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時は遡り、アクア祭が開催される十日前のこと。
「共鳴のコツ?」
本日の舞台稽古および修行を終え、汗をタオルで拭いていたミツルギが聞き返してくる。質問の主──ゆんゆんは頷いた。
「ネロアちゃんと一体化する『黒獣化』は安定してきたけど、まだ力を引き出しきれていないと感じてて……ミツルギさんにコツを聞けたらなと……」
「僕からすれば、こんな短期間で安定できてるだけでも十分凄いと思うけど」
ミツルギは素直に称賛してくるが、ゆんゆんはまだ満足できていない。相手はあのバージルなのだ。技を磨くに越したことはない。
『黒獣化』──ネロアの力を身に纏い身体能力を大幅に上げるという、ミツルギの『ソウルリンク』に近い技。故に、ミツルギからさらなる進化へのヒントを得られないかとゆんゆんは考えていた。
尋ねられたミツルギは熟考した後、茂みに落ちていた適当な木の枝を拾うとその場にしゃがみ、地面に絵を描きだした。ゆんゆんも隣で膝を曲げて様子を眺める。彼が描いた横並びの二つの円は一部が重なり、その部分をミツルギは斜線で塗り潰す。
「二つの円が僕とベルディアの魂だとしよう。僕が『ソウルリンク』を使う時はこうして魂を重なり合わせるイメージで発動しているんだ。で、重なる部分が多ければ多いほど共鳴度が増して、もっと力を引き出せる」
「じゃあ最大限の力を引き出す時は、魂を完全に重ね合わせているんですか?」
「それが理想だけど、できない事情があってね。最大出力の『ソウルリンク
ミツルギは説明しながらもうひとつ図を描く。先に描いた図よりも円の重なる部分が多く、遠目で見れば一つの円と見紛うが、僅かに重なっていない部分が残っていた。
「完全に重なってしまったらどうなるのかは、僕にもわからない。ただベルディアから言われてるのは――」
『魂が再び二つに戻ることはできん。その後、どちらかが魂の主導権を握っているか、どちらの意識も消えて廃人と化すか、全く別の人格となるか。まぁ俺もその先は知らんのだが、不可逆なのは確かだ』
ミツルギの中からベルディアが飛び出し、話に入ってきた。魔王軍幹部時代に得た知識なのであろう。彼が現幽霊なのもあってか、ゆんゆんは妙な説得力を感じた。
「なら私も、ネロアちゃんと魂を通わせれば……」
「うーん……どうだろう。僕が思うに、ゆんゆんはまた違ったイメージの方がよさそうかな」
「違うイメージ、ですか?」
「ネロアは一見使い魔のようだけど、本質はゆんゆんが師匠から受け取った力そのもの。今はゆんゆんの中に存在していて、僕とベルディアのように全く別の存在ではない。魂と呼べるものはあるんだろうけど、それすらもゆんゆんの一部と化しているんじゃないかなって」
ネロアのことは『黒獣化』を会得するまでの修行間でミツルギに話していた。バージルから授かり、元はぐり帝ことグリフォンと同じ、バージルの記憶にある悪魔であったことも。
しかしミツルギは、ゆんゆんの『黒獣化』と自身の『ソウルリンク』は似て非なるものだと感じたようだ。
「だから、僕が考えるイメージは……」
ミツルギはまた別の箇所に絵を描く。円の数は同じく二つだが、円の中心にもうひとつの小さな円が描かれ、小さな円の周囲を斜線で塗った。
「力を纏い、君がネロアの核になる……っていうのはどうかな?」
そしてミツルギは中心にある円を枝で指し、ゆんゆんを見た。彼の指した円がゆんゆんであり、彼女を覆う円がネロアなのだろう。
「君にとっては使い魔であり大切な友達なんだろう。けど同時に、君自身の力でもあるんだ。魔法や武器と同じように、君の戦う術だと意識を持てば、さらにネロアの力を引き出せると思うんだ」
「魔法や武器と同じ、私の力……」
彼の解釈を聞き、ゆんゆんは自身の思い違いに気付かされた。
本来使い魔は、契約した主の命に従い転移して召喚される。しかしネロアは違う。ミツルギの解釈を借りるならば、内なる魔力の具現化だ。しかしその魔力は意思を持ち、使い魔のように振舞っている。学校で習った使い魔の知識が、ネロアへの認識を誤らせていたのかもしれない。
「そして君の会得した『黒獣化』が、師匠に一矢報いる鍵になる」
「えっ?」
話は進み、対バージル戦の策について。自身が勝敗を左右すると聞かされ、理解が及ばなかったゆんゆんはたまらず聞き返した。
「まず、師匠は初手で攻めてこない。相手をいなしながら実力を測り、動きを見切ったら隙を突いてくる。戦闘が長引けば長引くほどこっちが不利になるけど、逆に言えば師匠が油断している初手にこそ勝機はある。僕もそのパターンで何度も辛酸を舐めさせられた経験があるからね」
