RAIL WARS!~警4にもう一人少年が居たら~   作:鶴雪 吹急

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十番線

 早朝3時、緊急招集の電話で叩き起こされた。

 緊急招集については研修の時に教わったから知っていたが、新人ましてやOJT期間中の学生が呼ばれることはないだろうとも聞いていた。それなのに呼ばれているのである。早速東京駅の神は俺を見放したと思った。

 鶴見駅で改札を通してもらい駅に入る。始発が始まっている時間なのでホームにも人がちらほらと見えた。こんな朝早くから出掛けるとか、旅行でも行くのだろうか?……羨ましい。

 そういえば、六浦と出掛ける約束をしていた。大回りって言ってたけどどこへ行こうか。普段見れない物を見たい気分だが。

 

「大回りと言わず単純に旅行とかでもいい気がするけどなぁ」

 

 考え事に耽りながらホーム端へ視線を向けると男が二人柵を越えようとしていた。ジーパンにTシャツと到底作業員には見えないような恰好が不審だった。

 

「鉄道公安隊の者だけど。こんなところで何してるんですか?」

 

 完全オフならまだしも公安室に出勤前だ。少しぐらい公安隊員ぶってもいいだろう。

 声を掛けると二人組は顔色を変え、手に持っていたものをこちらに投げてきた。

 

「あぶなっ何投げて…」

 

 振り返ると石ころが転がっていた。

 

「うるせぇ國鉄の犬がっ!」

 

 まだ何も言ってないんですが…。

 石が当たらなかったからか捨て台詞を吐いて逃走を図ろうとしたが、跨ぎかけてた柵に足をとられて一人は転倒してしまった。

 そいつは取り押さえられたが、もう一人には逃げられてしまった。

 

「とりあえず駅務室で話を聞かせてもらおうか?」

 

 

 

 

 捕まえた容疑者を連れて駅務室に来ると駅員が中に通してくれた。適当な机に通されると業務準備に戻って行ってしまった。

 横浜鉄道公安室の人へ連絡をお願いしようとしたが、机の上の内線電話を指された。自分でやれって事だろう。電話器に横浜鉄道公安室の番号が記載してあったのでそこへ電話を掛けるとワンコールで繋がった。

 

『横浜鉄道公安室です』

 

「東京中央鉄道公安室第四警戒班の久里浜と申しますが」

 

『おはようございます。どうかされましたか?』

 

「現在鶴見駅で線路内に侵入しようとしていた人物を取り押さえていまして、そちらに引き継ぎたいのですが」

 

『承知しました。人を向かわせるのでもう少しそちらにいていただけますか?』

 

「了解です。あと、東京中央鉄道公安室の方に遅れる旨を連絡していただけませんか?」

 

『了解しました伝えておきます』

 

 しばらくして事務室のドアがノックされた。駅員が扉を開けると、公安隊の制服を着た女性が立っていた。低めの背に銀髪が右目に掛った髪型。中に通されてこっちを見たときの鋭い眼光を向けた顔には覚えがあった。

 

「誰かと思ったら久里浜か。こんなことろで何している」

 

「さっき電話で伝えたんだけど、聞いてないのか?」

 

「そのうえで聞いてる」

 

「緊急招集前に仕事してただけだよ。氷見こそ一人で来たのか?」

 

 氷見文絵、俺と同じOJTを受けてる一人で確か横浜鉄道公安室に配属されていた気がする。

 

「あぁ、第一捜査班と第二警戒班の他の連中も忙しいからな。しかしもう妨害が始まっていたとは」

 

「妨害ってなんのこと?」

 

「昨日の深夜に横浜駅周辺で妨害工作を行うと犯罪予告があて、東京中央公安室の隊員と東京公安機動隊が応援に来て対応するらしい。そのための緊急招集だったんだが知らないのか」

 

「理由までは聞いてなかった」

 

 東京から横浜まで応援を向かうってことは俺は急いでいかなければ行けないのでは…?

