「突然だがお前は死んだ」
「はい?」
気が付いたら真っ白な空間にいて、其処に佇む長い白髪に長い髭の老人が立っていた。老人は申し訳なさそうな顔で俺に謝ってくる。
「すまん。ホント―にすまん。ワシの作業ミスでお前を死なせてしまった」
「は……?え?何?なんなのこのテンプレ展開?この発言自体もテンプレだけど」
落ち着いているのかテンパっているのかよくわからない心境になりながら俺は答えた。
確か俺はトラックに轢かれそうになった子供を助けようとして、それで―――――
「うわ~~死に方もテンプレだったか~~~~ってことはこの後の展開は」
「うむ、お前を好きな世界の登場人物へと憑依させてやる」
「え?」
予想していた発言と違っていて俺は面食らった。てっきり転生だと思ったんだが………まあ変わんないか。
「さあ選ぶがいい。どんな世界の登場に憑依したい?あとオマケで色んな能力を付け加えてやるぞ」
「デート・ア・ライブ!!デート・ア・ライブの五河士道に憑依させてくれ!!」
即断即効で俺は答える。
最近ハマりだして読んでたライトノベル。ヒロインは全員可愛くて全くハズレが無い作品だ。
あの世界で五河士道になれるだけでそんなヒロイン達と………グフフフフフ。
「お前メッチャキモい顔しとるの…………まあいいわい。それでオマケの能力はどうする?これも好きなだけ決めていいぞ」
「好きなだけ?好きなだけいいの?どんな能力でもいいの?」
「そう言っておるだろう。さ、速いとこ決めてくれ。ワシを忙しいんだ」
「それが死なせちまったヤツの態度かよ。まあいいや、それじゃ―――――――」
俺は考え付く限りの様々な能力・スキルを言っていった。スッゲー時間が掛かってもしかしたら【めだかボックス】の安心院さんが持ってる以上の数に達したかもしれない。チートって言葉が生ぬるいくらいに。
「―――――――っとまあこんな感じでイイか。これだけあれば充分だろ」
「ワシは忙しいと言うとるのに時間かけ過ぎじゃ!!それじゃ憑依させるぞ、いいな」
「おう、頼んだぜ!」
ああ、まさか二次元の世界に行けるなんて。棚から牡丹餅かこれ。全然違うか。
「あ」
「え?」
興奮して今か今かと待ち構えていると老人が何か声を出した。
そう、何か不吉な予兆を含んだ声で。
ギシィ
「ん?」
一体どうしたのかと老人に尋ねようとした時、何か変な音がした。何かと何かが合わさった摩擦音――――耳障りな、不協和音。
何処からの音だ?耳を澄ませて発信源を特定する。
ギシィ―――ギシィ
「え?…………え?」
聞こえてくる場所は――――――――俺の身体だった。
ギシィ―――――ギシィギシィ
ギシィ
疑義疑義っ疑義っ疑義偽っ疑義疑義疑義疑義っぎいぎっぎっ疑義疑義大ぎっぎいぎっぎ一ぎぎぎいぎぎぎっぎいぎぎぎぎぎっぎぎぎぎぎぎっぎいっぎいぎぎぎぎっぎぎいぎぎぎっぎgっぎぎいgっぎっぎいっぎっぎぎっぎぎぎgっぎいぎっぎっぎぎいっぎぎぎぎぎっぎぎぎぎぎいっぎぎぎぎっぎ
「ガ――――ッ………ァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアア!!」
刺される痛み。
折られる痛み。
切られる痛み。
潰される痛み。
裂かれる痛み。
焼かれる痛み。
噛まれる痛み。
撃たれる痛み。
これらのどれでもあるような痛みのようでいてどれにも当てはまらない痛みが腕に、脚に、目に、耳に、口に、臓腑に、魂に駆け巡っていく。
「が、ぐぎ、げえあ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――!!」
訳が解らない。突然襲ってきた未知の痛みに俺はのた打ち回ることしかできなかった。
何が起こっている。俺の身体はどうしたってんだ!?
説明しやがれジジィと声に出そうとするも余りの痛さに声が出せない。
それでも何とかして声を出そうとして―――――
「あ、あ、ああああああああああああああああああ……………………――――――――――――――――――あ」
俺の意識は途絶えた。
訳も分からぬまま俺は〝二度目の死〟を迎えてしまった。
× × ×
「ああ~~~~~まあ、ああなるわな。普通の人間があんなに多くの能力を望んでは身体が持つ筈が無い。唯の風船に世界に在る空気総て注ぎ込むようなもんじゃわい」
老人は気まずそうに言うも反省した素振りは全くない。自分のミスではなく望んだのは彼なのだからその結果が消滅であっても彼の責任で総て収まる。
「うん、そうだ。ワシの責任じゃない。うん、そうだ。では仕事に戻るとしよう」
自分に言い聞かせるように呟いて老人は白い空間から退場して、自分の職場の天界へと戻っていった。
老人はこの件は憑依失敗として片づけるだけに終わり、仕事に戻った後は綺麗サッパリに忘れてしまった。
この失敗で五河士道にとんでもない異変が起ったのを知らずに。