この素晴らしい世界で蒼い悪魔に力を!   作:(´・ω・`)

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第97話「このファンタスティックな者たちと邂逅を!」

 リーンが持ってきたチラシを頼りに、会場の小劇場へ足を運んだカズマ達。

 当日のチケットがまだ残っていたので、カズマ、めぐみん、タナリス、クリスの四人が購入して会場内へ。無一文だったダストにその権利はなく、不憫に思ったリーンも彼の付き添いとして外で待つことに。

 満席とまではいかないが、会場には彼女等のファンが集っており、それなりの人気を有しているのが伺えた。カズマ達はステージから遠い席に座り、開演を待つ。

 やがて会場の照明が落ち、しばらく経ってからステージ上にスポットライトが当たる。光の中に立っていたのは、三人の若い少女達。

 

「みんな! 今日は来てくれてありがとう!」

「久々にアクセルの街へ帰ってこれて、私達もテンション上がりまくりよ!」

「まずはボクたちの自己紹介から! 初めましての人は覚えてくれたら嬉しいな!」

 

 少女達は観客へ呼びかけた後、自分達のような初見の客にも配慮してか、順番に自己紹介を始めた。

 

「ボクのこと知りたーい? 教えろ教えろシエロちゃん!」

 

 最初に名乗ったのは緑を基調とする衣装を着た、小柄で優しげな印象を受ける金髪ショートの少女シエロ。

 

「見た目はクール! 中身はホット! リアでほっと一息ついてね!」

 

 次に照れが混じりながらも名乗った、長い黒髪に金色の髪留めを付け、青を基調とした衣装を着る少女リア。

 

「世界中の可愛いが大集合! 可愛さ1000パーセント、エーリカでーす!」

 

 最後に名乗ったのは衣装も髪色もピンクだらけな、自分の可愛さに絶対の自信が見えるあざといポーズを決めた、ツインテールの少女エーリカ。

 

「アクセル発の踊り子ユニット! アクセルハーツ!」

 

 三人は声を揃えてポーズを決める。初めましてのカズマ達は揃って口を開けていたが、既に何度も同じ挨拶を聞いてきたであろう者達から、待ってましたと歓喜の声がどっと湧いた。

 

「シエロちゃーん! 今日も可愛いよー!」

「リアさんマジ女神! 立っているだけで輝いて見える!」

「エーリカちゃんポーズ決まってる! 全身から可愛いオーラ溢れてるよ!」

 

 主に観客席の前列から熱烈なラブコールが送られる。世界は違えど、ファン特有のノリはどこも同じなんだなとカズマは思う。

 ステージ上の三人はファンに向けてひとしきり手を振った後、リアが会場全体へと声を掛けた。

 

「じゃあ始めるよ! まずはこの曲で盛り上がろう!『ブライトショー』!」

 

 合図と共に曲がかかり、ステージ上で三人が音楽に合わせて踊りながら歌う。さらに、前列のファンによる息ピッタリな合いの手で熱気が生まれ、カズマのように初めてショーを見る観客はアクセルハーツの歌と踊りに魅了されていた。

 

「へぇー、踊り子ってもっとお硬い感じだと思ってたけど、こんなに華やかなショーだったんだね。歌声も曲も素敵だなぁ」

「エンターテインメントってヤツだね。アクアの宴会芸とはまた違った路線で僕は好きだよ」

「むぅ……確かに派手さはありますが、私としてはもっと格好良さをアピールして欲しいですね」

 

 クリス達もアクセルハーツのショーに感銘を受けている。めぐみんだけは少し乗り切れていない様子であったが。

 一方でカズマは、彼女達のショーを見て確信する。予想していた通り、踊り子は日本でいうところのアイドルだと。

 人気もあり、エリス祭のメインイベントを任せても問題ないであろう。もし祭りを通して良好な関係を築けられたら、今後も協力してくれるかもしれない。

 アクセルハーツに目をつけたカズマは、アプローチの方法を考えながらも彼女達のショーを見守った。

 

 

*********************************

 

 

 アクセルハーツのショーは、歓声に包まれて終わりを迎えた。

 見終わったカズマは早速勧誘へと動き出す。が、男の自分が行けば彼女達から警戒され、最悪ファンから袋叩きにされる危険もあるので、アクセルハーツへの接触は日頃の宗教勧誘で慣れているタナリスに任せた。

 カズマは他のメンバーも連れて屋敷に戻る。他のイベントについても考えながら二階の広間で待っていると、さほど時間はかからずにタナリスが屋敷へ来た。

 

「カズマ、ご指名の子達を連れてきたよ。初めてなんだから優しくしてあげてね」

「いきなり誤解を生む言い方するんじゃねーよ! アクアと違って頼れる奴だなって褒めようとした俺の気持ちを返せ!」

 

 広間へ入るやいなや、唐突にぶち込んできたタナリスへカズマは慌てて訂正する。しかしタナリスは悪びれる様子もなく「入っていいよ」と、開きっぱなしの扉へ声を掛けた。

 タナリスの後に入ってきたのは、三人の美少女──先程までステージに立って観客を沸かせていた、アクセルハーツのメンバー本人であった。

 三人は広間を見渡したり、その場にいる面々を見たりと少し警戒している様子。おまけに先程のぶっこみのせいか、カズマは三人から酷く警戒されているように感じていた。

 まずは紳士的な対応を。カズマはコホンと咳払いし、ソファーから立ち上がって三人へ歩み寄った。

 

「初めまして。俺はこの街で冒険者をしている、佐藤和真だ」

「サトウカズマって……もしかしてあのサトウカズマ!?」

 

 名前を告げた途端、ピンク髪のツインテール少女ことエーリカが食い付いて前に出てきた。カズマはビクリと身体を跳ねさせながらも聞き返す。

 

「俺のこと知ってたのか?」

「知ってるも何も有名人じゃない! 魔王軍幹部や機動要塞デストロイヤーも倒したっていう凄腕冒険者だって、新聞で読んだわよ!」

 