今は踊り子育成プロジェクトに熱心な男の顔が浮かんだのであろうか。ミツルギは苦い顔を浮かべながらも作戦を打ち明けた。
要は初見殺しの先手必勝。作戦と呼ぶには粗削りであるが、強者が弱者に足をすくわれるのは、決まってミツルギの話したパターンであるのも事実。
「君の『黒獣化』は、師匠にとって未知のスキルだ。不意を突くには持って来いだと僕は思う」
「でもネロアちゃんは元々先生の記憶にある悪魔だから、きっと先生はネロアちゃんの動きも知り尽くしているんじゃ……」
「だとしても、ネロアと一体になった君がどんな戦い方をするのかは知らない。それに戦うのは君だけじゃない。僕も『ソウルリンク
ミツルギは立ち上がり、共に行こうと手を差し伸べてきた。
バージルに『黒獣化』がどこまで通用するのかは見当もつかない。一方で、自身の力が『黒獣化』で大きく飛躍したことも実感していた。そして、上位悪魔にも渡り合っていたミツルギの『ソウルリンク』もある。
一人では届かずとも、二人ならば。ゆんゆんはその言葉を信じ、彼の手を取った。
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そして現在――『ソウルリンク
「ほう、少しはモノにしてきたようだな」
表情の変化こそ少なかったが、バージルもゆんゆんの進化には感心を示した様子。そしてミツルギの推測通り、仕掛けようとはしてこなかった。刀を構えたまま、こちらの出方を待っている。
ゆんゆんは深く呼吸をする。あれから『黒獣化』は更に安定した維持を保ち、武器の扱い方を学ぶように動きも学んだ。あとは今の自分に打てる手を、一気に絶え間なく打ち続けるのみ。
ゆんゆんは両手を舞台につけ、獣が如く構えを取る。そんな彼女を見た男性の観客達が一様にして前屈みになったのだが、戦いに全神経を集中させている彼女が知る由もなく。
「――いきます!」
ゆんゆんは両手両足で地を蹴った。と同時に右手へ、長く鋭い爪を顕現させ、バージルを狙う。
すれ違い様に一振り――が、これをバージルは素早く横に避けた。反撃に備えようとすぐさまバージルへ向き直った時、ゆんゆんの眼に映ったのは、バージルへ剣を振り下ろさんとするミツルギの姿。
「はぁっ!」
ミツルギの声が聞こえた刹那、鋭い金属音が響いた。ミツルギの魔剣はバージルの刀で容易く受け止められている。バージルがこちらに対し背を向けていることに気付いたゆんゆんは、足に力を込めて再度彼に向かって飛び出した。
漆黒の凶爪がバージルの背中を狙う。しかし寸でのところでバージルの姿が消えた。『エアトリック』――彼のお得意技だ。
『テレポート』と見紛う超高速移動。常人では視認することすら叶わないが『黒獣化』で身体能力を大幅に強化されたゆんゆんは、彼の動きを捉えていた。
咄嗟に振り返ると、先程までゆんゆんが立っていた場所にバージルはいた。彼は既に構えていた刀を一瞬抜くと、いくつもの斬撃が音速で飛んできた。ゆんゆんとミツルギは横に避けながら前進し、再びバージルに向かう。
先に辿り着いたミツルギは、両手に持つ魔剣と『ソードコントロール』によって宙を舞う聖剣で攻撃を与え続ける。一拍遅れてきたゆんゆんは爪に加え、尾を鞭のようにしならせてバージルを襲う。
圧倒的手数による集中攻撃。対するバージルは刀と鞘、加えて『ラウンドトリップ』で自立行動させる両刃剣でいなしてきた。
絶え間ない武器のかち合う音と吹き荒れる突風。動きは見えずとも彼等の戦闘能力を肌で感じていた観客は、一様にして口を開けたまま見守っていた。
「魔王との決戦が遂に始まった。古の剣士を宿した魔剣の勇者と漆黒の獣を纏いし白銀の魔術師。数多の強敵を屠ってきた二人を相手に、魔王は一歩も引きさがらない」
「流石は魔王ね。しかし忘れてはなりません! こちらには我らが聖なる光! 唯一にして絶対の神! アクア様が控えていることを!」
「そ、そそそそそうね! 私が行けばちゃちゃっと片付けられるけど、舞台は始まったばかりよ! まだ私の出る幕じゃないわ!」
「言っとくが俺様もゴメンだぜ。ミンチすら残りそうにネェ。そんでコウモリ女。敵役のテメェもなんでこっち側に来てンだよ?」
「だってあっちにいたら巻き込まれちゃいそうだし、一人じゃ心細いもの」
激闘を繰り広げる二人を、あるえはナレーションで盛り上げ、アクア達も舞台の袖に掃けて観戦する。彼等の戦いに割って入れる者はどこにもいなかった。
「やぁっ!」
ゆんゆんは尾の先端を棘が付いた鉄球の形状に変え、バージルめがけて振り下ろす。だが当たる直前にバージルは『エアトリック』で避けた。鉄球が舞台の床に穴を空ける中、先程まで剣を交えていたミツルギは振り返り、後方へ移動していたバージルへ距離を詰める。その傍らでゆんゆんは両手を舞台の地につける。すると影が彼女の手を伝い、地を這ってバージルのもとへ。
