憑依に失敗して五河士道が苦労するお話   作:弩死老徒

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<プリンセス>の逃亡を確認したのはASTだけではなかった。

 

 

天宮市上空一万五千メートル。地上から見上げるには余りにも視力の限界を超えている位置に存在する空中艦<フラクシナス>のクル―達も消失(ロスト)とは異なる反応消滅、しかも最新鋭艦たる<フラクシナス>の観測をすり抜ける速さで反応が消えたことに驚愕を覚えていた。

流石は精霊、人間の常識を覆す顕現装置(リアライザ)を更に覆してくる。

改めて精霊の力を認識する中、艦橋に入ってくる扉の音がして一人の少女が姿を現した。

 

「状況はどうなってるの?」

 

入るなり尊大に言ってくる赤髪を黒のリボンでツインテールにした少女に周りのクル―たちは何の不満も違和感も懐いていないのか作業を続けており、艦長席付近にいた男が少女に敬礼して迎えながら報告を行う。

 

「はっ。精霊出現後、ASTが攻撃を開始したのですが、間も無く精霊は戦線離脱。その後も行方を眩ませています」

「離脱? 消失(ロスト)じゃなくて?」

「はい」

 

艦長席に少女が座り、男は一連の出来事を簡単に説明する。

その後、少女はクル―に映像を出すよう指示し、現在状況を把握する。大型モニターに映し出されるのはクレーターを中心として破壊しつくされている街並みと、飛び回っているAST隊員だった。惨状と呼べる有様ではあるものの、今までの<プリンセス>とASTの戦闘痕に比べれば最小限の被害で済んだと安堵するレベルである。

 

「ふーん………確かに珍しいわね。精霊の中でも気性が激しいタイプなのに、何もしないで逃げたってわけ」

「そうですね。我々も天宮市内を探索したのですが、反応は無しです」

「もう天宮市を遠く離れたってことね。でもそんな能力が<プリンセス>にあったかしら?アレの〝天使〟は純粋な破壊の力だったと記憶してるんだけど、その時の映像は無いの?」

「申し訳ありません………霊波観測だけに留めていたのでオフぉぉっ!」

 

言い終わる前に少女が男の足を思いっきり踏み潰した。傍から見ても痛そうだったが踏まれた本人は何やら幸せそうに顔を緩めている。

 

「ったく、肝心なところが見れないなんて。まあ、今更ASTとのドンパチ見たって仕方がなかったのも事実ね。そろそろ傍観者から当事者に移るときだわ」

「―――ッ、司令、では」

「そうよ。円卓会議(ラウンズ)からの許可がようやく下りた。いよいよ私たち<ラタトクス>が動き出すのよ」

 

小さな体躯からは似合わぬ威風堂々とした宣告に、男だけでなくクルー全員がいよいよ作戦開始の狼煙が上げられたと、気を引き締めた。

怠けている様子がない部下たちに満足げになりながら司令と呼ばれた少女がふと気になっていたことを思い出した……着信履歴が数回埋まった電話の主のことを。

 

「そういえば、さっき〝秘密兵器〟に連絡いれたんだけど出なかったのよね。神無月、現在位置調べてちょうだい」

「わかりました」

 

男――神無月はクル―達に指示を出して〝秘密兵器〟の居場所を調べだす。

<フラクシナス>に搭載されている最新の顕現装置(リアライザ)を駆使すれば直ぐに見つかる……はずなのだが。

 

神無月は予想外の結果に首を捻った。

 

「ん?」

「なに、どうしたの」

「いえ、それが………………対象の、〝秘密兵器〟の反応が見当たりません」

「……はぁ?」

 

告げられた言葉に少女は〝何言っちゃってるのコイツ?〟と胡乱な目で男を睨んだ。

見下す視線に男はぶるりと震えながら恍惚と表情を浮かべるが、少女が真面目な怒気を放っているのを感じてコホンと咳払いをして報告を続ける。

 

「対象が通学している高校をスキャニングしたのですが、校舎はもちろん、地下シェルターにも反応がありません。少なくとも、来禅高校には居ないということしか………」

「なんですって?」

 

予期せぬ事態に少女の顔が険しくなる。

少女からすればこれは念のための確認だった。これから始まるであろう壮絶な戦争(・・)を前にしてのメンテナンスチェック程度の心持、折り返して連絡するのが遅くなったとはいえ空間震警報中に妙なマネするわけがないと思っていた。

