アーシアとあって数日が過ぎ、また一日が過ぎようとするころ、ある一軒の屋敷の玄関で出かける用意をしているものがいた。
鉄板が仕込んである革製の丈夫なブーツを履き以外は特にランニングに出かける人と大差ない、動きやすさを重視したような軽装で身を固めている。
「兄さん、こんな夜更けにどこ行くんですか?」
そう玄関でしたくする須臾に話しかける永久。
少し剣呑な雰囲気を永久は醸し出しているが、それを少したりとも気にした様子は見せず須臾は返す。
「ちょっと今日、後輩が青春しに行くみたいでな。事情を知らないわけでもないから馬に蹴られそうなやつらを先に叩きのめしちまおうかなってな」
「そうですか…私は必要ですか?」
「いや、俺だけでも必要十分だよ」
「そうですか、それでその後輩は女性ですか?女性ではないですよね?ないですよね!」
ちょっと暗黒面を覗かせ始めた永久をこれまた一切気にした様子も見せず、さらりと返す。
「あぁ、兵藤一誠という男だよ」
「ならいいです。
それより、本当に要らないんですね?要らないって言っておいてケガして帰ってきたら怒りますからね!ゲキオコプンプンです!」
そう言ってむくれて見せる永久を見て須臾は笑みを浮かべ、
「あぁ、俺一人じゃ弱っちいけど無傷で勝ってくるよ。約束する」
「本当ですね?約束ですよ?嘘ついたら千回でもいくらでも私に挿れさせますよ?」
「うし、ケガするにはどうすればいいかなぁ」
「に・い・さ・ん~?」
「はいはい、わかってるよ。それじゃあ行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
少しふざけ合った後、お互いに笑って須臾は家を出る。
後輩のもとに邪魔な烏が至らないように。
須臾がやって来たのは先日アーシアを送り届けた教会の周辺に広がる森林の中である。
鼻につく血の香りと羽音を頼りに須臾はたどり着く。
背中に黒い一対の翼を持った異形の男女三人組のもとへ。
1人はドーナシークと仲間から呼ばれる紺のコートを着た紳士風の男、もう2人はカラワーナと呼ばれるボディコンスーツの長身の痴女とゴシック調の服を身につけたミッテルトと呼ばれる少女。
この三人はもとは天使だったものが、何らかの罪を犯し堕ちたもの、堕天使である。
ヒトとは全く異なった力を持った存在。その中の男が一歩前に出てきて述べる。
「おやおや、こんな時間に人間がこのようなところに何の用ですか?」
そう紳士風にしゃべりだすのだが、須臾は汚物を見るような顔をして
「おいおい、いくら紳士装ってもゲスの香りがプンプンするぞ烏ども」
なんて言ってくれるものだからもうね?
さっきまで紳士を装ってた男も後ろの女性陣も青筋を浮かべ
「…いいだろう、貴様は塵一つ残らないほどめちゃくちゃに殺してやろう」
その言葉とともに三人とも手に光でできた槍を形成し、
「では、死ね」
その言葉とともに一斉に須臾に放たれた。
一般人には近くもできないほどの速度で投げられた、一本でも人を殺すのに十分すぎる威力を持った槍が計三本飛来する。
投げた三人も確実に殺ったと思った。実際普通ならそうなるはずなのである。
なのに目に入ってきた光景はそれを否定してくる。
三人の顔が徐々に驚愕へと変わっていく。
なんせ右手一本で三本の槍すべてを鷲掴みにしているのである。
普通なら握るその手が耐えられないはずである。いや、まず人にとらえられる速度ではないはずなのだ。
「貴様…何者だぁ!」
そんなドーナシークの問いに答えるそぶりを一切見せずに、須臾は妹でなく、自分に許された行為を行う。
須臾の手の中で光の槍がどんどん姿を変えていく。
そうして出来上がったのは宙に浮かぶ一枚の手のひらサイズの光の盾。
そこでようやく須臾は口を開く。
「お前らが馬鹿にした後輩の先輩でお前らが虐げた子の友達だよ」
そこからの戦いは一方的であった。堕天使の三人がいくら光の槍を投げようともそれは盾に阻まれ、盾に吸収されるように消えていき、盾はその分勢いと大きさを増していった。それが一定まで進むと今度は分裂し、攻撃を防ぐだけでなく、こちらの動きを制限するようにも動き始める。
光の槍ではだめだと思い、ヒトより優れた膂力をもちいて殴殺しようとすれば、避けられ、そのごついブーツで明らかにヒトを超えた力で蹴り飛ばされ、これまた砲弾の様な力でぶん殴られる。
飛んで逃げようとすれば盾が楔に変わり翼を木や地面に縫い付けられる。
三人すべての堕天使が翼を奪われ、地に這わされ、心を折られるのにそれほど時間はかからなかった。
そうして三人を、妹の言いつけ通り無傷で封殺して息をつき、気を須臾が抜いた時だった。なので反応が少し遅れ、逃げるのが間に合わなかった。
地面に魔法陣が浮かび、そこから現れる2人の女性。
「…これはどういう状況なのかしら、須臾?」
「あらあら、ふふふ」
学園の二大お姉様ことリアスと朱乃である。
現状確認。地面に楔状にした光の槍で縫い付けられ呻くことしかできない堕天使を見下ろし一息つく須臾。そして須臾の服や拳に返り血をつけている。
……現行犯逮捕確定である。
だがなんだかんだで須臾は諦めが悪い。
「やぁリーアたんにあけのん。こんな夜に散歩は危ないぞ?それじゃあな」
「「ちょっと待ちなさい」」
残念、肩を掴まれた。
「リーアたんって呼ぶのやめてくれないかしら?よめてと言ったわよね?」
「あけのんって何ですかあけのんって。これはお仕置きが必要かもしれませんねぇ」
片方は赤いオーラを身体に纏わせ、片方はバチバチとスパークを起こしだす。
この二人、須臾が一般人ではないと知ったからといっていきなりオープンすぎるのではないだろうか。
「まて、リーアたん。これはお前の兄さんとの友情の証でな。そしてあけのんっていうのはネタだあけのん。」
そう言った瞬間迸る雷撃。
だがその雷撃は須臾の体を貫くことはなく、須臾の両の掌の上に集められる。
そうして、
「そんじゃあまたな!」
その言葉とともに両の手が打ち合わされた。
そして生まれるのは電撃の弾ける音と激しい閃光。
思はず2人が顔を庇って目を離したすきに須臾は消えていた。
「いったい何者なのかしら」
「これはちゃんと伺わなければいけませんね、ふふふ」
ちょっと怒り気味な朱乃が残されたが、須臾は無事にこの場だけは誤魔化すことができたのだった。
その後家にて。
「お帰りなさい、兄さん」
「ただいま、永久」
「怪我がないよう…兄さん、手のひらを見せてくれますか?」
「え゛、ケガナンテシテナイヨ」
「嘘ですね、少し焦げ臭いですよ?おとなしく見せてください」
「…はい」
「やっぱり少し焦げてますね、だから私もいた方がいいのではと何回も言ったのに!」
「いやいや、これはミッションと関係ないところで負ったというか、予想外の必要経費だったかというか…」
「言い訳がましいですよ、兄さん。さ、私から奪っていいですよ。早く傷を治してください」
「あ~い」
「あと、約束。破りましたね?」
「…Yes」
「期待してますよ、兄さん」
「Oh…Tonight is party night」
「Yes、パーティです。朝までずっと」
あ~い、これで一巻終了です。
須臾の持つ能力の一端が軽く出てきましたね。
詳しくは二巻の内容やってるうちに出そうと思いまーす