この素晴らしい世界で蒼い悪魔に力を!   作:(´・ω・`)

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第96話「この女神達と仲間集めを!」

 女神アクア祭の開催を宣言したアクア。対するカズマは驚きもせず、また馬鹿なことを言い出したぞと呆れていた。

 彼の横で聞いていためぐみんも同様であったが、まずアクア祭について率直な疑問を尋ねた。

 

「女神アクアを称えるお祭りをしたいのであれば、アルカンレティアで開催すればよいのでは?」

「いいえめぐみん。まずはアクシズ教徒が少ない、この街から始めることが大切なの。そして一年おきに開催地を広げていって、ゆくゆくは王都で盛大なお祭りをするの! アルカンレティアで開催するのは十周年とか節目の年がよさそうね」

「とか言いながら、本当はアルカンレティアの教徒からまた偽物扱いされるのが怖いんだろ」

「わぁああああっ! カズマさんが言っちゃいけないこと言った! 偽物じゃないもん! 本物の女神アクア様だもん!」

 

 信徒から紛い物呼ばわりされたショックは癒えていなかったようで、アクアは涙目で訴える。

 一方、めぐみんはとっくに本物の女神だと知っているのだが、敢えて「ハイハイ」といつものように流していた。

 アクアは溢れ出た涙を腕で拭うと、カズマ達が座っているソファーの背から身を乗り出して話を続けた。

 

「とにかく、私の大感謝祭は絶対に開催させるから! だからカズマさん達も協力して──」

「お断りします。俺はエリス様派なので」

「はぁっ!?」

 

 アクアからの申し出をカズマは即座に断った。彼の返答にアクアは吃驚する。

 

「カズマさんったらエリス教徒でもないのに、どうしてエリスの肩を持つのよ!?」

「お前の何倍も女神様してるからだよ。一緒に暮らしてる女神がエリス様だったらいいのになーって、今まで何度思ったことか」

「私だって何回も蘇生させてあげたじゃない! それにあの子、お淑やかに見えて結構やんちゃなところもあるのよ!」

「素晴らしいギャップ萌えだな。お前とは大違いだ」

 

 エリスにも女神らしくない一面はあると伝えて幻滅させる試みであったのだろうが、カズマにとっては吉報にしかならず。

 説得が難航し、アクアは悔しそうに頬を膨らませる。やがてカズマの勧誘を諦めたのか、彼女はプイッとそっぽを向いた。

 

「いいわよ! だったらお兄ちゃんにお願いするから!」

 

 と思いきや、今度は彼女のお兄ちゃん(仮)ことバージルを味方につけると言い出した。

 彼の名前を出せば怖気づくとでも思ったのであろう。しかしカズマは一切動じず。

 

「あーハイハイ。お好きにどうぞ」

 

 カズマは適当に返事をしながら、手で彼女をあしらった。

 これが真剣勝負なら確かにビビったであろう。が、今回はお祭り対決。純粋な力の差は関係ない。

 そもそも、バージルを誘える前提で話していることが間違いであろうに。

 

「い、いいの!? ホントに誘っちゃうわよ! 後で後悔しても遅いからね!」

「おう頑張れ。冷たく追い払われて家の前で泣き喚くオチしか見えないけど」

「そんなのやってみなきゃわからないじゃない! お兄ちゃんだって、実はお祭り大好きかもしれないでしょ!」

「デストロイヤー撃退の祝勝会を抜け出してた人が、さらにどんちゃん騒ぎなお祭りに参加するわけないだろ」

 

 アクアの言い分へカズマは冷静にツッコむ。むしろ何故彼女は誘えると思っているのか、カズマは不思議でならなかった。

 バージルの名をチラつかせる作戦も失敗し、ようやくカズマの説得を諦めたのか、アクアは隣にいためぐみんへ声を掛けた。

 

「ほらめぐみん! 裏切り者のカズマさんなんかほっといて行きましょ! 早速作戦会議よ!」

「私も協力するとは言ってませんよ?」

「……へっ?」

 

 めぐみんから予想外の返しを受け、アクアは固まった。隣で聞いていたカズマも「えっ」と思わず声が漏れる。

 

「バージルがそちら側につくとなれば、必然的にゆんゆんもついてくるでしょう。あの子は私のライバルを自称する者。相対する運命にあるならば、私はカズマ側につくのが道理」

 

 めぐみんは淡々と誘いを断った理由を話す。彼女とゆんゆんはこれまで様々な対決をしてきた。これも対決となるならば、敵対するのは必然。

 もっとも、仲良くしたいゆんゆんはそんなことを望んでいないかもしれないが。

 

「……もういい! 二人とも知らないから! アクア祭が盛大に盛り上がって、楽しそうだから仲間にしてくださいって頭を下げに来ても、絶対に入れてあげないんだから!」

 

 ここに味方はいないと知ったアクアは、半泣きで捨て台詞を吐きながら広間を後にした。

 力任せに開閉された扉の音を聞いた後、カズマはめぐみんへ尋ねる。

 

「……行かなくて本当に良かったのか?」

「さっきも言ったでしょう。ライバルと仲良しこよしするつもりはありません。まぁ……それだけが理由ではないのですが」

 

 めぐみんはキッパリと堪える。最後の方は声量が尻すぼみになってよく聞き取れなかったが、とにかくエリス側として参加するようだ。

 

「しかし、アクアは本当に開催するつもりなのでしょうか? そもそもアクアに、開催できるほどの資金があるのかどうか……」

「……普段のエリス祭はどうやって資金を集めてるんだ?」

「ダクネスから聞いた話では、大半がエリス教団を、あとは貴族や商店街の方達が出資しているとか」

「そんな大金アクアには……無いだろうなぁ」

 

 クエストで多額の報酬を得ても、数日で酒に変わり、そしてマイナスになってカズマへおねだりしに来る。

 貯金という概念を知らない彼女に、祭りを開催できるだけの資金があるとは到底思えなかった。

 

「……ったく、しょうがねぇな」

 

 ため息を吐きつつ、カズマはソファーから立ち上がった。

 

