RAIL WARS!~警4にもう一人少年が居たら~   作:鶴雪 吹急

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六番線

 小海と駅長が軽く会話をした後に、駅長は「では、お願いしますね」と歩き始めた。すると数人の駅員が駆け寄ってきて何かを報告し始めた。それを聞くと駅長たちは駆け足でホームを後にして行った。

 

「は・る・か~」

 

 駅長が居なくなった途端に顔を変貌させて、桜井は小海に詰め寄る。話の内容的にどうして駅長と知り合いなの

かを聞いているらしい。高山もそれに興味がありげなのか、耳をそちらに向けている。…身内が國鉄に勤めていたお嬢様って前に聞いた事があるな。小海もそのことを話ているが、桜井はさらに情報を聞き出そうとヘッドロックまでやりだした。まぁそんな事したところで、それ以上の情報は出てこなかったようだが。

 

「久里浜はどうなのよ!」

 

「俺?」

 

 小海を問いただしても情報が得られないと思ったのか、今度は俺に標的を変更したのか、桜井がこっちにやってきた。

 

「どうして、駅長とお知り合いなの?それにあおいとも」

 

 今度は、岩泉以外の視線がこっちに移った。というか岩泉は柱寄りかかって寝てるし。

 

「えっと、駅長とは俺の親父ちょっと交友があって、その関係で知っているだけだよ。小海とは、駅長と会うときに時々会ったことがあるくらいかな」

 

「ほんとにぃ~?」

 

 桜井は俺にも疑いを掛けてきたが、知らないものは知らないので、適当にお茶を濁した。

 公共機関とくれば、親子で仕事をする事ってことも無いわけは無いだろうし、そもそも俺はそれ以上の情報を持っていない。飯田さんが頃合を見て桜井をとめ、俺たちは公安室に戻る事になった。

 

 

 公安室に戻ると、全員に仕事が割り振られた。俺は巡回を任され、東京駅の九・十番線ホームへ向かった。

 九・十番線ホームは在来線ホームの最端だ。東海道線の列車は七番線から十番線を使うが九・十番は西日本方面の寝台列車の発着にも使われ、終日となればそれを撮ろうと撮り鉄が集まる大合唱場所でもある。

 そんな場所だが、平日の昼間と来ればそんな人たちはいるわけも無く、十番線には、十二両の青い列車が低いエンジン音を鳴り響かせ入線しているだけという終日と比べ平和な光景。先頭を走る機関車の正面には「はやぶさ」をあしらった丸いヘッドマークが輝く。

 

「寝台特急はやぶさかぁ」

 

 寝台特急はやぶさ。こいつは何時かの「瀬戸・出雲」と同じくブルトレブーム後に一旦廃止、姿を消したがEF68型500番台と28系客車と共に復活した豪華寝台特急だ。復活後は九州を夜に突破し、瀬戸内海・大阪そして富士山を楽しむ観光列車となり、人気を博している。今までよりお高い客室は連日満席というのが、それを証明しているな。

 

 キィーと甲高いブレーキ音を鳴らし、十番ホームにゆっくり停車したはやぶさからは重そうな旅行鞄を持ったお客さまが何人も降りてくる。イチャつくカップルに仲間内で楽しそうに会話をしながら降りてくるグループ、お客さまの流れは出口と書かれた階段へと集中し、ファミリー客が先頭のEF68と一緒に写真を撮ろうと並んでいる。

 

「すみません、写真お願いしてもいいですか?」

 

 一人のお母さんらしき人が、カメラを片手に声を掛けてきた。

 

「はい、構いませんよ」

 

 返事とともにカメラを受け取ると、子供の後ろにお父さんらしき人と屈んで、ポーズをとる。

 

「はい、撮りますよー」

 

 普段撮り鉄としてやってきた腕が生かされるかどうかは分からないが、後ろのはやぶさとお客さまがいい具合に移るようにシャッターを切る。

 

「…これでいかがでしょうか?」

 

「…あ、いい感じです。ありがとうございます!」

 

 写真を確認して、お母さんは頭を下げてお礼を言った。

 

「ほら、宗太も」

 

「ありがとう、お兄ちゃん!」

 

「いいえ」

 

 改めて、お母さんは頭を下げると、家族は出口へ向けて歩き始めた。

 お母さんに手を引かれながら、宗太という子供は笑顔で手を振り続けていた。

 

 …あぁ、駅員ってのも案外悪くないかもな。

 その子供に手を振り替えしつつ、そんなことを思った。

 

 

 その後もはやぶさから降りてきたお客さまを中心に対応をしていると、途中で飯田さんから連絡が入り、俺は公安室に戻る事になった。

 

「ごめんねぇ~。小海さんが高山くんと忘れ物の対応に行っちゃったから、代わりお願いねっ」

 