先に辿り着いたミツルギが剣を振るも、バージルは横に避ける。その移動先には蠢く黒い沼。間髪入れず、沼から一本の針が飛び出した。
タイミングを完璧に合わせたと思われたが、バージルは再び『エアトリック』で避けると同時に、ゆんゆんの頭上へ現れた。
「
バージルの刀がゆんゆんを襲う。ゆんゆんは素早く地を蹴り、彼の凶刃から逃れた。と同時にミツルギとすれ違い、彼は再びバージルと剣を交えた。
「しつこい奴だ」
「食らいつきますよ。何度でも!」
鍔迫り合いの後、金属音が鳴り響く剣劇へ。一方でゆんゆんは剣劇に参加せず、その場で右手をかざす。自身の黒い魔力を右手に集中させ、バージルに標準を合わせたところで、魔法を放つ要領で力を込めた。
瞬間、手の平から一本の長く鋭い針が飛び出した。針は一瞬にして伸び、バージルを狙ったが――それすらも見越していたのか、バージルはミツルギの剣を強く弾いた後、伸びてきた針を避けてその上に立った。細い足場を蹴り、彼はゆんゆんに接近。
が、ゆんゆんとバージルの間に『ソードコントロール』で飛んできたミツルギの聖剣が割って入り、バージルの攻撃を防いだ。その隙にゆんゆんは針を引っ込め、両手に爪を発現させてバージルに振りかざす。これをバージルが刀で防ぐ中、ミツルギが距離を詰めて再び高速の剣劇へ。
ゆんゆんは作戦通り、決して手を緩めず攻撃を浴びせ続けている。だが、たった一手すらバージルに届かない。
と同時に募る不安。それは攻撃が通らない焦りだけではない。彼と戦い始めてから抱いていた違和感が、明確に形を帯びてきていたのだ。
「(先生の刀から感じる魔力が、攻撃を防がれる度に増してる)」
もしかしたら、違和感に気付いた時点で攻撃を止めるべきだったのかもしれない。しかしそれは、唯一の作戦にして突破口を放棄することと同義。きっとミツルギも違和感に気付いており、その上で攻撃を止めずにいる。
ゆんゆんも彼を信じ、攻撃を続けたが――そこでバージルが動いた。
「
激しい攻撃の中で、ミツルギとゆんゆんの連撃が途絶えたほんの一瞬を突き、バージルは刀を横に薙いだ。
ゆんゆんとミツルギは迫る刃を防いだが、刀から受けた衝撃は今までの数十倍にも感じるほど強かった。
「きゃっ!」
「うわっ!?」
ゆんゆんはおろか、大剣で防いだミツルギすらも衝撃に耐えられず吹き飛ばされる。舞台の端で止まったゆんゆんは顔を上げる。傷一つ付いていないバージルは刀を鞘に納め、浮遊させていた両刃剣を背に戻す。
力を受けて魔力を溜め、一気に放出する。かつてバージルが冬将軍より学んだ
二人の連撃を止める為に使ったのか、単なる気まぐれか。どちらにせよ、彼に一撃も与えられていない事実は変わらない。
攻撃を続けることで何とか保っていたゆんゆんの心が、ここに来てぐらりと揺れた。
「(やっぱり、私じゃ先生には――)」
その瞬間を、バージルは逃さない。
自身の心が折れかけていたと気付いた時――彼は既に目前へと迫り、今にも刀を抜かんとしていた。
回避も防御も間に合わない。これで勝敗が決すると思われたが――バージルの刃は、ゆんゆんに届かなかった。
「ハァッ!」
ギリギリのタイミングでミツルギが割って入り、魔剣で刀を受け止めた。バージルは一度剣を交えた後、後方へ跳んで距離を取る。
「ゆんゆん! 諦めちゃダメだ!」
ミツルギはこちらに背を向けたまま強く言い放つ。彼の声を聞いて、ゆんゆんは我に返った。
まだ勝負は終わっていない。弱気な自分を払うように頭を振り、呼吸をひとつ。両手が黒く染まっているのを見て『黒獣化』は解かれていないことを確認する。
「すみません、ミツルギさん。もう大丈夫です」
ゆんゆんは再び戦闘態勢を取り、バージルを見た。闘志を取り戻した彼女に対して、彼はわざとらしく挑発の声を上げた。
「貴様等の動きは既に見切った。性懲りもなく、愚直に向かってくる気か?」
「今のが全力だと思ったら大間違いですよ、先生!」
ゆんゆんは負けじと言い返し、バージルに向かって走り出す。共にミツルギも飛び出し、三人の剣劇が再び始まった。
また同じパターンかと、バージルは落胆の息を吐きながら攻撃を防ぐ。しばらく付き合った後、隙を見て飛び上がり離れた場所へ。
ミツルギが再び追いかける――かと思われたが、彼は剣を構えてその場を動かず。一方でゆんゆんはバージルが舞台に舞い降りるのを待ち、彼が舞台に足をつけた瞬間、その足元に向けて手のひらをかざした。
「『ボトムレス・スワンプ』!」