 どうやら自分の名は想像以上に広まっていたようだ。踊り子に認知されるほど人気者になってしまったかと、カズマは優越感に浸る。

 一方で噂の冒険者を目の当たりにしたエーリカは、カズマの全身をじっくり観察し、少し唸ってから率直な感想を告げた。

 

「……想像よりパッとしないわね」

「はっ倒すぞ」

 

 紳士の面は秒で剥がれた。反射で出た彼の言葉にリアとシエロは驚き、後ろから慌ててクリスが口を塞いできた。

 無意識の内にエーリカへ向けて『スティール』を放とうと構えていた手を抑えられ、交渉する前に喧嘩してどうするのと注意されたところでカズマは我に返る。ダストも「兄弟を悪く言いやがって!」と突っかかりそうになったが、話がややこしくなるとリーンの鉄拳制裁であっさり沈められていた。

 クリスが手を離した後、気を取り直してカズマは彼女達にここへ連れてきた理由を告げた。近々開催されるエリス祭。そのメインイベントでアクセルハーツのショーを見せて欲しいと。

 

「私達のステージを、エリス祭のメインに……」

「今日のショーよりもっと大きな劇場を用意する。勿論費用は俺持ちだ」

「かわいい私達に目をつけるだなんていいセンスしてるわね! でも、ホントにそんなことできるの?」

「自分で言うのもなんだが金ならある。そしてお前達を連れてきたタナリスは、劇場でバイトしてたこともあるから話も通りやすい」

「タナリスちゃんって、ホントにいろんなところでバイトしてるのね」

 

 漆黒のバイト戦士の経歴にリーンが感心する傍ら、カズマは大きく一歩アクセルハーツへ歩み寄った。

 

「それだけじゃない。俺がお前達の人気を更に伸ばし、一流の踊り子となれるようプロデュースする」

「ボク達の人気を……?」

「あぁ。俺の故郷は踊り子文化が盛んだった。お前達より大人数で、しのぎを削り、選ばれた数人しか立てないステージで煌めく踊り子を何組も見てきた。彼女達がどうやってステージに立ったのか。その方法を知れば、きっとお前達は更に輝ける筈だ」

 

 カズマは何人もの少女達をアイドルへと花開かせてきた。といってもゲームの中でだが、日本のアイドル文化は理解している。特にプロデュース業に関しては。

 彼女達にとっても為になる知識の筈。反応を待っていると、真ん中に立つ長髪の少女リアが尋ねてきた。

 

「私達としてはステージを用意してくれるだけでもありがたいんだが、どうしてそこまでしてくれるんだ?」

 

 上手い話には裏があるもの。流石に警戒心はまだ解けておらず、即答とはいかなかった。

 ここで変に嘘を吐けば更に警戒される。なのでカズマは、彼女達をエリス祭ステージに立たせる本当の理由を告げた。エリス祭に対抗する形で開催されるアクア祭のこと。結果次第では来年からアクア祭に乗っ取られるかもしれないこと。

 アクア祭がメインイベントを予定しているため、こちらも盛り上がるイベントを用意する必要がある。その役をアクセルハーツに買ってほしいのだと。

 

「アクア祭より盛り上がる為には、さらなる煌めきが必要だ。お前達も、もっと高みを目指したくないか?」

 

 改めてカズマは三人へ交渉する。自分の持つ知識は、必ず彼女達の力になると。

 手を差し伸べるカズマを見て、シエロとエーリカは真ん中のリアへ相談し始めた。

 

「どうするリアちゃん? ステージに立てて今よりもっと素敵な踊り子になれるのなら、良い話だと思うけど……」

「そうかしら? プロデュースの話、私は詐欺師みたいで胡散臭そうに聞こえたんけど」

 

 どうやらリアがリーダー的役割のようで、二人はリアに顔を向けて相談する。エーリカによる詐欺師扱いが彼にはカチンときたものの、今度はグッと堪えた。

 やがて、こちらを見つめていたリアは一歩前に出るとカズマに告げた。

 

「サトウカズマ……だったな。答える前に、君と少し話がしたい」

 

 

*********************************

 

 

 屋敷から出て、少し離れた郊外地域。リアの申し出に従い、ここにいるのはカズマとリアのみ。

 危険だからとシエロとエーリカもついて来ようとしたが、リアは二人だけで話したいと言って彼女等を止めた。カズマもそれに応え、めぐみん達にも屋敷で待っているよう伝えておいた。

 カズマの先を歩いていたリアは、辺りを見渡してからカズマと向き合う。彼女の鋭い目で見つめられ、カズマは少し緊張する。

 思えば屋敷の時から、彼女から視線を感じていた。仲間の二人と比べて目つきが怖かったので、なるべく目を合わさないようにしていたのだが。

 彼女はどういう魂胆で二人きりにさせたのか。じっと言葉を待っていると、リアが先に口を開いた。

 

「カズマの言っていた踊り子が盛んな国……もしかしたら、日本という名前じゃないか?」

「……えっ?」

 

 リアからの問いに、カズマは耳を疑った。

 なぜ彼女が日本のことを知っているのか。内心動揺するカズマであったが、転生者の件は大っぴらにできないので、あくまで国の名前と受け取った風を取り繕って言葉を返した。

 

「あ、あぁー。確かそんな名前だったような、そうでもないような……」

「隠す必要はない。私の故郷も日本だからな」

「へっ?」

 

 束の間、リアからさらなる衝撃発言が飛び出した。カズマは真偽を問うようにリアをじっと見つめたが、相手は目を反らさず。嘘を言っている様子には見えない。

 おまけに、彼女の髪色はこの世界だと紅魔族以外では珍しい黒髪。外見の年齢は自分と同い年ぐらいであろう。以上から推察できるのは──。

 