「どこに行くんですか?」

「今年はエリス祭とアクア祭の同時開催にできないか、商店街の人やダクネスに掛け合ってみる。アクシズ教も出資するって条件なら呑んでくれるかもしれないし」

 

 教団の最高責任者ことゼスタは、アクアが女神だと知っている。女神様から直々のお願いであれば、喜んで出資もしてくれるであろう。

 それに、エリス教とアクシズ教が対抗意識を燃やしてくれれば、祭りも一層盛り上がる。それは商店街の人達にとっても悪くない話だ。その線で持ちかければ、円滑に事を進められる筈。

 アクア祭開催への道筋を脳内で組み立てていると、横にいためぐみんはクスリと笑った。

 

「なんだかんだ言って、やっぱりカズマは優しいですね」

「べ、別に優しさとかじゃねーから! ただ、勝負を挑んできておきながら土俵に立つことすらできないのは見てられないっつーか──!」

「はいはい、そういうことにしておきますよ」

 

 慌てて否定するカズマだが、めぐみんは微笑んだままであった。

 

 

*********************************

 

 

 少し時間が経った昼頃、カズマ達の屋敷から少し離れた場にある便利屋デビルメイクライにて。

 

「街は今日も盛況だったよ。皆お祭りが楽しみなんだね」

「魔王軍や機動要塞、悪魔の襲撃があったことも忘れて祭りに興じるか。揃いも揃って呑気な奴等だ」

「あったからこそじゃない? この先は平穏に過ごせますようにって願いを込めてさ」

 

 中で話していたのは家主のバージルと、遊びに来ていたタナリス。彼等もエリス祭について話を交えていた。

 

「その日に襲撃がないとも限らんだろう。祭りに気を逸らされている連中で溢れているからな」

「警備は厳重にしてくれると思うよ。それでも不安なら……アルカンレティアにいる司祭さんを呼んで、街全体に魔除けの結界を張ってもらう?」

「いや、必要ない。悪魔以上の面倒事が起きかねん」

 

 タナリスの提案にバージルは渋い顔を見せた。頼んだとしても、敵対組織であるエリス教の祭りを手伝ってくれるとは思えないが。

 司祭の顔が脳にチラついて不快に感じた彼は、手元に置いていた紅茶入りのティーカップへ手を伸ばす。とそこへ、二人の話を横で聞いていた他の来客が会話に入ってきた。

 

「アクアから聞いた覚えがあるぜ。アルカンレティアっつったらアレだろ? アクシズ教徒(イカれた連中)の総本山だよな? そこの司祭なんざぶっちぎりのイカレ野郎に決まってンだろ! やめとけやめとけ!」

「でも悪魔以上だなんて言われたら、ちょっと興味が湧いちゃうわね」

 

 一人はソファーにちょこんと座っていた赤髪の少女、もとい悪魔のネヴァン。そしてソファー前の机に立っていたニワトリのぐり帝である。

 

「さっきから気になってたけど、なんでこの子達がここに?」

「どちらも家出をしたそうだ」

 

 タナリスからの質問へバージルは簡潔に答える。それだけでは理解できなかったタナリスが首を傾げると、ネヴァンとぐり帝はそれぞれ家出の理由を話した。

 

「めぐみんって子、ぜんっぜん私の力を使ってくれないのよ? 最近はタクシー代わりにしか使ってもらえないし。このままじゃダメだと思って、あの子に黙って出ていったの」

「あの屋敷にいたらアクアがうるせぇし、ネコちゃんから命を狙われてストレス溜まりっぱなしの毎日だ! 嫌ンなって飛び出したくなる気持ちもわかるダロ?」

「それはなんというか……大変だったねぇ」

 

 家出理由を聞いて、タナリスは納得の声を溢した。

 また、彼等が家を尋ねてきてバージルはすぐさま追い出そうとしたが、悪魔を街へ放浪させるわけにはいかないと考え、仕方なく中に入れた。

 ほんの僅かながら同情を抱いてしまった、という理由もあったが。

 

「けど、そんな勝手に出ていってもいいのかい? ぐり帝はまだしも、ネヴァンは仮にも使い魔でしょ?」

「別に私、あの子と血や魂を使って契約を結んだわけじゃないし。仮契約みたいなものね」

「悪魔の唯一の取り柄だった契約遵守を放棄するか」

「悪魔にだって相手を選ぶ権利ぐらいあってもいいでしょ? マヌケ兄弟とワンちゃんは律儀に守ってるみたいだけど」

 

 とにかく私は戻らないと、ネヴァンはソファーの上で寝転がる。

 アグニとルドラはカズマが、ケルベロスはダクネスが所有者となっているが、ケルベロスの心情は察するに余り有る。よく逃げ出さずにいれるものだと、バージルも関心を覚えるほどだ。

 ぐり帝も机から動こうとしない。しばらくここで過ごすつもりのようだったが──終わりの時は唐突に訪れる。

 バージルは玄関に視線を向け、ぐり帝へ告げた。

 

「どうやら、鳥の飼い主が迎えに来たようだ」

「アァ?」

 

 ぐり帝が反応し、彼も玄関を向く。扉の外、軽やかな足音と共に着々と近づいてくるのは、悪魔とは対称的な明るい魔力。

 やがて、家の扉が大きく音を立てて開かれた。

 

「お兄ちゃーん!」

 

 元気な声で入ってきたのは、ぐり帝の飼い主であるアクアであった。彼女を見て、真っ先にぐり帝が驚嘆の声を上げた。

 

「ゲェッ!? クソババァッ!?」

「あら、ぐり帝じゃない。朝から見ないと思ったらこんなところにいたのね。って、またクソババァって言ったわね! 私のことはお母様と呼びなさいって何回言ったらわかるのよ!」

「そういうところが嫌だからこっちに逃げて来たンだよ! 毎日毎日エラソーに説教しやがって! 俺様は大悪魔だぜ! 女神の命令なんざ聞くわけねぇだろ!」

「だから貴方は悪魔じゃなくて 水の女神アクアの使いである神聖なドラゴンなの! 今はそんな姿だけど、いつか呪いが解かれて本当の姿を取り戻せるはずよ!」

「俺ですら諦めてンのに、テメェはいつまで現実逃避を続けてやがんだ!」

 

