IS~インフィニット・ストラトス 失われし青い翼の騎士と平和の歌姫   作:ダークエイジ

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ふう、忙しい。


第八話「疾風と氷」

 クラス対抗戦から数日後、一組ではまたある事が起きていた。なんと、また転校生がやって来たのである。しかも二人も。

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れな事も多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします。」

なんと、やって来たのは男。これには流石にクラスは騒がしくなる。

「男?」

「はい、この学園には僕と同じ境遇の方々がいらっしゃると聞いているのですが。」

「きゃあああああっ!!」

「フランスで、金髪で、美少年!!!」

「私、生まれてきて良かったぁぁっ!!」

うるさい、正直に言うとうるさい。クラス中が声を張り上げているのだ。流石にうるさい。

「あ〜、騒ぐな!静かにしろっ!!!」

めんどくさそうにぼやく千冬。まぁ、致し方あるまい。

「皆さん、静かにっ!まだ、自己紹介は終わってませんから!」

確かに、あともう一人。異様な人物がいる。輝く長髪に、医療用ではない眼帯。そして、その独特な気配でキラ達は悟った。軍人だと。

「挨拶をしろ、ラウラ。」

「はい、教官。」

氷を思わせる様な、冷たい声。その声に千冬は面倒くさそうに答える。

「ここではそう呼ぶな。織斑先生と呼べ。」

「了解しました。」

このやり取りから、恐らくドイツだと思われる。千冬は前にドイツで教官をしていたから。

「ラウラ・ヴォーデヴィッヒだ。」

沈黙。余りの短さにクラス一同が沈黙に徹してしまった。

「あ、あの以上ですか?」

「以上だ。」

冷たい表情のまま、ラウラは静かに一夏の方へ歩いて行く。そして、目の前まで来ると静かに口を開いた。

「貴様が・・・・。」

「 なに?」

パァン!

いきなりの事でまたクラス一同絶句してしまった。何と、ラウラが一夏を叩いたのだ。一夏も突然の事でなにがなんだか分からないという感じになっている。

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか。」

「いきなり、何しやがる!!」

「ふん!!」

理由を言わず、ラウラはきた時と同じ様に自分の席に向かった。余りの出来事に反応し切れていないクラスに千冬の声が響き渡る。

「あー、ゴホンゴホン!ではHRを終わる。各人は直ぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。」

パンパンと手を叩いてクラスに行動を促す。女子達はラウラの行動に驚きながらも着替えを始めようとした。キラとユウイチと一夏は急いでクラスを出て行こうとした時、千冬に呼び止められた。

「ヤマト、織斑、レイヴン。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろ?」

「君達三人が?初めまして、僕は・・・」

「自己紹介はいいから、早く行くぞ。」

「えっ?」

キョトンとなっているシャルルを強引に引っ張って更衣室を目指す。途中、女子達の妨害があったが何とか目的地に到着した。

「ふぅ〜、何とか着いたな。」

「そうだね。」

「はぁ、はぁ。」

「ゼェ、ゼェ。お、お前ら・・・何でそんなに足が速いんだ・・?」

二人の足の速さについてこれず息が上がっている二人。しかし、二人は分からずに?と言う顔をしてい。

「二人とも、早く着替えないとマズイよ。」

「そうだな。」

そう言って、三人は着替えを始める。すると、シャルルが何故か素っ頓狂な声を上げた。

「わぁっ!!!」

「っ!?」

「何だ!?」

「荷物でも忘れたのか?って、何で着替えないんだ?早く着替えないと遅れるぞ。シャルルは知らないかも知れないが、ウチの担任はそりゃあ時間にうるさい人で」

「う、うんっ?き、着替えるよ?でも、その、あっち向いてて・・・ねっ?」

何か腑に落ちないが、ともかく四人は着替えを終了させてグラウンドに向かった。因みに着替えの途中で分かったのだがシャルルはどうやらフランスで一番大きいIS企業のデュノア社の息子らしい。

「では、本日から格闘及び射撃の実戦訓練を開始する。」

「はい!!」

一組と二組の合同授業なので人数はいつもの倍。正直うるさいというか姦しいというか。

「今日は戦闘を実戦してもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。 凰!