「ということはリアも──」

「カズマと同じ、異世界転生した日本人だよ」

「マジか!? あれ? でもリアって名前は日本人っぽくないような……」

「この世界に来てから名前を変えたんだ。日本人特有の名前は、この世界じゃ珍しくて目立つみたいだから。まぁ、アイドル名みたいなものかな」

 

 魔剣の人に続く、同郷の異世界転生者であった。この告白には流石のカズマも驚きを隠せないでいた。

 

「カズマのことは新聞を通して話に聞いていたよ。私と同じ日本からの転生者が、歴史に名を残す勢いで活躍していると知って、私も一度でいいから会ってみたいと思ってたんだ」

「い、いやぁー。それほどでもないこともないかな?」

 

 同じ転生者と知ったからだろうか。先程よりもリアの目つきが柔らかく感じ、カズマの緊張もいつの間にかほぐれていた。彼女から称賛され、カズマの鼻が高くなる。

 

「カズマが私達に話したことも嘘じゃないとわかってる。踊り子──もといアイドルの文化は、私も目の当たりにしてきたからな」

「な、なら──!」

「けどその前に、頼みたいことがある」

 

 これで仲間に、と期待したがそうはいかず。それでもアクセルハーツ獲得まであと一歩なのは確実だ。カズマは「何でも言ってくれ」と豪語する。

 対するリアは、和らげになった筈の目つきを鋭くさせ、カズマに頼みの内容を伝えた。

 

「私と戦ってくれ。サトウカズマ」

「……はっ?」

 

 

*********************************

 

 

 郊外地区、便利屋デビルメイクライにて。

 

「ふぅ……ひと通り案は出せたかな」

 

 ソファーに座り作業をしていたミツルギはペンを机上に置き、固まっていた身体をほぐすように肩を開く。と、ミツルギの背からにゅるりとベルディアが出てきた。

 

『催し物だけでもいろいろと種類があるものだな。魔王城の祭りにも取り入れたいぐらいだ』

「へぇ、魔王軍も祭りなんてするんだね」

『主に魔王様の娘関連でな。事あるごとに祭りを開こうとするもんだから、殿下からは酷くウザがられていた』

「アハハ……魔王は娘さん思いのお父さんだったんだね」

『血は繋がっていないがな。そういえば俺も隠し芸を披露したら、ウィズからしばらく口聞いてもらえなくなったなぁ』

「……何をしたのかは聞かないでおくよ」

 

 懐かしむベルディアから目を離し、机上に置いたメモを眺める。箇条書きで羅列したのは、アクア祭のメインイベント以外の催し案であった。

 

 商店街もアクア祭へ出資してくれると話がついた後、アクア達は再びバージルの家へ集結。バージルは勝手にアジトにするなと文句をぶつけたが、もうひとつのアジト候補がアクシズ教の教会であったため、仕方なく招き入れた。

 タナリスがカズマ側へ移ってしまったのは痛手だが、アクアはめげず。早速準備へ取り掛かることにした。

 

 舞台劇は屋外ステージを借りることにし、アクアは劇で使う小物や背景セットの製作を。ゆんゆんは良い脚本家を連れてくると紅魔の里へ。セシリーはスタッフ確保のためアルカンレティアへ。バージルは協力してくれる知り合いを探しに行くと街中へ。ネヴァンとぐり帝は彼について行った。

 残ったミツルギは、舞台劇以外の催し物を考えておいてとアクアから命じられたため、仰せのままにと案出しに勤しんでいた。

 夏祭りや学園祭と、日本にいた頃の記憶を掘り起こして催し物をリストアップ。アクア曰く、これをセシリーに渡して、彼女が脚色を加えてから露店を出す流れだという。変なアレンジをされないか不安ではあったが、あのアクア様から直々に命を受けたのだ。彼は文句を言うつもりなど微塵もなかった。

 とはいえ全任せするのも心配なのは否定できない。中継役としてクレメアとフィオに協力を仰ごうかとミツルギは考える。

 

「皆は……まだ帰ってこなさそうだな」

 

 玄関扉を横目にミツルギはひとりごちる。今この家にいるのはミツルギとベルディアのみ。ミツルギなら変に荒らすことはないだろうとバージルから留守を任され、家の鍵も預かっていた。

 紅茶があるから好きに飲めと、彼から許諾を得ていたのをミツルギは思い出す。ひとまず休憩するかと立ち上がった時、家の外からこちらに近づく足音が聞こえてきた。

 誰か戻ってきたのだろうかと紅茶を準備しながら待っていると、扉をノックする音の後に聞こえてきたのは意外な人物の声であった。

 

「すんませーん! バージルさんいますかー! カズマですけどー!」

「……サトウカズマ?」

 

 彼の声を聞いてミツルギは訝しむ。バージルがアクア側にいるのは彼も知っていると聞いていたが、また勧誘に来たのであろうか。

 ミツルギは紅茶を準備していた手を止めて玄関へ。扉を押し開けると、彼は怪訝な顔でカズマを出迎えた。

 

「いったい何の用だ。サトウカズマ」

「うおうビックリした。って、なんでお前がいるんだよ。ミツ……モツルギ」

「ミツルギだ! 今わざと変えただろう!? 合っていたのに何故途中で止めたんだ!」

 

 条件反射で声を荒げるミツルギ。おそらく何度注意しても、カズマは改めるつもりなどないであろう。

 ミツルギは取り乱した自分を取り繕うように咳払いをしてからカズマへ告げた。

 

「悪いけど師匠なら今出かけている。用があるならここで待つか?」

「いや、今回はお前に用があって来たんだ。バージルさんに場所を教えてもらおうと思ってたんだが、手間が省けた」

「君が僕に用事だと?」

 

 しかしどうやら彼の目的はミツルギだったようだ。その事実にミツルギは眉をひそめる。

 怪しい話を持ちかけてくるなら門前払いにしようと構えていたが、そこでミツルギはカズマの後方に、もう一人の来客がいることに気付いた。

 長い黒髪の冒険者風な装いを纏った女性。彼女の手には、鍛錬用で使う木製の剣と槍が。

 