 アクアとぐり帝はやいのやいのと口喧嘩を続ける。紅茶も落ち着いて飲めない騒がしさにバージルが苛立っていると、アクアの背後よりさらなる来客が顔を出した。

 

「アクア様、師匠も怒っているようですからその辺で……」

「突然押しかけてすみません、先生……あっ、タナリスちゃん!」

 

 バージルを師と敬う二人組。ミツルギとゆんゆんである。ミツルギがアクアを宥める傍らで、友達とバッタリ会えたゆんゆんは表情を明るくさせる。

 そこへ、ソファーから起き上がったネヴァンがゆんゆんの顔をまじまじと見つめ、彼女に声を掛けた。

 

「貴方って黒髪だったかしら? 私の記憶では銀髪だった気がするのだけれど」

「あっ、ネヴァンさん。こ、これは先生から力を授かった時に染まって……」

「先生ってバージルよね? へぇ……貴方が力を授けるだなんて、ダンテが聞いたら驚きそうね」

 

 ネヴァンに話を振られるも、バージルは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 その傍ら、ミツルギが仲裁に入ったことでアクアとぐり帝の口喧嘩も静まっていく。それを見て、バージルは再び紅茶に手を伸ばそうとしたが──。

 

「ね、ネロア? どうしたの?」

 

 ゆんゆんが自身の腕を見ながら困惑の声を上げた。そして、彼女の腕から黒い影がぬるりと現れる。

 小さな影は形を作り、黒豹の子供──彼女の使い魔であるネロアが姿を見せた。知らぬ間に、サイズを変えての出現が可能となっていたようだ。

 しかし今回は、ゆんゆんの意思に反して出てきた様子。周りの者達が様子を伺っていると、ネロアの赤い目は机上に立っていたぐり帝へ向けられる。

 

 ──ポトリと、ネロアの口端から涎が落ちた。

 

「マテマテマテ!? お前まで俺を食うつもりか!? 元はおんなじバージルの悪夢だろ!? 共食いで殺されるなんざ死んでもゴメンだぜ!」

「ネロア!? この鳥さんは食べちゃダメだよ!?」

「そうよ。あんな口うるさいニワトリなんか食べたらお腹痛くなっちゃうわ。せめて火を通しなさい。私の雷でいい感じに焼いてあげましょうか?」

「あ、じゃあ僕はミディアムで。アクア、屋敷からお酒取ってきてー」

「焼かせるわけないでしょ! タナリスも乗らないでよ! ていうかその子なんなの!? 急にゆんゆんからちょむすけみたいな子が出てきてビックリなんですけど!」

 

 静寂は訪れず。ネロアの登場をきっかけに、アクア達は再び騒ぎ出した。

 ミツルギもゆんゆんの使い魔に驚いてか、彼等の騒ぎを止めず興味深そうにネロアを見つめている。

 目の前で騒ぎ立てる彼等を見て、バージルは紅茶を取ろうとした手を引っ込めた。

 

「……騒がしい連中だ」

 

 いつでもどこでも騒がしい彼女達と、この騒がしさに慣れつつある自分に、バージルは呆れの息を吐いた。

 

 

*********************************

 

 

 わざわざ止めるのも面倒に感じていたが、このままでは収集がつかなそうであったため、ゆんゆんの使い魔についてバージルから軽く説明を済ませた。

 アクアは自分の周りに悪魔が増えていく現状に不満を抱いたが、ネロアに手を出そうとはしなかった。

 それよりも、何故アクアがここへ訪れたのか。詳細を尋ねると、彼女はここへ至るまでの経緯を話した。

 近々、この街で女神エリス感謝祭が行われる。それを良しとしなかったアクアは自分のお祭りも開催すると宣言。カズマとめぐみんにも協力を求めたが断られてしまったので、バージルの所へ来たという。

 話を最後まで聞き終えたバージルは「なるほど」と頷き、カップに残っていた紅茶を喉に流し込んでから告げた。

 

「帰れ」

「なんでよぉおおおおっ!」

 

 無情な返しを受けたアクアは、バージルの傍に寄って彼の肩を揺する。

 このまま放置してたら鬱陶しいので、拳骨で沈めようかと考えていた時、タナリスが前に出てきた。

 

「話だけでも聞いてあげたら? ゆんゆんと魔剣M君を連れてきた理由も知りたいし」

「ミツルギです」

 

 彼女の言葉を聞いて、バージルは二人に視線を向ける。目が合った二人は、話を聞いてほしいと伝えるように頷いた。

 

「……さっさと話せ。内容次第では返答を変えてやってもいい」

「ホント!? ちゃんと聞いたからね! 後で言ってなかったなんて言い訳は無しよ!」

 

 引き受けるとは言っていない筈だが、アクアは声を明るくしてバージルの肩から手を離す。

 

「で、具体的にアクア祭ではどんなことをするつもりなんだい?」

「お祭りなんだから盛り上がらないと! 美味しいお酒やおつまみがある屋台を並べて、あとはそうね……射的や金魚すくいとか、お祭りならではの遊びができるところも欲しいわ!」

「なるほどなるほど。でもそれだけだったら、バージルが協力する必要無さそうじゃない?」

「いいえ、本題はここからよ。お兄ちゃんには、アクア祭のメインイベントを手伝ってもらいたいの」

 

 アクアは迂回し、バージルから机を挟んだ対面の位置へ移動すると、自身を見つめるタナリス達を一瞥し──。

 

「ズバリ、舞台劇よ!」

 

 声高らかに、アクア祭の一大イベントの内容を告げた。

 

「女神アクアが冒険者を率いて旅をして、悪しき魔王をブチのめす劇をするの! そこでお兄ちゃんには、私の仲間か魔王役を──」

「帰れ」

「なんでよぉおおおおっ!」

 

 当然、バージルの答えはNOであった。再度冷たくあしらわれたアクアは、机をバンバン叩いて抗議する。

 やはり聞くだけ無駄であった。今度こそ彼女を追い出すべくバージルが立ち上がろうとした時。

 

「師匠、僕からもよろしいでしょうか?」

 