ゆんゆんの唱えた魔法により、バージルの周囲の足場が泥沼に変化した。しかしバージルは彼女の詠唱を聞いた瞬間、泥沼になる直前に地を蹴って足を取られるのを回避した。その先には、魔剣を構えるミツルギが既に立っていた。
「ハァッ!」
バージルの回避先を読んだミツルギの一振りであったが、バージルは即座に反応して刀で防ぐ。それを見たゆんゆんは、鍔迫り合いをするミツルギの背に向かって黒い針を伸ばした。
針が彼の背中を刺さんとしたが、ベルディアの力によって背後が見えていたミツルギは、ギリギリで針を回避。そしてミツルギが壁となって見えずにいた針は、バージルの眼前に迫っていた。
「小癪な!」
これをバージルは咄嗟に避け、針を伸ばしていたゆんゆんに向かってきた。動かせない右手の代わりに、ゆんゆんは左手をバージルにかざす。
「『ファイアーボール』!」
火球がゆんゆんの手のひらから飛び出した。迫る火球を見たバージルは刀を振り、いとも容易く斬ってかき消す。
そのまま攻撃してくるかと思われたが、バージルはゆんゆんから目を離し、背後を狙わんと
その間にゆんゆんは針を引っ込め、爪を伸ばしてバージルへ振りかざす。だがバージルは『エアトリック』で後退したことで、ゆんゆんの攻撃は空を切った。
「『黒獣化』してる間は魔法を使えないって、思いましたか?」
してやったりといった表情で、ゆんゆんは言い放つ。
実を言うと、半分は当たっていた。前日の時点で『黒獣化』しながら魔法の使用は可能であったが、魔法を放った後はどうしても『黒獣化』が切れてしまっていた。
作戦を成功させるにはこの同時使用が鍵となる。なので彼女は、当日に賭けた。
まず『黒獣化』のみで攻め、バージルとの実戦で更に身体へ馴染ませる。そして馴染みきったと感じたところで魔法を使用。ぶっつけ本番という博打であったが、結果はこの通り。ゆんゆんの『黒獣化』も解除されていない。
「ミツルギさん、さっきはすみませんでした。作戦の途中だったのに挫けそうになっちゃって……」
「大丈夫だよ。あれだけ攻撃が通らなかったら心が折れそうになるのも無理はないからね。それにゆんゆんのおかげで作戦を第二フェーズへ進められたんだ。本番はここからだよ」
ミツルギの優しい言葉を受けた後、ゆんゆんは一呼吸入れて構える。今もなお諦めずに立ち向かおうとする二人を見たバージルは、小さく笑った。
「
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バージル達が舞台上でスタイリッシュアクションを繰り広げている頃、劇場のバックステージにて。
「はぁあああ……どっと疲れたぁ」
最初の出番を終えて袖に掃けたクリスは、その身に纏った煌びやかな踊り子衣装とは裏腹に、くたびれた顔で椅子に座ったまま机に突っ伏した。彼女の傍には、同じく出番を一旦終えたタナリスとめぐみんが。
「その割には、アクセルハーツを取って食いそうな勢いだったじゃないか。観客の多くが君に釘付けだったよ?」
「この私ですらカズマに言われて我慢してたというのに、クリスばかり目立ってズルいです!」
「そんなこと言われても……」
彼女等の言う通り、ステージ上ではクリスが注目の的となっていた。
新たな踊り子のデビューというお題目もあるが、彼女の正体は女神エリス。華やかな衣装と纏い煌びやかな後光を背景にしたことで女神っぽさが溢れてしまったのか、客席から「まるで女神様の生き写しだ」と、正体には気付かずとも感涙する者がちらほら見えた。
今はアクセルハーツのみステージに立ち、観客の意識もそちらに向いているであろうが、ステージ上では女神バレしないか冷や汗ものだった。
と、体力も精神も疲弊した彼女を余所に、袖で見守っていたプロデューサーことカズマが近寄ってきた。
「クリスに踊り子の才覚があった。ただそれだけのことだ。俺も付きっきりでプロデュースしていたら、完璧で究極の踊り子に育て上げる自信があったんだが……どうだクリス? 俺とタッグを組んで踊り子として活動するのは――」
「それは遠慮するよ。褒め言葉は素直に受け取っておくけど」
踊り子への勧誘をクリスはキッパリと断った。期待していた返答を得られなかったのか、カズマは肩を落す。そんな横でやり取りを見ていためぐみんが、面白くないと頬を膨らませていた。
「やはり不完全燃焼です! 今から私もステージに戻って、もっと爆裂的なショーにしてみせます!」
「させるか馬鹿野郎! 終盤にまた出番があるからそれまで待っとけ!」
「ほう、つまりショーの締めであれば我が爆裂魔法を使ってもいいと?」
「言ってねぇよ!」
我慢できずステージへ飛び出そうとしためぐみんを、カズマが羽交い絞めにして引き止める。その後もやんややんやと騒ぐ二人の声を聞きながら、クリスは天井を見上げてステージを振り返る。