「えっと……君は?」

「後で話すから、とりあえず外に出てくれるか?」

 

 気になって話しかけたが、間にいたカズマに遮られる。どうやら話の本題は彼女にあるようだ。

 ひとまず彼は外に出て鍵をかけ、バージルの家からすぐ近くの草原へ移動する。その道中で、カズマから黒髪の女性について説明を受けた。

 彼女はアクセルハーツという踊り子ユニットのメンバーで、名前はリア。カズマはアクセルハーツに協力を仰いだところ、彼女から意外な頼みを受けた。自分と手合わせをしてほしいと。

 数多の功績を残してきたカズマの力が知りたいのかと思われたが、主な理由は彼女の生まれた国に関連していた。

 

「驚いた……君も転生者だったんだね」

 

 リアは、カズマやミツルギと同じ日本からの転生者であった。カズマから話を聞いて、ミツルギは素直に驚く。

 転生特典を女神アクアから授かり、彼女は冒険者として魔王を倒す旅を続けていたのだが、魔王どころか幹部にすら辿り着けず。

 そんな中、リアは今の仲間であるエーリカとシエロに出会った。彼女達は冒険者兼踊り子として活動しており、新たなメンバーを探していたという。

 

「私も日本では踊り子──もとい、アイドルとして活動していた。喉の病気で挫折してしまったけど……転生して病気も治った今なら、またステージに立てるんじゃないか。そう思って、私は二人の誘いを受けたんだ」

「えっ!? お前アイドルだったのか!?」

「あぁ。といっても、大勢の中にいる一人でしかなかったけど。テレビに出るなんて夢のまた夢だった」

 

 元アイドルの話はカズマも初耳だったようで、ミツルギと共に驚いていた。

 踊り子界隈に疎かったミツルギはアクセルハーツの名前も知らなかった、どうやら熱心なファンもついてくるほどの人気グループになっているという。

 転生し、元の世界で道半ば諦めてしまった夢を彼女は叶えた。それだけで十分凄いことだとミツルギは思っていたのだが──。

 

「アクセルハーツとして活動できるのは嬉しいし、楽しい。でも……もともと私は、女神様から魔王討伐の使命を与えられてこの世界に来た。使命を忘れてこのまま生き続けていいのかと迷ってた。そんな時、私は巷で噂になっている冒険者の名前を知ったんだ。サトウカズマに、ミツルギキョウヤ……どちらも私と同じ日本人だった」

 

 リアは二人の顔を交互に見る。

 

「ホントに驚いたよ。同じ転生者で、勇者候補と謳われる冒険者が二人もいるなんて」

「まぁ最初は苦労したけどな。転生特典なんてあって無いようなものだったし」

「僕はその転生特典を、どこかの誰かさんに売り払われたけどね」

 

 小言を口にしたカズマへ、ミツルギは間髪入れず恨み言を声に出す。二人の会話に首を傾げるリアであったが、追求しようとはせず話を続けた。

 

「それで、もし二人に会うことができたら……戦ってみたいと思った。二人の実力を知ればきっと、私の迷いも晴れるんじゃないかって。だからカズマにも手合わせをお願いしたんだが──」

「プロデューサーの俺が踊り子を傷つけるわけにはいかない。よって、同じ転生者のお前が相手をしてやってくれ」

「君というヤツは本当に……」

 

 自分も女性を傷つける真似はしたくないのだがと、本人の許可なく押し付けてきたカズマにミツルギは呆れる。

 しかし、今回は彼女の意思もある。女性が困っているのなら放ってはおけない。

 

「いいよ。僕が相手になろう」

 

 カズマの代わりに、ミツルギはリアの申し出を受けた。返答を聞いたリアは、緊張した面持ちで木剣を差し出してきた。

 ミツルギは木剣を受け取り、リアと距離を取る。念のためカズマによる細工が施されていないか木剣を調べたが、問題はなし。軽く振って重さを確認した後、ミツルギは片手で構える。対するリアも木槍を両手で構え、残るカズマは巻き込まれないよう離れた。

 草原を揺らす風が二人の間に吹き抜ける。漂う沈黙を先に破ったのは──リアであった。

 

「たぁっ!」

 

 真っ直ぐ向かってきたリアは、ミツルギへ突きを繰り出す。それをミツルギは最小限の動きで避けた。

 彼女はそのまま突きを連発してきたが、速度はそれほどでもない。ミツルギは木剣を使うことなく避け続ける。

 

「くっ……!」

 

 顔に焦りの色を見せたリアは連続突きをやめ、一度下がって強く突き、時には薙いだりと攻撃のパターンを増やしてきた。

 が、ミツルギは難なく避け、たまに木剣で受け流す。防御に徹しながら、彼は相手の力を分析した。

 武器の扱いは悪くない。少なくとも魔剣頼りだった過去の自分よりずっとマシだ。冒険者として活動する分には問題ないであろう。

 が、魔王討伐を目指すのであれば話は別。半端な者が魔王軍との戦いに参加すれば、最悪命を落としかねない。

 

 そして、彼女は踊り子(アイドル)だ。彼女の歌と踊りに勇気づけられ、心を救われた者もいるであろう。勇者とはまた違った、人々の希望になりうる存在。であれば尚更、魔王軍との戦いに巻き込むわけにはいかない。

 女神の使命を全うするべきか、己の夢を選ぶか。彼女の迷いを晴らすべく、ミツルギは動いた。

 

「ハァッ!」

 

 リアのひと突きが飛んできたのを見計らい、ミツルギは木剣を振り上げた。相手の突きを受け、木と木がぶつかる乾いた音が響く。

 ミツルギは力を込めて剣を振り抜く。リアの攻撃を弾くと、彼女の手から木槍が離れて宙を舞った。

 彼女は弾かれた衝撃に耐えきれず体勢を崩して後ろに倒れる。尻もちをついたリアの前にミツルギは立つと、彼女の顔に木剣の先を向けた。

 