 静観していたミツルギが突如前に出た。彼の声にアクアも手を止めて引き下がる。

 バージルは対面に立つ彼と、その後ろで様子を伺っているゆんゆんを見た。

 

「貴様等は既にオファーを受けたか」

「はい。アクア様から話を聞いて……僕からもお願いします。師匠に舞台へ立って欲しいです」

「……貴様も馬鹿ではない。訳を話してみろ」

 

 アクアに頼まれたからという、単純な理由で彼等も引き受けたわけではないのであろう。バージルは椅子へ深く座り、ミツルギの言葉を待つ。

 

「ねぇお兄ちゃん、今遠回しに私のこと馬鹿って言わなかった?」

 

 横からアクアの小言が聞こえるもバージルは無視。静かにミツルギの言葉を待つ。

 ネヴァンやぐり帝も見守る中、ミツルギはバージルを舞台劇へ勧誘する理由を告げた。

 

「僕とゆんゆんは、女神様と共に旅をする冒険者の役。そして師匠には魔王役を担っていただきたいんです。そうすることで僕等と師匠は──舞台上で敵同士になれる」

「……剣を交える口実ができる、ということか」

 

 ミツルギの目的は、バージルとの再戦であった。ゆんゆんも彼の提案に乗り、同行していたのであろう。

 

「それに、僕等の力を街の住民へ示すことで、魔王軍襲来や悪魔の出現に対する不安を拭うことができる。だからお願いします。僕達と一緒に、舞台へ立ってください」

「わ、私からもお願いします。先生から授かった力で……先生と、戦いたいです」

 

 舞台上で戦う意味も付け加え、ミツルギは頭を下げる。さらにゆんゆんも前に出て、戦う意思を示してきた。

 弟子二人からの申し出を受けたバージルはしばし沈黙を見せると、横にいたアクアへ応えた。

 

「今年だけは付き合ってやる」

「ホント!? ホントにホント!?」

「二度も言わせるな。ただし、舞台劇ではある程度好きにさせてもらおう」

「なんでもいいわ! お兄ちゃんが手伝ってくれるなら百人力よ! これで街の女性人気はこっちのものだわ!」

 

 ミツルギは王都で黒騎士として剣を交えた以来。ゆんゆんとは授業の一環で戦うことはあったが、使い魔の力を得てからはまだ戦っていない。

 ゆんゆんがどのように使い魔を使役するのか、ミツルギがどこまで剣を磨いたか。バージルは少し興味が湧いたのだ。

 バージルの勧誘に成功したアクアはガッツポーズを取る。これで話はまとまったかと思われたが、そこへタナリスが待ったをかけた。

 

「オファーが無事決まったのはいいけど、そもそもどうやって開催するつもりだい? タダでお祭り開けるわけじゃないんだし、結構なお金が必要でしょ?」

 

 舞台劇以前に、アクア祭を開催できるのか。彼女にそれだけの貯蓄があるとは思えない。逆にたんまり貯めていそうなカズマの協力は得られない。

 案の定、アクアはタナリスからの問いで固まり、どうしたものかと頭を悩ませている。と、ゆんゆんがおもむろに手を上げて発言した。

 

「アクシズ教から出してもらう……ってことはできないんですか?」

「うーん……かわいい子供達から巻き上げるようで心苦しいけど、今はそれしかないわね。私から聞いてみるわ」

「オーケー。なら僕はそのテイで商店街の会長さんに伝えておくよ。商店街はエリス祭に全面協力してるって話だけど、交渉次第じゃこっちにも少し出してくれるかもしれないし」

「ありがとタナリス。ていうかアンタ、そんな人と話通せるのね」

「バイト戦士を舐めてもらっちゃ困るよ。商店街にある店はほとんど網羅したさ」

 

 タナリスは胸を張って言葉を返す。教団に加えて商店街も援助してくれるなら、祭りの開催は問題ないであろう。

 話がまとまったところでアクアはツカツカと歩き出し、元気よく扉を開けてからこちらに振り返った。

 

「それじゃあ早速、アクシズ教の子に相談よ!」

 

 

*********************************

 

 

 場所は移り、アクセルの街にひっそりと建てられた木製の小さな教会。

 

「あぁ女神アクア様! 私のいるアクセル支部に足を運んでくださるだなんて、なんと私は幸せ者なのでしょうか……!」

 

 そこは、アクシズ教の支部であった。住人であるアクセルの街担当プリーストことセシリーは、突然の女神来訪に膝をついて感涙する。

 誠心な信徒を前に満足げなアクア。その後ろで、ミツルギは苦い顔を見せていた。

 

「まさか彼女がアクセルの街に来ていたとは……」

「えっ? ミツルギさん、セシリーさんに会ったことあるんですか?」

「随分前だけど、アルカンレティアで回復魔法を使える仲間を探していた時に声を掛けられたと思ったら、一方的に彼女の中で話が進んで、最後は全力で街中を逃げ回る羽目に……」

「あぁー……」

 

 尋ねてきた隣のゆんゆんにそう答えると、彼女は色々と察したのか苦笑いを浮かべた。

 アクア達が教会を訪れている傍らで、タナリスは商店街へ。それにバージル、ネヴァン、ぐり帝がついて行った。教会は苦手なのと、アクシズ教徒となるべく関わりたくないからだという。バージルにいたっては後者が主な理由であろう。

 そして、バージルの家ではアクアがいるため顔を出さなかったベルディアは、同じく教会が苦手ということで、彼の中でじっと息を潜めていた。

 

 再びセシリーから執拗に絡まれるのではとミツルギは警戒していたが、今はアクアしか見えておらず、こちらに気付く様子もない。

 アクアは興奮する信徒を収めると、ここへ来た経緯とセシリーへの相談内容を伝えた。

 

「勿論協力しますとも! このセシリー、アクア様の為に身を粉にして祭りを盛り上げてみせましょう! ゼスタ様にも開催資金を出してらうよう伝えておきます!」

 

 セシリーは二つ返事で承諾した。むしろこれで断られた日には、アクアの女神としての威厳が地に沈んでいたであろう。

 ゼスタという名前に聞き覚えがなかったミツルギはゆんゆんに尋ねると、アクシズ教団の最高責任者だという。バージルとも一戦交えたことがあるそうで、ミツルギは驚きながらもその男の実力に興味を持った。

