RAIL WARS!~警4にもう一人少年が居たら~   作:鶴雪 吹急

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八番線

 翌日、研修二日目。今日もホームの巡回を任された。

 都心のターミナル東京駅ともなれば、毎日のように忘れ物とか盗難とかトラブルが絶えないんだろうけど、俺は乗り換えで迷子になっていたお客様を案内しただけで特に大きなこともなく、12時を迎えて午前の研修を終えた。

 東海道線のホームから戻る途中、売店で昼ご飯としておにぎり三個とお茶を買っていった。公安室に戻ったのは12時を10分程過ぎたころだった。

 

「ただいま戻りましたー」

 

 小さくなく大きすぎない声で戻ったことを伝える。

 

「おつかれさん!他の二人みたいにもうちょい大声でもいいんだぞー」

 

 何人かの先輩が返事を返してくれる。高山たちはいかにも元気に声を張ってるようだが、俺がそれをずっと続けるのはちょっと疲れる。

 何回か続けていれば、そのうちこんなもんだろうと慣れてくれるだろう。

 笑ってあしらいながら、自分らの班の場所まで戻る。

 

「お疲れ様です」

 

 買ってきたご飯が入った袋を机に置くついでに飯田さんに声を掛ける。

 

「久里浜くんこそお疲れ様~」

 

 飯田さんはいつもの調子でニコニコと手を振ってくれる。机には弁当が包みに仕舞われて、お茶と菓子が出ている辺り、食後の休憩という様子。

 

「もうご飯食べたんですか?」

 

「そうよ~。もしかして一緒に食べたかった?」

 

「いえ、早いなと感じたもので」

 

「ずっとここに居ると、12時から食べられるからねぇ~」

 

 話しているときも飯田さんはずっとニコニコしていた。時々この様子のまま怒ったりしてるんだから怖い。

 …むしろ本当に怒りを露わにしてる時は状況が本当にやばいときなのではないだろうか。

 しかし、10分で食べ終わるとは中々に早食いなのでは?

 

「…私の顔に何かついてる?」

 

 ずっと顔を見ていてしまったらしく、心配そうな顔をされてしまった。

 怒り以外の表情なら以外と見せるのかもしれない。

 

「…」

 

「久里浜くん?」

 

 気付いてはいたがまた別のことを考えてしまったせいで、再び声を掛けられたことでやっと気付いた。

 

「あ、すみません。少し考え事を…」

 

「人の顔見て考え事なんてやあねぇ」

 

「とりあえず、装備降ろしてきますね」

 

「は~い、いってらっしゃい~」

 

 ヒラヒラ振る手に見送られて装備を降ろしに部屋の奥に向かった。

 廊下に続く扉の取っ手に手を掛けると勢いよく向こうから開けられる。

 出てきたのは学校の制服に着替えたウキウキした様子の桜井と彼女に手を引かれる小海だった。

 

「なんだ?どっかに行くのか?」

「ランチよランチっ!」

 

 華麗に人を避けながらすれ違いざまに桜井が答えた。止まることなく出入口に進んでいく。

 

「あおい待って!早いよ!」

 

 足取り危うく小海が続く、振り向きながら俺にすまなそうな表情を見せて続けて。

 

「ごめんね久里浜くんー」

 

 謝りながらもグイグイ引かれて二人は東京駅の喧騒の中に消えていった。

 

「…なんだあいつら」

 

 通り雨のような勢いだった。

 気を取り直して廊下に出る。正面には呆然とたたずむ野郎二人。こいつらも何やってんだ。

 

「岩泉、久里浜…弁当買いに行くか…」

 

「俺はカツカレー弁当二つ」

 

「俺はもう買ってあるから」

 

 吸った息と比べて吐いた言葉分かったとだけで少なく、他の空気をため息つきとして吐き出して、高山は廊下を出ていった。岩泉もそれに続いて出て行く。

 一人残された俺は装備を降ろしにロッカールームに入った。

 

 

 

「さすがぁ~、高校生って、すごいのねぇ~」

 

 正面に座る飯田さんが、笑みを浮かべながら感心するように言う。

 

「岩泉だけですよ、今更食べ盛りなのは…」

 