「……降参だ」

 

 瞬く間に決着。リアは目を伏せ、敗北を宣言した。ミツルギは木剣を下ろし、空いていた左手をリアへと差し伸べる。

 

「いい槍捌きだった。踊り子もやりながらここまで腕を磨けるなんて凄いよ」

「あはは……素直に褒め言葉として受け取っておくよ」

 

 リアが手を取ったのを見て、ミツルギは軽く引っ張って彼女の身体を起こす。

 

「どうだい? 君の迷いは晴れたかな?」

「あぁ、おかげでスッキリしたよ。勿論悔しさもあるけど、それ以上に嬉しいんだ。私と同じ転生者で、本気で魔王討伐を目指している人がいるって知れたから」

 

 無事悩みは解決したようで、リアの表情は会った時よりも数段晴れやかになっていた。

 

「決めたよ。私は、踊り子としてもっと高みを目指す。アクセルハーツの歌と踊りを世界中に広めて、皆を笑顔にしてみせる。だから……私の使命は、二人に預ける」

「うん。君の思いも背負って、いつか必ず魔王を倒してみせるよ」

 

 踊り子としての道を選んだ彼女の前で、ミツルギは魔王討伐を固く誓った。

 リアとの手合わせが終わったところで、離れていたカズマを見る。彼は視線に気づくとこちらに歩み寄り──酷く軽蔑した目を向けながら告げた。

 

「お前さ……ちょっとは手加減とかしてやれよ。ウチの大事な踊り子に傷でもついたらどうするんだ。この子のファンからボコボコにされても文句言えないぞ」

『女相手に力見せつけてドヤ顔させる為に貴様を鍛えたつもりはないんだが? 隙あらばカッコいいアピールして女の気を引こうとしおって。木剣に腹を刺されて死んでしまえ』

「えぇっ!?」

 

 さらにはベルディアもぬるっと出てきてカズマ側に回り援護射撃。思わぬ非難にミツルギは困惑する。

 一方で、突然現れたベルディアに驚愕したリア。ミツルギはすぐさま彼について簡単に説明し、敵ではないと知らせてリアを安心させる。

 ベルディアはリアの顔を見つめた後、近くにいたカズマを横目で見ながら彼女に尋ねた。

 

『ところで、カズマとは戦わなくて構わんのか? ミツルギに三度も勝った男の実力、気になるだろう?』

「急に何言ってんだ首なし幽霊。プロデューサーの俺が相手するわけにはいかないってさっきも話しただろ」

『だったらミツルギと戦えばいいではないか。奴もそろそろリベンジを果たしたいだろうからな』

「えっ」

 

 カズマはリアとの手合わせを拒んだかと思えば、ベルディアは先回りするようにミツルギとの再戦をセッティングした。思わぬ展開だったのか、カズマの表情が固まる。

 対するミツルギも急に再戦の機会が訪れて驚いていた。負けっぱなしだった彼にとっては願ってもないチャンス。逃す手はない──が。

 

「いや、遠慮するよ」

『あっ?』

 

 ミツルギはその誘いを断った。

 

「サトウカズマとはとことん相性が悪い。勝負する前に対策をしっかり練っておかないと痛い目を見そうだ」

 

 その場の流れで挑んでしまえば、以前と同じように虚を突く一手で敗北を喫するのは必至。三度も負ければ流石に学ばざるをえない。

 

「もうひとつ言うと、僕は先約を入れてるんだ。今はそっちに集中したい」

 

 カズマとの勝負で体力の消耗こそないであろうが、もし彼に負けて四連敗を叩きつけられれば、流石のミツルギも傷つくというもの。

 アクア祭のメインイベントとして、彼との決闘も控えている。ミツルギが断った理由を告げると、目の前で聞いていたカズマは少し考える素振りを見せてから口を開いた。

 

「じゃあ今回は不戦勝扱いで、俺の四連勝ってことでいいか?」

「いいわけないだろう! まったく君と言うヤツは……!」

 

 

*********************************

 

 

 挑発を受けて勝負を受けそうになったミツルギであるが、ぐっと堪えて勝負を断った。

 それに今はバージルから留守を預かっている身。早く戻っておかないと怒られそうなので、カズマ達と別れてミツルギはバージルの家へ。

 

『勝負せんでよかったのか? またとないチャンスだったであろう?』

 

 歩いていると、横で飛んでいたベルディアから尋ねられる。ミツルギは首を横に振って言葉を返した。

 

「いいんだ。勝負したくなった時は僕から言うよ。ベルディアも、せっかくお膳立てしてくれたのに断って悪かったね」

『いや、俺としてはあの女へ、カズマ相手にみっともない負け方をする貴様の無様な姿を見せてやりたかったのだが』

 

 どうやらベルディアはこちらを貶めるつもりでいたようだ。彼の目論見を知って、なおさら勝負を受けなくてよかったとミツルギは思う。

 カズマの戦法は、不意打ちからの先手必勝。ミツルギは三度もそれで不覚を取った。きっと他にも未知のスキルを持っているのであろう。

 真剣勝負には向かないが、格上の相手と勝負する上では理に適った戦い方だ。卑怯だとは思うが、否定するつもりはなかった。

 

 程なくして、彼等はバージルの家に到着。まだ誰も戻ってきていないようで、ミツルギはホッと息をつく。

 そのまま家に入ろうとした時、玄関前で突然眩い光が出現した。『テレポート』の光だ。誰かが戻ってきたのであろうか。

 やがて光が収まり、中から姿を現したのは二人の少女。一人は仲間のゆんゆん。もうひとりは、彼女と同じ黒髪で紅い目を持つ紅魔族。左目には眼帯が貼り付けられていた。

 こちらに気付いたゆんゆんは、首を傾げてミツルギに声を掛けた。

 