 一方でスムーズに話を進めたアクアは、ミツルギ達へ振り返る。

 

「それじゃあタナリス達と合流しましょ。私達も祭りを仕切ってる街の偉い人へ挨拶しに行くのよ!」

「アクア様、その前に少しミツルギさんをお借りしてもよろしいでしょうか?」

「えっ」

 

 とここでセシリーから思わぬ申し出が。急に名前を出されてミツルギはたまらず声が出る。

 

「いいわよー。じゃあ私とゆんゆんは先に商店街へ行ってるから」

「ちょっ」

 

 更にはアクアも軽く承諾した。ミツルギの意見を聞こうともせず、アクアは教会の外へ歩き出す。

 

「……ミツルギさん、ごめんなさい!」

「まっ」

 

 ゆんゆんも、絞り出した声で謝りつつアクアの後を追った。ミツルギは呼び止めようとしたが、ゆんゆんに声は届かず。

 教会に残されたのはミツルギとセシリーのみ。ミツルギは嫌な予感を感じながら、恐る恐る振り返る。

 こちらを見つめていたセシリーは身体の前で両手を組むと、聖職者らしい振る舞いで彼に告げた。

 

「勇者ミツルギ様。貴方がこの教会へ訪れる日を、私はずっとお待ちしておりました」

 

 優しい声色と眼差し。初めて会った時とはまるで違ったプリースト然とした姿に、身構えていたミツルギは面食らう。

 

「貴方に見せたいものがあります。私についてきてください」

 

 セシリーはそう言って、教会の奥へ進む。警戒はしているが、彼女の話すモノが気になったミツルギは後を追った。

 

『本当についていっていいのか? アクシズ教に入信しないと出られない部屋なんてのに閉じ込められるかもしれんぞ?』

 

 ミツルギの中に隠れていたベルディアも警告してくる。しかしミツルギは足を止めず、黙ってセシリーについていった。

 小さい教会故にさほど移動に時間はかからず、彼等が訪れたのは、教会の裏にある小さな庭。

 その片隅、果実がなる太い木の前にセシリーは立つと、根元を手で指してミツルギに見せた。

 視界に入ってきたのは、石造りの台座に刺さった一本の剣。それを見て、ミツルギは目を疑った。

 

「これは、魔剣グラム! どうしてここに!?」

 

 なんとその剣は、かつて自分が女神アクアから授かった魔剣であった。

 カズマに奪われ売り払われ、魔剣グラムは行方知れずとなった。新たな魔剣を得てからの旅でも、様々な街を訪れるついでに探していたが、魔剣グラムの情報は得られなかった。

 それが何故ここにあるのか。セシリーに尋ねると、彼女は魔剣グラムを我が子のように見つめて話した。

 

「私が中庭を掃除していた時、偶然この場に落ちていたのを見つけました。これがあの勇者ミツルギ様の魔剣だと知った時、私は悟りました。己の使命を果たす時だと」

「使命?」

 

 どうして売り払われた筈の魔剣がアクシズ教の教会に落ちていたのか、という疑問も頭によぎったが、彼女の言う使命が気になりミツルギは聞き返す。

 セシリーは視線を魔剣から外し、木漏れ日に輝く紺碧の瞳をこちらに向けた。

 

「女神アクア様の加護を受けし剣を護る聖職者……それが私だったのです」

「魔剣を護る?」

「はい。悪しき者の手に魔剣が渡らないよう、この教会に封印して護っておりました。いつか貴方が運命に導かれ、魔剣のもとへ辿り着くその日まで……」

 

 セシリーの話を聞いて、ミツルギは魔剣グラムに視線を移す。

 魔剣はあの頃と変わらぬ輝きを保っており、教会に封印されていたからか、女神様と同じ聖なる魔力も宿っているように感じられた。

 

「さぁミツルギ様、今こそ魔剣を抜く時です。貴方の使命──魔王を討ち滅ぼす為に!」

 

 声高らかにセシリーは告げる。ミツルギは誘われるように魔剣のもとへ。

 女神アクアから魔剣グラムを託された時、魔王を必ず倒すと誓った。たとえ女神本人が忘れていようと、ミツルギは約束を破るつもりなどない。

 ミツルギは両手で魔剣の柄を握る。刹那──魔剣はさらに光を帯び、封印されし魔力を解き放った。

 

「……ッ!」

 

 手のひらから感じる魔力にミツルギは圧倒される。それと同時に彼は思った。

 自分は──なんて恐ろしい魔剣を授かっていたのだろうと。

 

 異世界へと舞い降りて様々なモンスターを倒した時も、強い魔剣だと感じたが、恐ろしいとは思わなかった。

 それから魔剣を一度手放し、新たな剣を授かり、一から剣を学んだ今、改めて魔剣グラムを手にしたことでその強大さを理解し──彼は畏怖を覚えた。

 やがてミツルギは──抜こうとした魔剣から手を離した。

 

「……まだだ。今の僕に、魔剣グラムを手にする資格はない」

「へっ?」

 

 ミツルギは知らぬうちに流れていた額の汗を拭う。一方で彼の答えを聞いたセシリーは、何故か焦った様子でミツルギに詰め寄った。

 

「何を言っているのですかミツルギ様。魔剣グラムは元々貴方のもの。貴方が抜かずして誰が抜くというのです。さぁ早く抜いて。そして私を養っ……ゴホン、私の使命も果たしてください」

「魔剣グラムは強大だ。僕が振れば、かの強大なエンシェントドラゴンですら容易く倒せてしまうほどに。だからこそ、弱いままの僕が握ってしまえば再び力に溺れてしまう。僕はもっと強くならないといけない」

 

 護り手としては悪しき者へ渡ってしまう前に授けたいのであろう。しかしミツルギは断り、セシリーに向き合う。

 

「セシリーさん。僕の勝手な思いで貴方に迷惑をかけてしまうことをお詫びします。どうかこの魔剣グラムを、もうしばらくここで護っていてください。一人前の剣士になったら、必ず戻ってきます」

 

