜に別室で寝かせた赤ちゃんが泣いたのを親が気付く為に開発されたベビー用品なんですよ」

 

「ふーん……ってちょい待ち。何でエドガーがそんなベビー用品について詳しいんや?」

 

「さて、何故でしょうね?」

 

 エドガーは笑みを崩さない。どうやら話すつもりは無いみたいだった。

 

「ええやん。教えてくれたって」

 

「では、執事だから。という理由で」

 

「適当やなぁ」

 

「たった今、適当に考えついた理由ですので、その感想も当然の物かと」

 

 そう言ってエドガーはキッチンの方へと引っ込んだ。時計を見れば、もうそろそろお昼時だ。

 

「ジーク様、シャワーを浴びるついでにレン様を起こして来て下さい。そろそろ昼食が出来ますので」

 

「ん、りょーかいや」

 

 着替えを取りに二階へと上がる。私の部屋はレン君の隣の部屋だ。手早くタンスから着替えを取り出してバスタオルを持つ。そうして用が無くなった私の部屋から出て、今度はレン君の部屋へ入る。

 

 レン君は安らかな表情で寝息を立てていた。

 

「レンくーん。もうお昼やでー」

 

 ゆさゆさと身体を揺らす。レン君は多少身じろぎしただけで起きない。

 

「レンくーん?」

 

「ん……あと、5分……」

 

 更に身体を揺らす。レン君はありがちな寝言を言って布団の中で猫みたいに丸くなった。

 

「っ……!」

 

 熱くなった鼻を抑えて一旦レン君に背を向ける。落ち着け、落ち着くんだ私。

 確かに今の行動は私の庇護欲というか何というかをくすぐる行動ではあったけど、此処で鼻から愛を噴き出してしまえば確実にレン君から心配される。主に頭を。

 

「……ふう。アカンかった」

 

 時間にして1分くらいの瞑想の果てに、何とか自分を抑える事に成功した私は振り返ってレン君の方を見た。

 

「ふぁあ……ジーク?」

 

「あ、おはようレン君。もうお昼ご飯の時間やで」

 

 内心では悶えているのに、表面上は何事も無かったかのような笑顔でそう言えた私は、もしかしたら演技の才能があるのかもしれない。

 

「……何で鼻血、噴き出してるの?」

 

 

 ────────

 

 

 〜ハリー・トライベッカ邸〜

 

「あ、リーダー。これ、大会の参加申請用紙っすか?」

 

「おうよ。今日から参加申請の受け付け始まるからな」

 

 テーブルに置いてあった封筒を手に取ったマスクを付けた少女、リンダの質問にリーダーと呼ばれた少女、ハリー・トライベッカはサングラスをかけた少女を背中に乗せて腕ではなく指立て伏せをしながらそう答えた。

 

「リーダー、今年で三度目のインターミドルっすね」

 

「ああ、そうだなルカ」

 

「ズバリ!今年の目標は!?」

 

「そりゃ決まってんだろ。あのヘンテコお嬢様と四連覇中のジークをぶっ飛ばして世界代表戦で優勝だ」

 

 サングラスをかけた少女、ルカの問いにハリーは間髪入れずにそう答えた。それ以外は眼中に無い。そう言ってハリーは、黙々と筋トレを続ける。

 それを見たリンダとルカは顔を見合わせて、ぐっと握り拳を作った。

 

「リーダーなら出来るっすよ!」

 

「優勝間違いなしっす!」

 

「ああ、やってやるぜ!」

 

 

 ハリー・トライベッカ

 インターミドル参加歴:2回

 最高戦績:都市本戦ベスト8入賞

 

 

「……ところで、ミアは何処に行ったんだ?」

 

「さあ……?」

 

 

 ────────

 

 

 目を閉じ、意識を集中させる。

 イメージするのは常に最高の自分だ。それ以外のイメージは必要ない。

 

 目を見開いて一閃

 