なのに今しがた神無月がほざいたのは戦争をするための兵器がないということであり、戦術兵器にして戦略兵器たる武器が行方不明になっているということ。作戦実行が出来ないということ。

それでも司令と呼ばれるだけあって、極めて冷静になりながら少女は携帯端末を取りだし〝秘密兵器〟へと電話を掛ける。まさかとは思うが緊急を要する状況に巻き込まれているのではと心の奥底が小さくざわめく。さっき電話に出なかった事も相俟ってジワジワと嫌な気分が上昇してくる。

苛立ちとも不安とも言える感情を自覚しながら少女は愚兄(・・)が電話に出るのを待つ。

そして数回コールした後ついにガチャッと電話に応答した音がした後、件の人物の声が聞こえた。

 

『えっと………もしもし』

「もしもし、今――――」

 

何処にいる?と聞こうとして、突如耳の向こう側で轟いてくる怪音によって、一言も交わせずに強制解除させられた。

思わず端末から耳を離してしまい、再び耳を付けるも聞こえてくるのはプー、プー、と通信が切れた虚しい音だけだった。

 

「っ――――神無月、対象の捜索範囲を広げなさいッ!天宮市外全域も含めて!急いでッ!!」

「了解しました!」

 

神無月と他のクル―全員が慌ただしく動きだす。電話越しの轟音は彼らにも聞こえたらしく、尋常ではない、まさかと危惧した緊急事態であることが如実に伝わっていた。

〝秘密兵器〟に何が起こっているのか、何処に居るのか。今日は始業式があるだけでこれといって出掛けるイベントはない。

……昼にレストランで食事を取ろうと約束はしたが、空間震が来るというのに律儀に待つハチ公になってるとも思えない、そこまで馬鹿ではないはず。

居場所も気になるが、それよりも一番気になるのはあの轟音だ。通信でも伝わってきた天の怒りもかくやという〝地響き〟。ただの自然現象で起った音でも、銃や爆弾で起った音とも違う……。

 

強いて言うなら、その両方(・・・・)

 

引き金をひいて自然現象が起った様な――――――そう、かつて

 

「対象の反応がありました!―――――ですが、これは」

「見つかったの? どこ」

 

〝秘密兵器〟発見の報告に余念を捨てて先を促すものの、肝心のクル―は呆然と驚愕の表情で口籠っていた。

 

「ちょっと、見つかったんでしょ。どこにいるの………まさかレストランに居るとか言わないでしょうね」

「い、いえ、そ、その……………」

「?」

 

尚も戸惑いがちに報告を渋るクルーに訝しげになる。

まさか本当にレストランに居たのか。馬鹿なの? 死ぬの?と嘆息しそうになったところで〝秘密兵器〟の居場所を報告した。

 

「対象の反応は―――――――――――――――沖縄県にあります」

「………………………………は?」

「しかも、<プリンセス>の反応も一緒です……」

「…………………………………………………………………………

…………………………………………………………………………

…………………………………………………………………………は?」

 

沈黙が場を支配していく。誰もかれも声を発しない。場に響いているのは顕現装置(リアライザ)の起動音くらいだ。

何を言ってるのかわからなかった。言ってきた内容を受け入れられなかった。

沖縄県という県名は知っている。観光地としても有名だし、修学旅行とかにも定番で、そういえば〝秘密兵器〟の高校も修学旅行先は沖縄だった気がする。

下見に行こうと思っても時期が早すぎるし、その場所が気軽に行ってみようと思っていける場所ではないのも分かってる―――――そんな場所に〝秘密兵器〟が<プリンセス>といる。

 

<フラクシナス>が壊れているとは誰も思っていない。最新鋭艦がそうそう簡単に壊れるとは思っていないし、整備不慮を起こすような人材はいないと自負もしている。

[地下シェルターに避難していなかった〝秘密兵器〟は天宮市を遠く離れて沖縄県に、行方不明になっていた<プリンセス>と一緒に居る]……と出た以上、これは事実だ。〝秘密兵器〟は<プリンセス>と一緒に沖縄県に居る。

 

だが事実でも、訳が分からなかった…………だから<フラクシナス>司令官・五河琴里が悲鳴じみた咆哮を上げるのは当然のことだった。

 

 

「はぁああああぁぁ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○ ○ ○

 

 

 

右の掌がざっくりと斬り裂かれている。

一般人が生活する中では不慮の事故でも起きない限り絶対に見ないであろう量の血がボタボタと零れ落ちていく。

不思議と痛みはそれほど感じていない。あんまりにもあり得ないくらいに血が出てるから脳が吃驚して脳内麻薬をふんだんに発しているのかもしれない。

そんな大怪我を負いながらも五河士道の胸中に懐いているモノは怪我を負わせた相手に対する憤りではなく、よく右手が残ってたなといった安心感だった。

 