 ミツルギはセシリーの右手を取ると、両手で包むように握り、彼女の目を真っ直ぐ見つめて誓った。

 セシリーの目は陽に照らされ、潤いと輝きを見せる。やがて彼女は空いていた手をミツルギの手に優しく置いた。

 

「それはつまり合意ということでよろしいですね?」

「えっ?」

 

 返ってきたのは思わぬ言葉。ミツルギはどう返せばいいのかわからず戸惑っていたが、セシリーは構わず話を続けた。

 

「因みに帰って来るのはいつになりますか? 明日? それとも来週? 私としては今晩でも全然構いませんが」

「い、いや、そんなにすぐは難しいというか、それができたら苦労はしないというか──」

「つまり今は未来のために準備中だと。そうですかそうですか。でしたらこのセシリー、いつまでも待ちますとも。ただ、早めに来てくれたらお姉さんは嬉しいなって」

「あの、いったいどういう──」

「でも口約束だけじゃ不安だから、誓約書を残しておきましょう。ちょっと待っててね」

 

 セシリーはスルリとミツルギの手から右手を抜くと、駆け足で教会の中へ。

 少しして、セシリーは一枚の紙と羽ペンを持って戻ってきた。彼女はそれらをミツルギへ差し出す。

 

「それじゃあこの紙に貴方の名前を書いて頂戴」

「は、はぁ……」

 

 何故か押しの強いセシリーを前に、ミツルギは困惑しながらも紙とペンを受け取る。

 そこまでしなくても約束は守るのにと思いながら、名前を書こうとした時だった。

 

『待てミツルギ! 最後の文章をよく見ろ!』

 

 脳内にベルディアの呼び止める声が響いた。驚きながらもミツルギは警告通り用紙に目を通す。

 『必ずこの地に戻り、魔剣グラムを手にすることを誓います』という、一見何の変哲もない誓約書の文であったが──その下に小さく『アクシズ教に入信します』と記されていた。

 

「……セシリーさん、これ入信書では?」

「えっ? あらやだ私ったら間違えちゃったわ! てへっ!」

 

 セシリーはわざとらしく頭をコツンと叩くと、ミツルギに渡した紙を取り、懐から出した別の紙と交換した。

 最後の文章を見たが、入信の件は書かれていない。危うくアクシズ教に入信するところだったと、ベルディアに感謝しながら名前を書く。

 

「フフフ……書きましたね」

「えっ? どうかしましたか?」

「いえいえ何でもありません。ではこの誓約書は私が厳重に保管しておきますので」

「心配しなくても、僕は約束を破ったりなどしません。すぐに……とは言えませんが、必ずこの場所へ戻ってきますから」

「本当ですね? 信じてますよ? 忘れたなんて言わせませんからね。まぁその為の誓約書なんですけど」

「あの……僕ってそんなに信用のない男に見えますか?」

「そんなことはありませんとも。さぁミツルギさん、早くアクア様のもとへ向かいましょう」

 

 誓約書を受け取ったセシリーは、ミツルギの背中を押して教会の外へと急かす。

 彼女の一変した様子に違和感を覚えるミツルギであったが、女神様をこれ以上待たせるわけにもいかないため、気にせず教会を後にした。

 

 だが、ミツルギは知らない。彼は既に、セシリーの仕掛けた巧妙な罠にかかっていたことを。

 

「(ついに……ついに手に入れたわ! できれば婚姻届に書かせたかったけど、偽造が難しかったから誓約書にして正解だったわね!)」

 

 一枚目の誓約書に見せかけた入信書で油断したミツルギは気づけなかった。二枚目の誓約書にも細工が施されていたことを。

 二枚の紙が重なった複写式であり、裏側の紙に記された最後の一文だけが『必ずこの地に戻り、セシリーを妻として迎えることを誓います』と変わっていたことを。

 

「(アクア様! 私、幸せになります!)」

 

 ミツルギは知る由もなかった。セシリーの脳内で、祝福を奏でる鐘の音が絶え間なく鳴り響いていたことを。

 

 

*********************************

 

 

 ミツルギとセシリーがまだ教会にいる頃。アクアとゆんゆんは商店街でタナリス達を探していた。

 しかし、彼女の姿は見当たらず。そこで商店街の人々に見ていないか尋ねると、タナリスらしき人物が噴水広場に向かったとの目撃情報を得た。

 交渉はもう終わったのだろうか。まだミツルギとセシリーは合流していないが、アクアとゆんゆんは急いで噴水広場へ。

 広場のベンチには寛いでいる住民がちらほらいて、彼等の中に黒髪の少女──タナリスが寛いでいるのを発見した。

 その隣にはベンチ上で座しているぐり帝と、同じくベンチに座って串焼きを食べる茶髪の男──カズマがいた。

 どうしてカズマと一緒に。アクアは疑問と不満を抱きながら彼等へ駆け寄る。と、アクアに気付いたタナリスがこちらに手を振ってきた。

 

「やぁアクア。アクシズ教とは話がついたかい?」

「オールオッケーよ。そっちこそ会長さんとの交渉はどうなったの? というか、なんで童貞ヒキニート背徳裏切り者カズマさんと一緒にいるのよ?」

「本人が目の前で聞いてるのによくそこまで悪口が言えるな」

「ニワトリの前で堂々と焼き鳥食えるテメェの神経もどうかと思うぜ。いや、俺は悪魔だから気にしねェけどよ?」

 

 ツッコむカズマに白い目で彼を見るぐり帝。と、辺りを確認していたゆんゆんがタナリスへ尋ねた。

 

「先生とネヴァンさんはどこに行ったの?」

「事が済んだら先に家へ帰ったよ。そっちこそ、一緒にいた魔剣の勇者君はどうしたんだい?」

「セシリーさんがミツルギさんに用事があったみたいで、私達だけ先に来て……あっ、セシリーさんっていうのは、アクセルの街にいるアクシズ教のプリーストで──」

「あぁセシリーさんね。知ってるよ。タリス教の布教を始めてた頃、一応アクシズ教にも挨拶したほうがいいかと思って会いにいった時以来かな」

「えぇっ!? だ、大丈夫だったの!? セシリーさんに変なことされなかった!?」

「別に何もなかったよ。最初は鼻息荒く迫られたけど、別の宗派なのと年上だって知ったら向こうから下がってくれたし」

 