オルコット!!」

何で私?と言う顔をする二人に千冬は容赦なく命令を下す。

「専用機持ちは直ぐに始められるからだ。いいから前に出ろ。」

二人は仕方なく前に出た。すると千冬はあることを二人に言った。

「お前ら、少しはやる気を出せ。あいつ等にいい所を見せられるぞ。」

その瞬間、セシリアと鈴の目つきが変わる。

「やはりここはイギリス代表候補生。私、セシリア・オルコットの出番ですわね。」

「まぁ、実力の違いを見せるいい機会よね。専用機持ちの。」

さっきとはえらく違うやる気である。恋はいつもハリケーンなのである。

「それで、相手はどちらに?私は鈴さんとの勝負でも構いませんが。

「ふふん、こっちのセリフ。返り討ちにしてあげるわ。」

「あわてるなバカども。対戦相手は。」

キィィィィン。何処からか耳をつんざく音が聞こえてくる。

「あああああ〜っ!どいて下さい!!」

上を見上げると、ISを装備した真耶がこちらに落下してくるのが見える。 助けなければグラウンドに真っ逆さまだ。

「ユウイチ!!」

「いいよキラ。俺が行く。」

ユウイチは直様、アイズ・フリーダムを展開するとバーニアを噴射して空中で受け止めた。受け止めた際の反動を制御して衝撃を軽くする。

「大丈夫っすか?先生?」

「は、はいっ!」

何故か分からないが真耶の顔が何処と無く赤い。気のせいだろうか。

「山田先生は元代表候補生だからな。小娘相手なら造作もない。」

「え?あの2対1で?」

「流石にそれはちょっと・・・」

「大丈夫だ。お前らならすぐ負ける。」

言われた事にムッとしたのか二人はすぐさま闘志に目を光らせ。上空に上がる。

「手加減はしませんわ!」

「直ぐに倒してあげる!!」

「い、行きますっ」

三人はあっという間に上空に上がり、戦闘を開始した。それを尻目に千冬は生徒達に新たなる説明をした。

「さて、今の間に・・・そうだな。ちょうどいい。デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみろ。」

「あっ、はい!」

空中での戦闘を見ながら、シャルルがしっかりとした声で説明を始めた。

「山田先生の使用されているISは、デュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です。第二世代開発最後期の機体ですが、そのスペックは初期第3世代型にも劣らないもので、安定した性能をと高い汎用性、豊富な後付武装が特徴の機体です。現在配備されている量産型ISも中では最後発のでありながら世界第三位のシェアを持ち、七カ国でライセンス生産、十二カ国で正式採用されています。特筆すべきは操縦の簡易性で、それによって操縦者を選ばない事と多様性役割切り替えを両立させています。装備によって格闘・射撃・防御と言った全タイプに切り替えが可能で、サードパーティーが多いことでも知られています。」

「ああ、いったんそこまででいい。終わるぞ。」

シャルルの見事な説明を止めた千冬は空を仰ぐ。すると、派手な爆発が起きて爆煙の中から赤と青の機体が絡まったまま地面に落下して行った。

「くっ!うう・・・。まさか、このわたくしが・・・。」

「あ、あんたねぇ・・・・なに、面白いように回避先読まれてんのよ。」

「り、鈴さんこそ!無駄にばかすかと衝撃砲を撃つからいけないのですわ。」

「ぐぐぐぐぐっ!」

「ぎぎぎぎぎっ!」

本人達にとっては本気なのだろうが、見ているこっちは実に可愛く見える。とにかく、その後は何ともなく授業を終了するのであった。

そして、放課後のこと。学校から寮までの道、ラクスとユウイチと言う珍しい組み合わせの二人がいた。いつもはキラがいるからである。因みに話題はシャルルの事。

「ユウイチ、シャルルさんのことで何か気づきませんでしたか?」

「ん?そうだなぁ・・・妙に女っぽいって感じかな?」

すると、ラクスがふふっと微笑む。

「な、なんだよ?」

「それは当然ですわ。シャルルさんは女の子ですもの。」

「な、なに!?それは本当か!!?」

「ええ、身体つきを見れば分かりますわ。」

流石はラクス。観察眼が尋常じゃない。しかし、男と偽って入学させるなどデュノア社も何を考えているのか。

「キラは知ってんのか?」

「ええ、恐らくですけどね。」

寮に付き、キラの部屋に入る。すると、中にセシリアとキラがいた。

「やぁ、二人とも。お帰り。」

「遅かったですわね。」

「ああ、ちょっとな。」

とにかく、二人にはことの次第を伝えた。

「ええ!?シャルルさんは女の方!?」

「ああ、そのことなら知ってるよ。」

やはり、キラは知っていたようだ。

「デュノア社のサーバーにアクセスしたんだけど、彼女の本名はシャルロット・デュノア。社長の愛人の娘らしいね。機体は『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』。何故、男と偽って入学したのかは分からなかったけど。」