如何して怪我を負ったのか……ポケットに入れていた携帯端末が着信の振動をしたので出てみたら十香が斬撃を放って手から血が舞ったのだ。携帯は木端微塵になったが耳が無事だったのは不幸中の幸いだった。

十香は士道と距離を取ったまま剣を構えて睨みつけてくる、これ以上妙なマネ(・・・・・・・・)をしたら即刻首を落とすと言わんばかりにだ。

無理もない。こんな見知らぬ土地に(・・・・・・・・・・)連れていかれては(・・・・・・・・)警戒しない方がどうかしている。

 

(何処だよここ………何なんだよ本当に、なにがどうなって…………?)

 

考えるのを放棄したくなる誘惑をグッと堪えて、十香と目を併せたまま周りを把握する。

青い空、白い雲、そして蒼い海、白い砂浜。燦々と輝く太陽はそれら総てを照らしだし、元々の透明感溢れる澄み切った美しさをより一層引き出していた。

何者にも穢されぬこの地の景色は都会では決して再現できない和やかさを士道に与えていた……こんな状況下に陥っても尚だ。

 

此処はどこかの海辺、プライベートビーチというやつだろうか?無限に続く広大な海に白い砂浜が追従していて果てが見えない。他にあるものといえば翠の草木、黒い岩礁程度のもので家も宿もホテルも此処からでは見えない。

いや、問題なのは此処が何処かではなく……何でこんなところに居るのかだ。

士道と十香は天宮市の街中に居た筈なのに、ミサイルに追いかけられて当たったと思ったら目の前に大海原が広がっていたのだ。まさにイリュージョンとしか言いようがなかった。

 

「―――――おい、貴様」

 

睨むばかりだった十香がとうとう重い口を開けた。穴があくどころか呪い殺すかの如く睨みを利かせているが。

 

「一体何をした、ここはどこだ?」

 

その声は芯の通った凛々しい響きであったが、早口で言っているその姿は努めて動揺を隠しているように士道には聞こえた。

……問題の本質はこれだ。どうにも天宮市からこの場所へやってきた原因は士道にあるらしいのだ。

士道としては十香が精霊の力を使って何とかしたものと思っていただけに、内心混乱しまくっている。

ミサイルが迫った時、士道は確かに〝ここから遠くへ離れないと〟と考えていた。だがそれだけである。考えていただけで、具体的な事は何もしていない。

思っただけで遠くへ瞬間移動、テレポートが出来るだなんてご都合主義にも程がある。こんなトンデモ能力に士道は勿論身に覚えは無い。

あるとしたら、やっぱり朝の夢なのだが………朧げでしか覚えてないし、しかも滅茶苦茶な数を言ってたし、もしかしたら本人も何を言ったか忘れてるんじゃないかと思う。

 

(って、そんなこと今は如何でもいいんだよ)

 

そろそろ返答しないと十香の機嫌が更に悪くなってしまう。

自覚も納得もしていないが今は十香のことを優先すると決めたのだ。彼女がやっていないなら、やったのは士道だ。今はそれを受け入れて話を合わせる。そうしなければ先に進むことはできそうにない。

 

「驚かせて悪かった。でも、あのまま何もしなかったらお前はアイツ等と戦ってたろ? 俺はただお前が戦うところなんて見たくなかったからここまで連れて来ただけだ。他意は無い」

 

精一杯の謝意を込めて告げた士道に十香は睨むだけで、まだ士道を測りかねているようだ。

士道には待つことしか許されない。無害であることを証明するには十香の質問に答えるのが今の最善だ。勝手な喋りも今の十香には気に触れるくらい警戒している。

 

「私が戦うところを見たくなかった…………? どういう意味だ」

「そのままの意味だ。お前が戦って、傷を負う姿なんて見たくなかったんだ。本当に、それだけだ」

「あんなもので私に傷を負わせることはできん」

「それでもだッ! それでもお前に戦ってほしくなかったんだ」

 

十香の問いに士道は悲壮感すら漂わせて答える。それは十香にも伝わってきて、だからこそ何で戦わせたくないのか分からないといった顔になっている。

 

「………解せんな。何故そんなことをする? 私が戦ったところでお前には何の関係もないだろうが」

「それは――――」

 