「ミツルギさん? 中で待っていたんじゃなかったんですか?」

「ちょっと野暮用で外に出ていたんだ。今帰ってきたところ。それよりも、隣にいる子は?」

「この人は私やめぐみんと同じ学校の子で、名前はむぐっ!?」

 

 ゆんゆんが連れてきた紅魔族を紹介しようとした時、その女性は突然ゆんゆんの口を両手で抑えた。

 ミツルギが驚く手前で、ゆんゆんは苦しそうにもがいて女性の腕をタップする。彼女はゆんゆんを開放するとこちらへ歩み寄ってきた。

 呼吸を整えるゆんゆんを余所に、彼女はポーズを決めながら声高らかに告げた。

 

「我が名はあるえ! 紅魔族随一の発育にして、やがて作家を目指す者!」

 

 紅魔族流の自己紹介。ゆんゆん以来久しく受けていなかったミツルギは面食らいながらも、あるえに言葉を返した。

 

「ど、どうも。僕はミツルギです。こっちで浮いているのはベルディア。僕の大事な仲間さ」

「ほう、君がかの有名な魔剣の勇者だね。君の冒険譚が、私の創生する新たな世界の礎となりうるか……実に興味深い」

「僕の話が貴女の役に立つなら、いつでもお話しますよ」

 

 小説のネタにしたい、という意味だと解釈したミツルギは笑顔で返事をする。

 と、あるえの後ろにいたゆんゆんがようやく息を整え終わったのか、ご立腹な様子で彼女に突っかかった。

 

「ちょっとあるえ! いきなりひどいじゃない! 私はあるえのことを紹介しようとしただけなのに!」

「ひどい? それはゆんゆんのほうじゃないかい? 紅魔族にとって初対面の相手に名乗りをあげるのは神聖な行為だと、親からも教わっててきただろう。君はそれを私から奪おうとしたんだ。紅魔族としてあるまじき愚行……神への冒涜といってもいい」

「えぇっ!? そんなに!?」

 

 あるえの方も文句を言いたかったようで、それでも族長を継ぎし者かとゆんゆんへ説教をし始める。ゆんゆんは助けてくれとアイサインを送ってくるが、あるえと初対面のミツルギにはどうしようもなく、苦笑いを浮かべて見守るのみ。

 

『……ミツルギよ、貴様に頼みがある』

「んっ?」

 

 そんな時、隣で静かにしていたベルディアが唐突に声を掛けてきた。どうしたのかと顔を向けると、ベルディアは真剣な眼差しであるえを見ていた。

 彼女にただならぬ素質でも感じたのであろうか。黙って彼の声に耳を傾けると、ベルディアはミツルギにしか聞こえない声量で頼みを伝えた。

 

『今から貴様の中に入って感覚を共有する。隙を見て、貴様はわざと転んで奴の胸元に顔を埋めろ。両手で鷲掴みにするのもアリだ。もしくは足元に倒れてスカートの中を覗け。ほら、そこに足を引っ掛けるのにちょうどよさそうな石ころがあるだろう。さぁやるんだ!』

「ゆんゆん、もしかしてこの人が君の言っていた脚本家候補かい?」

 

 ミツルギは何も聞かなかったことにした。耳元で騒ぐベルディアを無視し、ゆんゆんへ話を振る。助け舟と受け取ったゆんゆんは、そそくさとこちらへ駆け寄りながら返答した。

 

「は、はい! 舞台劇のことを話したら喜んで引き受けてくれました!」

「そうだったんだね。ありがとう、あるえさん」

「アクシズ教が主導のお祭りと聞いて二の足は踏んだが……女神のもとに集いし勇者達と、史上最強の魔王。その聖戦を彩る物語を紡げるんだ。作家を目指す者としても、紅魔族としても逃さない手はないさ。それに、魔剣の勇者やゆんゆんの先生に話を聞けるいい機会でもあったからね」

 

 どうやら脚本製作には乗り気のようで、あるえは意欲を示してくる。作家志望の彼女ならばきっと大丈夫であろう。

 話が一段落ついたところでミツルギは、バージル達が来るまで中で待機していようと二人に提案。自分が捻り出した催し物の案について相談もしておきたい。

 鍵を開けようとミツルギは前に出る。が、後ろから届いた声に引き止められた。

 

「ミ、ミツルギさん!」

 

 ゆんゆんに呼ばれ、ミツルギは振り返る。彼女の表情は、先程の和気あいあいとした雰囲気から変わり、真剣味を帯びているように感じた。ミツルギはあるえに「少し待っていてください」と断りを入れ、ゆんゆんの前へ。

 

「えっと、ミツルギさんにお願いしたいことがあって……その……迷惑じゃなければでいいんですけど……」

 

 呼び止めたもののまだ踏ん切りがつかないのか、胸の前で手をもじもじとさせている。そんなゆんゆんを、ミツルギは優しく見守る。

 やがてゆんゆんは意を決したのか深く息を吸い、ミツルギへと告げた。

 

「わ、私に稽古をつけてくれませんか!?」

「僕が……君に?」

 

 ゆんゆんの申し出は、ミツルギにとって意外なものであった。彼は思わず聞き返すと、ゆんゆんは稽古を頼んだ理由を語った。

 

「クロちゃんとの戦い方を模索しているけれど、理想の形にはまだ遠くて……だから、使い魔と一心同体に戦うミツルギさんから、何かヒントが得られるかもしれないと思って──」

『おい待て小娘。俺はコイツの使い魔になったつもりは一度もないぞ。勝手に勘違いするな』

「えっ? じゃあ……使い霊?」

『呼び方の問題ではないわ!』

 