 飯田さんはそう言って、俺を自分の机に座らせられた。そしてA4サイズの紙が積み上げられる。

 忘れ物・盗難・痴漢・スリ・道案内......何でも屋かよという具合には仕事が多岐にわたり、色々出動機会がある公安隊はその分だけ後処理(デスク・ワーク)がある。これは他の班も行うが、警四にもその仕事は回ってくるので、それの処理をしなければならない。何もさっきの様な仕事ばかりが公安隊じゃないのだ。

 なんだか、夢から現実に引き戻された感じがするが、気合いを入れるために椅子に座り直すと、机にガタッとぶっきらぼうに湯飲みが置かれる。

 置いた主を見上げると、桜井が不機嫌そうな相を見せてこちらを睨んでいた。

 

「おい桜井!もっと丁寧にだなぁ」

 

「久里浜は巡回に出たからそんな事言えんのよっ!こっちは何杯お茶くんだか……。このままじゃ、お茶くみ係になっちゃうわよっ!」

 

 桜井はそう吐き捨てると、他の人にもお茶を配りに行ってしまった。

 確か、桜井は飯田さんに「桜井さんはお茶くみ、よろしくねぇ~」って言われただけのはずなんだが…。この短時間で係りに昇格したらしい。

 

 桜井から書類に目を戻す。

 自分の机の上には、書類の山が一山。J○B時刻表一冊並に積まれている。

 うわぁ、これ全部見んのか…。

 桜井、お茶くみ係になっちゃうとか言ってたが、それならこっちは事務係だぞ…。

 

 俺は湯飲みのお茶を一気に飲み干し、気合いを入れるために息を吐くと書類との格闘戦へ突入した。

 ちょうどいい熱さ、さすがお茶くみ係と内心思いながら。

 

 

「ぐはぁ~疲れた……」

 

 あれからずっと書類と格闘する事数時間。結局終業時間を一時間越えて初日の仕事は終った。

 俺はずっと書類と格闘していたが、桜井以外の皆は別の仕事に引っ張りだこになっていたらしい。小海は書類仕事に戻ってきたが、仕事量は減ることなく、結局この有様だ。主に肩と腰が痛い。

 

「体キチぃー」

 

「高山お前…おっさんか」

 

 自分のロッカー前で、腰をさすりながら呟く高山に突っ込みを入れながら、スマホの画面をつける。

 

「んぁ、メールだ」

 

「久里浜、先行くよ」

 

「分かった、お疲れー」

 

「お疲れー」

 

 高山が出て行くのを、見送ってロッカールーム隅に申し訳程度に置かれた、椅子に座ってメールを開く。送り主は六浦。内容は俺のうちに今日遊びに来てもいいかというもの。…いつも、予告無しに来るくせに。

 今日は帰れば後は何も無かったはずなので、いいよと返信しておく。

 

「よし、俺も帰ろうかな」

 

 ロッカーに置かれた自分の荷物を持ち上げて、部屋を出た。

 

「あ、久里浜君。お疲れ様ぁ~」

 

「飯田さん。お疲れ様です」

 

 部屋を出ると、ベージュのスーツに着替え、ちょうど女性用のロッカールームから出てきた飯田さんと会った。

 

「今からお帰りぃ?」

 

「はい、友達が家に遊びに来るそうなので」

 

「そうなんだぁ」

 

 そこから、京浜東北線のホーム近くのコンコースまで、世間話をしながら歩いた。

 

「へぇー。その六浦さんって子と仲いいのね」

 

「はい、共通の趣味があるのでよく話しながら帰ったりしてますね」

 

「まるで……あら、あそこに居るのは高山君かしら?」

 

 飯田さんは何かを言いかけて、正面で何かに拝んでいる高山を指した。

 

「何やっているのかしら?」

 

「何かを拝んで、る?」

 

 飯田さんはおかしく笑うと、高山の近くを追い抜くように進路を定めた。

 そして通り過ぎ際に

 

「どおしたのぉ?新手のおまじない?」

 

 そう言って、高山の横を通り過ぎていってしまった。

 そしてそれに俺も続く。

 背後で高山が何か言いたげな声を漏らしていたが、俺はそのまま京浜東北線南行ホームへ向かった。




――解説――
・寝台特急「はやぶさ」
 作品登場のはやぶさは作中で紹介したとおり。
 現実でのはやぶさは、国鉄・JRで運行され、東京駅――熊本駅(1997までは西鹿児島(現:鹿児島中央)駅)間で運行されていた列車。最後の関東・東海・京阪神から九州直通の定期夜間優等列車の一つだった。
 2009年3月13日廃止。

・南行
 京浜東北線の上り下りで使われる言葉。
 北行が大宮方面(上り)、南行が大船方面(下り)である。
―――――
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