女神として信仰されるのは慣れていたが、踊り子として注目を浴びるのはまた違った感覚であった。人間クリスを可愛いと褒めてくれるのは、素直に嬉しかった。
ただひとつ……ステージ上からよく見えた観客の中に、彼の姿はまだなかった。あちらもきっと舞台劇が始まったばかり。おまけに教え子との決闘だ。そう簡単には終わらないであろう。
一応チケットは渡したが、彼のことだ。先に舞台劇が終わったとしても果たして来てくれるかどうか。
疲れも相まってクリスは深くため息を吐く。すると、その様子を見ていたタナリスが傍に近寄って話しかけてきた。
「バージルが客席にいなくて残念かい?」
「ふぇあっ!?」
心の内を読み解かれ、クリスは驚きのあまり素っ頓狂な声を上げながら席を立った。
「おや、適当に言ったつもりだったんだけど、その反応は当たりかな? ついに僕も見通す力が使えるようになったのかも」
カマかけが通り悪戯に笑うタナリス。以前も似たシチュエーションがあったにも関わらず、まんまと引っかかった自分に腹を立てる。と同時に、先の言葉が事実であると肯定してしまい、ダンスで温度の上がった顔が更に火照る。
「彼はこういうの興味あるか知らないけど、折角の晴れ舞台なんだ。思い人には見に来て欲しいよね」
「へ、変なこと言わないでください! そもそも来てくれるだなんて全く期待してませんから!」
茶化してくるタナリスへ、クリスは思わず声を張り上げて言い返す。ハイハイとタナリスはいなしながら、クリスのもとから離れてアクセルハーツの様子を見に行った。
ただでさえ疲れているというのに無駄なエネルギーを使ってしまったと、クリスは再び机に突っ伏す。
未だ聞こえてくるカズマとめぐみんの言い合いと、アクセルハーツの歌声に観客の声援。騒がしくも心地いい音に紛れ、クリスはポツリと呟いた。
「バージル、来てくれないかな……」
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「『ブレードオブウインド』!」
ゆんゆんの詠唱が響き、彼女の手から疾風の刃が飛び出す。更に彼女の足元から影が伸び、バージルの背後へ回ったかと思えば鋭利な尾が影から生え、挟み撃ちを狙ってきた。
バージルは咄嗟に飛び上がって回避したが、その先には既にミツルギが宙で剣を構え、浮かせた聖剣も背後から狙っていた。
「ハァッ!」
同時に襲いかかる二本の剣。バージルは刀と両刃剣で受け止めて弾き返し『エアトリック』で離脱。ゆんゆんを狙わんと接近したが、既に影を収めていた彼女は飛び上がって回避。彼の刃は空を切った。
宙に身を放り出したゆんゆんは、尾の先に四枚の刃を発現させ、高速で回転させながらバージルに向かって尾を振り下ろしてきた。バージルは受け止めず後方へ跳び退く。と同時に、跳んだ後方へ身体を向き直しつつ刀を構えた。彼の視界には、突き攻撃を繰り出さんと迫っていたミツルギが。
「
バージルはミツルギの攻撃を僅かに横へ避けつつ、すれ違いざまに居合。バージルに傷はつかず、対するミツルギは鎧で防ぎきれない傷を負い、身体から血が噴き出した。観客席から悲鳴が上がるも、バージルは知ったことかと涼しい顔で刀を鞘に納める。
「ミツルギさん!」
たまらず声を掛けたゆんゆんに、ミツルギは問題ないと示すように手を挙げる。
『黒獣化』と魔法の併用によってゆんゆん達の攻撃は更に激化したが、彼の立つ頂には届かない。ミツルギも初手から飛ばした反動か、僅かに動きが鈍くなり始めている。
思っていたより楽しめたが、そろそろ終幕か。バージルは見切りをつけ、台本にあった次の台詞を言おうとした、その時。
「
少女の声が響き、ゆんゆんとミツルギの間から白い光が走った。こちらに向かってきた光を、バージルは即座に横へ避ける。
ゆんゆん達にも予想外だったのか、驚いた様子で背後を振り返る。彼女等が見たのは、右手をかざしていたネヴァンの姿。光だと思ったそれは、彼女が放った雷球であった。ネヴァンは手を下ろすと、スタスタと歩き出してゆんゆんの隣へ。
「貴方、ゆんゆんって言ったわね?」
「えっ? は、はい。そうですけど……」
「気に入ったわ。今から貴方の使い魔になってあげる」
「えぇっ!?」
まさかの申し出に、ゆんゆんは驚嘆の声を上げた。台本にはない展開だが、バージルは静かに様子を見守る。
「猫ちゃんを器用に使いこなせる貴方となら、私の力も存分に発揮できそうだもの。いいでしょ?」
「で、でもネヴァンさんはめぐみんの使い魔じゃ――」
「あの子の専属タクシーはもうこりごりなの。良い契約先を見つけることができてラッキーだわ」