 使い魔呼ばわりが不本意であったベルディアが声を上げ、ゆんゆんと問答を広げる中、ミツルギは独り考える。

 ベルディアの力を使うのは、決まって『ソウルリンク』発動時のみ。使役して戦わせるといった、一般的な使い魔の用途とは異なる。

 ゆんゆんもそれは理解している筈。それでも彼女は自分に頼んできたのだ。彼女が目指す理想像──その形をぼんやりと感じ取ったミツルギは、ゆんゆんへ答えを返した。

 

「いいよ。僕に教えられることがあるなら」

「ほ、ホントですか!?」

 

 返答を聞いて、ゆんゆんは驚き半分嬉しさ半分の声で聞き返す。どのみち、困っている女性を放ってはおけない性分故に最初から答えは決まっていた。

 

「それに僕も、本番に向けてゆんゆんと一緒に練習しておきたかったからね」

「練習って?」

「勿論、師匠をあっと驚かせるためのさ」

 

 魔王軍や悪魔との戦いに備えるためでもあるが、今の大きな理由は彼等の師であるバージルとの勝負だ。

 アクア祭の準備もしなければいけないため、稽古の時間は限られてる。その間に、彼女がどこまで理想形に近づけるか。そして、対バージルの戦術をどこまで身につけられるか。

 師に追いつくため、二人の弟子は共に高め合うことを道を選んだ。

 

「魔王を討つべく手を取り合った魔剣の勇者と紅魔族の次期族長。二人の行く末は、神のみぞ知る……ふむ、出だしはこんなところかな」

 

 その後ろで、あるえがメモを取り小説のネタにしているとはいざ知らず。

 

 

*********************************

 

 

 アクセルの街、商業区。その一角に、一際目立つ集団がいた。

 一人は蒼いコートに銀髪の男。この街ではもはや知らぬ者はいないであろう冒険者、バージル。そんな彼が横に侍らせていたのは、日傘を差した赤毛の少女ネヴァンと、大きめのニワトリことぐり帝。新しい家族かと聞かれたら、彼は酷く心外な顔で違うと答えるであろう。

 そして彼と対面して話しているのは、二人の獣人。先日バッタリ再会した、エイミーとミーアである。

 

 アクア祭の会議が終わった後「協力者に心当たりがある」と言って外に出たバージル。その協力者こそが彼女達である。

 二人を探すのにさほど時間はかからず、商業区にて再会。早速アクア祭について話した。悪名高いアクシズ教のお祭り故に警戒されると思われていたが──。

 

「まぁ、そんな素敵な催しがあるのね。勿論手伝わせてもらうわ」

「エリス祭も楽しそうだけど、エイミーがそう言うならミーアもこっちを手伝うぞ!」

 

 すんなりとエイミーは受け入れてくれた。微笑んで返答する彼女を見て、ミーアも参加の意を示す。

 あっけないほどに事が進んでしまったからか、横で聞いていたネヴァンが忠告も兼ねて二人へ尋ねた。

 

「こっちから誘っておいてなんだけど、本当にいいの? バージルから聞いたけど、アクシズ教って結構ヤバい連中らしいじゃない。そんなのが崇める女神様のお祭りよ?」

「うーん……でもバージルさんには以前助けてもらったから、恩返しがしたいの」

「助けた礼が巡り巡って自分に返ってきたってワケか! 良い子ちゃんしてて正解だったなぁバージル! 今年はサンタさんが来てくれるかもな! まだ夏だけどよ!」

「ミーアといったな。ちょうど腹が空いてきた頃だろう。そこの鶏を丸ごとくれてやる。味はイマイチだろうが腹は膨れる筈だ」

「ホントか!?」

「ダメに決まってンダロ! 本人の許可なくお食事OK出してんじゃネェ!」

 

 目を輝かせるミーアから瞬時に距離を取るぐり帝。エイミーも「ニワトリさんを食べたらダメよ」と、ミーアに優しく注意していた。

 ともあれ、アクア達へ宣言した通り協力者を得たバージル。二人を引き入れたのは面倒事を押し付ける人員を増やすためでもあるが、主な目的は別にある。

 それは、彼女達が育てている野菜。以前野菜料理を食べさせてもらったが、素材に甘みがあり、バージルの好みに合っていた。

 聞けば彼女達の里では、他にもスイカやメロンなども育てているという。野菜であれほどの甘みがあるのならば期待は持てる。

 そこでバージルは考えた。サムイドーの食材を使えば、より上質なスイーツを嗜めるのではないかと。

 今回のアクア祭では露店も開くという。試すにはいい機会だ。あとはスイーツを作る職人だが、既に候補は決まっている。今は女性の目があるため彼女のもとには行けないが。

 ひとまず彼女達を連れて一旦家に戻るかと、バージルが考えていた時。

 

「ズルいじゃないバージル。モフモフちゃんを独り占めだなんて」

 

 どこからともなく、彼を呼び止める女性の声が届いた。バージルは声の主に目をくれず、ため息を吐いてから言葉を返す。

 

「メリッサ……貴様も街にいたとはな」

「お宝とモフモフちゃんいるところに私あり、よ。話は聞かせてもらったわ。人手が足りないなら、私が手伝ってあげてもいいけど?」

「貴様はトレジャーハンターだろう。こんな所で油を売っている暇があれば、ギルドで宝の情報集めでもしていろ」

「私にとってお宝とモフモフちゃんは等価値なの。まぁ、どちらかひとつ選べと言われたら迷いなくモフモフちゃんを選ぶけど。お宝ならいつでも取りに行けるから」

 

 以前バージルと共に宝石探しを手伝った、トレジャーハンターのメリッサである。バージルは鬱陶しく思ったが、モフモフを前に彼女も退く気はないようだ。バージルは再びため息を吐く。

 

「……好きにしろ。ただし報酬は期待できんぞ」

「構わないわ。モフモフちゃんと一緒にいられるだけで満足だから」

 