 しかし氷見一人に引き渡すのも気が引ける。相手は大人だし。

 少し飯田班長に相談してみるか。

 氷見に待ってもらって飯田さんに電話を掛けた。

 

『東京鉄道中央公安室第四警戒班です。あらぁ久里浜くんどうしたの?』

 

 全然出てこないから怒られるかと思ったが、電話越しでは特にそういった雰囲気を感じなかった。

 事情を説明すると、いつものカチカチ音とうーんと唸っている声が聞こえてきた。

 

『東京中央公安室は一応管轄ではあるからねぇ、とりあえず横浜公安室まで引き渡すまで付き合ってくれる?たぶん、そのころまでには瞳がそっちに着いているから久里浜くんの制服を持たせるわね』

 

「了解です。引き渡し完了したらまた連絡します」

 

『お願いね~』

 

 電話が終わって横浜公安室への引き渡しに同行することを氷見に伝えた。氷見は別にひとりでもいいと言われていたが、飯田さんに許可をもらったと言ったら了承してくれた。京浜東北線南行の一番後ろ乗務員室の前に乗せて横浜へ向かった。

 横浜鉄道公安室に付くと第二警戒班の机に案内された。誕生日席のポジションでパソコンに向かっていた男子がこちらに気が付いて席を立った。

 

「おはようございます。東京中央公安室第四警戒班の久里浜です。不法侵入の容疑者を連行してきました」

 

「おはよう。横浜鉄道公安室第二警戒班の福塩です。というか、OJTを受けてる身同士あんまり堅苦しくなくてもいいじゃないか?」

 

「それもそうか、じゃあもう少しフランクに行くよ」

 

「よろしく。それで、その容疑者は今回の脅迫事件の関係者なのかい?たまたま入ろうとしてた泥酔者とかじゃないの?」

 

「特に酒の匂いもしないし足取りもしっかりしてる。少し話を聞く必要があると思うけど」

 

「あなたも面倒ごとが好きなのね」

 

 脇の机に座っていた女子が睨むようにこっちを見上げた。名札に新湊と書いてあった。彼女も研修で見た覚えがある。横浜鉄道公安室では第二警戒班が警四のようなポジションなんだろう。

 

「あんまり面倒ごとばかりに首を突っ込んでいると、國鉄に内定貰えないかもしれないわよ」

 

「彼女の言う通りさ、確かに脅迫事件に関係があるなら話を聞くために第一捜査班に引き渡さなきゃいけないけど、別に関係なければ注意してことを終わらせたいんだよ」

 

 とどのつまり穏便に事を済ませたい、面倒ごとを起こすなってことなんだろう。最初から泥酔者と決めつけてきたのは、関係者である時点で面倒ごとだからそっちの方向で処理したいって腹積もりということか。

 

「何事も無ければすぐに國鉄から内定が貰えるんだ。ね、だからさ」

 

 そういう福塩に言い返そうとしたとき、ドアが開いて五能隊長たちが入ってきた。第一捜査班の島に詰めていた隊員や福塩達が敬礼で迎える。

 五能隊長は真っ直ぐこちらにやってきた。

 

「おはようございます。五能隊長」

 

 敬礼をすると五能隊長も返礼をしてくれた。

 

「菜々から話は聞いている。その意識は素晴らしいがあまり無理しないようにな」

 

「はい、すみません」

 

「別に謝らなくてもいいぞ」

 

 五能隊長はそう言って微笑んだ。

 

「福塩達も朝からご苦労様。忙しくなるが協力してくれ」

 

「はい!」

 

 さっきまでの少しめんどくさそうな雰囲気はどこへやら、研修のときのピシっと決まった敬礼を見せていた。

 

「それでは作戦会議があるから私はこれで失礼するよ」

 

 そういうと、五能隊長は他の隊員を連れて奥の会議室と書かれた札が掲げてある部屋に入っていった。途中隊員から、飯田班長から預かりものということで制服が入った袋を貰った。

 あっという間に部屋の中には第二警戒班の面々しかいなくなってしまった。

 

「とりあえず、着替えてきたら?その間に連れてきた容疑者から話を聞いとくから」

 