心配するゆんゆんとは裏腹にネヴァンは問題なしと言い切る。が、そこで彼女等の後方、舞台の袖にいた出番待ちの役者が怒りの声を上げた。
「ちょっと! 貴方は魔王の娘役でしょう! アクア様を差し置いて登場するだなんてどういうつもり!?」
「私が満を持して登場するどころか、ぐり帝がドラゴンとして新たな力に目覚める展開もやってないのよ! 盛り上がるのはいいけど尺も大事にしなさいな!」
「だったらせめて俺にもドラゴンの仮装ぐらいさせてくれても良かったんじゃネェか? で、どうよ語り部さん。魔王の娘が出しゃばっちまったけど」
「いや、実に素晴らしい機転だよ! この土壇場で、人間の力に可能性を見出した魔王の娘が反旗を翻し、勇者と共に立ち向かう! 実に刺激的な筋書きじゃないか! ゆんゆん、そのまま続けたまえ!」
しかし一方で脚本家のあるえはお気に召したようで、興奮した様子でメモをしながら劇の続行を促した。それを聞いたバージルは、裏切った魔王の娘ことネヴァンに言い放つ。
「愚かな選択だ。力なき人間に味方をするか」
「そんな人間相手に一泡吹かせられそうになっている魔王様はどこの誰かしら?」
「貴様の目も衰えたな。一太刀すら届かん奴等に誰が苦戦していると?」
「その一太刀を防ぐのに精一杯じゃない。これで私も加わったら、刀と剣だけで足りるかしら?」
「……いいだろう。そこまで言うのなら、ほんの少しばかり本気を出してやる」
魔王とその娘という役を守りながら、互いに牽制し合うバージルとネヴァン。観客も大いに盛り上がり、ゆんゆん達へ声援を送っている。
魔力を集中させるゆんゆんに、ミツルギも再び身構える。対するバージルはいつでも来いとばかりに、挑発めいた手招きを見せる。
先に動いたのは、ミツルギであった。僅かに遅れてゆんゆんも飛び出し、かたや剣を、かたや爪を振るわんとしてきたが、バージルは防御でも回避でもなく、攻撃を選んだ。
「
バージルの疾走居合が、ゆんゆんとミツルギの間を抜ける。襲ってきた凶刃を二人は咄嗟にいなし、一方で二人の攻撃を切り抜けたバージルは、後方で待機していたネヴァンへ襲い掛かった。
「あら、いきなりだなんて熱烈ね」
バージルの刀が振り下ろされる直前、ネヴァンの姿が蝙蝠の群れとなって散った。蝙蝠は素早くゆんゆんのもとへ移動すると、再びひとつとなってネヴァンの姿を映し出す。
ネヴァンがバージルへ向けて手をかざし、手のひらから雷球を撃ち出す。同時にミツルギが飛び出して再びバージルへ接近。残るゆんゆんは地に影を這わせ、バージルの足元へ。
バージルはまず雷球をかわし、ミツルギの攻撃を防ぎ弾いた。そして死角から襲ってきた影の針は難なく横に避け、ゆんゆんとネヴァンに再び接近。
「させない!」
しかしミツルギの『ソードコントロール』によって飛んできた聖剣によって、進路を塞がれた。立ち止まったバージルを見て、ゆんゆんは爪を伸ばし振り下ろしてくるもバージルは刀で防ぐ。そして背後から迫ったミツルギの攻撃は、咄嗟に戻した両刃剣で素早く防いだ。ミツルギとゆんゆんに挟まれる形で剣劇が繰り広げられるが、バージルは二人を凌駕する速度で刀と剣を振って防ぎ続けた。
しかし、攻撃はそれだけで終わらない。ネヴァンが手をかざすと、今度はバージルの足元に光が出現、程なくして光から雷の柱が飛び出したが、バージルは激しい剣劇の中にいながらこれを避けた。ミツルギとゆんゆんは逃がすまいと彼を追いかけ、何度も剣を交える。
前半と同じ展開となったが、手数は圧倒的に増えた。このままでも防ぎ切れるが、鬱陶しいことこの上ない。
なのでバージルは先と同じく『ジェネラルスタイル』で、攻撃を防ぎつつ刀に力を溜めた。が、相手も馬鹿ではない。バージルの行動に勘付いたゆんゆんは、咄嗟に距離を取りつつ詠唱。
「『ライトオブセイバー』!」
ゆんゆんの手から雷の刃が放たれた。バージルは跳躍して回避すると、彼の傍にいたミツルギも飛び上がり、空中で剣を振った。
しかし彼の剣は届かず。バージルは『エアトリック』で瞬時にゆんゆんへ迫っていた。が、予見していたのかゆんゆんは飛び上がり、バージルの立つ舞台めがけて再度魔法を放った。
「『ファイアーボール』!」
放たれた炎球はバージルへ向かう。これをバージルは避けようと身構えたが、どこからともなく飛んできた一本の剣――ミツルギの聖剣が、先に炎球を貫いた。
炎球はバージルに届くことなく空中で爆発。と同時に発生した煙はたちまち広がり、バージルの視界を覆った。
「姑息な……」
これで目くらましのつもりかと、バージルは気配を探す。そして、背後に迫る者を感じ取った。
「見えているぞ」