 隣に座る高山が、ため息交じりに言う。彼の机にも弁当が広げられていたが、岩泉程食が進んでいるようには見えなかった。

 俺はというと最後のおにぎりに手を付けていた。

 警四が待機しているのは部屋の一番奥のスペースで、使い古しの古い事務机を六つ合わせて島にしたところだ。一番入り口側に桜井が座り、隣に高山、俺と続き、それぞれの正面に岩泉、小海、飯田さんと続く。

 

「確かに、久里浜くんはおにぎりだけだし、本当にそれだけで足りるの?」

 

 飯田さんが小首をかしげて聞いてきた。

 

「足りるというか、いつも昼はこれ位しか食べませんよ」

 

「へぇ~。少食なのね」

 

「夕飯はしっかり食べるんで一概に言えませんが…」

 

 俺が食べ終わるころ、岩泉はすでに昼食を食べ終え机に突っ伏して寝ていた。高山はその光景にまた溜息を吐くと、食事に戻った。

 俺も少し寝ておこうか。いつもは午後の授業中に寝てしまうし、今のうちに寝とかないと午後の研修に支障が出そうだ。

 

 

 

 タイマーが昼休み終了10分前に鳴動して、丁度目が覚めたころ。

 小海が駆け足で事務所に戻ってきた。

 

「はぁはぁ、た、ただいま…戻りましたっ…はぁはぁ…」

 

 入り口で少し立ち止まっていたが、すぐに小走りで警四の机に駆けてきた。

 

「い、飯田班長っ!」

 

 肩で息をしている小海に、飯田さんは笑顔で声を掛けた。

 

「だからぁ、班長はいいって言ったでしょ?どうしたの小海さん。ランチもいいけどぉ、あんまりゆっくりしてたらぁ、午後からの仕事に間に合わなくなっちゃうぞ」

 

 小海の切羽詰まった様子と対称に、飯田さんの様子は余裕をもってゆったりとしていた。

 

「それどころじゃないんです!桜井さんがっ!桜井さんがっ!」

 

「ねっ、とりあえず落ち着こうよっ、小海さん」

 

 小海は大きな胸に小さな手をのせて、ゆっくりと深呼吸を繰り返した。

 呼吸が落ち着いてほっと息をつくと、小海は叫ぶように言った。

 

「桜井さんがっ!あおいがっ!ひったくり犯を追いかけて行っちゃったんです!」

 

 ガタッ!と高山が椅子を鳴らしながら驚きの声をあげ背中を仰け反らせる。相変わらず岩泉はこんな中でも寝ているし、飯田さんは特に驚く様子もなし、三人で全く反応が違った。いや、一人反応してないか。

 小海さんは手短に状況を話した。

 

「桜井さん。ランチの帰りに私とコインロッカーの前を通ったら、荷物を入れようとしている女性からバックをひったくるのを目撃しちゃって、私には相手が男二人組だから応援呼んで来てって言って…」

 

「ロッカーの辺りって死角も多いしなぁ、人気のない時間だからぁ…そこを狙われちゃったのねぇ…それにしても桜井さん、まだ二日目なのにね…ふぅ~ん」

 

 飯田さんは悠長に頷きながら話しているが、高山や小海は焦っていた。

 まあ、研修中の同僚が勝手にひったくり追っかけて行ったってんなら焦りもするだろう。こいつ(岩泉)は未だに寝て…いや起きてやがる、突っ伏しながらなんかゴソゴソしてる。

 

「班長!そんな落ち着いてないで、何とかしてください!」

 

 小海が急かすように言うと、飯田さんは手元に出していたボールペンをくるっと高山に向けて言った。

 

「高山君。じゃあ君を今から班長代理に任命します。ひったくり犯を追いかけている桜井さんを四人でバックアップしてあげて下さい」

 

「はっ、はい!必ず犯人を捕まえて戻ってまいります!」

 

 突然の班長代理任命に高山はガタガタいろんな所に身体をぶつけて立ち上がり、敬礼して宣言した。

 

「あぁ、そんな肩に力入れないでいいから、それから無理してケガしちゃダメよ」

 

 飯田さんは相変わらずのトーンで言った。こういう時はこっちの方が落ち着きやすいかもしれない。

 

「わっ、私すぐ着替えてきます!」

 

「小海さんはそのままでいいわ。時間もないしねっ」

 

「じゃあ、小海さんは手帳だけは持ってこのまま行こう!」

 