「また、ハッキングか?それ、犯罪だって。」

「シャルルさんが女性・・・・」

「理由はご本人にお聞きした方がよろしそうですわね。」

話によると、一夏と同室になったらしい。ユウイチが一夏の部屋に行き、シャルロットを連れてくる。

「デュノア、いるか?」

「なに?」

ちょうどいたので彼女を借りる。

「借りてくぞ〜っ!!」

「あ、ああ、」

「ちょっ、ちょっと!!?」

半分、強引に連れてこられたシャルロットはキラの部屋に入った瞬間、重ぐるしい空気に身を縮こませる。

「そ、それで何の用かな?」

「実はですね、本当は女性である貴方がどうして、男の人としてこの学園に来たのかお聞きしたくて。ねぇ、シャルロット・デュノアさん。」

「っ!!!」

図星を突かれたシャルロットは身構えながら後ずさる。

「大丈夫だ。危害は加えない。」

「こっちも色々と問題があってね。理由ぐらいは知っとかないと。」

「しかし、返答しだいでは容赦はしませんわ!!」

「ちょっと、セシリア・・・。」

シャルロットは溜息を吐くと、その重い口を開いた。

「はぁ、まさか一日で見破られちゃうとはなぁ。」

「?」

「知ってると思うけど、僕は社長の愛人の子。父にあったのは二回くらい。会話は数回かな。普段は別邸で生活してるんだけど、一度だけ本邸に呼ばれてね。本妻の人に殴られたよ。『泥棒猫の娘が!』ってね。参るよね。母さんもちょっとくらい教えてくれたら、あんなに戸惑わなかったのにね。」

愛想笑いをするが、声は乾いていて笑ってはいない。そんなシャルロットに四人は何とも言えない表情になった。そんな表情見守られながらシャルロットは言葉を続ける。

「それから少し経ってデュノア社は経済危機に陥ったの。」

理由なら分かる。リヴァイヴは所詮第二世代型。ISの開発は金が掛かる。殆どの企業は国からの支援があってやっと成り立っている。しかも、フランスは欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』から除名されているから第3世代型の開発は急務を要する。国防の為もあるが資本力で負ける国が最初のアドバンテージを取れないと悲惨な事になるのだ。

「デュノア社は第3世代型を開発していたんだけど元々、遅れに遅れをとって第二世代型の最後発だからね。圧倒的にデータも時間も不足していて、なかなかの形にならなかったんだよ。それで、政府から予算を大幅にカットされたの。そして、トライアルで選ばれなかった場合は援助を全面カット、その上でIS開発許可も剥奪するって流れになったの。」

その苦しい状況下の中で現れたのが、男性でありながらISを動かせる人間。つまり、一夏達だ。それなら、シャルロットが男装して来たのもうなづける。注目を集める為の広告と男として接近し、可能ならデータを奪う。

「僕はね。君達のデータを盗んで来いって言われたの。あの人に。」

うっすらと涙を浮かべる彼女にキラ達は苦虫を噛み潰した様な表情になった。彼女は父親に利用されているのだ。愛人の子だからか分からぬが怒りすら覚える。自らが生み出した命であるのに。

「それで、シャルロットさんはどうするんですの?」

「僕は本国に連れ戻されるだろうね。デュノア社は、まぁ、潰れるか他企業の傘下に入るか、どの道今までにようにはいかないだろうけど、僕にはどうでもいい事かな。」

「「「「・・・・」」」」

「ああ、何だか話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう。それと、今までウソをついててゴメン。」

深々と頭を下げるシャルロット。だが、キラ達は何か腑に落ちない点があった。

「だが・・・・」

「君はそれでいいの!?」

「えっ!?」

シャルロットの腕を掴んで鬼気迫る勢いで彼女に詰め寄るキラ。それにビックリするセシリアとシャルロット。

「キラさん・・・・?」

「確かに、親が居なければ子供は生まれない。でも生き方まで決める権利はないと思うよっ!!」

もしかしたらキラはこの時、自分とシャルロットを重ねてしまったのかも知れない。スーパーコーディネーターとして、生みの親であるユーレン・ヒビキに創り出された自分と。彼が生きていたらもしかしたらシャルロットと同じ道を歩んでいたかもしれない自分と。