 福塩に追いやられるように更衣室へ案内された。

 貰った袋には制服と警棒やら一式が入っていた。手早く着替えて着ていた服を袋に仕舞う。

 着替えが終わって外に出ると新湊が容疑者を連れて行こうとしているところだった。

 

「着替え終わったかい?その間に話を聞いていたんだけど、どうやら少し酔っていたみたいで注意で解放することにしたよ」

 

「え?でも、酒の匂いとかしなかったけど」

 

「そういう体質なんだってよ、仕方がないだろう?」

 

「ご迷惑をおかけいたしました。」

 

 容疑者が振り返って俺に向かって会釈をしてきた。傍から見たら酔っ払いがやらかして謝ってる感じだろう。

 

「次からは気を付けてくださいね。出口まで案内しますので」

 

「はいお願いします」

 

 新湊に案内されて容疑者は外に出て行った。

 

「という事だから、久里浜も東京中央公安室に戻ってもらっていいよ。処理は僕がやっておくから」

 

 福塩は座ってパソコンに向かってしまった。さっきから黙っていた氷見が隣にやってくるとぽそっとつぶやいた。

 

「久里浜さっきのヤツの顔見ていたか?」

 

「あぁ、少し気になるな」

 

 顔が俯いた少しの間、にやりと口角が上がった気がした。

 

「このままじゃ逃げられるが?」

 

「俺が追いかけるよ、後で連絡する」

 

「…分かった」

 

 福塩に軽く挨拶してすぐに出口に向かう。なんとか新湊が容疑者を送り出したところに追いついた。

 新湊にも挨拶をしてから横浜公安室を出てた。

 飯田さんにもう少し掛ると連絡をしてから、容疑者を追いかけ始めた。飯田さんは了解と一言で返してくれた。来てた人数的に東京中央公安室には警四しかいなさそうなんだけど。

 追いかけるにあたり上着を脱いで袋に仕舞った。これで少しはバレなくなる、桜井のように主張するようなやつもいないし。

 氷見に連絡をして追いかけ始めたことを伝えた。

 

『分かった。しばらくしたら私も合流する。電車に乗るようならまた連絡してくれ』

 

「了解」

 

 容疑者を追いながら地下通路を抜けて、中央通路に出てきた。キョロキョロと周囲を警戒しながら國鉄の改札を抜けて根岸線のホームに出てきた。そのまま南方の列車に乗り込んでしまった。

 ガコンと國鉄205系が走り出して桜木町に向かって坂を駆け上がり始めた。京急線をオーバパスしてみなとみらいの中心地桜木町に向かう。

 メールで氷見に南行の電車に乗ったことを伝えると、了解と短い返事が返ってきた。

 列車は途中で高島線も合流して桜木町に到着した。向かい側には國鉄横浜線を走っている103系が止まっている。正面には横浜線と大きく書かれたプレートが付いている。ウグイスと呼ばれる黄緑の塗装に塗られた車両はこの横浜線が走っている線区ではこれだけなのにプレートを掲げてるのはなんでなんだろうか。昔は京浜東北線への205系の導入や山手線の231系の導入で首都圏の103系が地方へ転配されるときに様々な色が混ざった編成が見られたというし、そのときからずっと付いているんだろう。

 

 桜木町で103系と別れを告げると、関内、石川町と進んでいく。ここまで来るとよくイメージするであろう横浜ではなく、住宅街が目立ってくる。イメージされる横浜は狭い。この先の根岸線はトンネルもあるしほとんど商業地域を通ることはない。さっきの横浜線の103系も桜木町までというイメージが強いが大船や根岸にまでくる運用もある。

 根岸線最初のトンネルを抜けると山手駅に付いた。容疑者がここで降りたので俺も一緒に降りる。他に降りた乗客はみんな改札に向かって行くが、容疑者はそんな素振りも見せずに横浜方面のホーム端に向かっていた。怪しまれないように改札に向かうふりを見せてから容疑者の様子を見ていた。氷見に連絡をすると1本あとの列車に乗っているみたいだ。