 セシリーとの出会いを笑って話すタナリス。バージル等の行方も知れたところで、アクアは本題へと入った。

 

「それよりも、アンタの話からするに……もう交渉は済んだのね?」

 

 事が済んだと彼女は言っていた。どうやら仕事をサボっているわけではなかったようで、タナリスはベンチに座ったままアクアへ結果を報告した。

 

「結論から言うと、開催は認めてくれたよ。ただ、僕が会長へ会いに来た時にはもう既に話がついていたんだ。カズマ君のおかげでね」

「えっ?」

 

 アクアは驚き、意外な行動を取ったカズマを見る。カズマは焼鳥を食べ終えて綺麗になった串の先端をアクアへ向けて答えた。

 

「先の事を何も考えず行動するお前のことだから、開催前に詰むだろうと思って俺が話をつけておいてやったんだよ。ま、交渉役がタナリスならその必要はなかったかもな」

「……ふ、フンッ! カズマさんったらいいのかしら? 敵に塩を送るような真似をして。アクシズ教のお祭りが過去最大級の盛り上がりを見せて、来年からはアクシズ教単独でってお願いされても知らないわよ?」

「そんな可能性は微塵もないから安心しろ」

 

 なんだかんだで協力してくれたカズマを嬉しく思ったが、今の彼は敵だ。アクアは腕を組み、ライバル心を丸出しにして睨みつける。

 

「そう言っていられるのも今のうちよ! ほらタナリス、休憩してないでお兄ちゃんの家に戻って作戦会議よ!」

「あぁそうそう。カズマにはもう話したけど、僕はエリス側として参加するから」

「……はっ?」

 

 タナリスの口から聞き捨てならない言葉が聞こえ、アクアの思考が止まった。

 彼女はしばらくタナリスを見つめる。しかしタナリスは撤回する様子もなく、固まるアクアを前に首を傾げていた。

 

「ちょっと待ちなさいよ! アンタまで裏切る気!?」

「僕はツテがあったから交渉を手伝っただけで、全面的に協力するだなんて言ってないよ。そっちは人手が多いみたいだし」

 

 憤るアクアを余所に、タナリスは平然と脱退の意を示す。元から入ったつもりはなかったようだが。

 と、タナリスは何かに気付いたようにアクアから視線を外すと、アクアの後ろにいる人物へ向けて笑顔を見せた。

 

「そんな悲しい顔しなくても大丈夫だよ、ゆんゆん。準備は一緒にできないけど、お祭りは一緒に回ろう」

「えっ!? い、いいの!?」

「勿論。友達同士の約束さ。当日はいっぱい楽しもうね」

「と、友だ……! うん! 私も楽しみにしてる!」

 

 どうやらゆんゆんの様子が気がかりだったようで、二人はお祭りでの再会を約束した。

 ゆんゆんはよほど嬉しかったのか「友達……友達との約束……」と、綻んだ顔で呟いている。

 

「だったら私との友情は!? 天界にいた頃、私ともいっぱい遊んだでしょ! この世界でも、バイトが大変そうだったアンタを手伝ってあげたじゃない!」

「確かに友達だけど、僕はライバルだとも思ってるよ。ライバルは敵対する運命にあるのさ。それとバイトの件は、手っ取り早く稼げる仕事を紹介してって君が頼んできたんじゃないか。最終的に君のせいで僕のバイト代までお店の損害賠償へ回すハメになったけど」

「お前バイトで何やらかしたんだよ」

 

 横で聞いていたカズマの、呆れた視線がアクアへ刺さる。対してアクアは腕を震わせ、二人を仇のように睨みつける。

 やがて彼女は、ベンチに座っていたぐり帝を勢いよく持ち上げてカズマ達から引き離した。

 

「もういい! タナリスもカズマさんも、私とお兄ちゃんを敵に回したことを後悔するがいいわ! 後で謝ったって許さないんだから!」

「オイ待て! 俺はついていくなんて一言も言ってネェ!」

「何言ってるのよ! 貴方は私、女神アクアの使いである高貴なドラゴンなんだから、私と一緒に行く運命なの! それにカズマさんと一緒にいたら、いつ串に刺されて焼かれてもおかしくないわ!」

「フッザケンナ! 焼き鳥になって食われンのも嫌だが、テメェと運命を共にするなんざまっぴらゴメンだ! さっさと離しやがれ……チクショウ! このババァ無駄に力が強くて逃げられねぇ!」

「ええっと……ま、またねタナリスちゃん!」

 

 暴れるぐり帝を抑えながら、アクアは捨て台詞を吐いて駆け出した。ゆんゆんも慌ててアクアを追いかける。

 絶対に見返してみせる。彼等への怒りを胸に秘め、アクアはバージルの家へと向かうべく商店街を後にした。

 

 

*********************************

 

 

「……で、本当によかったのか? こっち側について」

 

 アクアがカズマ達の前から去っていった後。カズマは串を傍にあったゴミ箱に捨ててからタナリスに問う。

 

「こっちのほうが面白そうだったし。それに、アクアのことはバージルが見てくれているから、僕はエリスを見ておこうと思ってね」

「うん? どういうこと?」

「こっちの話さ。気にしないでいいよ」

 

 思わず聞き返したカズマであったが、タナリスは答えようとせず。何か事情ありのようだが、面倒事は避けたいのでわざわざ聞き直す必要もないであろう。

 それよりも気になった事──もとい、想定外の事態がひとつ。

 

「まさかバージルさんの勧誘に成功するとはな……」

「ほとんど魔剣君とゆんゆんの説得ありきだったけどね。アクアだけだったら、君の予想通り門前払いだったと思うよ」

 

 絶対に不可能だと思っていたバージルの参戦。アクアの前では平然を装っていた彼であったが、内心ではかなり仰天していた。

 タナリスから聞いた話では、メインイベントは女神アクアの英雄譚を綴った演劇──という名目での、バージル対ミツルギゆんゆんペアの演舞。盛り上がること間違いなしであろう。