 断り続けても食い下がりそうだと判断し、バージルはメリッサも協力者に引き入れることに。メリッサはウインクで返し、彼の傍にいたエイミーとミーアを見た。

 メリッサと目を合わせた二人は、さっとバージルの後ろへ隠れる。どちらも警戒した様子で、メリッサは安心させるように二人へ声を掛けた。

 

「私もアクア祭に協力するわ。ふたりとも、一緒に頑張りましょ?」

「ミーア達に何もしないか? 尻尾をくすぐったりしないか?」

「お野菜脱走の対価、あれだけされてもまだ足りなかったの……?」

「大丈夫よ。本当に何もしないから。本音を言えばモフりまくりたいけど、そこの彼からキツめのお仕置きをされそうだもの」

 

 ワンちゃんになって噛んでくれるのならちょっと嬉しいけど、とメリッサはバージルに視線を移す。当然、バージルにその気は一切無いのだが。

 しかし、メリッサにモフモフを触らせることは可能であった。バージルの狼形態でも、エイミーでもミーアでもないモフモフを。

 

「そんなに触りたければ、そこの鶏を貸してやる。少々口煩いが、毛並みはそれなりにある筈だ」

「……アッ?」

 

 立派な白い羽毛に包まれた鶏のぐり帝であった。ミーアから逃れてひと息ついていたぐり帝は、突然のご指名に首を傾げる。

 すると、話を聞いたメリッサはわかりやすく目を輝かせてぐり帝を見た。

 

「いいの!? 実はさっきからずーっと気になってたのよ! フワッフワでモッフモフなこのコ! お名前は何ていうの!?」

「本人はグリフォンと言っているが、今はぐり帝で通している。好きに呼べばいい」

「ぐり帝ちゃん! お名前もきゃわわでちゅねー! ねぇねぇ、ぎゅーってしてもいい? 嫌ならお羽を触らせてもらうだけでもいいから!」

「待て待てマテマテ!? なんでまたオレの許可なく話を進めてンだ! つーか誰だよこの女! バージルちゃんの新しいお友達か!? だとしても初対面でいきなりハグはゴメンだぜ!」

 

 狙いを定められたぐり帝はモフモフを拒絶。しかし今のメリッサには彼の真っ白なモフモフしか見えておらず。息を荒げ、手をワキワキさせてぐり帝へと近寄る。

 

「や、ヤベェ……コイツも頭がイカれてやがる! おいネヴァン! コイツに雷浴びせて大人しくさせてくれよ!」

「エイミー、貴方達のところにはトマトもあるのかしら?」

「えぇ、元気いっぱいのトマトがたくさんあるわよ」

「ふーん……ジュースにして飲んだら少しは足しになるかしら」

「おいテメェ! ナニ呑気に雑談なんてしてやがる!」

「うるさいわねトリ頭。雑談じゃなくて相談よ。雷だったらアンタの得意分野なんでしょ? 自分でなんとかしなさい」

「出せねぇ身体だから困ってンダロ! あぁクソッ! こんなことなら、カズマの所に行っておけば──って、あっちにはネコちゃんがいやがるんだったぜチクショウ! オレだけ転生してからハードモードなんだが!?」

 

 ちょむすけにネロア、ミーア、メリッサと狙われ、抵抗手段も逃げるかつっつくのみ。かつて大悪魔として君臨していたグリフォンは、この世界に転生させられた運命を嘆いた。

 

 

*********************************

 

 

 アクセル本土、カズマ達が住むアクセルの街からは遠く離れた地。曲がりくねった坂を登った先にある、崖の上に建てられた荘厳な城。

 その最上階にある玉座の間に、二人の男がいた。一人は上に跳ねた前髪が特徴的な、小柄でぽっちゃりとした体型の男。もう一人は玉座に腰かけている、紳士的な服装に身を包んだ薄い金髪の男。

 

「チャーリー、報告を」

「はっ。ダニエル様、現在アクセルハーツはアクセルの街にいるようです」

 

 チャーリーと呼ばれた小柄の男は片膝をつき、ダニエルへアクセルハーツの現在地を報告する。内容を聞いたダニエルは「そうですか」と、特に大きな反応は見せずに返した。

 

「……あまり驚かれないのですね」

「そろそろアクセルの街へ凱旋する頃だろうと思っていましたからね。イベントの情報は?」

「それはまだ何も……しかし、あの街では近々エリス祭が執り行われます。もしかしたらその日に予定しているかも……」

「なるほど。今度は大きなイベントになりそうですね」

「では、今から会場の下見に?」

「いいえ、我々は当日に行きましょう。下手に動いて、街に入れなくなってしまうのは困りますから」

 

 まだ動くべき時ではないと、ダニエルは言葉を返す。チャーリーも「かしこまりました」と、彼の判断に身を委ねた。

 頷いたダニエルは、胸元から一枚の紙を取り出す。それを見たチャーリーも、同じように紙を出して視線を落とす。

 紙の表面には、色付きの精巧な絵──魔導カメラで撮られた写真には、煌めく衣装に身を包んだ三人の女性。同じ写真を眺め、二人は声を震わせた。

 

「もし万が一、街中でリアと会ってしまえば……私は正気を保てる自信がありません」

「私もです。ダニエル様。道の曲がり角でシエロちゃんとバッタリ出会ったりでもしたら……あぁ! 想像するだけで胸が高まります!」

 

 彼等はアクセルハーツの熱烈なファンであった。特にダニエルはリアを推し、チャーリーはシエロを推している。

 

「待っていてください、リア! 私が迎えに行きますよ!」

「シエロちゃん! シエロちゃん! 私の可愛い可愛いシエロちゃん!」

 

 推しの写真を前に二人の男は誓った。必ずやこの計画を成功させ、推しを我が物にすると。

 




このファンキャラ勢揃い。原作だとリアは記憶喪失になっていましたが、こちらでは記憶が残ったままとなっております。
あの二人は出せないだろうなぁと思ってましたが、結果出すことになりました。
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