 ピンポンパンポンと向かい側で音が鳴り列車の接近を告げた。音に驚くように振り返った犯人はその場でじっと反対側に来る列車を見ていた。トンネルを抜けて205系が到着する。客扱いを終えるとまたトンネルへ消えていった。今度は南方から列車がやってくる。これに氷見が乗っているはずだ。

 

 ドアが開くとワイシャツ姿の氷見が降りてきた。俺を見つけると足早に容疑者に見えないように陰に隠れた。

 

「あいつはあそこで何をやっているんだ?」

 

「分からない。また線路に入ろうとしているのかもしれない」

 

「この電車が走っていったあとは当分電車が来ないから注意が必要だな」

 

 タブレット端末を見ながら氷見が言った。画面には山手駅の駅時刻表が写っていた。

 列車が出て行ったあと、容疑者はキョロキョロと周囲を見渡してそそくさと線路に降りて行った。

 

「あいつっ!」

 

「まて!今はまだ飛びださず動向を見るべきだ」

 

 飛び出そうとした俺を抑えてそういうと、氷見はホーム端までゆっくりと向かった。

 付いて行くと容疑者が足早に線路を進んでいて、鉄橋を抜けた先で何かを取り出した。

 

「あれはなんだ?」

 

 氷見の呟きの次の瞬間、容疑者の手元で赤い炎があがった。

 

「信号炎管だ!」

 

 熱いのかおっかなびっくりしながら信号炎管を線路わきに投げおくと、容疑者は反対側の出口に逃げようとした。

 

「逃げられる行くぞ!」

 

 線路に飛び降りると、急いで追い掛ける。線路内を走るのは氷見の方が早いようで先行して進んでいく。

 

「氷見!犯人を頼む!」

 

 氷見は返事を帰さずにさらにスピードを上げた。柵を越えようとしてる犯人に向かって警棒を投げつけた。

 警棒ってそうやって使うもんじゃないと思うんだけど…。

 回転せずに警棒は犯人の背中に命中して犯人はその場に倒れ込んだ。

 氷見が取り押さえに向かっている間に、俺は信号炎管を線路脇から取り除いた。煙が上がらないようにバラストで埋めた。

 直後、微かにキンキンと音が聞こえてきた。

 

「氷見―!その場で待機しろー!」

 

 犯人を取り押さえつつ片手で返事したのを確認して俺も待避した。すぐに横をEF65がタンク車を従えて走り抜けた。

 多分犯人はこれを妨害するつもりだったんだろう。

 人がいるだけで、止まってしまうかと思ったがそんなことはなく抜けて行ってくれた。

 列車がいなくなったのを見計らって、犯人を線路外に出した。

 手錠を掛けて駅に移送する間に氷見に連絡してもらう。山手駅の駅員に事情を説明して事務室の一角に入れさせてもらった。

 

「何か所で置き石も起きているらしい。幸い脱線事故にはなってらしいが、量が多くて犯人のしっぽが掴めないらしい」

 

 電話を終えた氷見が現状を教えてくれた。これは時間が掛かりそうだ。

 

「こいつは横浜で処理する。第一捜査班に直接連絡したから再度解放することはないだろう」

 

「福塩達だと消されかなねんからな」

 

「久里浜はいいのか?東京第四警戒班に連絡しなくて」

 

「さっき電話してみたら事務員さんしかいなかったんだ。また後で連絡してみるけど、応援が来るまではここにいるよ」

 

「同席してても、これは横浜公安室の手柄として報告するからな」

 

「別にいいが?」

 

 そういうと、氷見は少し驚いた。

 

「い、いいのか?」

 

 手柄に無頓着かというとそういうわけでは無いけど、そんな執着しているわけでは無い。無理やり奪われるわけでもないなら割とどうでもいい。

 

「あぁ、いいよ」

 

「了解」

 

 福塩や新湊は手柄、いわゆる実績を残すことを避けているみたいだったが、氷見はそうじゃないのか。

 理由を聞こうと思ったが、タブレットと睨めっこしている彼女にそういう事を聞ける雰囲気ではなかった。




 特に解説はありません。
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