「事の次第を知ったらフランス政府はお前の事を奪いに来るだろう。」

「そんなことになったらシャルロットさんは牢屋行きですわ。」

「本当にそれでいいの。」

「僕には選ぶ権利は無い・・・」

そう言うシャルロットにキラは優しい微笑みを返す。夕陽に包まれながら。

「なら、ここにいて。」

「えっ!」

「ここに入れば、フランスは君に何も出来ない。」

「キラさん!特記事項第二十一ですわ!」

特記事項第二十一。本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意が無い場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとす。

「それでも、君に何かしようとしてきたら・・・・僕が護る。」

「キラ・・・。」

瞬間、シャルロットの顔が真っ赤になった。それでも、シャルロットは今度は本物の笑顔で言葉を紡ぎ出した。

「キラ、優しいね。ありがとう・・・・。護るって言ってくれて。」

キラの胸に顔を埋めるシャルロットを見ながらセシリアとラクスは複雑な表情をしていた。

(ふっ、荒れるな。この四人。)

ユウイチが鼻で笑ってはいると、シャルロットがいきなりキラの胸から顔を離してあることを言い出した。

「そうだ!一つ言い忘れてた。実はキラ達に近づいたのはもう一つ理由があるんだっ!」

「????」

「実は日本に来る前に、家に男の人が訪ねて来たの。」

「男の人?」

「うん、その人が僕にあることを言ってきたんだ。」

『もし君がキラ・ヤマト、ラクス・クライン、ユウイチ・S・レイヴンの情報を逐一、送ってくれるんなら我々はデュノア社に莫大な資金援助と設備提供を約束する。もちろん、君個人にも。どうする?シャルロット・デュノア君。』

「・・・・」

その男の正体も気になるが、問題は情報提供に一夏が含まれてはいないと言う事。キラ達三人のみというのは引っかかる。

「そいつ、名前言ってたか?」

「いや、ある企業に所属しているとだけ。あと、眼帯をしていたよ。ボーデヴィッヒさんみたいな。」

それを聞いた瞬間、キラ達に動揺が走る。キラ達のこんな動揺の仕方を見たことがないセシリアが疑問の声を上げた。

「キラさん、ラクスさん!?」

「間違いない・・・奴だ。」

「そうだね・・・。」

「キラ・・・彼が。」

話について来れていないセシリアが声を張り上げる。

「その方が何ですの!?」

「その男のコードネームはヴァイス。企業に所属している傭兵で、とても危険な男だよ。」

「奴め、何のために?」

キラは静かに窓の向こう側を見る。その向こう側では既に夜の帳が降り始めていた。

丁度その頃、デュノア社の社長室ではデュノア社長がある男と会談していた。

「うん、いいワインですな。デュノア社長。」

「まさか、君が来るとはね。」

社長が会談しているのはヴァイス。キラ達の敵。

「今入った情報だと。シャルロットさんは失敗したようですな。」

「っ!やはりか使えない奴め。」

「おやおや、酷い人ですな。貴方が創られた命でしょう?ともかく、彼女は失敗した。その意味がお分かりですな?」

それはつまり、デュノア社には未来がないという事。

「分かっておる。」

「それは話が早い。未来の無いデュノア社には我々企業連の傘下に入って貰います。勿論、今までと変わらずにやって行って貰って構いません。資金援助もします。ただし。」

「ただし?」

するとヴァイスは社長にあるデータを渡した。

「デュノア社はもうISを作ることをやめてもらいます。代わりにISを超える人型兵器MSを開発して貰う。」

「ISを超える兵器だと!?そんなものが?しかし、それだけのモノを世界は受け入れるか?」

「受け入れるさ。クソな条約であれだけの力を持て余してるんだ。たとえ、受け入れなくても水面下では欲しがる筈だ。」

それから、暫くして会社からヴァイスが出て来た。そして、電話を掛ける。

「アダム、デュノア社は企業連に参加する。これでまた一つ計画に近づいたな。」

電話を切ったヴァイスは静かに煙草に火を付けながら空を仰ぐ。空は曇っていた。

 




次回はどうしよう?

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