 高山が小海に指示を出している中、机の向こうでゴソゴソしていた巨体が起き上がった。

 

「岩泉!」

 

「俺は準備完了だ!早く行こう!」

 

 高山は起きていたのに気付いていなかったのか、すでにスイッチの入った岩泉に驚いていた。俺はそれよりこいつの聞き耳能力の高さに驚きだよ…。

 腰の両側に警棒を1本ずつ差した岩泉は、顔を赤くして気分は高揚しているようだ。すぐにでも飛び出して行きそうだ。

 

「では、行きます!」

 

 高山の宣言と同時に岩泉がすぐに動き出した。

 

「は~い。いってらっしゃーい」

 

 気楽に手を振る飯田さんに見送られ、事務所から飛び出した。

 

「小海さん!桜井の携帯番号って知ってるよねっ?」

 

「あっ、はい!知ってます」

 

 小海はスマホを取り出すと、画面をスワイプして桜井に電話した。

 数秒すると桜井が電話に出たようで、小海は高山に電話を渡した。

 

「なあ、それスピーカーにしてくれないか?」

 

「はいよ」

 

 俺のお願いに、高山はスピーカーに切り替えて通話先の桜井に問いかけた。

 

「桜井!今どこにいるんだ!」

 

「大声で言わなくても聞こえてるわよ!ちょっと静かに話してよ」

 

「あっ…ゴメン」

 

 高山はまだ何か言おうとしたが、それを遮るように桜井が話始めた。

 

「犯人は男二人組で三番線の階段を今上がっているわ。早く来て」

 

 高山は桜井へ犯人に手を出さないよう話を進めているので、俺は別のことを考えることにした。

 とりあえずここから三番線に向かうなら八重洲北口か丸の内北口の改札からが近いだろう。

 人の流れを考えると改札内の通路を抜けていけばいいだろう。桜井がひったくりを目撃したロッカーもホテルと公安隊事務所の間で人気が少ないってことを考えれば恐らく北自由通路だろうか?正直滅多に使わないから分からない。

 

「はいっ!」

 

 考えに耽ってると、高山がデカく返事をした。電話から聞こえる桜井の声を聞いていると結構イライラしている様子。

 

「小海さん、桜井から連絡あるかもしれないから、このまま電話借りるよ、それから桜井は國鉄京浜東北線の大宮行きホームだ。急ごう!」

 

 高山に頷きで答えると、全員で一気に走り出した。八重洲北口の改札から抜けていくが、ここで小海が学生服のため手帳を提示しなければいけない分、抜けるのに遅れた。彼女は足が遅いからなおのこと遅れる。先に抜けてきた男連中は、岩泉がグングン先に行ってしまい。高山は小海を気にしているのかドンドン後ろに離れていく。

 気付けば四人の距離はバラバラ、デコボコグループもいいとこである。

 しかし、相手が男二人組な以上いくら桜井と言えど女子一人だけに尾行させるのも心配だ。高山に先に行く、何かあれば連絡してくれと伝えるとスピードを上げた。正面にいたはずの岩泉の姿は見えなかった。

 

 三番ホームを駆け上がると、駅員が列車の到着をアナウンスしているところだった。場所的にはこの辺りに桜井がいると踏んでいたが辺りを探しても見当たらない。

 乗ろうと列を作っているお客様の間を抜けて大船側へホームを歩く。2、3両分進んだところで大宮行きの京浜東北線各駅停車の205系が入線してきてしまった。このままホームを進んでもいいが、仮に桜井と犯人が列車に乗れて俺たちが誰も乗れないと、彼女のバクアップのしようがない。ここの辺りで列車に乗ることにした。乗り込む間際に車両側面の右上端に掛けられたサボを見ると6という文字の板が掛けられていた。

 これはこの車両が6号車であるという事を示していて、京浜東北線は大船側を1号車として大宮側が10号車である。すなわち、この車両は進行方向から4両目だ。

 

 発車ベルの音の後にドアが閉まった。ホームの方を見ると階段すぐの場所で高山がスマホに向かって喋っていた。桜井と話しているらしい。

 小海がいない所を見ると追い付かなかったようだ。岩泉は姿を見なかったということはさらに後ろの車両に…いや違う。五・六番線ホームで辺り見まわしてやがる、通りで地下通路ですぐに姿を消したわけだ。