その通りだ。士道と十香は今日〝実際に〟会ったばかりの他人。少なくとも十香にとっては完全な赤の他人であり、自分を殺そうとしてくる人間の同胞だ。

士道の言ってること、やってることは十香を油断させて側面から襲う策謀と取られているのかもしれない、というかそうじゃないかと今疑われているのだろう。天宮市で感情のまま口走ってしまったのも拍車を掛けてしまっているみたいだ。

加えて士道自身も気持ちの整理が出来てなかった。十香のあの顔を見て放っておけなかったから思わず絡んでしまったというならわかる――――かつて士道が味わった絶望を前に見て見ぬ振りができるほど士道は残酷ではないつもりだ。

 

でも、この胸の気持ちはそれだけではないことを士道に訴えている。

同情とも、有難迷惑とも言える士道の絡む癖以外の〝何か〟が十香をこのまましておけないと言っている。

 

 

 

この気持ちは………………そう、〝ムカつき〟だ。

 

 

 

十香の顔を見ていると、放っておけなくなるのとは別に、無性に腹立たしくて(・・・・・・)癇に障って(・・・・・)気に入らなかった(・・・・・・・・)

 

昔の自分を見ているみたいで嫌な気持ちになっているのではない。

 

違うのだ(・・・・)

 

あの顔は違うのだ(・・・・・・・・)

 

 

 

あんな顔は、十香らしくないのだ(・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

『十香。私の名だ。素敵だろう?』

 

 

 

 

 

 

 

 

(そうだよ………俺は、見たじゃないか。十香の、あの顔(・・・)を)

 

朝の夢幻。夕焼けに染まった教室で、十香が自分の名前を告げたあの時に士道は見たのだ。

 

十香の―――――――――笑顔を。

 

心がストンと、ピッタリと嵌まった感覚がした。心が楽になった気がした。

相手の抱えている絶望よりもなんのその。単純で馬鹿らしいけど、物凄く大きな理由を士道は持っていたのだ。

 

「―――笑ってほしい」

「…………………なに?」

「笑ってほしいんだ。俺は、お前に笑ってほしいから戦わせたくなかったんだ」

「……なにを、言って……?」

 

急に黙り込んだと思ったら唐突にそんな事を言われて理解不能と、十香はますます士道のことがわからないといった表情になった。

 

「お前、アイツ等と戦おうとした時どんな顔してたか知ってるか?面倒臭そうにしてて、ウザそうにしてて、その癖すっごく悲しそうな顔してたんだぞ」

 

まるでイジメみたいと、何でこんな事になったのかわからなくて、ただ悲しくて、怒りをぶつけるしかない負のスパイラル現象だったと、士道は熱くなりそうな頭を抑えながらも声を発する。

 

「信じる事が出来なくて、誰にも愛されないと思ってて、何もかもに絶望してるみたいな顔をしてた。放っておけないって思った――――――――でもな」

 

気持ち悪くてたまらない環境で生きなければ成らない、士道が大っ嫌いな顔。

誰であろうと〝そんな顔をさせない〟と士道は強い思いを裡に秘めている。十香の状況を変えるためなら何度でも声を掛ける。何度でも手を差し伸べる。

 

でも―――――

 

「それ以上にッ、俺はお前がそんな顔をしているのが気に食わない!!」

「なっ―――」

「憂鬱? 物憂い? 絶望? 何だよそれ、そんなもん全然ッ!お前にはこれっぽちも似合ってねえよ(・・・・・・・)!!」

 

そう宣言した瞬間――――――士道の脳が乗っ取られた。

頭が揺れる。目が滾る。でも意識は現実にちゃんと保つ。

十香をまっすぐ見ながら、濁流する世界を受容する。無理矢理に変えられる世界を認めながら脳裏に浮かんでくる人物を士道は見定めた。

 

 

 

そこに居たのは、十香だった。

 

 

 

 

『んんんんんんっまあああああああああああい!!!これがデェトかシド―?!』

 

パクパクと夢中になりながら笑顔できなこパンを食べる十香がいた。

 

 

『んっ、ふふ……………そうかシド―、もしかしてこれがデェトだな?』

 

頭を撫でられて気持ちよさそうに笑顔になる十香がいた。

 

 

『ならばいっしょに食べよう!デェトしつくそうではないか!!』

 

自分だけが楽しんでるんじゃないかと不安になって、「楽しいよ」と返事を聞いて、安心して笑顔になる十香がいた。

 

 