バージルは刀を強く振る。先と同じ、刀に吸収させた力を一気に解放した一振りだ。
凄まじい風圧を発生させる一振りは、瞬く間に視界を覆っていた煙を吹き飛ばし、同時に迫っていた者を斬った。
それは――ゆんゆんの姿を模した、影であった。斬られた影は形を歪め、バージルめがけて飛び掛かる黒豹となった。
それだけではない。既に彼の周りには、聖剣と魔剣を振り下ろさんとするミツルギ、雷を放たんとするネヴァン、そして『黒獣化』を既に解き、至近距離で魔法を当てようと迫るゆんゆんの姿が。
迫りくる脅威を前にして――バージルは不敵に笑った。
「この程度で追い詰めたつもりか?」
刹那――彼を中心に、膨大な爆発が起きた。爆風をまともに食らったミツルギ達は、たちまち後方へ吹き飛ばされる。
再び発生した煙は次第に晴れ、バージルの姿を映し出す。彼の姿は何も変わっておらず、傷も全くついていない。
否、確かに彼の姿は変わった。ほんの一瞬だけ、彼は
ミツルギ達を襲ったのは、彼が放った
「くそっ、やっと掴んだチャンスだったのに……!」
あと一手届かず、ミツルギが悔しさを声にしながら立ち上がろうとする。それを見て、バージルは『エアトリック』で瞬時に彼の前へ移動し、刀を彼の首に当てた。
「人間にしてはよくやった方だと褒めてやろう。だが、ここまでだ」
「ぐっ……」
彼等の挑戦は、敗北に終わった。バージルは勝利宣言を終えた後、舞台劇を進めるべく袖で見ていたアクアに目を向けた。
「さてどうする? 女神とやら。貴様もかかってくるか?」
「へっ?」
声を掛けられたアクアは驚いた様子を見せる。その一方で、隣にいたセシリーが待ってましたとばかりに声を上げた。
「アクア様! 今こそアクシズ教の教え通り、魔王をしばく時です! 私も祈りを捧げて応援します!」
「ちょ、ちょっと待って! 確かに出番はまだかって言ったけど、心の準備がまだできていないというか――」
「なにヘタレてんだ女神サマよ! 魔王様からのご指名だぜ! 思う存分をボコしてやんな! テメェが日々言ってる女神サマの力を使ってよぉ!」
「そうか、貴様等にはドラゴンもいたな。まずはそいつを始末してからにするか」
「うぉい!? 今明らかに女神サマと戦う流れだったろ!? 急に狙いをコッチに向けんじゃネーヨ! いや台本はそうなってっけど尺もあんだからドラゴン戦は飛ばそうぜ! なっ!?」
狙われたアクアとぐり帝はたちまち取り乱した様子を見せる。しかし舞台劇は進めなければならない。さっさと終わらせるべく、彼女等の了解なくバージルが迫ろうとした――その時であった。
「なんですかこの路上ライブは!?」
突如として、驚愕する野太い男の声が彼等の耳に届いた。バージルは歩みを止めて周囲を見回す。そして声の主は観客席ではなく、上空にいたと気が付いた。
空を見上げると、そこには紳士風の男と、その付き人らしき男。それぞれワイバーンに乗って、舞台を見下ろしていた。
「アクセルハーツの姿が影も形も無い! チャーリー! これはいったいどういうことですか!?」
「どうって言われましても、路上ライブの情報を仕入れたのはダニエル様でしょう! 私に文句をぶつけるのはお門違いですよ!」
どうやら紳士風の男はダニエル、付き人はチャーリーと言うようだ。彼等は上空で停滞したまま口喧嘩をし始める。その様子を舞台上にいるバージル等だけでなく、観客達もポカンとした表情で見ていた。
アクセルハーツとは、確かカズマに紹介された踊り子達であったかとバージルは思い出す。どうやら彼等はアクセルハーツ目的で訪れるも、会場を間違えてしまったようだ。
「貴様等が何なのかは知らんが、そこにいてはさぞかし見辛いだろう」
バージルはダニエル達を一瞥すると『エアトリック』で移動。宙に身を投げ出し、ダニエルの背後へ。
「特等席へ案内してやる」
バージルはダニエルの首根っこを掴むと、乱暴に舞台へ向かって放り投げた。ダニエルは一直線に飛んでいき、音を立てて舞台に突っ込んだ。
チャーリーが驚愕しながらダニエルの名前を叫ぶ中、バージルはワイバーンの背を蹴り、残るチャーリーも同様に舞台へと放り投げる。ついでにワイバーンへ威嚇するように刀で傷を付けてから、自分も『エアトリック』で舞台に戻る。ワイバーンが主を捨てて飛び去って行くのを確認してから、ダニエル達に視線を向けた。
「大サービスだ。ついでに劇を盛り上げていくといい」
彼等が何の目的でアクセルハーツのショーを見に来たのかは不明だが、少なくともワイバーンに乗って割り込んでくる時点で、まともな客でないのは確かであろう。彼等から感じる、人とは違う魔力も含めて。
舞台上に空いた穴からダニエルとチャーリーが這い出てくると、服についた埃を払いながら怒りのこもった眼でこちらを見た。