 空間を切り裂く必殺の一撃を飛んで来た廃車へと叩き込む。廃車は狙い通りに真っ二つに斬れ、私の背後で凄まじい音を立てた。

 

「…………」

 

 悪くはない。けれど、決して良くもない。精々が次第点止まりだ。この程度では、格下を切り捨てる事は出来ても上位陣には全く届かない。

 ヴィクターには受け止められるだろう。ジークには掠りもしないだろう。

 

 ──速く、もっと速く

 

「……すいません。もう一回お願いします」

 

『あいよー』

 

 この廃車場を快く使わせてくれるだけでなく、個人的な特訓にまで付き合ってくれるおじさん達には頭が上がらない。だからこそ、結果を持って報いなければならない。

 飛んで来た廃車に、私は今出せる全力をぶつける。

 

「天瞳流居合──」

 

 刀を振り抜くという、言ってしまえば簡単な一動作(ワンアクション)。その刹那の動作に全てを捧げ、何時だって最強最速の一閃で斬り伏せる。

 

 それが私、ミカヤ・シェベルのファイトスタイルだ。

 

「ジーク、ヴィクター。今年こそ勝たせてもらうよ」

 

 チン、と音を立てて晴嵐の唾と鞘が触れ合った。

 

 ミカヤ・シェベル

 インターミドル参加歴:5回

 最高戦績:都市本戦3位

 

 

 ────────

 

 

 我を思うが故に我は有る。という言葉を、ルーシェという古代ベルカ時代の哲学者は遺書の最後の一文に遺している。

 

 遺された文献からでも分かる凄惨な時代を生きた人間から、どういう意図、どういうシチュエーションでそんな言葉が出てきたのかを知る術を私達は持たないが、どんな意味を持つのかを勝手に想像し、自分の都合の良いように解釈する事ならば可能だ。

 例えば、私が手にしているアンローズ・ビブズという学者が出版した、皮肉とブラックユーモアに満ち溢れた一冊に書いてある解釈もまた、一つの受け取り方だろう。

 

「自分の存在を疑う事、それ自体が自分の存在証明である。ね……」

 

 たった1人の人間の言葉に、数多の人間が頭を悩ませている、悩ませるだけの余裕がある。なんて平和な時代なのだろうか。

 ……なんて、ちょっと頭の良い人ぶってみる。

 

「エドガー……はレンの所に向かわせていたわね。仕方ない、紅茶は自分でやりましょうか」

 

 私以外に人が存在しない室内に、ティーポットからティーカップへと紅茶を注ぐ音が響く。窓から見える雲はのんびりと青い空に浮かんでいる。

 

「……あっ、参加申請しておかないと」

 

 片手でティーカップを、空いたもう片方の手でダンベルを持ちながら記憶の片隅に置いておいた用事を思い出し、エドガーが戻り次第やろうと決める。

 

「例えジークにも、負ける気はありませんわよ」

 

 

 ヴィクトーリア・ダールグリュン

 インターミドル参加歴:4回

 最高戦績:都市本戦2位

 

 

 ────────

 

 

「……結局のところ、(ウチ)がやる事に変わりは無い訳や」

 

 ジークリンデは自室にある自分が獲得した4つの優勝カップと、その横の写真を見た。

 

 それは、初めてジークリンデが優勝カップを持ち帰った時に撮った写真だった。

 家のリビングで優勝カップを持つレンと、それを抱きしめるようにして支えるジークリンデ。その後ろでは、ヴィクトーリアとエドガーが子を見守る親のような表情を見せている。

 

 写真立てに入れられたそれを手に取り、ジークリンデは己の内に誓いを立てる。

 

「誰にも負けへん。いや、負ける訳にはいかないんや」

 

 例え、エレミアの神髄を使ってでも私は勝利をこの手に掴む。

 覚悟を新たに、四連覇中のチャンピオンは大会へ挑む。

 

 

 ジークリンデ・エレミア

 インターミドル参加歴:4回

 最高戦績:世界代表戦 優勝

 備考:四連覇中

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