 なれば、こちらも相応に盛り上がるイベントが求められる。カズマは空を見上げて思案するが、何一つ浮かばない。派手さだけならめぐみんの爆裂魔法はあるが、街の住民はとっくに見慣れてしまっているので新鮮味がない。

 

「とりあえず、クリスに相談するか」

 

 カズマはベンチから立ち上がり、固まっていた身体をぐっと伸ばす。

 アクア祭のことは彼女の耳にも入れておいたほうがいいと思い、ここにいないめぐみんにはクリスを探してギルドで待っているように伝えていた。

 図らずもお祭り対決になってしまったことを申し訳なく思いながら、カズマはギルドへ向かって歩き出した。

 

 

*********************************

 

 

 しばらくして、街のギルドにある酒場のテーブル席にて。

 

「つーわけでクリス、今年はアクシズ教と共同開催になったから。結果次第では来年アクシズ教単独になるかもしれないから頑張ろう」

「ごめん何言ってるか全然わからない」

 

 カズマから事の経緯を聞いたクリスは、混乱してますとばかりに頭を抱えた。

 酒場に着いたら既にめぐみんとクリスが待機しており、めぐみんはアクア祭のことを先に話してくれていたそうだが、まだ状況を飲み込みきれていなかったようだ。

 

「アクアとアクシズ教だけなら大丈夫かと思いましたが、まさかバージルを本当に引き入れるとは思いませんでした」

「おまけに魔剣の人もいるから、女性人気は全部持っていかれるだろうな。一応、タナリスはこっち側に来てくれたけど」

「出店を開くなら僕に任せて。数多のバイト経験で培った技を見せてあげるよ」

「ほほう、流石は漆黒のバイト戦士と呼ばれし者。その力が我らの光となるか、我が紅き瞳が見定めてやろう!」

 

 カズマの正面、力こぶを出すように細い腕を曲げてアピールするタナリスに、カズマの隣にいためぐみんは紅魔族のノリで返す。

 因みにネヴァンも向こう側についているのだが、絶賛家出中なのでめぐみんには黙っておいた。タナリスも気遣ってか、彼女のことは話していない。

 

「けど、向こうのメインイベントが結構盛り上がりそうなんだよな。クリス、何か良い案ない?」

「こっちは話を整理するのでいっぱいいっぱいなんだけど? だいたい、そういうの考えるのはカズマ君が得意じゃんか」

「それが中々思いつかなくて困ってるんだよ」

 

 頬付をついてカズマはため息を吐く。困ってるのはこっちなんだけどというクリスの視線からは目を反らし、はしゃいでいるめぐみんとタナリス越しに窓の外を見る。

 

「ようカズマ。なんか悩んでるなら相談に乗るぜ?」

 

 とその時、カズマを呼ぶ声が後ろから聞こえた。振り返ると、傍に立っていたのはくすんだ金髪の男、冒険者仲間のダストであった。更に彼の後ろには、お目付け役のリーンもいた。

 何をやるかは決まっていないが、人手は多いに越したことはない。カズマは二人にもお祭り対決のことを、勿論女神の正体は隠して話した。

 

「へぇー、面白そうね。手伝いが必要なら全然協力するよ」

「ダチが困ってるなら放っておけねぇ! 俺様も手を貸してやるぜ!」

 

 話を終えると、二人は快く引き受けてくれた。バージルやミツルギと比べれば小さな戦力だが、純粋な戦闘力は此度の対決には関係ない。

 あとはメインイベントの内容次第。カズマは目の前にあったお冷を呑んで喉を潤し、作戦会議を始めた。

 

「バージルさんとオチツルギが向こうにいるなら、女性人気は絶望的だ。となったら、こっちは男性人気を取るしかない」

「男性人気かぁ……」

 

 カズマの言葉を聞いて、ダストはこの場にいる女性陣を見る。

 視線がリーン、クリス、タナリス、めぐみんと移った後、ダストは険しい顔を見せた。

 

「……厳しい戦いになりそうだな」

「おい、今私達の何を見て判断したのか聞こうじゃないか」

「アタシも興味深いなー。いったい何を判断基準にしたんだろうね?」

「回答次第じゃ、また裏にゴミとして捨てられるかもしれないから覚悟して答えてね」

「すみませんでした」

 

 女性陣から殺意が混じった目で睨み返され、ダストは素早く土下座をした。タナリスだけはやれやれと呆れていたが。

 しかし、ダストの言いたいこともカズマは理解していた。決して口には出さないが、彼女達だけで男性人気をかっさらうのは難しい。

 男性の目を引くというなら、サキュバス達に協力してもらう手もあったが、女神エリスがいる手前、彼女等の存在をあまり公にはしたくない。

 それ以外で、男達の注目を集められるだけの、光り輝く存在がいれば──。

 

「……あっ」

 

 そんな時、不意にリーンが何かを思い出したように声を漏らした。

 皆の視線が集まる中、リーンはポケットを探ると中から一枚の紙を取り出し、机上に広げた。

 カズマは紙を覗き込み、そこに記された名前を口にした。

 

「アクセル……ハーツ?」

「ここへ来る前に街中でもらったんだけど、今日の午後から踊り子達がイベントをやるみたいなの」

「踊り子ってなんだ?」

「私も詳しくは知らないけど……若い女の子が歌って踊ってお客さんを楽しませる、とかなんとか? これ配ってた女の子はアクセルハーツの一員だって言ってたけど、結構可愛かったわよ」

 

 リーンは思い出しながら紙を受け取った経緯を話す。

 踊り子という職業はこの世界に来てカズマは初耳であった。が、何故か説明を聞いて既視感を覚えていた。

 カズマはリーンの説明をもとに、踊り子の姿を想像する。男達の前で若い女の子がステージに立ち、歌って踊る。

 その光景をカズマは知っていた。彼が元いた世界にも存在した、美貌と歌と踊りで男達を魅了し、熱狂させる。その者達を、偶像の意を込めてこう呼んだ。

 

「これだぁあああああっ!」

 

 ──アイドル、と。

 




このファンには漫画版もあるのでぜひ(ダイマ)
オリキャラではスコールさんが好きなんですがプレイアブル化いつになりますかね。
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