『何だそんなことか、だったら今日の私とシド―は立派にデェトだ!―――――イイものだな、デェトは』

 

日が沈んでいく中、今日一日を振り返って「一体デェトとはなんのことだったのだ?」「結局わからなかった」と言った時、男女が出掛けたり遊んだりすることと簡単に説明をしてやり、屈託のない無邪気な笑顔になる十香がいた。

 

どれもこれも覚えが全くない記憶たち。

 

そして、どれもこれも十香が笑っていた記憶たち。

 

記憶の中の十香は見るもの総てが真新しいモノばかりで、悲しみと怒りと絶望しか知らなかった彼女からすれば驚天動地の連続だったのだろう。

すること成すこと総てを全力でおこなって、全力で楽しんで、全力の笑顔を浮かべていた。

 

その顔は本当に綺麗で、太陽すら霞んでしまう程に輝いていて、生きる喜びに満ちていた。

 

「そうだ! お前はそんな顔しちゃダメだ!!お前はもっと笑うべきだ!!お前の笑顔は見た奴を元気にすることが出来るんだ!! それくらいお前の笑った顔はキラキラしてて可愛いんだ!!!」

「かっ、可愛っ?!」

「それを………絶望なんかに邪魔されてたまるかよッ! お前がそんな風になっちまってる原因が誰にも認めてもらえないからって言うなら、俺が認めてやる!!お前を否定してくる奴ら全員の数倍以上に俺がお前のことを肯定してやる!!!」

「なっ―――――な………、な」

「だから――――――だから俺と!!」

 

目を何度もぱちくりさせ、開いた口が塞がらずに喘ぎ声を洩らす十香は顔も真っ赤になっていて熟れたトマトかハバネロと形容してもいいかもしれない。

その事に気付いているのかいないのか士道はさらに勢いづけて言葉を紡ぐ。

 

十香の絶望を振り払うために。

 

十香を笑顔にさせるために。

 

彼女が何度も口にした言葉を。

 

殲滅とは違う、精霊へのもう一つの対処法を。

 

「俺とッ、俺とデートをしてくれ!!」

 

士道は叫んだ。自分が十香を肯定する者としての証を立てるための方法を。

 

精霊に恋をさせる。即ち………デートして、デレさせる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――しかし。

 

 

 

「――――――――――ぅ」

 

第三者の視点で言えば、今の士道の言動は天宮市で感情任せに言ったことと変わりがない。

幾ら十香が望んでいるであろう言葉を言ったところで初対面の人間をおいそれと信じられるかはかなり怪しい。

 

「―――――――――――うぅ」

 

だが十香は根本が純粋な心の持ち主であり、子供っぽい性格なため、常識や規範といったものに疎く、思考よりも直感を重視し物事を見据え行動するのが多い。

 

「――――――――――うぅう」

 

AST達によって悪意や害意に晒されてきた十香は、それ故に自身へ向ける負の感情に敏感になっている。士道が絶望に対して敏感になっているように。

 

「―――――――――――うぅぅぅぅ」

 

逆に言えばそれは、善意や好意といった正に真逆な感情に対しても十香は直感で感じる性質が備わっているとも言える。

 

「――――――――――うううううううううう」

 

故に、士道が口にした言葉は嘘偽りない、心の底から親身になって自分を想ってくれているのだと十香は何となくながら理解していた。

 

故に、今まで感じたことがなかった相手からの心遣いに………………恥ずかしくなってしまって、どうしたらいいのか混乱してしまうのも無理からぬ事で―――――

 

 

 

 

「うううううううううううううううううううううう」

「……………ん?」

 

どっかで聞いたことのある警報めいた唸りを漏らす十香に士道は漸く熱が冷めて様子がおかしい事に気が付いた。

顔が真っ赤っかになって湯気が立ち上っている。身体が小刻みに震え、心なしか少し光っている。

それらが段々と大きくなっていく……………まるで空間震が起る予兆のように。

 

「うううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう」

「え? と、十香? おい、どうし――――」

 

声を掛けるも届いていないのか、十香はますますその震えと光を大きくしていき―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「ウボァァアアアアあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?」

 

 

 

 

 

 

爆発させた。

 

天宮市で起った空間震に負けないくらいの爆風と衝撃が十香を中心に巻き起こり、近くに居た士道は容易く風圧に巻き込まれた。

視界が白く染まり、重力が全く感じられず距離感も失ってただ遠くに吹き飛ばされていることぐらいしか分からなくなって…………いつしか本日二度目の気絶を果たしてしまっていた。

 


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