 桜井がこの列車に乗ったかどうかは分からないが、ひとまず怪しい二人組を探してみよう。

 幸い、昼過ぎの車内は東京を過ぎたこともあって然程混んでいなかった。あまり怪しまれないようにお客様の間を縫って後ろの車両に移動することにした。

 

 2号車まで移動し、ドア前に来ると座席とその前のお客様の間の向こうに桜井が見えた。やっぱり乗っていたか…。

 桜井も俺が乗っているのに驚いたのか、目を丸くしたが、すぐに指を彼女の斜め向かいの扉の方へ指した。どうやらそこに二人組がいるらしい。頷いて返事して見せると、俺は一つ先のドア前に移動しようとした。しかし、ドアとドアの間まで来てあることに気付いた。

 ドア前からだと二人組から視線が通るのだ。

 桜井はランチ帰りで小海と同様に学生服だがこちらは公安隊の制服だ。あまり目に入って彼らを警戒させると取り押さえるのに無駄に暴れられて、下手をすればお客様にけが人が出かねない。進むのは諦めてここから様子を見ることにしよう。

 桜井とも話をしたいところだったが、ここからでは動けないし、どうにかして電話番号を聞いてもこちらは電話をもって…るわ。昼休憩中だけ連絡が来てもいいように携帯を内ポケットに入れていたのを思い出した。

 

 桜井にジャスチャーで『電話・番号・プリーズ』とやって見せた。最初は「は?」という反応をしていたが、続けて『あいつら・話』とすると分かったのか手で数字を見せた。危なっかしい行為だが、人が居ないということは怪しがられる可能性も低いという事だ。訝しがられることもなかった。

 教えてもらった番号を入力して桜井に電話をかける。間髪入れずに桜井は電話に出た。

 

「高山たちと一緒じゃないの?」

 

「東京駅で乗り遅れたみたいだ。それより様子は?」

 

「東京駅にいた時は結構辺りを警戒してたんだけど、電車に乗ってからは落ち着いてるわ。現に久里浜がそこにいても警戒されてないでしょ?」

 

「確かにそうだ。今から警戒されても怖いから少し離れるか」

 

「そうして頂戴。変に警戒されたら犯人が捕まえられなくなっちゃう!」

 

 桜井の声音は苛立って聞こえた。すぐにでも捕まえたいという雰囲気が、姿からも見てとれる。

 それでも車内で捕まえようとすると暴れられたときに、お客様に危害が及ぶ可能性は承知であるようで、行動には移そうとして無いようだった。

 

「高山班長代理に指示を受けないと。俺らの管轄は東京駅だけだ。外に出ている以上どうするかは…」

 

「はぁ?あいつが班長代理?!どうして!」

 

「飯田班長が決めたことだ。俺が知るわけないだろう」

 

 桜井は見るからに不機嫌そうだった。自分がそういう役割に収まれなかったことに対してというより、至極単純に高山がリーダーであることが少し気に食わないようす。

 

「とにかく今は様子を見よう。仮にどこかの駅で降りたとしてもそこの駅の公安隊員に伝えるだけで俺らは戻ろう」

 

「でもあいつら女の子からカバンを!」

 

「こんなに目の前にいるのに捕まえられないのは俺も悔しいが、ルールに背いてこんなくだらない連中捕まえて公安隊になれないより、RJを捕まえた方がよっぽどいいだろう?」

 

 桜井は少し思い巡らし、分かったわとそれから大人しくなった。




――解説――
・東京駅
 首都圏のターミナル駅。
 作中では中央線、京浜東北線、山手線、東海道線、東海道新幹線、東北・北海道・北陸新幹線が乗り入れている。関西方面ブルトレの始発駅である。新幹線は全路線が直通しており北海道から東海道へ乗り入れも可能である。
 現実では上記路線の他に東京上野ラインから常磐線が乗り入れており、新幹線は上越新幹線と秋田・山形への新幹線も発着している。
 八重洲口は新幹線側の改札口で、丸の内口はよく想像されるレンガ造りの駅舎が見える中央線側の改札口である。

・東海道線
 東京駅を起点として、終点神戸までを結ぶ路線。
 現実ではJRに分割民営化し、東日本地区と東海地区と西日本地区に分かれている。
――――
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