「手荒い歓迎ですね。私はただ、アクセルハーツに会いたいが為に遠路遥々来たというのに」
「前日から丹精込めて整えた私の髪が台無しだ! どういう顔でシエロちゃんに会えばいいんですか! そもそもシエロちゃんはどこですか!?」
「知らん。少なくとも、貴様等が会場を間違えたのは確かだ」
文句をぶつけてくるチャーリーにバージルは冷たく返す。すると、彼等の顔を見て心当たりがあるのか、ミツルギ達が声を上げた。
「貴方は確か、以前街に来ていた……」
「わ、私も見ました! その時もアクセルハーツに会いたがってたような……」
「でも怪しい雰囲気だったから、坊やも教えなかったのよね。ベルディアはダニエルのこと、詳しく知ってそうな感じだったけど」
どうやら彼等は既に一度出会ったことがあるようだ。ネヴァンの声を聞いてか、ミツルギの中からベルディアが出てくる。彼はダニエル達をじっと見た後、大声を上げた。
『思い出した! 魔王軍の幹部候補だったけど、軍の資金にまで手を出して踊り子に費やしていたのがバレて飛ばされたキングトロールのダニエルか! 変な頭してる側近がいたからようやく思い出せたぞ! あースッキリした!』
「おい! 今私の髪のことをなんと言った!? 過去一素晴らしい出来になっていた私の髪を!」
彼等の正体は、魔王軍に属するトロール族であった。ベルディアの声を聞いて、観客達がどよめきだす。自分達も戦うべきかと迷う者や、これも劇の一環なのでは勘違いする者も。
帽子を被り直したダニエルは舞台上にいる者達を一瞥すると、ミツルギに顔を向けて話しかけた。
「私は戦いに来たわけではありません。ただ、アクセルハーツがどこにいるか知りたいだけなのです。教えてくれませんか?」
「残念ですが、貴方達には教えられません。ショーを見に来きただけとは思えませんから」
『どうせアクセルハーツを自分達だけのものにしたくて攫いに来たとかだろ? ご熱心なのはいいことだが、過激な接触は嫌われるぞ?』
「……誰かと思えば、魔王軍幹部のベルディアでしたか。何故ゴーストになっているのかは知りませんが、同じ幹部だったウィズのパンツを覗こうと四六時中チャンスを伺っていた貴方にだけは言われたくありませんね」
話が通じそうな相手を選んだのであろう。しかしミツルギは居場所を明かさず、ベルディアからも煽られ、ダニエルは怒り心頭で言い放った。
「いいでしょう。答えるつもりがないのなら、力づくで聞き出すまで! いきますよチャーリー!」
「けどダニエル様、相手は魔剣の勇者ですよ? それに強そうな奴等も何人か……大丈夫でしょうか?」
「臆することはありません。私達のアクセルハーツへの情熱に比べれば微々たるもの! 愛の力は無限大なのですから!」
「おぉ、流石はダニエル様! アクセルハーツのファンの鑑! 私もシエロちゃんへの愛を力に変えて、この障壁を乗り越えてみせましょうぞ!」
ダニエルとチャーリーが啖呵を切った途端。彼等の身体が変容する。人間には収まらない巨大な体躯。肌も変色し、ダニエルの身体は青紫へ、チャーリーの身体は緑色に。牙の生えた口からは長い舌が垂れ、怪物と呼ぶに相応しい姿となった。
「聞けい! この方こそトロール族の中の王! キングトロールのダニエル様であるぞ! そして私はダニエル様に仕える忠実なる僕! チャーリーだ!」
キングトロールとトロールのコンビが、バージル達の前に現れた。彼等の姿を一瞥したバージルは、ミツルギ達に声を掛ける。
「勇者共、一時休戦だ。まずはこの異分子を片付ける」
舞台劇の体裁をあくまで守り、バージルから共闘を持ち掛ける。提案を受けたミツルギ達は一瞬呆気に取られたが、すぐに武器を構えてダニエル達と対峙した。
「あーもう! ただでさえ脱線してたのにアンタたちのせいで私の舞台劇が滅茶苦茶よ! 生きて帰れるとは思わないことね!」
「良い! 実に良い展開だ! 魔王に仇なす反乱者……いや、異界の魔王がよりカッコいいか? 混沌を招きし異界の者を打ち倒すべく、勇者と魔王が共闘を始める……この世界の命運は、彼等に託されたのだ!」
アクアは乱入者に対して怒りを露わにし、一方であるえはメモを走らせる手を忙しくさせながらナレーションを担う。このまま継続しても問題ないようだ。
バージルは刀を構え、獲物を振るわんとするダニエル達を見た。
「悪いが予定を入れている。早急にご退場願おう」
魔王周りの設定を改変しているため、ダニエルが飛ばされた理由も少し変えてます。
このファンはサ終しましたが、本編ストーリーはオフライン版のアプリにて確認できるので、ダニエルやチャーリーの姿を確認したい方はどうぞ。
文庫版と漫画版もあるぞ(ダイマ)